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残月記番外編・反魂二
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それから浴槽を壊さずに運ぶため、昂遠の提案通り、人を雇って運ぶという案が採用されて現在。
彼らは市場に行った際、荷車を買うついでに新たに人を六人雇い、家を細かく解体した。
「・・・・・・」
「寂しいか?」
昂遠の声に、飛燕はゆっくりと顔を左右に振る。
野菜や鶏達は籠に入れ、別の荷車に積み込み、必要の無さそうな物はすべて砕いて燃やしてしまった。
先程まで普通に建っていたこの地にはもう何も残されていない。
遠雷は斧を手にしたまま、ふらりと何処かへ行ってしまった。
「家を全て失ったとしても、その地に残る思い出まで燃えて消えるわけじゃない」
そう話しながら、煙を見る遠雷の声が今頃になって鮮明に甦る。
昂遠は飛燕の背にそっと自身の手を重ねると
「さあ。お別れの挨拶に向かおう」
と優しく声をかけた。
そうして、昂遠と飛燕は家族を埋葬した墓に再度、別れを告げることにしたのである。
「・・・みんな・・・」
寒さを含んだ風が頬を撫でるその地を踏む。
慣れ親しんだ土にほんの少しの寂しさを感じながら、飛燕は僅かに盛られた土に視線を傾けた。
石も木も置かれていない。
今後、ここを誰かが通ったとしても、まさかこの下に亡骸が埋められているなんて気づく者は恐らくいないだろう。
飛燕はただ土を見つめたまま、項垂れるように佇んでいる。
誰も寄せ付けないその背は寂しく、どこか泣いているようにも見えた。
「・・・飛燕」
「分かって、いるんです。頭では、分かっているんです」
「・・・・・・」
「分かっているはずなのに・・」
飛燕の声が段々と小さくなる。昂遠はその背に向かって何度も手を伸ばそうとするのだが、寸での所で止まってしまい、何も出来ないままだ。
「・・・寂しい、ですね」
「・・・・・・」
そう呟きながら振り返る飛燕の瞳は潤んでいて、少し鼻が赤く染まっている。
その表情を見る昂遠の胸がズキリと痛んだ。
「・・・また来よう。いつか、必ず」
「・・・はい」
三度叩頭し家族に別れを告げた昂遠達は、雇った六人と共に周里の宿へと戻り、預けていた馬を引き取った。
その際、預けていた間の料金を支払おうと銭の入った袋を遠雷が袖から出せば、店主は
「本日の宿泊分のみで構いません」
と、両手を振っている。
「いやいや。迷惑をかけたのは俺達の方なんだ。ちゃんと支払うよ。いくらだい?」
と昂遠が問えば、金額を考えていなかったのだろう。店主は頭をガシガシと掻きながら
「いや、ここでは皆の馬を預かるのは何処も一緒で・・・」
と口をモゴモゴ動かすだけで、一向に話が進まない。
それに業を煮やした遠雷が銭袋に手を突っ込み、むんずとお金を掴むと
「迷惑をかけた。受け取ってくれ」
と、店主の手に半ば無理やりお金を握らせたのだ。
それには店主も驚きを隠せないといった表情で
「困ります!お客さん!こんな!いくらなんでも貰いすぎですよ!」
と突っ返そうとしたのだが、遠雷は「まぁまぁまぁ」と笑うだけで店主の拳を自身の掌で遮る始末。
そうこうしているうちに他の客も姿を見せ始めた為、店主は申し訳なさそうに頭を下げると、早々にそのお金を袖に隠して他の客に視線を向けた。
「そうだ。部屋は空いてるかな?六人分」
と昂遠が問えば、店主はコクコクと頷いて部屋を用意してくれた為、その日は一晩、この宿に泊まることにしたのである。
彼らは市場に行った際、荷車を買うついでに新たに人を六人雇い、家を細かく解体した。
「・・・・・・」
「寂しいか?」
昂遠の声に、飛燕はゆっくりと顔を左右に振る。
野菜や鶏達は籠に入れ、別の荷車に積み込み、必要の無さそうな物はすべて砕いて燃やしてしまった。
先程まで普通に建っていたこの地にはもう何も残されていない。
遠雷は斧を手にしたまま、ふらりと何処かへ行ってしまった。
「家を全て失ったとしても、その地に残る思い出まで燃えて消えるわけじゃない」
そう話しながら、煙を見る遠雷の声が今頃になって鮮明に甦る。
昂遠は飛燕の背にそっと自身の手を重ねると
「さあ。お別れの挨拶に向かおう」
と優しく声をかけた。
そうして、昂遠と飛燕は家族を埋葬した墓に再度、別れを告げることにしたのである。
「・・・みんな・・・」
寒さを含んだ風が頬を撫でるその地を踏む。
慣れ親しんだ土にほんの少しの寂しさを感じながら、飛燕は僅かに盛られた土に視線を傾けた。
石も木も置かれていない。
今後、ここを誰かが通ったとしても、まさかこの下に亡骸が埋められているなんて気づく者は恐らくいないだろう。
飛燕はただ土を見つめたまま、項垂れるように佇んでいる。
誰も寄せ付けないその背は寂しく、どこか泣いているようにも見えた。
「・・・飛燕」
「分かって、いるんです。頭では、分かっているんです」
「・・・・・・」
「分かっているはずなのに・・」
飛燕の声が段々と小さくなる。昂遠はその背に向かって何度も手を伸ばそうとするのだが、寸での所で止まってしまい、何も出来ないままだ。
「・・・寂しい、ですね」
「・・・・・・」
そう呟きながら振り返る飛燕の瞳は潤んでいて、少し鼻が赤く染まっている。
その表情を見る昂遠の胸がズキリと痛んだ。
「・・・また来よう。いつか、必ず」
「・・・はい」
三度叩頭し家族に別れを告げた昂遠達は、雇った六人と共に周里の宿へと戻り、預けていた馬を引き取った。
その際、預けていた間の料金を支払おうと銭の入った袋を遠雷が袖から出せば、店主は
「本日の宿泊分のみで構いません」
と、両手を振っている。
「いやいや。迷惑をかけたのは俺達の方なんだ。ちゃんと支払うよ。いくらだい?」
と昂遠が問えば、金額を考えていなかったのだろう。店主は頭をガシガシと掻きながら
「いや、ここでは皆の馬を預かるのは何処も一緒で・・・」
と口をモゴモゴ動かすだけで、一向に話が進まない。
それに業を煮やした遠雷が銭袋に手を突っ込み、むんずとお金を掴むと
「迷惑をかけた。受け取ってくれ」
と、店主の手に半ば無理やりお金を握らせたのだ。
それには店主も驚きを隠せないといった表情で
「困ります!お客さん!こんな!いくらなんでも貰いすぎですよ!」
と突っ返そうとしたのだが、遠雷は「まぁまぁまぁ」と笑うだけで店主の拳を自身の掌で遮る始末。
そうこうしているうちに他の客も姿を見せ始めた為、店主は申し訳なさそうに頭を下げると、早々にそのお金を袖に隠して他の客に視線を向けた。
「そうだ。部屋は空いてるかな?六人分」
と昂遠が問えば、店主はコクコクと頷いて部屋を用意してくれた為、その日は一晩、この宿に泊まることにしたのである。
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