4 / 20
4
使い慣れたダブルのベッドに、新坂は瀬戸と並んで横になる。
瀬戸に従って水を飲み、寝る支度が整った頃には酔いなど完全に飛んでいた。暗い部屋の天井を見つめて、新坂は至極冷静な素面の頭で状況に戸惑っていた。このマンションに住み始めてから、自分以外の誰かがベッドに入ったのは今日が始めてだった。あわよくばセックスしてやろうと思っていたくせに、瀬戸がベッドにいるだけで緊張に襲われて、とにかくこの状況は新坂の眠りを妨げた。
完全なプライベート空間で、何をできるわけでもなく一緒に寝るだけ。
それが想像以上に自分の首を絞める行為だと新坂が自覚したのは、ベッドに横になって1時間も経ってからだった。
時計の音を聞くのがいい加減嫌になってきて顔を横に向けると、瀬戸は仰向けのまま規則正しい呼吸を繰り返している。緊張感なく眠る姿は愛おしくて、同時に少しだけ切ない。
「……ユキトくん」
耳元で囁く。反応はない。
目覚めないことを確認して、新坂は寝返りを打った。片肘で上体を支えるようにして、瀬戸の寝顔を覗き込む。初めて見た瀬戸の寝顔は、普段よりあどけなかった。
「何も知らずに寝やがって」
新坂は瀬戸の口元を指先で撫でた。
数回撫でても眠り続ける瀬戸を見るうち、瀬戸が入社したての頃にやった歓迎会が思い返された。王様ゲームが開催されて、王様になった下心丸出しの社長が2番と5番がキスしろという時代錯誤な命令を下したことがある。その指名が新坂と瀬戸だった。
男しか好きになれないなんて不毛で不幸で、だから報われない『愛したい』も『愛されたい』も抱かないと決めていた新坂は、一目見てタイプだった瀬戸とキスすることになってしまった。もちろんその場のノリに過ぎない出来事だったが、瀬戸は男とキスすることを罰ゲームとして消化せず、「さっきはすみませんでした。新坂さんとキスしてしまうなんて、ほんとに申し訳なくて……!」と歓迎会後に何度も頭を下げてくれた。その後しばらく新坂は瀬戸とのキスに囚われて、やがて不毛な気持ちは抑えきれなくなったのだ。
今思えば、あのキスが決意の方向性を変えてしまったのだろう。
今日、一大決心を決行できなかった自分は恐らく今後も何もできない。新坂にはそれがわかっていた。
(ならせめて、キスだけでも)
そんな身勝手な願いが浮かんで消えない。
瀬戸の唇から指を離し、新坂は目を伏せる。どうしようかと葛藤が巻き起こって、迷いを絶つように息を吸ってから顔を寄せた。
鼻先が触れ合いそうな距離で一瞬止まって、新坂はゆっくりと唇を重ねた。体温と体温が触れて、鼓動が早まる。
(好きだよ、ユキトくん)
心の中でだけ伝えて、すぐに顔を離した。
鼓膜まで届く心拍数は、新坂の胸を満たすことはなかった。キスできた喜びより名残惜しさが強くて、新坂は唇を弱く拭う。
「……おやすみ」
瀬戸に向けてではなく、自分に言い聞かせるために口にして、新坂は瀬戸の顔を見ないように背を向けて横になった。
もう瀬戸のことを考えないようにして、体を丸めて目を閉じた。
だから、新坂は気が付かなかった。
瀬戸が、背中を見つめていることに。
瀬戸に従って水を飲み、寝る支度が整った頃には酔いなど完全に飛んでいた。暗い部屋の天井を見つめて、新坂は至極冷静な素面の頭で状況に戸惑っていた。このマンションに住み始めてから、自分以外の誰かがベッドに入ったのは今日が始めてだった。あわよくばセックスしてやろうと思っていたくせに、瀬戸がベッドにいるだけで緊張に襲われて、とにかくこの状況は新坂の眠りを妨げた。
完全なプライベート空間で、何をできるわけでもなく一緒に寝るだけ。
それが想像以上に自分の首を絞める行為だと新坂が自覚したのは、ベッドに横になって1時間も経ってからだった。
時計の音を聞くのがいい加減嫌になってきて顔を横に向けると、瀬戸は仰向けのまま規則正しい呼吸を繰り返している。緊張感なく眠る姿は愛おしくて、同時に少しだけ切ない。
「……ユキトくん」
耳元で囁く。反応はない。
目覚めないことを確認して、新坂は寝返りを打った。片肘で上体を支えるようにして、瀬戸の寝顔を覗き込む。初めて見た瀬戸の寝顔は、普段よりあどけなかった。
「何も知らずに寝やがって」
新坂は瀬戸の口元を指先で撫でた。
数回撫でても眠り続ける瀬戸を見るうち、瀬戸が入社したての頃にやった歓迎会が思い返された。王様ゲームが開催されて、王様になった下心丸出しの社長が2番と5番がキスしろという時代錯誤な命令を下したことがある。その指名が新坂と瀬戸だった。
男しか好きになれないなんて不毛で不幸で、だから報われない『愛したい』も『愛されたい』も抱かないと決めていた新坂は、一目見てタイプだった瀬戸とキスすることになってしまった。もちろんその場のノリに過ぎない出来事だったが、瀬戸は男とキスすることを罰ゲームとして消化せず、「さっきはすみませんでした。新坂さんとキスしてしまうなんて、ほんとに申し訳なくて……!」と歓迎会後に何度も頭を下げてくれた。その後しばらく新坂は瀬戸とのキスに囚われて、やがて不毛な気持ちは抑えきれなくなったのだ。
今思えば、あのキスが決意の方向性を変えてしまったのだろう。
今日、一大決心を決行できなかった自分は恐らく今後も何もできない。新坂にはそれがわかっていた。
(ならせめて、キスだけでも)
そんな身勝手な願いが浮かんで消えない。
瀬戸の唇から指を離し、新坂は目を伏せる。どうしようかと葛藤が巻き起こって、迷いを絶つように息を吸ってから顔を寄せた。
鼻先が触れ合いそうな距離で一瞬止まって、新坂はゆっくりと唇を重ねた。体温と体温が触れて、鼓動が早まる。
(好きだよ、ユキトくん)
心の中でだけ伝えて、すぐに顔を離した。
鼓膜まで届く心拍数は、新坂の胸を満たすことはなかった。キスできた喜びより名残惜しさが強くて、新坂は唇を弱く拭う。
「……おやすみ」
瀬戸に向けてではなく、自分に言い聞かせるために口にして、新坂は瀬戸の顔を見ないように背を向けて横になった。
もう瀬戸のことを考えないようにして、体を丸めて目を閉じた。
だから、新坂は気が付かなかった。
瀬戸が、背中を見つめていることに。
あなたにおすすめの小説
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
アイドルですがピュアな恋をしています。
雪 いつき
BL
人気アイドルユニットに所属する見た目はクールな隼音(しゅん)は、たまたま入ったケーキ屋のパティシエ、花楓(かえで)に恋をしてしまった。
気のせいかも、と通い続けること数ヶ月。やはりこれは恋だった。
見た目はクール、中身はフレンドリーな隼音は、持ち前の緩さで花楓との距離を縮めていく。じわりじわりと周囲を巻き込みながら。
二十歳イケメンアイドル×年上パティシエのピュアな恋のお話。
貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話
タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。
叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……?
エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。
ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
有能副会長はポンコツを隠したい。
さんから
BL
2.6タイトル変更しました。
この高校の生徒会副会長を務める僕・東山 優真は、普段の仕事ぶりから次期生徒会長の最有力候補と言われている。……んだけど、実際は詰めの甘さやうっかりミスを根性論でカバーしてきたポンコツだ。
こんなに頑張れているのは、密かに思いを寄せている安西生徒会長のため。
ある日、なんの奇跡か会長に告白され晴れて恋人同士となった僕は、大好きな人に幻滅されないためにポンコツを隠し通すと決めたけど……!?(内容は他サイト版と同じですが、こちらの方がちょっと読みやすいはずです)