無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ

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23話

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「明樹、ちょっと聞きたいことあんだけど」

 個室の高級焼肉店。
 煙もたたなければ他の客の気配もしない、モダンな室内。
 そこでカルビを焼いていた明樹は、身を乗り出してまで声を潜める仁に目を向けた。

「いや、このカルビは俺のだからな」
「誰が肉の話だって言ったよ。カルビは好きに食っていいから」

 肉の乗った皿を明樹の方に追いやって、向かい側に座っていた仁は明樹の隣に移動してくる。はなから2人きりの食事なのにかしこまる仁を見て、明樹は一旦トングから手を離した。

「なに。じゃ、なんの話?」
「優成とのことを、教えてほしくて」

 恋人の名前が出て、明樹の口元はわかりやすく緩んだ。
 長きに渡る紆余曲折を経て、現在明樹と優成は交際関係にあった。もちろん表立たない秘密裏の仲だが、仁を含めた全メンバーには交際の件を報告していた。
 明樹としては衝撃的な話になると思っていたが、メンバーは皆当たり前のように『応援する』というスタンスを見せるだけだった。器の大きい仲間に囲まれていることを明樹は感謝して、いまだ思い返してはその幸福を噛み締めている。
 その実、2人の交際に誰も動揺しなかったのは誰もが明樹と優成の恋模様を把握していたからだが、それを明樹が知ることはない。

(一緒に報告した時、優成冷やかされて照れてたな)

 優成の可愛い姿を思い出してさらに頬を緩ませながら、明樹は仁の肩を叩いた。

「なんだよ、惚気聞きたいってわけ?」
「あー、うん。ある意味そういうことになる、かな……」

 明樹の幸せな顔と対照的に、仁は困惑に近い表情をしている。静かにビールをグラスに注いで自分の前に置いてから、仁は明樹を見つめた。

「優成とさ……どこまでやった?」
「どこまでってなにが?」
「セックス、またはそれに準拠する行為」

 明樹の聞き返しを想定していたかのように、仁はオブラートを抹消した言葉を並べてビールをあおる。
 この手の話で明樹の相手がメンバーだったことは、当たり前だが今まで1度もない。優成という身内も身内が相手となった今、性生活の話に急な恥ずかしさが込み上げて、明樹はひとまず網の上の肉をひっくり返した。

「あ~……、えっと……」

 適当に誤魔化すこともできる。
 しかし、親友に隠し事をするもんじゃないよなと思って、明樹は唇をなめてから仁を横目で見た。

「キスしかしてない」
「マジ!?まさかと思ってたけど、ほんとに!?」

 大きい声を出した口を自分で押さえてから、「ごめん。いざ言われると驚いちゃって」と仁は謝った。次いで控えめに咳払いをして、明樹の肩に手を置く。

「付き合って、今どのくらいかわかってる?」
「当たり前じゃん。あと4日で3か月記念日だよ」

 そう、明樹と優成は4日後にめでたく交際3か月を迎えるのである。記念日も当たり前のように仕事が入っていて、2人きりで食事もできないことは分かっているので、可能な限り一緒にいるという約束だけしていた。

「遠距離どころか超近距離にいるくせに、3か月近くなんにもしてないってマジ」
「や、キスはしてるって」
「それはそもそも付き合う前からしてただろ」

 紛うことなき事実に明樹が大人しく口をつぐむと、距離を詰めて座り直した仁は明樹の顔を覗き込んだ。

「でもさ、仕事の時ホテルで一緒に寝たりしてたよな?」
「ああ、うん。まーあれは、添い寝みたいなやつだから」
「え、待って。優成とプラトニックラブなの?」
「いや、別にそういうわけでもなくて。俺がまだしないって言ったからキス以上のことをしてないってだけ」

 明樹が何を答えても『は?』という顔をしていた仁はついに「は?」と口に出した。

「明樹はベッドで恋人と2人きりになって、何とも思わないわけ?」
「俺だって何とも思わないわけじゃないよ。でも付き合ってすぐ身体の関係になるの、なんか不純じゃん?」

 明樹だってもちろん性欲はあり、恋人の優成にしっかり欲情する。それではなぜすぐに性行為に及ばないのかと聞かれれば、明樹は性よりも愛を重視するタイプだからだった。付き合ったからと言ってすぐに肉体関係を持つのは、肉体関係のために交際が利用されたように思えて腑に落ちなかった。
好きなら待つし、好きなら待てる。
 そういう恋愛観で明樹は生きてきていた。
 好きだから今すぐにでも欲しいという恋愛観の方がおそらく男性では一般的だが、明樹の辞書には載っていない。

「良いとこのお嬢様か、お前は」
「いやでもさ、女の子と付き合ったら時間かけるでしょ?」
「俺はそうでもない」

 さらりと答えて、仁は箸で網の上のカルビをつつき始める。明樹は親友の手の早さについて突っ込もうとしたが、カルビを箸で挟んだ仁が「あーん」と言うのにつられて口を開けてしまったので、何も突っ込めないまま肉を味わった。

「それじゃ、いつになったらお触り解禁になんの」
「そういうのは特に決めてないんだけど……でも俺がまだって言い出したから、俺からしようって言わないとだなとは思ってる」

 今まで優成から『そろそろどうか』というような打診を受けたことはなかったが、添い寝中にキスが始まりこのまま雪崩れ込んでもいいかと明樹が思ったことは何度かある。しかし、明樹の想定以上に優成は約束を守る男だったので、明樹からの明確な誘いがないまま事が進むこともなかった。

「たぶん、というかほぼ絶対なんだけど。優成はもう限界だと思うよ」

 明樹がコーラを飲みながら関係の進展について考えていると、仁は新たに網に肉を乗せて明樹の気を引くようにトングを鳴らした。

「なんでわかるの。言ってた?」
「いや。でもあれは見ればわかる。あの優成を見てわかんないの、明樹くらいだから」

 優成の顔を見ている時間は明樹の方が圧倒的に長いはずなのに、なぜ仁はわかって自分はわからないのかわからなくて、明樹は狐につままれたような気分になる。

「明樹の『待て』に従い続けてる健気な優成は、そろそろ報われてもいいんじゃない?」

 仁はそう言って、黙って考え始めた明樹の頬をつまんだ。
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