魔法の星に召喚された宇宙最強の男の冒険譚

ゆーなま

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エルフの少女

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翌日自警団の寄宿舎でアフルと薬草師のコーンと合流し、早朝に出発した。

アルフが馬車を操縦しているので、薬草師のコーンから色々なことを聞けた。

ヘンリー卿の領地であるオリオール村はドッチリテ王国の辺境村だ。

コーンは学士として王都で薬草学を学び故郷のオリオール村に戻った。

王都は栄えており仕事や娯楽も多い反面、貴族や騎士、教会の僧侶が幅を聞かせていて一般市民の納税負担はかなり厳しいようだ。

商売が成功すれば大金持ちになり、贅沢な暮らしができる可能性もあるが、失敗すれば最悪奴隷に身を落とす可能性もある。

不動産もオリオール村とは比較にならないほど高額で、一般市民では郊外に小さな平屋を建てるのが精一杯だ。

出世欲もなく野心の乏しいコーンは故郷で細々と、慎ましやかに暮らすことを望んだ。

コーンのような純朴な青年には適した判断だとソウシロウは考えた。こういう青年には幸せになってもらいたいものだ。

オリオール村の人間には嫌味がなくて良い。もしかしたらこの世界の人間はみな純粋な性格なのではないかと考えていたが、王都の話を聞くとやはりこの村が特殊なようだ。人が集まり、貧富が生まれれば人間の醜い感情も必ず生まれる。どこの世界も同じなのだろう。ソウシロウはそれも人間という生物の特徴なのだろうと思う。

オリオール村はいいところだが、この星の情報を収集には狭すぎる。
とにかく情報を得たいソウシロウは近いうちに王都へ出立することを決意した。



「さて、コーン着いたぞ」

3時間くらい経った頃、馬車がゆっくり停車し、操縦席からアルフが静かに顔を出した。

なるほど。小声なのは野獣に気取られないためだろう。
豪快な性格のくせにちゃんとしている。こういう配慮ができる部分も団長として評価されているかも知れない。

「はい。わかりました」
コーンは短く答えるとさっと馬車から降りる。

採取道具を入れた大きな籠を背負い準備万端だ。

「ソウシロウ、ここから採取場所まで少し歩くぞ。俺が先導するから後方を頼む」

「ああ、わかった」

「採取場所までは歩いて15分くらいです。道もそこまで険しくないので、あっという間ですよ」

コーンがさっきより饒舌になっている。危険をともなう仕事ではあるが、薬草摘みは楽しみなのだろう。

少し歩くと、細い山道からひらけた場所に出た。

着きましたね、と一言告げるとコーンは早速薬草採取に取りかかった。

コーンは数種類の薬草をテキパキと採取していく。流石プロだ。

採取のコツを教えてもらってソウシロウもやってみる。

春菊に似た10センチ程度の薬草を1時間ほどで20株採取できた。

いろいろな山野草の中に混じって生えているので、見分けるのが難しい。

この春菊に似た薬草は比較的高価で売買されており、村の特産である胃薬の原材料となる。
主に王都に出荷するそうだ。まさに辺境村ならではの特産品といったところか。

アルフは村人へのお土産用に食用の木の子や山野草を採取していた。
流石は山育ち、つみ草遊びは慣れている。
今後の旅路に役立つかも知れないから、後でアルフに教えてもらおう。

「今回は大丈夫そうだな。あとは帰り道に気をつけるだけだ」

薬草を籠いっぱいに採取し、馬車へと戻る道でアルフが言った。

「はい。やはりこの間のヘルコンドルが異常だったんですよ。いくらドラゴンに住処を追われたとはいえ、あんな大型の野獣にそう何度も遭遇していたらたまりません」

アルフの言葉にコーンも和らいだ表情を浮かべる。
コーンの言葉に頷きながらも、アルフの表情は固いままだ。前回部下を失ったんだ。無理もない。

職業柄多くの死を見てきたソウシロウも、人の死にはいつまでも慣れない。
アルフは自分の実力不足を大いに悔やんだだろう。

傭兵や騎士は死と隣り合わせの職業だ。この業界では「弱いから死ぬ」のは当たり前と言える。
だから自警団を生業に選んだアルフの部下達もその覚悟はあったはずだ。

一方でオリオール村が長期間存続するには自警団が必要不可欠だ。
オリオール村のような辺境村には王国からの派兵も限られているだろう。
つまり、村の誰かがやらなければならないのだ。
命をかけた職業に従事する者への感謝と尊敬の念を忘れてはいけない。

「アルフ、少し待て。」

「ん、どうした?」

荷物の積み込みが終わり、馬車を走らせようとしたアルフを、ソウシロウがとめた。

「戦闘の気配がする・・・。ここから少し離れていて音は聞こえないが間違いない。人間が襲われているぞ」

「お前そんなこともわかるのか。わかった信じよう。それでどうする?」

アルフはソウシロウの能力に驚嘆したが、すぐに冷静に聞き返す。

「コーンを1人にはできない。アルフはここに残ってくれ。俺が見てこよう。30分して戻らなければ出発してくれ」

「わかった。人が襲われているのを見過ごすわけにはいかん。ソウシロウ、頼んだぞ。ただし、手に負えなければ無理せず戻るんだ。俺はもう部下を失いたくない」

「俺はお前の部下なんだな・・・。ああ、わかったよ。」

アルフの言葉にソウシロウは苦笑した。アルフはいい男だ。リーダーとしての資質は申し分ない。
きっと大きな部隊のリーダーとしてもやっていけるだろうに、なぜこんな辺鄙な村の自警団長に収まっているのか疑問なくらいだ。

ソウシロウは道無き道を駆け出した。

この世界に来てから山道ばかりを歩いたソウシロウにとって、この辺はまだ歩きやすい方だ。

アルフたちが見えなくなったところで道具屋で買った水魔法のナイフを取り出し、魔力を注ぐ。

水魔法が刃に宿り、水色に光っている。ナイフがなくても進めるが、小枝や邪魔な野草を除去した方が効率的だ。

「うわぁあああ」

男の悲鳴が聞こえた。現場が近い。
ソウシロウは気配を殺しながらも、スピードを一段上げた。

気配で状況を探る。

人間と思しき気配は2つ。対して野獣は3頭。二足歩行だが動きが機敏だ。この気配には覚えがある。
以前森で戦った狼の同種だ。

現場に着いた。
倒れている男の喉笛に狼が食いついている。この様子だと絶命しているだろう。

大きな麻の袋のような服をすっぽり被った少女が狼と対峙していた。
少女は木の枝を剣に見立てて気丈に振る舞っているが、足はガクガクと震えている。
男を完全に屠った狼が攻撃対象を少女に移そうとした時、ソウシロウが草陰から飛び出し、1匹の狼の喉元を水魔法を纏ったナイフで掻き切った。
水魔法の水圧でナイフの切れ味が増しているようだ。針金のような狼の体毛を難なく切り裂いた。
狼はなす術なく絶命する。

そして、少女と狼の間に入り、狼と対峙した。

狼が動く前にソウシロウが残りの2匹に飛びかかった。
ソウシロウは最小限の動きで的確に急所を捉え、狼は一瞬で肉塊へと変わり果てた。

「大丈夫か?」

その場にへたり込んでいる少女にソウシロウが声をかける。

「はい。でもご主人様が」

少女の震える指先には男の亡骸があった。

ソウシロウがその亡骸を調べる。

どうやら商人のようだ。よく見ると商人の周りに男が5名倒れている。全員生命反応はない。

男たちの服装、装飾品から状況は大体わかった。

「人身売買か・・・」

少女は商品だったのだろう。

この場所で奴隷商人が取引をしていたようだ。
なぜ野獣に襲われる危険の高いこの場所を選んだのかはわからないが、護衛であろう冒険者らしき服装の者もおり、間違いないだろう。

調査を終え、ソウシロウが少女に近づく。
少女は怯えた表情を浮かべてソウシロウの行動を見ていた。

あどけなさの残る少女は15歳くらいだろうか。綺麗な青い髪に青い瞳をしている。
何より特徴的なのは人間よりも耳が長く、尖っているところだ。

「エルフ・・・か?」

ソウシロウの言葉に少女がビクッと体を震わせる。

なるほど、読めてきた。
おそらく公にできない人身売買だったのだろう。だとすれば危険を犯したことも合点がいく。

「立てるか」
ソウシロウが差し出した手を、少女はおずおずと掴み、ゆっくり立ち上がった。

「俺はクサカソウシロウというものだ。この先にあるオリオール村の自警団をしている。君を保護しようと思うが問題ないか?」

「・・・自警団の方ですか。私はアリアです。見ての通り奴隷です。保護してもらうのはありがたいですが、何も支払えるものはありません。」

アリアと名乗った少女は俯きながら消えるような声で答える。

「大丈夫だ。対価を要求するつもりはない。こんなところにいたらすぐにまた野獣に襲われるぞ。とりあえず町まで送ろう。」

対価を要求しないといったソウシロウに少女の表情がわずかに綻んだ。

「歩けるか?」

「はい。大丈夫です」

そう答えて歩き出したソウシロウの後ろを進むが、未だ足が震えるようでうまく歩けないようだ。

「ふう。無理するな。ちょっと失礼するぞ」

ソウシロウは有無を言わさず少女を抱き上げた。
驚くほどに軽いが、健康に問題はなさそうに見える。商人だけあって商品である奴隷の健康には気を使っていたようである。病気なんてしたら商品価値が下がるから当たり前とえばそれまでだが。

しかしながら、少女の履物は底が薄く、山道を長時間歩くのに適していない。
その証拠に履物には所々血が滲んでいる。
奴隷には最低限の装備しか与えないようだ。ソウシロウは商人の死体を睨みつけた。本当に胸糞悪い。狼に食い殺されたのは当然の報いだったのかも知れない。



少女を抱えて戻ったソウシロウにアルフとコーンは驚いたが、とりあえず村に向けて出発することとなった。

夜になると野獣が凶暴化するため、日暮れ前に村に戻りたいらしい。

道中ソウシロウは操縦するアルフと薬草を分別しているコーンに状況を説明すると、2人は意外とすんなり納得してくれた。

「ちっ、こんなところでも違法な人身売買が行われているとはな。」

アルフが舌打ちする。正義感の強い男だ。その表情はきっと苦虫を噛み潰したようなものだろう。

アフルの話だとドッチリテ王国では奴隷制度が認められており、奴隷自体はそう珍しいものでもないらしい。

正式な奴隷契約を結ぶと、奴隷は自由と引き換えに最低限の生活は保証される。

隷従魔法により奴隷契約を結ぶと、奴隷は自由を制限される。代わりに主人には奴隷を保護する義務と労働の対価を与える義務が生まれる。奴隷が主人に背いた場合、魔法が全身を締め付ける強烈な痛みを与える。主人が契約を違えると一定時間身動きが取れなくなくなるだけでなく、そのことが公的組織である魔法士協会に伝達され、業界全体に知れ渡る。もう2度と奴隷を売ってもらえなくなるのだ。
そうしたペナルティを嫌気し、正式な奴隷契約でなく個人売買で奴隷を入手したがる人間も多い。
今回はまさにそのパターンだろう。

「ましてや、エルフは魔法力にたけ、ヒューマンより長寿だ。だから奴隷としての価値も高いんだ。だから、エルフの村を狙った山賊は後を立たない。故に、現在はエルフの新規奴隷は禁止されているはずだ」

アルフの言葉にアリアが反応する。

「実は私の一族も山賊に襲われました・・・」

アルフからもらったスープを飲み、落ち着いたアリアが話を続ける。

「私の一族は少数ながら昔ながらの自然に囲まれて皆幸せに暮らしていました。ですが、山賊に襲われて家を壊された一族は皆捕まり、山賊から奴隷商人であるご主人様に売られました。それが半年前くらいの出来事です。そこからご主人様が王都で私を売るといって、長い間移動し王都に着きました。王都についたらすぐに色々な人が私を見にきました。それで今日の朝に私を連れてこの森に連れてこられ、男のお客様に買われたところで、狼に襲われたのです。」

アリアはそこまで話すと目に涙を浮かべて、俯いてしまった。

「一ついいか?」

アリアの話を聞いてソウシロウがアルフに質問する。

「エルフの奴隷は禁止されているのに、奴隷商人は客に見せることができるのか?」

「もちろん、他の奴隷とは別扱いだ。おそらく上客や常連だけに見せてたんだろう。それに、闇取引も見つからなければ特に罰されることもない。国も抜き打ち調査みたいなことはやらないからな。法律なんてそんな程度のもんだ」

アルフが眉間にシワを寄せる。

2人のやりとりが終わった後、アリアが再び口を開く。

「助けてくれてありがとうございます。でも、私はこれからどうしたらいいでしょう?お父さんもお母さんも、弟もみんな散り散りになってしまいました。きっと私みたいに奴隷になっています。きっともう会えません。私の故郷はもうありません。帰る場所なんてどこにもありません」

消え入りそうな声で泣きながら絶望する少女に3人は描ける言葉が見つからなかった。

少女の泣き声は森の騒音に掻き消さるほど弱々しかった。
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