イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ

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    使い慣れたダブルのベッドに、新坂は瀬戸と並んで横になる。
    瀬戸に従って水を飲み、寝る支度が整った頃には酔いなど完全に飛んでいた。暗い部屋の天井を見つめて、新坂は至極冷静な素面の頭で状況に戸惑っていた。このマンションに住み始めてから、自分以外の誰かがベッドに入ったのは今日が始めてだった。あわよくばセックスしてやろうと思っていたくせに、瀬戸がベッドにいるだけで緊張に襲われて、とにかくこの状況は新坂の眠りを妨げた。
    完全なプライベート空間で、何をできるわけでもなく一緒に寝るだけ。
    それが想像以上に自分の首を絞める行為だと新坂が自覚したのは、ベッドに横になって1時間も経ってからだった。
    時計の音を聞くのがいい加減嫌になってきて顔を横に向けると、瀬戸は仰向けのまま規則正しい呼吸を繰り返している。緊張感なく眠る姿は愛おしくて、同時に少しだけ切ない。

「……ユキトくん」

    耳元で囁く。反応はない。
    目覚めないことを確認して、新坂は寝返りを打った。片肘で上体を支えるようにして、瀬戸の寝顔を覗き込む。初めて見た瀬戸の寝顔は、普段よりあどけなかった。

「何も知らずに寝やがって」

    新坂は瀬戸の口元を指先で撫でた。
    数回撫でても眠り続ける瀬戸を見るうち、瀬戸が入社したての頃にやった歓迎会が思い返された。王様ゲームが開催されて、王様になった下心丸出しの社長が2番と5番がキスしろという時代錯誤な命令を下したことがある。その指名が新坂と瀬戸だった。
 男しか好きになれないなんて不毛で不幸で、だから報われない『愛したい』も『愛されたい』も抱かないと決めていた新坂は、一目見てタイプだった瀬戸とキスすることになってしまった。もちろんその場のノリに過ぎない出来事だったが、瀬戸は男とキスすることを罰ゲームとして消化せず、「さっきはすみませんでした。新坂さんとキスしてしまうなんて、ほんとに申し訳なくて……!」と歓迎会後に何度も頭を下げてくれた。その後しばらく新坂は瀬戸とのキスに囚われて、やがて不毛な気持ちは抑えきれなくなったのだ。
 今思えば、あのキスが決意の方向性を変えてしまったのだろう。
    今日、一大決心を決行できなかった自分は恐らく今後も何もできない。新坂にはそれがわかっていた。

(ならせめて、キスだけでも)

    そんな身勝手な願いが浮かんで消えない。
    瀬戸の唇から指を離し、新坂は目を伏せる。どうしようかと葛藤が巻き起こって、迷いを絶つように息を吸ってから顔を寄せた。
    鼻先が触れ合いそうな距離で一瞬止まって、新坂はゆっくりと唇を重ねた。体温と体温が触れて、鼓動が早まる。

(好きだよ、ユキトくん)

    心の中でだけ伝えて、すぐに顔を離した。
    鼓膜まで届く心拍数は、新坂の胸を満たすことはなかった。キスできた喜びより名残惜しさが強くて、新坂は唇を弱く拭う。

「……おやすみ」

    瀬戸に向けてではなく、自分に言い聞かせるために口にして、新坂は瀬戸の顔を見ないように背を向けて横になった。
    もう瀬戸のことを考えないようにして、体を丸めて目を閉じた。
    だから、新坂は気が付かなかった。

    瀬戸が、背中を見つめていることに。
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