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古賀栄智

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 夜0時半。 
 宮城旭が仕事を終え、寝不足の頭を抱えながらシェアハウスに戻ると、廊下に黒島千明が立っていた。 

「あれ、黒島さん。そっちも残業?大変だね、お互い様」 

 軽口のつもりで話しかけた宮城は、薄暗い廊下に立ったまま微動だにしない黒島に違和感を覚えながら近づく。 

「……どしたの?」 

 近づいて顔を覗き込むと、黒島はいきなり宮城のネクタイを引っ張った。 

「うわ!なに、危なっ」 
「女物の香水だ」 

 よろけた宮城の首もとに鼻先を寄せた黒島は、そう言ってネクタイを離す。 

「え、なに。黒島さん、風紀委員にでも就任した?夜遊び禁止だっけこの家」 

 面倒臭そうな顔をする宮城に、黒島は微笑みかけた。 

「いや?禁止はされてませんよ。でも、宮城さんが大人の恋愛してると、子どもがそれに影響されちゃうことってあるから」 

 そこまで黒島が言うと、宮城は寄せていた眉を緩めて両手を打った。 

「あ、もしかして栄智がセフレ欲しいとか言い出した?ごめんごめん。栄智ならいいかと思ってそんな話しちゃったわ」 
「……やっぱり宮城さんか」 
「え?」 

 小さく呟いてくるりと踵を返した黒島は、宮城の聞き返しには応じずにひとり頷いている。

「栄智がバカなことしようとしてるなら、俺止めるけど」
「宮城さんってセフレと恋人両立するタイプ?」
「は?いや、さすがに両立はしない」
「なら、まぁいいか」

 何を言ってるのかわからないという表情の宮城を置き去りに歩き出した黒島は、「あ、むやみに顔を近づける癖は直した方がいいですよ」と微笑を残して、去っていった。 

「……何なの?」 

 夜中の廊下に一人残された宮城は、再び眉間に皺を寄せたのだった。 
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