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黒羽織其の六 妖刀さがし
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「そろそろ、行っそもか。時間にんもした」
新兵衛の声で以蔵と六人の浪士は、ゾロゾロと寓居を出た。
ザアザアと降りしきる大雨の中では提灯は役に立たず、人の気配を頼りに歩く足音だけが水音に消えて。
その影も、やがて闇の中へと溶けていってしまった。
ワハハハと豪快な笑い声が闇の中に木霊する。
先斗町で大量の酒を飲まされた本間精一郎は、傘を差した他の同士と共に岐路についていた。こんなに美味い酒は久しぶりだと彼は思う。本間と五人の同士は、互いに談笑しながらゆっくりと歩いている。
三人が歩くだけで他の者が通れないくらいに、狭い路地の中をほろ酔い気分で歩きながら他の同士の顔を見た。
「・・・いい酒だった」
無意識にそんな言葉が出てしまうくらいに、よく笑いよく飲んだ。
店の看板の隣に掲げてある提灯の明かりが地面を照らす。ザアザアと振る雨が提灯を滑っては弾けて飛んでいく。
身体を左右に揺らしながら歩く本間が木屋町通りに差し掛かった頃の事だ。
何か嫌な気配に足を止めた本間の前を何かが走った。
傘を投げ捨て、とっさに腰の刀に手をかける。
「何奴!?」
「ぐわぁあああっ」
本間の後ろで一際大きな声が聞こえた。
刀を抜いて構えながら後ろに後退る。
足元に何かが当たった。それが先ほどまで共に飲んでいた同士の一人の腕であると気付いた頃にはもう遅かった。
「本間!天誅なり!」
「何っ!」
本間が刀を構えて斬り付ける。同時にカンッと刀の切っ先が触れ合った。
ギリギリギリと一向に引かぬ相手の顔は暗闇に紛れて窺う事が出来ない。
何よりもこの雨が良くなかった。
大柄な体格の本間でさえも狼狽するくらい雨脚が強く、前がちゃんと見えていない。
雨水が邪魔になり不意に滑らせた足を利用して、彼は切っ先をぐいっと押し出して撥ね退けると横一文字に相手を斬った。
鈍い感触が刀を通じて腕へと伝わり、途端に相手の腕から赤い鮮血が噴出していく。
それを邪魔だと言わんばかりに、今度は別の男が背後から向かって来る。
「覚悟!」とかける声に、横一文字に斬り裂いた刀を器用に動かして刀を受け止めると、袈裟懸けに斬りつけた。
しかし、間合いに一歩ズレが生じ、相手に一撃を食らわせる事が出来ない。
「くそっ・・・相手は誰だ」
ギリギリと間合いを詰める。他の同士達も同じように刀を構えては応戦している。
しかし道の狭さと人の数で、なかなかうまく動けそうになかった。
「このままでは・・」
そう思った本間の前に男の刀が降って来る。
「む・・」
咄嗟に受け止めるものの雨で滑ってしまい、刀が手から外れてしまった。
「しまった!」
そう思うももう遅い。刀を刺客に取られてしまった。自分は丸腰である。しかし、このままでは引き下がれぬと、本間は自分の体格を利用すると刀を持った相手に向かって体当たりしたのであった。
本間の力は強く、その力で体当たりされた男が壁に向かって激突していった。
「・・・ぐっ・・」
自分の背中には同士がいる。互いに背中を守るように刀を持った男と向かい合うと、擦りあう音だけが何度も響いては雨音に溶け消えていく。
本間は握り拳を作ると、一人の男に向かって今度は自分から突っ込み、そしてそのまま男の腹を殴ると「えいっ!」と大声を上げて、男の着物の襟に手をかけ投げ飛ばしたのである。
投げ飛ばされた男は、自分の後ろにいた刺客の前に見事に命中し、二人同時に尻餅をつきながら倒れこんだ。
「本間さん・・」
「逃げ道がない・・」
じりじりと迫ってくる刺客。
「やああっ!」と声が聞こえ、一筋の光が見えた。
不意に横に仰け反ると、それは民家の格子戸に当たっていく。
ぐいぐいと引っ張りながら、以蔵の舌打ちが雨音に消える。
その時、バシャンと水音が聞こえ、以蔵は音の鳴る方に視線を向けた。
「?」
途端に新兵衛が近付き、薬丸自顕流の一太刀で本間を斬り捨てる。
それは見事なまでの素早い一撃で、そのまま本間の身体が地面へ倒れ、同時に一際大きく跳ねる水音だけが、その場に響いた。
「・・・・以蔵さぁ・・?」
「なんじゃ・・こん感覚は・・」
今までの以蔵ならば、相手を斬り損ねるなどという事はけしてない。
しかし今回ばかりは違っていた。
「刀が・・動いてしもうた・・」
何故なら、彼の刀が本間に当たる寸前、突進しながら斬りつける以蔵の動きを抑えるように刀が動き始め、自ら民家へと向かって行ってしまったのである。
「・・んなっ・・」
そうして、彼の刀は別の男に向かって振り下ろされてしまった。
その力や凄まじく、力で斬りつけられた男からは大量の鮮血が噴出していく。
同時に、降るこの激しい雨水が以蔵の刀を瞬時に洗っていった。
