23 / 42
浴衣
肝試しを経ていろんな意味でドギマギした俺は、部屋に戻るとすぐに施設案内のファイルを開いた。
風呂だ。
とにかく風呂が気になっていた。先輩と廃墟であんな雰囲気になってすぐ、大浴場で裸の付き合いをすることになったらどんな顔で臨めばいいのかわからない。
どうにか1人ずつ入る流れにできないかと画策しながら『入浴』のページを見ると、そこにはなんと。
「個室露天風呂!? え、ここ1人ずつ個室の露天風呂に入れるみたいですよ!」
「善本、そんなに風呂好きだったのか」
一目散に施設案内を読み込んで突然デカい声を出した俺に、座卓の水を飲んでいた菩提寺が珍しいものでも見るような目を向けてくる。
一方静先輩は敷かれた布団に大の字で寝て枕を乱しながら大きくため息を吐いた。
「え~マコトくんと一緒にお風呂入りたかったな~」
すごい。ものすごく軽い言い方だ。
さっきキスしそうだった場面で出していた雰囲気を帳消しにして、即刻普段の軽さを出せる先輩の切り替えの早さに関心してしまった。まだ意識がキス未遂に留まっている俺がおこちゃまなのだろうか。
あのくらい、先輩にとっては取るに足らない出来事ということなのかもしれない。そう思ったら心がモヤッとするのを感じて、慌てて頭を振って曇りを晴らす。
何にモヤッとしてんだ、俺は。
「お前、ほんとセクハラやめろよ」
「類は逆に別風呂で安心か? イタッ!」
何やら兄弟がこそこそ言い合って菩提寺が静先輩を肘打ちしているのを横目に、入浴可能時間を確認する。
「うわ、あと1時間で閉まっちゃう。2人とも遊ぶのはあとにしてまず風呂に入ろう!」
「遊んでない」
「遊んでないよ」
兄弟は仲良く同時に言い返し、同時に風呂の準備を始め、思ったより早く露天風呂へ向かうことができた。
露天風呂でしかも個室というプレミアムな空間は、俺の疲れを癒し、感情の乱高下も落ち着かせてくれた。
今ならもう先輩と部屋に2人きりになっても平常心でいられるなと自信を取り戻し、浴衣に着替えて部屋に戻る。
引き戸を開けると、菩提寺が1人でスマホを見ていた。俺は結構長風呂だったと思うが、先輩はまだ入っているようだ。
「菩提寺、早いね」
「逆上せやすくてな。……胸元、はだけてる」
顔を上げた菩提寺に指さされる。
確かに緩い着方だったが、旅館の浴衣を着るといつもこんな感じになるのでこんなもんだと思っていた。
「浴衣ってどうしてもこうならない? 朝起きたらもっと酷くて脚も胸も丸出しに──」
言いながら菩提寺を見ると全然はだけていなかった。同じ浴衣のはずなのに、襟元はきっちりと重なり、座っていても脚が露出せず着物を着ているかのようだ。
「……なってないね。どうやってそんなきっちり着てるんだ」
「コツを掴めば簡単。ちょっと貸して」
立ち上がった菩提寺が俺の襟を合わせ直して整えてくれる。帯も結び直されて見てみると、すっかり上品な着こなしになっていた。
「すごい……菩提寺って日本の伝統を守っていける人材だ……」
「どういう褒め方なんだそれは」
おかしそうに笑う菩提寺を見上げて、改めて背の高さを実感した。静先輩よりも大柄で、逆に内面は几帳面で丁寧だ。性格も顔も似てないけど菩提寺もカッコいいよな~と思っていると、笑みを消した目が俺を見下ろした。
「善本。……さっき、廃墟で静に何かされた?」
「え!? いや、なにも。あっ、悪霊が出て助けてはもらった、けど……?」
唐突に聞かれて、風呂で気持ちを整えたはずの俺は情けないほど動揺してしまった。
何もされていないと言えばされていないが、実の弟に「キミのお兄さんとキスしそうだったよ~。あくまで除霊の一貫だけどね?」などと白々しく話せるほど俺は図太くない。
菩提寺は腑に落ちない様子で「……そうか」とだけ返して気まずい空気が流れそうになった時、部屋の引き戸が元気に開いた。
「お、2人ともなんで立ってるの」
何も知らない静先輩が脱いだ服を小脇に抱えて入ってくる。
浴衣を羽織って帯で止めただけのようなスタイルで、胸元も脚も既に出ていた。胸の傷跡が覗いているが先輩に気にする素振りはない。
「親近感のある着こなしですね」
「なにが?」
「肌見せるな。公然わいせつ野郎」
「え、当たり強くない?」
何を言われても先輩に直す気はないらしく、先輩ははだけた浴衣のまま「あ~眠くなってきた」と寝転んで布団をかぶった。1番引き戸側の布団に寝そべったので、自然と俺が真ん中、菩提寺が窓側に座る。
「先輩。明日は何時に起きます? 午前中は観光するってしおりにありましたけど、どの辺行きますか。近場だと……先輩?」
返事がない。
返事どころか、先輩はぴくりとも動かなかった。顔を覗き込むと、瞼を下ろして穏やかな寝息を立てている。
「え……もう寝た?」
「こいつ異常なスピードで寝落ちするから」
「そ、そうなんだ……。俺、寝付き悪いからうらやましいな」
「なら、俺たちは眠くなるまで話すか? 合宿の醍醐味は夜更かしだろ」
風呂だ。
とにかく風呂が気になっていた。先輩と廃墟であんな雰囲気になってすぐ、大浴場で裸の付き合いをすることになったらどんな顔で臨めばいいのかわからない。
どうにか1人ずつ入る流れにできないかと画策しながら『入浴』のページを見ると、そこにはなんと。
「個室露天風呂!? え、ここ1人ずつ個室の露天風呂に入れるみたいですよ!」
「善本、そんなに風呂好きだったのか」
一目散に施設案内を読み込んで突然デカい声を出した俺に、座卓の水を飲んでいた菩提寺が珍しいものでも見るような目を向けてくる。
一方静先輩は敷かれた布団に大の字で寝て枕を乱しながら大きくため息を吐いた。
「え~マコトくんと一緒にお風呂入りたかったな~」
すごい。ものすごく軽い言い方だ。
