魔法の星に召喚された宇宙最強の男の冒険譚

ゆーなま

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初仕事

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賞金稼ぎギルドには実に様々な仕事が舞い込む。

大抵の都市には治安を守る自衛組織が存在する。
意図的につくられるというより、人が集団で生活していく中で自然と組織されるようだ。

自衛組織の役割は土地によって若干異なるものの、外敵からの都市の防衛が最も重要視される。
他の土地の資源を求める領主が領地拡大のために戦争を行うこともあるし、大型の魔獣が都市へ攻め入ることもある。
自衛組織の最重要任務はそういった外部からの攻撃に対する防衛である。
更に、自衛組織には都市内部の犯罪の取り締まりも課せられる。
罪を犯した者は自衛組織の人間が捕縛し、取り調べ、罪を決定する。
その罪の程度によって自衛組織が管理する牢獄に閉じ込めることもあるが、死罪となる場合も多い。
法律や倫理観を教える義務教育がないこの星では民間のイザコザや軽犯罪は日常茶飯事であり、自衛組織としても小さいな犯罪に手を回している余裕はなく、必然的に自衛組織が対処するのは殺人や強盗など人の命を脅かす犯罪が中心となるためだ。
さらに、重大な犯罪であっても、都市の中心から離れれば自衛組織の関与も消極的になり、違法な人身売買や凶悪犯罪は都市の外縁であるスラムで行われることが多い。

このように自衛組織の対応範囲は限られているため、「お困りごと」を抱えた市民が、賞金稼ぎギルドに解決を「依頼」するようになった。
要は賞金稼ぎという仕事は自衛組織や職業組織が対応しないトラブルを依頼主から賞金をもらって解決する「何でも屋」である。
そしてもちろん、ソウシロウたちが選んだ「地下水道の清掃」も自衛組織でも清掃ギルドでも対処しない「お困りごと」である。

「それしても、ずいぶん長い間人の手が入ってなかったみたいだな・・・」

「本当ですね。これは酷すぎますよ・・・」

依頼主である清掃ギルドの職員から簡単に依頼内容を聞いた後、荷馬車をレンタルして依頼場所に到着した2人は、呆然と立ち尽くしていた。
依頼場所である5番地下水道には衣類、机、生活用品、馬車の残骸、ボロボロの武具等、実にさまざまなゴミが無数に浮かんでいた。

「清掃の仕事って言っても限度があるだろう。Fランクの仕事なんだからもっと簡単な仕事だと思っていたが、これは割に合わないな。」

「どうりで清掃ギルドが投げ出すわけですよ・・・依頼主の清掃ギルドの担当者も苦笑いしてましたしね。ここは外縁地区ですし、きっと近所からの苦情もないんでしょう。だから長年ほったらかしになったんじゃないでしょうか。報酬も安いですしね。」

アリアが既に半ば諦めたような表情を浮かべる。

地下水道は左右に人が歩ける歩道があり、その真ん中に幅5メートルほどの人口の川が流れている。
そこに落ちているゴミを全て拾って都市の外れにあるゴミ集積場まで運んでほしい、と言うのが依頼内容である。

「こんなもの一つずつ拾っていたらキリがないぞ。」

「そうだ!ソウシロウさんの炎魔法で焼き尽くすのはどうですか?ゴミを小さくすれば運ぶのも楽なんじゃないでしょうか?」

アリアが名案と言わんばかりに、ポンと手を叩く。

「いや、流石にこれだけの量を燃やすとなるとちょっと危ないかな。それにゴミを水から引き上げるだけでも1日かかるぞ。」

「えっ!1日でできるんですかっ」

「でもまあ、確かに魔法は使えるな。よしちょっと試してみるか」

軽い衝撃を受けているアリアに構わず、ソウシロウは思いついたアイディアを試すべく目を閉じる。
水道の水をゴミごと全て取り出すイメージを膨らませる。ソウシロウは水道に向かって手を伸ばす。
ソウシロウから発せられる「気」が外気と混ざり合い、地下空間がソウシロウの魔力で満たされていく。

「あれ?なんか空気が変わっていくような気がします」

アリアは空気に「もや」がかかったような不思議な感覚を覚えた。
恐らく、数日前の彼女ならその違和感を感じることもできなかっただろう。
この時のアリアは自分の能力向上なんて知る由もないが、レベル上昇により魔力感応度が高まったから感じることができていた。

「よし。できたぞ。」

10秒ほど無言で目を閉じていたソウシロウが目を開ける。

「えっ、あの。できたって何がですか?」

アリアがゴクリと喉を鳴らす。
本能でわかっているのだ。今まで経験したことのない異常な状況が完成されたことに。

「ああ、水をゴミごと固めて動かせるようにした。これでこのままどこでも運べるぞ。ほら」

そう言って、ソウシロウが人差し指をくいっと上にあげると、連動して水道の水が透明な水槽に入れられているかのようにスポっと抜けて上に持ち上がる。

「きゃああああああ。」

アリアの絶叫が地下水道ないを反響する。

「ほら、こうすればこのままゴミ集積場まで持っていけるだろ?さ、通路に落ちているゴミを全部水の中にぶち込もうぜ」

そう言ってソウシロウが指を下に向けると、浮かんでいた水道の水が元あった場所にスポっとはまる。
ちなみに、上に持ち上がる時も、下に下がる時も全く水飛沫は立たない。水がソウシロウの魔力で固められているようだ。

