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序章・一話
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「ん・・・?ん・・」
眉間に皺を寄せながら、声を震わせる隣人の目が静かに開いていく。
彼は、瞬きを何度も繰り返しながら影虎を見て、にっこりと微笑んだ。
「・・ねむれた・・?」
けだるそうな声に、背中の奥がゾクリとする。
かあっと顔が熱くなるのを感じながら、影虎はゆっくりと頷いた。
それを見て「よかった」と話すと、握っていた手を離してしまった。
途端に軽くなる手のひら。
「・・・・・・・・」
残された余韻を確かめるように、何もない空を握り返した。
「そろそろ・・起きようか・・」と目の前の彼、由利乃は言う。
その声に応じるように、影虎は布団から上体を起こしながら、うーんと背を伸ばすことにした。
こんな布団で寝たのは久しぶりかもしれない。
「おはようございます。由利乃様」
「・・うん・・おはよう・・」
着物を直す影虎の横で、布団に入ったままの由利乃が戸に向かって声を掛けた。
同時にすーっと戸が開かれ、昨日見たお涼が正座の姿勢で軽く頭を下げている。
「すまないね。お涼」
由利乃の声に軽く左右に頭を振ると、その人は影虎を見た。
「眠れましたか」
その声が女の子の声よりも低く、一瞬で眼前に座す子の性別に気が付いた影虎は、無意識に出してしまいそうになった声を必死で堪えると、申し訳なさそうに礼を返した。
それを見透かしたように「お涼と申します」と、彼は影虎に向かってにっこりと微笑んでいる。
無意識に「か・・」と自分の名前を告げようとして、ハタと思う。
自分は、この名を名乗っても良いのだろうか?
目の前に積み重ねられた問題は、けして解決していないのだ。
影虎は暫く迷っていたが、布団から出ると、正座の姿勢で一礼した。
「朝餉の支度が整っております。皆様お待ちですよ」
と、話すお涼の声にハッと顔を上げた。
その後、お涼は由利乃の側で起き上がる身体を支えていた。
「眠れたかい?昨日は」と、羽織を肩に掛けてもらいながら、由利乃がお涼を見る。
彼は困ったように笑うと、それにつられるように由利乃も笑う。
「・・・・・・・・・・・・」
なんてゆったりして穏やかな時間なのだろうと思う。
「布団はどうかそのままで」とのお涼の声に、影虎も最初は戸惑っていたのだが、二の句を告げる前にお涼に促されて、皆の所に向かうことになってしまった。
まだ起きたばかりで、心の準備も何も出来ていない。けれども居たたまれないと思う感情がじわじわと影虎の背を撫でている。
「では行って参ります」と、由利乃に声をかけるお涼の隣で、影虎も「お世話になりました」と座した姿勢で深く頭を下げた。
由利乃は微笑みを崩さないまま
「どうか、篤之進様の事を誤解しないで下さいね」と影虎を見て、悲しそうに微笑んでいた。
「・・・・・・・」
その声に、一礼する。
互いの思惑が重なる一瞬。
影虎はゆっくりと立ち上がり、お涼の後を追うように部屋を後にしたのだった。
離れ座敷を後にして。途中、お涼は影虎を井戸に案内すると「がんばってくださいね」と声を掛けてくれた。
「・・・・え。ええ」
この少年も不思議な人だと思う。
年は自分と同じくらいに見えるのに、纏う雰囲気は、しっかりしていて何だか大人のようだ。
「・・・・正直、迷っています」
影虎が手にした、柄杓の水がちゃぷんと揺れる。
それはどこか不安げな影虎の心を映しているかのようだった。
「では、そのままを伝えて下さい」
お涼のその言葉に黙って頷くと静かに柄杓を置き、お涼の案内で皆の前に行くことにしたのである。
眉間に皺を寄せながら、声を震わせる隣人の目が静かに開いていく。
彼は、瞬きを何度も繰り返しながら影虎を見て、にっこりと微笑んだ。
「・・ねむれた・・?」
けだるそうな声に、背中の奥がゾクリとする。
かあっと顔が熱くなるのを感じながら、影虎はゆっくりと頷いた。
それを見て「よかった」と話すと、握っていた手を離してしまった。
途端に軽くなる手のひら。
「・・・・・・・・」
残された余韻を確かめるように、何もない空を握り返した。
「そろそろ・・起きようか・・」と目の前の彼、由利乃は言う。
その声に応じるように、影虎は布団から上体を起こしながら、うーんと背を伸ばすことにした。
こんな布団で寝たのは久しぶりかもしれない。
「おはようございます。由利乃様」
「・・うん・・おはよう・・」
着物を直す影虎の横で、布団に入ったままの由利乃が戸に向かって声を掛けた。
同時にすーっと戸が開かれ、昨日見たお涼が正座の姿勢で軽く頭を下げている。
「すまないね。お涼」
由利乃の声に軽く左右に頭を振ると、その人は影虎を見た。
「眠れましたか」
その声が女の子の声よりも低く、一瞬で眼前に座す子の性別に気が付いた影虎は、無意識に出してしまいそうになった声を必死で堪えると、申し訳なさそうに礼を返した。
それを見透かしたように「お涼と申します」と、彼は影虎に向かってにっこりと微笑んでいる。
無意識に「か・・」と自分の名前を告げようとして、ハタと思う。
自分は、この名を名乗っても良いのだろうか?
目の前に積み重ねられた問題は、けして解決していないのだ。
影虎は暫く迷っていたが、布団から出ると、正座の姿勢で一礼した。
「朝餉の支度が整っております。皆様お待ちですよ」
と、話すお涼の声にハッと顔を上げた。
その後、お涼は由利乃の側で起き上がる身体を支えていた。
「眠れたかい?昨日は」と、羽織を肩に掛けてもらいながら、由利乃がお涼を見る。
彼は困ったように笑うと、それにつられるように由利乃も笑う。
「・・・・・・・・・・・・」
なんてゆったりして穏やかな時間なのだろうと思う。
「布団はどうかそのままで」とのお涼の声に、影虎も最初は戸惑っていたのだが、二の句を告げる前にお涼に促されて、皆の所に向かうことになってしまった。
まだ起きたばかりで、心の準備も何も出来ていない。けれども居たたまれないと思う感情がじわじわと影虎の背を撫でている。
「では行って参ります」と、由利乃に声をかけるお涼の隣で、影虎も「お世話になりました」と座した姿勢で深く頭を下げた。
由利乃は微笑みを崩さないまま
「どうか、篤之進様の事を誤解しないで下さいね」と影虎を見て、悲しそうに微笑んでいた。
「・・・・・・・」
その声に、一礼する。
互いの思惑が重なる一瞬。
影虎はゆっくりと立ち上がり、お涼の後を追うように部屋を後にしたのだった。
離れ座敷を後にして。途中、お涼は影虎を井戸に案内すると「がんばってくださいね」と声を掛けてくれた。
「・・・・え。ええ」
この少年も不思議な人だと思う。
年は自分と同じくらいに見えるのに、纏う雰囲気は、しっかりしていて何だか大人のようだ。
「・・・・正直、迷っています」
影虎が手にした、柄杓の水がちゃぷんと揺れる。
それはどこか不安げな影虎の心を映しているかのようだった。
「では、そのままを伝えて下さい」
お涼のその言葉に黙って頷くと静かに柄杓を置き、お涼の案内で皆の前に行くことにしたのである。
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