さっきキスしそうだった場面で出していた雰囲気を帳消しにして、即刻普段の軽さを出せる先輩の切り替えの早さに関心してしまった。まだ意識がキス未遂に留まっている俺がおこちゃまなのだろうか。
あのくらい、先輩にとっては取るに足らない出来事ということなのかもしれない。そう思ったら心がモヤッとするのを感じて、慌てて頭を振って曇りを晴らす。
何にモヤッとしてんだ、俺は。
「お前、ほんとセクハラやめろよ」
「類は逆に別風呂で安心か? イタッ!」
何やら兄弟がこそこそ言い合って菩提寺が静先輩を肘打ちしているのを横目に、入浴可能時間を確認する。
「うわ、あと1時間で閉まっちゃう。2人とも遊ぶのはあとにしてまず風呂に入ろう!」
「遊んでない」
「遊んでないよ」
兄弟は仲良く同時に言い返し、同時に風呂の準備を始め、思ったより早く露天風呂へ向かうことができた。
露天風呂でしかも個室というプレミアムな空間は、俺の疲れを癒し、感情の乱高下も落ち着かせてくれた。
今ならもう先輩と部屋に2人きりになっても平常心でいられるなと自信を取り戻し、浴衣に着替えて部屋に戻る。
引き戸を開けると、菩提寺が1人でスマホを見ていた。俺は結構長風呂だったと思うが、先輩はまだ入っているようだ。
「菩提寺、早いね」
「逆上せやすくてな。……胸元、はだけてる」
顔を上げた菩提寺に指さされる。
確かに緩い着方だったが、旅館の浴衣を着るといつもこんな感じになるのでこんなもんだと思っていた。
「浴衣ってどうしてもこうならない? 朝起きたらもっと酷くて脚も胸も丸出しに──」
言いながら菩提寺を見ると全然はだけていなかった。同じ浴衣のはずなのに、襟元はきっちりと重なり、座っていても脚が露出せず着物を着ているかのようだ。
「……なってないね。どうやってそんなきっちり着てるんだ」
「コツを掴めば簡単。ちょっと貸して」
立ち上がった菩提寺が俺の襟を合わせ直して整えてくれる。帯も結び直されて見てみると、すっかり上品な着こなしになっていた。
「すごい……菩提寺って日本の伝統を守っていける人材だ……」
「どういう褒め方なんだそれは」
おかしそうに笑う菩提寺を見上げて、改めて背の高さを実感した。静先輩よりも大柄で、逆に内面は几帳面で丁寧だ。性格も顔も似てないけど菩提寺もカッコいいよな~と思っていると、笑みを消した目が俺を見下ろした。
「善本。……さっき、廃墟で静に何かされた?」
「え!? いや、なにも。あっ、悪霊が出て助けてはもらった、けど……?」
唐突に聞かれて、風呂で気持ちを整えたはずの俺は情けないほど動揺してしまった。
何もされていないと言えばされていないが、実の弟に「キミのお兄さんとキスしそうだったよ~。あくまで除霊の一貫だけどね?」などと白々しく話せるほど俺は図太くない。
菩提寺は腑に落ちない様子で「……そうか」とだけ返して気まずい空気が流れそうになった時、部屋の引き戸が元気に開いた。
「お、2人ともなんで立ってるの」
何も知らない静先輩が脱いだ服を小脇に抱えて入ってくる。
浴衣を羽織って帯で止めただけのようなスタイルで、胸元も脚も既に出ていた。胸の傷跡が覗いているが先輩に気にする素振りはない。
「親近感のある着こなしですね」
「なにが?」
「肌見せるな。公然わいせつ野郎」
「え、当たり強くない?」
何を言われても先輩に直す気はないらしく、先輩ははだけた浴衣のまま「あ~眠くなってきた」と寝転んで布団をかぶった。1番引き戸側の布団に寝そべったので、自然と俺が真ん中、菩提寺が窓側に座る。
「先輩。明日は何時に起きます? 午前中は観光するってしおりにありましたけど、どの辺行きますか。近場だと……先輩?」
返事がない。
返事どころか、先輩はぴくりとも動かなかった。顔を覗き込むと、瞼を下ろして穏やかな寝息を立てている。
「え……もう寝た?」
「こいつ異常なスピードで寝落ちするから」
「そ、そうなんだ……。俺、寝付き悪いからうらやましいな」
「なら、俺たちは眠くなるまで話すか? 合宿の醍醐味は夜更かしだろ」
あなたにおすすめの小説
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中
【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜
なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」
男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。
ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。
冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。
しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。
「俺、後悔しないようにしてんだ」
その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。
笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。
一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。
青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。
本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?