「ちょっと待ってください。思考が追いつきません。あまりにもすごすぎます。こんな魔法使えるのソウシロウさんしかいません。どの魔法書にもこんなの載ってませんよ。もうわけがわかりません」

アリアは体を震わせながらも結構な早口で捲し立てる。ちょっとやりすぎたかもしれないな。
でも、一つ一つ運ぶなんて非効率的だしな。燃やして消し炭にもできるけど、水道自体の耐火性もわからないし。
やっぱりこの方法が一番効率的だ。

「驚いているところ悪いが、通路に落ちているゴミを落とすのを手伝ってくれよ。」

ソウシロウはそう言って通路に散乱しているゴミを風魔法で落としていく。
湿度は高いが通路は乾いているため、風魔法は有効だ。水が固まっているため派手に落としても水跳ねしない。

「えっ、あっはい。そうですね。わかりました」

ソウシロウの言葉にはっとしたアリアは、水魔法でゴミを落としていく。
通路のゴミは小さいものが多く生活魔法程度の水量で十分だ。
アリアは小声で何やら呟きながらも的確に仕事をこなしていく。順応の速さはさすがだ。
2人は通路のゴミを固まった水の中に次々に落としていった。

                 ※※※※

「さて、通路のゴミは無くなったな。後はこの水の塊をゴミごと運び出すだけだが。」

地下水道の左右の通路は見違えるように綺麗になった。
これがソウシロウの出身地である惑星クーガならば、洗剤を使って壁や床の黒ずみやカビの除去もできるが、まあそこまでしなくていいだろう。ゴミさえなくなれば清掃ギルドが仕上げをするだろう。

「でも、ソウシロウさん、このまま集積場に運ぶと大分目立ちませんか?」

「確かにそうなんだよね。かといって小分けにして荷馬車で何度も行き来するのはちょっと大変だしな。」

「そうだっ。周りを土で固めて建築資材を運んでいるようにしたらどうでしょう?」

頭を悩ましているソウシロウの横で、アリアが名案とばかりに手を叩く。

「いや、それにしても馬車からは大きくはみ出るしな。目立つことに変わりはない。」

「そうですよね。すみません」

ソウシロウの反応にアリアがシュンとして肩を落とす。

「いや、待てよ。そうか、周囲の人間から見えなければいいんだ。アリアでかしたぞ、名案だ」

「はいっ。よくわかりませんがお役に立てたなら良かったですっ」

アリアの言葉をヒントにソウシロウにもアイディアが思い浮かんだようだ。
喜ぶソウシロウを見て、アリアもぱぁっと笑顔を浮かべた。
しかしながら、ソウシロウが思い付いた運搬方法はやはりアリアの常識から大きく外れたものであることは、今のアリアには知る由もない。
               ※※※※

澄み切った青空に時折白い雲が浮かぶ。
ゴミ集積場を目指してモグワイの外縁地区を馬車でのんびり進む2人の背中を、高く登った太陽がポカポカと温めてくれる。
ギルドから依頼されていた5番地下水道の清掃を終え、時刻は昼前となっていた。

「確かに、これなら誰も気がつきませんね。ただ、私は何回常識をひっくり返されればいいんでしょうか?ソウシロウさんは本当にすごい魔法師です。」

「はっはっはっ、褒めても何も出ないぞ。これでゴミ集積場につけば今日の仕事は終わりだ。まだ昼前だし、もう一つくらい依頼を受けておけばよかったかな」

馬車を操縦するアリアの隣で、人差し指を上に向けたまま揺られているソウシロウは上機嫌だ。

「まさか固めた水を空の色と同じにして、それを雲より高く浮かべて運んでる、なんて誰も想像できないでしょうね。どぶ色だった水が空色に変わっていくところは衝撃的すぎてまだ瞼に焼き付いています。でもあんなに高くあげるなら保護色にしなくても良かったんじゃないですか?」

「そうかもしれないな。まあ、水の色を変えるのは初めてだったし、実験もかねてかな。それにしても、アリアがいてくれて助かったよ。いくら俺でも地下水道から水を外に運び出すときに人に見られたら、流石に隠せなかったし。」

「巨大な空色の塊がものすごい速さで空に浮かんでいったら普通の人は腰抜かしますね。5番地下水道が人通りの少ない外縁地区でよかったです。」

ソウシロウの言葉でその場面を思い出したのか、アリアがふふっと笑う。

「ああ、本当だな。さてそろそろ目的地に近づいてきたんじゃないか?確かゴミ集積場ってこの辺りだよな。」

そう言って、ソウシロウは清掃ギルドの職員からもらった地図に目を落とす。

5番地下水道も、ゴミ集積場も同じく外縁地区にあるが、ゴミ集積場の方が居住スペースから離れている。
というか、ほとんど外壁に近いらしい。
アリアの話によるとゴミが山積されて異臭を放つような状態ではないようだが、この星でもゴミ集積場の近くは人が住み着かないようだ。

