魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ

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 ダン王子が俺に炎の剣を向けた時のことが思い返される。絶対死の発動がないのはおかしいとか言っていたのはこのことか。

「この絶対死によって、魔界の平和は保たれている。しかし、ここまでの支配力があっても、一方的な支配構造を嫌い反逆しようとする者はいる。至上様による惨殺の歴史を知ってもなおだ」
「平和的独裁が続いているとはいえ、魔界は野望のある愚か者が多いからねえ」
「至上様は死んでも翌日に蘇る。殺害は無駄だ。だから至上様を無力化したいやつらは封印という形を取ろうとする。狙い目は死んで蘇るまでの間だ。しかし、死と同時に至上宮には防御魔法と護衛が常軌を逸した量投入され、それを突破するのは至難の業。今回も反乱はなしに蘇った。それが貴様だ」

 ダン王子が俺を指差す。

「そしてその難所を乗り越えてなお1番の問題は、貴様が封印で無力化するまでもなく無力だということだ。魔法を使えない至上様など、魔界の均衡を破壊する危険因子にしかならない。至上様の存在は仮初の平和を保つには必須だ。今のままでは遅かれ早かれ貴様は反逆者に封印され、混乱と戦争によって死人が大勢出る。貴様が魔法を使えないことの重大性が少しはわかったか」
「……俺に責任がありすぎる、というのは十分わかりました」

(この4人から結婚相手選ぶとか意味不明、なんて思っていたころは平和だった。もう結婚なんかより俺の立場が重すぎる方が大問題だ……)

「一案なんだけど、ルカさんに1回死んでもらうのはどうかな。蘇ったら元の至上様に戻る可能性もあると思う」

 俺が肩を落としていると、4王子の中で最も心優しいであろうラルフ王子が、なんとも恐ろしい一案を平然と発言した。

「一理ある。今のこいつが居続けるよりマシだろう」
「うそ、俺殺されるのもしかして」
「でも、今回の蘇りでルカくんっていう人格が出ちゃったんだよ? 次何が起こるか未知数すぎるんじゃないかな」
「至上様の力が何かのタイミングで現れたら、殺害を企てた関係者は絶対死を免れない。我々4王子が絡んだ場合、4大国すべての人命が犠牲になりうる。その大惨事の可能性がある以上、迂闊な行動はとるべきではありません」

 最も重い危険性をマーティアス王子が淡々と言い、ラルフ王子は「そっか……」と黙ってしまった。俺は死を回避できたことはさておき、まだ見ぬ俺の力が甚大すぎて両手を見つめた。王家室に沈黙が流れて数秒、重い空気が気まずくなったところで俺の横に白い人影──イリスさんが現れた。

「ただいま戻りました。無事本日よりルカ様の転入が決まりましたので、寮のお部屋へとご案内いたします」
「も、もう学校生活始まるんですか!?」
「はい。必需品は私の方ですべて手配済ですので、ご安心を」
「とんでもないスピードだ……」

 イリスさんの前で至上様の話を続ける気はないらしく、王子たちは皆俺たちの様子を見ているだけだった。

「皆様、此度の件についてはくれぐれも他言なさらぬように重ね重ねお願い申し上げます。ルカ様も混乱が多いと存じますが、我々にとっても前例のない状況です。どうかご協力ください」
「はい。なんだかわからないことばかりですけど、頑張ります……」
「あとで部屋教えてね。ルカくんに会いに行くから」
「王子が一般寮に行くのは悪目立ちがすぎるので、クシェルは無視していいですよ」
「ルカさん。わからないことがあったら何でも聞いてください」

 クシェル王子、マーティアス王子、ラルフ王子は言葉をかけてくれたが、ダン王子はもう興味なさそうに紅茶を飲んで黙っている。

(こいつはいつまで感じ悪いんだ)

「では、お部屋に参りましょう。私は至上様の側近として一部に顔が割れていますので、学院内では変装させていただきます」

 生徒のふりでもするのかなとイリスさんを眺めると、目を閉じた彼が一瞬光った気がした。

 ──ポムッ!

 可愛い音がして、目を瞬くとイリスさんが立っていたところにふわふわ真っ白のネコがいた。

「ネ、ネコちゃんだ!?!」

 どうでもいい話だが俺はネコが大好きだ。昔実家でこのイリスさんのようなネコ、ラグドールを飼っていたことがある。触りたくて勝手に身体がしゃがみ、魔界に来て初めて俺の口角が上がっていた。

「変身魔法まで扱えるとは……。会得した者はほとんどいないと言われている最高難度の魔法ですが、イリス殿は規格外ですね」
「しかも変身魔法って1回やったら数年戻れない捨て身の魔法じゃなかった?」
「私は自在に戻れますので、ご心配には及びません」
「……至上様のみならず、側近も異常だな」
「ルカさんに力が戻るまでは、魔界で1番強いのイリス様かも」

 4王子の反応とネコのイリスさんが普通に人語を喋っているのが聞こえていても、俺の耳はスルーした。目の前のネコは魔界で唯一の癒しとして光り輝いている。

「イリスさん、さわ、触ってもいいですかっ」
「え、ええ。構いませんが──」

 若干引いているイリスさんの言葉途中で、俺は我慢できずに頭を撫で始めていた。

(い、癒される~……! 最高……!)

 毛並みはふわふわで触り心地抜群だ。顔はイリスさんと似てとても美しく、写真集を何冊でも出版できそうだ。俺が遠慮なく撫でくり回していると、興味を持ったのかラルフ王子とクシェル王子が近づいてきた。

「イリス様、僕も触っていいですか」
「ええ、どうぞ。皆様ネコがお好きなんですね……」
「うわ~! ふわふわ! 気持ちいい~。マーティアスくんとダンも触ったら?すごいよ」
「俺は遠慮します。毛がつくので」
「くだらん。用が済んだならさっさと行け」

 ノリの悪いマーティアス王子は本を読み始め、ダン王子は眉を寄せて魔法でドアを開けて顎でしゃくった。

「ネコの可愛さをわからないやつらがいるとは……」
「落ち着いてください。そろそろ参りましょう、ルカ様」

 俺がソファ席から動かない2王子を睨むと、ネコちゃん──いやイリスさんが肉球を俺の手に添えて言った。

「じゃ、またね。ルカくん」
「授業一緒になったら、よろしくです」
「はい、よろしくお願いします」

 声をかけてくれるネコ派のクシェル王子とラルフ王子にだけ頭を下げて、俺はしっぽをピンと立てて開いたドアを通るイリスさんを追いかけた。
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