「なんじゃ・・一体・・」
刀が独りで動き出す。それは暴れるように以蔵の腕を掴み、彼の体は誘われるように刀を持った相手へと向かって行ってしまったのである。
新兵衛の声で以蔵と六人の浪士は、ゾロゾロと寓居を出た。
ザアザアと降りしきる大雨の中では提灯は役に立たず、人の気配を頼りに歩く足音だけが水音に消えて。
その影も、やがて闇の中へと溶けていってしまった。
ワハハハと豪快な笑い声が闇の中に木霊する。
先斗町で大量の酒を飲まされた本間精一郎は、傘を差した他の同士と共に岐路についていた。こんなに美味い酒は久しぶりだと彼は思う。本間と五人の同士は、互いに談笑しながらゆっくりと歩いている。
三人が歩くだけで他の者が通れないくらいに、狭い路地の中をほろ酔い気分で歩きながら他の同士の顔を見た。
「・・・いい酒だった」
無意識にそんな言葉が出てしまうくらいに、よく笑いよく飲んだ。
店の看板の隣に掲げてある提灯の明かりが地面を照らす。ザアザアと振る雨が提灯を滑っては弾けて飛んでいく。
身体を左右に揺らしながら歩く本間が木屋町通りに差し掛かった頃の事だ。
何か嫌な気配に足を止めた本間の前を何かが走った。
傘を投げ捨て、とっさに腰の刀に手をかける。
「何奴!?」
「ぐわぁあああっ」
本間の後ろで一際大きな声が聞こえた。
刀を抜いて構えながら後ろに後退る。
足元に何かが当たった。それが先ほどまで共に飲んでいた同士の一人の腕であると気付いた頃にはもう遅かった。
「本間!天誅なり!」
「何っ!」
本間が刀を構えて斬り付ける。同時にカンッと刀の切っ先が触れ合った。
ギリギリギリと一向に引かぬ相手の顔は暗闇に紛れて窺う事が出来ない。
何よりもこの雨が良くなかった。
大柄な体格の本間でさえも狼狽するくらい雨脚が強く、前がちゃんと見えていない。
雨水が邪魔になり不意に滑らせた足を利用して、彼は切っ先をぐいっと押し出して撥ね退けると横一文字に相手を斬った。
鈍い感触が刀を通じて腕へと伝わり、途端に相手の腕から赤い鮮血が噴出していく。
それを邪魔だと言わんばかりに、今度は別の男が背後から向かって来る。
「覚悟!」とかける声に、横一文字に斬り裂いた刀を器用に動かして刀を受け止めると、袈裟懸けに斬りつけた。
しかし、間合いに一歩ズレが生じ、相手に一撃を食らわせる事が出来ない。
「くそっ・・・相手は誰だ」
ギリギリと間合いを詰める。他の同士達も同じように刀を構えては応戦している。
しかし道の狭さと人の数で、なかなかうまく動けそうになかった。
「このままでは・・」
そう思った本間の前に男の刀が降って来る。
「む・・」
咄嗟に受け止めるものの雨で滑ってしまい、刀が手から外れてしまった。
「しまった!」
そう思うももう遅い。刀を刺客に取られてしまった。自分は丸腰である。しかし、このままでは引き下がれぬと、本間は自分の体格を利用すると刀を持った相手に向かって体当たりしたのであった。
本間の力は強く、その力で体当たりされた男が壁に向かって激突していった。
「・・・ぐっ・・」
自分の背中には同士がいる。互いに背中を守るように刀を持った男と向かい合うと、擦りあう音だけが何度も響いては雨音に溶け消えていく。
本間は握り拳を作ると、一人の男に向かって今度は自分から突っ込み、そしてそのまま男の腹を殴ると「えいっ!」と大声を上げて、男の着物の襟に手をかけ投げ飛ばしたのである。
投げ飛ばされた男は、自分の後ろにいた刺客の前に見事に命中し、二人同時に尻餅をつきながら倒れこんだ。
「本間さん・・」
「逃げ道がない・・」
じりじりと迫ってくる刺客。
「やああっ!」と声が聞こえ、一筋の光が見えた。
不意に横に仰け反ると、それは民家の格子戸に当たっていく。
ぐいぐいと引っ張りながら、以蔵の舌打ちが雨音に消える。
その時、バシャンと水音が聞こえ、以蔵は音の鳴る方に視線を向けた。
「?」
途端に新兵衛が近付き、薬丸自顕流の一太刀で本間を斬り捨てる。
それは見事なまでの素早い一撃で、そのまま本間の身体が地面へ倒れ、同時に一際大きく跳ねる水音だけが、その場に響いた。
「・・・・以蔵さぁ・・?」
「なんじゃ・・こん感覚は・・」
今までの以蔵ならば、相手を斬り損ねるなどという事はけしてない。
しかし今回ばかりは違っていた。
「刀が・・動いてしもうた・・」
何故なら、彼の刀が本間に当たる寸前、突進しながら斬りつける以蔵の動きを抑えるように刀が動き始め、自ら民家へと向かって行ってしまったのである。
「・・んなっ・・」
そうして、彼の刀は別の男に向かって振り下ろされてしまった。
その力や凄まじく、力で斬りつけられた男からは大量の鮮血が噴出していく。
同時に、降るこの激しい雨水が以蔵の刀を瞬時に洗っていった。
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