「街の中心地からは結構きましたよね。モグワイは比較的大きな都市ですが、ここまで広いとは知りませんでした。ギルドのある中心地から外縁地区に移動するだけでも馬車が必須ですね。」

人口や都市の広さを正確に知る術がないが、商業都市モグワイはかなり広い。
居住スペースや商業地区こそコンパクトで人口密度が濃いが、その外側にある外縁地区は相当な広さである。
恐らく食料や工房みたいな比較的大きなスペースが必要な施設のほとんどが外縁地区にあるのだろう。
それにしても、山や川まであるのだから大したものだ。
人間が暮らす「街」を想像していたソウシロウにとっては衝撃的であった。
どおりで領主や自衛組織だけじゃ都市の隅々まで管理しきれないわけである。
外縁地区にどれだけ人が住んでいるかなんて把握できっこないだろう。

「あっソウシロウさん、ここからはスラム街ですよ。ゴミ集積場に行くにはスラム街を通るみたいですね。」

アリアが指差す先には舗装されていない道の左右に古めかしい民家が立ち並んでいた。
閑散として人通りもないが、建物の中からは確かに人の気配がする。昼間なのにどこかうらぶれた感じだ。
路上にはあちこちに生活ゴミが散乱しており、カラスのような鳥がギャアギャアと残飯を取り合っている。
昼間なのにどこか裏ぶれた印象だ。
表道がこの状態なら、裏道に入れば何があるかわかったものではない。

「モグワイだけでなく、大体のゴミ集積場は外縁地域にあります。そして、その近くには税金を払えない人たちが住み着くんです。衛兵や役所の人間もこんな場所まではほとんど来ませんから」

無言でスラム街を見つめるソウシロウにアリアは少し悲しそうな笑みを浮かべる。
もしかしたら、違法な人身売買で売られた自分も、散々弄ばれた後、捨てられ、流れ流れて最終的にスラムで暮らすことになったかもしれない。
それでも命があるだけましと考えることもできるが、このような不衛生な場所での暮らしは到底幸せとは言えないだろう。
そうかと言って、個々の戦闘能力が低い者が外壁の外に出れば野獣や魔獣、時として盗賊達に襲われてしまう。
弱い者が生きるためには、どんなに苦しくても都市の中で暮らすしかないのだ。

沈黙のままの2人を運ぶ馬車が巨大な空洞の前で停止する。

「ここがゴミ集積場か。」
「はい。着きましたね」

ゴミ集積場は巨大な穴だった。巨大な建物が敷地ごと数十棟入るくらい広く、底が見えないほど深い。
一体誰がどうやって掘ったのだろうか。ソウシロウはこの星の魔法技術の力を改めて実感した。

「さて、この穴にこのまま落としていいんだよな」

ソウシロウは誰にともなく確認するように呟き、人気がないことを確認した後、上に向けていた人差し指を下に向ける。

数秒後、巨大な空色の塊がものすごい速さで穴の中に落下していった。
ゴミが落着した音が微かにしか聞こえないことから、穴はソウシロウが思ったより更に深いようだ。

「さてと、終わりましたね。後はギルドに完了報告をして終わりです」

「ああ、わかった。あっけなかったな」

2人が馬車まで戻ろうと踵を返した、そのときだった。
ソウシロウが複数の剣戟を探知する。どうやらスラム街の方で戦闘が行われているらしい。
喧嘩か?それにしては様子が変だ。

「アリア、スラム街で戦闘が始まったようだ。遠すぎて正確にはわからないが複数人が戦闘している」

「えっ。私には何も聞こえません。そんなに遠くことまでわかるなんて、さすがはソウシロウさんです。スラム街は複数の暴力組織がそれぞれの縄張りを張っていますので、昼夜問わずよく戦闘が起きるんです。どうしますか?」

ソウシロウの探知能力の高さに一瞬感心するも、アリアは真剣な表情でソウシロウを見つめ返す。

「うーん、できれば面倒ごとはゴメンだが、どうせスラム街を通り抜けなきゃいけないな。それに、もしかしたら賞金首もいるかもしれないし。よし、様子を見にいくぞ。」

「はいっわかりました」

「ちょっと待て」

「どうかしましたか?えっ、きゃあ」」

急いで馬車に乗ろうとするアリアをソウシロウは両腕に抱えた。いわゆる「お姫様抱っこ」という状態だ。

「悪いな。荷馬車じゃちょっと遅いからな」

「ですがっ、ソウシロウさん、これはちょっと」

「口を閉じていないと舌を噛むぞっ」

慌てて何かを言いかけたアリアだったが、ソウシロウの言葉に押し黙った。そんなアリアを見てソウシロウはニヤッと笑う。

「いい子だ。」

アリアを抱えたソウシロウは舗装されていない荒れた道を駆け出した。





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