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王家室から出ると天井の高い廊下に出た。俺が知っている学校とはまるで違う、貴族の館のようだった。
「ルカ様、王子たちとのご歓談を通して学院での暮らしはイメージできましたでしょうか?」
俺の前を歩くイリスさんが話しかけてくる。ネコなのに普通に喋っているが、魔界では動物が喋るのも珍しくないんだろうか。
「あ、いや……あんまり学院について話をする時間がなくて。俺を名前で呼ぼうとかタメ口使おうとか、そういう話だけしました」
至上様の恐怖政治について知らされただけでした、とは言わずに濁す。
「それでは私から簡単にご説明いたします。ここは学生寮の3階で、今いた王家室は王位継承者のみが使える専用ラウンジです。3階は王族専用階となり、4王子のお部屋もこの階にあります。ルカ様は貴族のご身分として転入しておりますが、アクラマで貴族は一般生徒となりますので、2階の一般寮をお使いいただきます」
「貴族が一般人扱いなんてすごいですね。この学校に庶民はいないんですか?」
「一応はいらっしゃいますが、平民だとしても富豪の資産家ばかりです。各国の有力者の子息・息女が集まり平和の象徴と呼ばれる学校とはいえ、誰もが通える器の広さはありません」
重厚な絨毯が敷かれ、足音のしない階段を降りていく。王族専用階は人気がなかったが、2階に着くとちらほらと生徒の姿が見えた。
「1階には食堂があります。食事に料金はかかりませんが、私がいるときはお部屋にてご用意させていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。わざわざありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそご了承いただきありがとうございます」
ネコなので表情はわからないが、イリスさんの声は嬉しそうに聞こえた。俺ではない至上様は話を聞く限り化け物じみているので、こうした会話のやり取りなどなかったのかもしれない。中身が威厳のない俺になって落胆されてもおかしくない中、コミュニケーション上は喜んでもらえていそうでほっとする。
「この寮と向い合せにある、あの建物が校舎です。自主性を重んじる校風なので、クラスや担任という縛る制度はなく、生徒が授業を自由に選択し単位を獲得していく様式です」
「すごい、お城みたいな校舎だ。高校っていうより、大学って感じなんですね」
「コウコウ、ダイガク? ふふ、ルカ様は私の知らないお話をしてくださいますね」
俺が魔界にない単語を口走っても、イリスさんはほほ笑んで終わりにしてくれた。存在しない概念の話はきっと俺にうまくできないので、適当にスルーしてもらえてありがたい。
「到着いたしました。こちらがルカ様のお部屋です」
廊下の突き当りにある部屋にイリスさんが近づくと、扉が勝手に開いた。
「うわ、広い! 俺が住んでた1Kより全然いい……」
中に入ると、広々とした綺麗な部屋が現れた。セミダブルのベッド、テーブルセット、勉強机と本棚があり、キッチンも併設されている。クオリティは全く違うが、寝に帰るだけなのに職場に近い場所を選んだせいで無駄に家賃が高かった1Kを彷彿とさせ、懐かしさを覚えた。
「ルカ様、お気に召しましたか?」
「召しました。一般寮でこのクオリティなのヤバいっすね」
「安心いたしました。それではお食事の準備をしようかと思いますが、その前にシャワーなど浴びられますか?」
(ご飯か、お風呂か……。なんか新婚ネタみたいな選択だな。相手ネコだけど)
ラグドールのイリスさんはもふもふのしっぽを揺らして俺の返事を待っている。
「そしたら、いったんお風呂に入ってきます。朝風呂でいったんスッキリしたいので」
「かしこまりました。青い扉の向こうが浴室でございます」
とりあえずはシャワーを浴びて頭を整理しようと扉を開け、さっそくネクタイを緩める。
魔界に来てから展開についていくのに必死でなんでも受け入れていたが、これから魔法学校で寮生活が始まってしまうというのは、自覚年齢的にも不釣り合いでちょっと恥ずかしい。
(すごいことになってるよな……今日から学生って。魔界を背負う至上様としての生活よりは全然気楽そうだけど)
シャツを脱いでベルトに手をかけたとき、足元をもふもふがかすめた。見ればいつの間に入ってきたのか、ネコイリスさんがこちらを見上げていた。
「ほんとかわいいなぁ。ネコちゃん最高」
これがイリスさんなのはわかっていても、ただの可愛いネコにしか見えないので勝手に口角が上がって目じりが下がった。顎の下を撫でると気持ちよさそうに目を細めたネコちゃんだったが、バキバキと骨が鳴るような音がし始める。
「ん? なんの音──」
──バン!
次の瞬間、ネコが破裂音と共に霧散してイリスさんになった。上裸でしゃがんだ俺を追いつめるように壁に手をつくイリスさんと、とんでもなく至近距離で目が合う。
「うああ!!? イリスさ、ちょっなに!? なんで戻ったんですか!!」
「お身体を洗わせていただこうかと。お手伝いいたします」
「は!? いや、いいですよ! 身体くらい自分で洗えます!!」
「しかし、ルカ様は魔法をお使いになられませんので……大変ではないですか?」
「身体洗うのも着替えも魔法なしで大丈夫です!! 外で、外で待っててください!!」
「さようでございますか……。承知いたしました」
俺の拒否を受けたイリスさんはしゅんとして見えて、胸がチクリと痛む。
「では、お食事を用意してお待ちしております」
しかし胸は痛んでも、一緒にお風呂は無理なので俺は毅然とした態度でイリスさんが出て行くのを見届けた。
「ルカ様、王子たちとのご歓談を通して学院での暮らしはイメージできましたでしょうか?」
俺の前を歩くイリスさんが話しかけてくる。ネコなのに普通に喋っているが、魔界では動物が喋るのも珍しくないんだろうか。
「あ、いや……あんまり学院について話をする時間がなくて。俺を名前で呼ぼうとかタメ口使おうとか、そういう話だけしました」
至上様の恐怖政治について知らされただけでした、とは言わずに濁す。
「それでは私から簡単にご説明いたします。ここは学生寮の3階で、今いた王家室は王位継承者のみが使える専用ラウンジです。3階は王族専用階となり、4王子のお部屋もこの階にあります。ルカ様は貴族のご身分として転入しておりますが、アクラマで貴族は一般生徒となりますので、2階の一般寮をお使いいただきます」
「貴族が一般人扱いなんてすごいですね。この学校に庶民はいないんですか?」
「一応はいらっしゃいますが、平民だとしても富豪の資産家ばかりです。各国の有力者の子息・息女が集まり平和の象徴と呼ばれる学校とはいえ、誰もが通える器の広さはありません」
重厚な絨毯が敷かれ、足音のしない階段を降りていく。王族専用階は人気がなかったが、2階に着くとちらほらと生徒の姿が見えた。
「1階には食堂があります。食事に料金はかかりませんが、私がいるときはお部屋にてご用意させていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。わざわざありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそご了承いただきありがとうございます」
ネコなので表情はわからないが、イリスさんの声は嬉しそうに聞こえた。俺ではない至上様は話を聞く限り化け物じみているので、こうした会話のやり取りなどなかったのかもしれない。中身が威厳のない俺になって落胆されてもおかしくない中、コミュニケーション上は喜んでもらえていそうでほっとする。
「この寮と向い合せにある、あの建物が校舎です。自主性を重んじる校風なので、クラスや担任という縛る制度はなく、生徒が授業を自由に選択し単位を獲得していく様式です」
「すごい、お城みたいな校舎だ。高校っていうより、大学って感じなんですね」
「コウコウ、ダイガク? ふふ、ルカ様は私の知らないお話をしてくださいますね」
俺が魔界にない単語を口走っても、イリスさんはほほ笑んで終わりにしてくれた。存在しない概念の話はきっと俺にうまくできないので、適当にスルーしてもらえてありがたい。
「到着いたしました。こちらがルカ様のお部屋です」
廊下の突き当りにある部屋にイリスさんが近づくと、扉が勝手に開いた。
「うわ、広い! 俺が住んでた1Kより全然いい……」
中に入ると、広々とした綺麗な部屋が現れた。セミダブルのベッド、テーブルセット、勉強机と本棚があり、キッチンも併設されている。クオリティは全く違うが、寝に帰るだけなのに職場に近い場所を選んだせいで無駄に家賃が高かった1Kを彷彿とさせ、懐かしさを覚えた。
「ルカ様、お気に召しましたか?」
「召しました。一般寮でこのクオリティなのヤバいっすね」
「安心いたしました。それではお食事の準備をしようかと思いますが、その前にシャワーなど浴びられますか?」
(ご飯か、お風呂か……。なんか新婚ネタみたいな選択だな。相手ネコだけど)
ラグドールのイリスさんはもふもふのしっぽを揺らして俺の返事を待っている。
「そしたら、いったんお風呂に入ってきます。朝風呂でいったんスッキリしたいので」
「かしこまりました。青い扉の向こうが浴室でございます」
とりあえずはシャワーを浴びて頭を整理しようと扉を開け、さっそくネクタイを緩める。
魔界に来てから展開についていくのに必死でなんでも受け入れていたが、これから魔法学校で寮生活が始まってしまうというのは、自覚年齢的にも不釣り合いでちょっと恥ずかしい。
(すごいことになってるよな……今日から学生って。魔界を背負う至上様としての生活よりは全然気楽そうだけど)
シャツを脱いでベルトに手をかけたとき、足元をもふもふがかすめた。見ればいつの間に入ってきたのか、ネコイリスさんがこちらを見上げていた。
「ほんとかわいいなぁ。ネコちゃん最高」
これがイリスさんなのはわかっていても、ただの可愛いネコにしか見えないので勝手に口角が上がって目じりが下がった。顎の下を撫でると気持ちよさそうに目を細めたネコちゃんだったが、バキバキと骨が鳴るような音がし始める。
「ん? なんの音──」
──バン!
次の瞬間、ネコが破裂音と共に霧散してイリスさんになった。上裸でしゃがんだ俺を追いつめるように壁に手をつくイリスさんと、とんでもなく至近距離で目が合う。
「うああ!!? イリスさ、ちょっなに!? なんで戻ったんですか!!」
「お身体を洗わせていただこうかと。お手伝いいたします」
「は!? いや、いいですよ! 身体くらい自分で洗えます!!」
「しかし、ルカ様は魔法をお使いになられませんので……大変ではないですか?」
「身体洗うのも着替えも魔法なしで大丈夫です!! 外で、外で待っててください!!」
「さようでございますか……。承知いたしました」
俺の拒否を受けたイリスさんはしゅんとして見えて、胸がチクリと痛む。
「では、お食事を用意してお待ちしております」
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