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「カット。チェック入ります」
ディレクターの指示が聞こえて、新坂は作っていた笑顔を消した。
ゆめかわ、というようなキラキラとふわふわで構成されたセットの中で、このコンセプトは自分の年齢に合っているのか不思議に思いながら身体を伸ばす。
SNSで流す広告動画撮影のため、先程から新坂は1人でマカロンを食べて笑顔を見せるという動作を繰り返していた。色の違うマカロンを持たされては1口食べて笑顔を作る。何にそんな色差分を使うのか新坂にはわからないが、小道具のマカロンは美味しかったので食べかけたものは全部食べ切っていた。
(どこのやつなんだろ)
気になってお飾り用に置かれたマカロンの箱を手に取る。読みにくい店名を見つけて頭の中で復唱していると、休憩の合図が入った。スタッフの案内でセットから移動して、新坂は休憩用の椅子に座りながらそばのテーブルに置かれた冊子に目を向けた。
自分が写る表紙に『色校2稿』と書かれた紙が貼ってある。いつ撮影したものか記憶が定かではないが、着ている衣装には見覚えがあった。
「これ、見てもいいやつですか?」
新坂が周囲に向けて聞くと、水を渡しに来たスタッフがどうぞと手で示して、それとほとんど同時に新坂は冊子を開いた。
「あー……プールの時の」
そう1人で言って、夏を意識した涼しげな装いの自分を眺める。
これ撮影の時まだ冬で、超寒かったんだよなと思い出しながらパラパラとページをめくっていた新坂は、ある見開きで手を止めた。
「……かっこいい」
無意識に小さく呟く。
その見開きはオフショット集で、スタッフもちらほらと写っているページだった。何枚もある写真の中、左端の1枚に髪をかきあげて笑顔を見せるマネージャー──つまり恋人の瀬戸が写っていた。
(あ、いや。『恋人』は図々しかったな)
誰も聞いてないのに、新坂は頭の中でわざわざ断りを入れた。新坂の断りに従ってより詳細に表現すれば、『新坂の恋人をやってくれている瀬戸』が見開きに載っていた。
時が止まったように小さく写る瀬戸を新坂が見ていると、
「それ撮った時、超寒かったですよね」
声と共に隣に誰かが立って、見上げると本物の瀬戸がいた。
普通にしていればいいのに、新坂は大きな音を立てて冊子を閉じてしまって、我ながら不自然すぎて恥ずかしくなる。
「ユ、ユキトくん。なんでここに?今日違う仕事あるはずじゃ……」
瀬戸は新坂だけのマネージャーをやっているわけではない。メインが新坂というだけで事務所の他モデルも受け持っていて、今日はサブの仕事に同行しているはずだった。
「そうだったんですけど、実はトラブルで中止になっちゃって。まだ新坂さんの撮影やってるだろうなと思って、こっち来ました」
瀬戸は笑いかけながら新坂が閉じた冊子を手に取ってめくっていく。「全部良い写りですね」と言って、冊子を両手で開いて新坂に向けた。
「この新坂さん、すごい好き」
瀬戸の発言にどきりとしながら開かれたページを見ると、向日葵を抱えて笑う新坂がいた。
「そう?俺は──」
「まぁ新坂さんは何しててもカッコいいですけど」
冊子を受け取って「俺はこのユキトくんがカッコイイと思う」とオフショットページを見せる前に全部を誉められてしまった新坂は、ただ照れた笑いを浮かべるしかなかった。
「あ、さっきLINE送っといたんで、あとで返信ください」
手元に置いていたスマホを指差される。言われて画面を見ると、瀬戸からメッセージが来ていた。
『今月、空いてる日あったら会いませんか』
瀬戸に顔を向けると微笑みを返される。
新坂はわかりやすく緩もうとする口元に力を入れながら、空けられる日程を思い出せる限りすべて打ち始めた。
ディレクターの指示が聞こえて、新坂は作っていた笑顔を消した。
ゆめかわ、というようなキラキラとふわふわで構成されたセットの中で、このコンセプトは自分の年齢に合っているのか不思議に思いながら身体を伸ばす。
SNSで流す広告動画撮影のため、先程から新坂は1人でマカロンを食べて笑顔を見せるという動作を繰り返していた。色の違うマカロンを持たされては1口食べて笑顔を作る。何にそんな色差分を使うのか新坂にはわからないが、小道具のマカロンは美味しかったので食べかけたものは全部食べ切っていた。
(どこのやつなんだろ)
気になってお飾り用に置かれたマカロンの箱を手に取る。読みにくい店名を見つけて頭の中で復唱していると、休憩の合図が入った。スタッフの案内でセットから移動して、新坂は休憩用の椅子に座りながらそばのテーブルに置かれた冊子に目を向けた。
自分が写る表紙に『色校2稿』と書かれた紙が貼ってある。いつ撮影したものか記憶が定かではないが、着ている衣装には見覚えがあった。
「これ、見てもいいやつですか?」
新坂が周囲に向けて聞くと、水を渡しに来たスタッフがどうぞと手で示して、それとほとんど同時に新坂は冊子を開いた。
「あー……プールの時の」
そう1人で言って、夏を意識した涼しげな装いの自分を眺める。
これ撮影の時まだ冬で、超寒かったんだよなと思い出しながらパラパラとページをめくっていた新坂は、ある見開きで手を止めた。
「……かっこいい」
無意識に小さく呟く。
その見開きはオフショット集で、スタッフもちらほらと写っているページだった。何枚もある写真の中、左端の1枚に髪をかきあげて笑顔を見せるマネージャー──つまり恋人の瀬戸が写っていた。
(あ、いや。『恋人』は図々しかったな)
誰も聞いてないのに、新坂は頭の中でわざわざ断りを入れた。新坂の断りに従ってより詳細に表現すれば、『新坂の恋人をやってくれている瀬戸』が見開きに載っていた。
時が止まったように小さく写る瀬戸を新坂が見ていると、
「それ撮った時、超寒かったですよね」
声と共に隣に誰かが立って、見上げると本物の瀬戸がいた。
普通にしていればいいのに、新坂は大きな音を立てて冊子を閉じてしまって、我ながら不自然すぎて恥ずかしくなる。
「ユ、ユキトくん。なんでここに?今日違う仕事あるはずじゃ……」
瀬戸は新坂だけのマネージャーをやっているわけではない。メインが新坂というだけで事務所の他モデルも受け持っていて、今日はサブの仕事に同行しているはずだった。
「そうだったんですけど、実はトラブルで中止になっちゃって。まだ新坂さんの撮影やってるだろうなと思って、こっち来ました」
瀬戸は笑いかけながら新坂が閉じた冊子を手に取ってめくっていく。「全部良い写りですね」と言って、冊子を両手で開いて新坂に向けた。
「この新坂さん、すごい好き」
瀬戸の発言にどきりとしながら開かれたページを見ると、向日葵を抱えて笑う新坂がいた。
「そう?俺は──」
「まぁ新坂さんは何しててもカッコいいですけど」
冊子を受け取って「俺はこのユキトくんがカッコイイと思う」とオフショットページを見せる前に全部を誉められてしまった新坂は、ただ照れた笑いを浮かべるしかなかった。
「あ、さっきLINE送っといたんで、あとで返信ください」
手元に置いていたスマホを指差される。言われて画面を見ると、瀬戸からメッセージが来ていた。
『今月、空いてる日あったら会いませんか』
瀬戸に顔を向けると微笑みを返される。
新坂はわかりやすく緩もうとする口元に力を入れながら、空けられる日程を思い出せる限りすべて打ち始めた。
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