17 / 69
15
しおりを挟む
シャワーを浴びた俺が爽やかな気持ちで部屋に戻ると、まず食欲をそそる香りが鼻をかすめた。テーブルに数種のパン、目玉焼き、ハムとソーセージ、サラダが並んでいて、高級ホテルの朝食みたいだ。
「わ、すごい……! おいしそう」
「ありがとうございます。好きなだけお召し上がりください」
椅子を引いてくれるイリスさんに合わせて座り、早速「いただきます」と手を合わせる。イリスさんは俺の言動に小首をかしげたが、俺の変な点を気にしない彼の反応はそれだけだった。
(いただきますって日本にしかない文化だっけ。そりゃ魔界の人が知ってるわけないか)
俺は俺で魔界のマナーを知らないので、非常識な行動をしていないか気にしつつパンをちぎる。その後特にマナーを注意されることもなく食べ続け、俺がコーヒーを手に取ったところで、斜め横に立っていたイリスさんがテーブルに書類を置いた。
「お食事中に失礼いたします。こちら授業のスケジュールです。基本的に何を受けるかは自由ですが、ルカ様にはまず魔法の基礎を学んでいただきたいので、私の方で初級授業をまとめております」
「実技初級Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ……。魔界史初級、魔法薬学初級、課外授業初級……。すごい量ですね……」
(大学の単位より全然多いな)
途中で読むのをやめたが、他にもぎっちり受けるべき授業名が並んでいる。
「1年あれば受けきれる量です。課題などは私もお手伝いさせていただきますのでご安心ください。ちょうど実技初級Ⅰの授業がこの後ありますので、こちらから受けてみてはいかがでしょうか。アクラマの授業がどのようなものかわかると思います」
「そうですね、そうしてみます。そしたらもう食べ終わったので行きましょうか。魔界って、授業にネコいても大丈夫なんですか?」
「ルカ様。申し上げにくいのですが、私は同行できません」
俺は腰を浮かせた体勢で止まった。
「えっ!? イリスさん一緒についてきてくれないんですか……!」
「申し訳ございません。至上宮の者にもルカ様が学院にいることは伏せたく、今から身代わりを用意しなければならず……」
「み、身代わり? いやそれ、そんな簡単に用意できるもんじゃないのでは」
「仰る通り、簡単ではございません。私の力だと数日は要してしまいます。時間を見つけて身の回りのお世話をさせていただきますので、どうかお許しを」
(俺のせいで大仕事発生してるじゃん……)
「すみません、俺いい歳なのに甘えたこと言いました。ひとりで授業くらい受けられます。頑張ります」
「ご理解いただきありがとうございます。財布、教科書と筆記用具の一式はこちらの鞄に入っておりますので」
「はい。ご飯とか食堂で食べるので俺のことは気にしないでください。お仕事頑張って」
「! ……お気遣い、嬉しゅうございます。尽力いたします」
口元を隠して頭を下げてから、イリスさんは魔法で俺の設定集を手元に引き寄せた。
「ファーブロスの出身という設定をお忘れなきようにお願いいたします。生徒との交流が発生した場合、ここに書いてある情報通りにお答えを」
「ああ、まずはこれの暗記からやらなきゃでしたね……」
「授業の開始まであと40分ほどありますので、ごゆるりとお読みくださいませ」
コーヒーのおかわりを注ぐイリスさんは、じっと俺の暗記を見守っている。その目は優しかったが、有無を言わさない塾講師のような圧があり、俺はまったくゆっくりせずにとにかく設定を読んで頭に叩き込んだ。
「わ、すごい……! おいしそう」
「ありがとうございます。好きなだけお召し上がりください」
椅子を引いてくれるイリスさんに合わせて座り、早速「いただきます」と手を合わせる。イリスさんは俺の言動に小首をかしげたが、俺の変な点を気にしない彼の反応はそれだけだった。
(いただきますって日本にしかない文化だっけ。そりゃ魔界の人が知ってるわけないか)
俺は俺で魔界のマナーを知らないので、非常識な行動をしていないか気にしつつパンをちぎる。その後特にマナーを注意されることもなく食べ続け、俺がコーヒーを手に取ったところで、斜め横に立っていたイリスさんがテーブルに書類を置いた。
「お食事中に失礼いたします。こちら授業のスケジュールです。基本的に何を受けるかは自由ですが、ルカ様にはまず魔法の基礎を学んでいただきたいので、私の方で初級授業をまとめております」
「実技初級Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ……。魔界史初級、魔法薬学初級、課外授業初級……。すごい量ですね……」
(大学の単位より全然多いな)
途中で読むのをやめたが、他にもぎっちり受けるべき授業名が並んでいる。
「1年あれば受けきれる量です。課題などは私もお手伝いさせていただきますのでご安心ください。ちょうど実技初級Ⅰの授業がこの後ありますので、こちらから受けてみてはいかがでしょうか。アクラマの授業がどのようなものかわかると思います」
「そうですね、そうしてみます。そしたらもう食べ終わったので行きましょうか。魔界って、授業にネコいても大丈夫なんですか?」
「ルカ様。申し上げにくいのですが、私は同行できません」
俺は腰を浮かせた体勢で止まった。
「えっ!? イリスさん一緒についてきてくれないんですか……!」
「申し訳ございません。至上宮の者にもルカ様が学院にいることは伏せたく、今から身代わりを用意しなければならず……」
「み、身代わり? いやそれ、そんな簡単に用意できるもんじゃないのでは」
「仰る通り、簡単ではございません。私の力だと数日は要してしまいます。時間を見つけて身の回りのお世話をさせていただきますので、どうかお許しを」
(俺のせいで大仕事発生してるじゃん……)
「すみません、俺いい歳なのに甘えたこと言いました。ひとりで授業くらい受けられます。頑張ります」
「ご理解いただきありがとうございます。財布、教科書と筆記用具の一式はこちらの鞄に入っておりますので」
「はい。ご飯とか食堂で食べるので俺のことは気にしないでください。お仕事頑張って」
「! ……お気遣い、嬉しゅうございます。尽力いたします」
口元を隠して頭を下げてから、イリスさんは魔法で俺の設定集を手元に引き寄せた。
「ファーブロスの出身という設定をお忘れなきようにお願いいたします。生徒との交流が発生した場合、ここに書いてある情報通りにお答えを」
「ああ、まずはこれの暗記からやらなきゃでしたね……」
「授業の開始まであと40分ほどありますので、ごゆるりとお読みくださいませ」
コーヒーのおかわりを注ぐイリスさんは、じっと俺の暗記を見守っている。その目は優しかったが、有無を言わさない塾講師のような圧があり、俺はまったくゆっくりせずにとにかく設定を読んで頭に叩き込んだ。
288
あなたにおすすめの小説
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜
ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。
――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん!
ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。
これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…?
ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!
椿谷あずる
BL
かつて“災厄の魔導士”と呼ばれ恐れられたゼルファス・クロードは、転生後、平穏に暮らすことだけを望んでいた。
ある日、夜の森で倒れている銀髪の勇者、リアン・アルディナを見つける。かつて自分にとどめを刺した相手だが、今は仲間から見限られ孤独だった。
平穏を乱されたくないゼルファスだったが、森に現れた魔物の襲撃により、仕方なく勇者を連れ帰ることに。
天然でのんびりした勇者と、達観し皮肉屋の魔導士。
「……いや、回復したら帰れよ」「えーっ」
平穏には程遠い、なんかゆるっとした日常のおはなし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる