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「いたた……! 体術きっつい……」
授業を終えて他は全部サボると言ったディタと別れた俺は、次の教室へと向かっていた。もっと体育みたいなものかと思っていたのに、アクション映画でしか見たことのない戦闘訓練ばかりで俺の身体は悲鳴をあげている。
(ディタ強かったなぁ。1回も攻撃当てられなかった)
それどころか、ディタは俺に攻撃を当てまくれるだろうに全部寸止めでやめてくれていて、実力差は雲泥だった。俺の身体が痛いのは、攻撃をするにも避けるにも転んでばかりだったせいである。
(至上様って体術もできんのかな……。そこのセンスくらい継承させてくれよ)
「なぁ、キミがルカ・サトーくん?」
突然呼ばれて足を止めると、目の前にグレーの髪をした男子生徒が立っていた。笑顔を浮かべているが、ズボンに手を突っ込んで立つ姿は優等生には見えない。
「……そうですけど。何か用ですか」
「俺はロット国のユーリ・ガルス。ま、よろしゅうね。実はな、弱小国家出身の魔法できん雑魚貴族が、ダン様に取り入ってるって聞いたんやけど。キミやろ?」
ニコニコというよりニヤニヤという笑みをして、ユーリと名乗った男は流れるように俺を馬鹿にしてくる。
(なんだこいつ……。変な関西弁みたいな訛りだし……)
今まで俺にヘイトを向けてきた生徒とは一線を画す濃さがあった。ついさっきの授業でディタに「面と向かっては攻撃されなくなった」と報告したのに、もう面と向かって攻撃されていて悲しくなる。
「ダン王子に取り入ってるなんて誤解です。別に何もしてません」
「ウソはあかんな。ダン様の部屋から朝出てくるって噂なってんで。随分たらし込んどるみたいやん」
「! いや、それは、深い意味はなくて……!」
(バレてんのかよ……! 最悪……!)
部屋に行くときも出て行くときも、俺なりに細心の注意を払っているつもりだった。王族専用階の中でも4王子の部屋は別格で人通りのないエリアにあり、廊下に誰もいない時を見計って移動していたのだ。
(それでもバレてるってことは、面と向かって攻撃されなくなってただけで影では目の敵にされ続けてたんだな……)
「ダン様と寝ておきながら、ディタにも色目使っとんのは俺も友人として見過ごせん。王族フェチなん? 節操のない」
ユーリは顎を上げて、やれやれと俺を見下ろした。
(こいつディタと友達なのかよ)
そこでふと学院に来た初日、ディタと別れた直後にディタに肩を組んできていた男のことを思い出した。こいつだったかは定かではないが、ああいうディタと仲良くしている一員──というかボス枠なのだろう。ユーリの周囲を見れば、取り巻きのような男女が続々と増えている。
「ユーリ! そいつムカつくからやっちゃってよ」
「ダン様に生意気な口聞きやがって。身の程を知れ」
どんどん集まる野次馬の生徒たちからどんどん野次が飛ぶ。
「外野も盛り上がっとるし殴り合いでもしよか? 俺が勝ったら、今日にでも学院辞めて国帰ってや」
「は? なんだよその条件。おかしいだろ……!」
「聞こえんなぁ。決まりや。キミの意見なんてどうでもええねん。特別に魔法はなしにしたる」
「俺は喧嘩なんかする気ないって言ってんだけど!?」
「往生際の悪いやつやな。男なら覚悟決めんか──……チッ」
俺を殴ろうと重心を低くしたユーリが、俺の後ろを見て舌打ちをした。「空気読めや」と構えを戻すユーリを警戒しながら振り返ると、野次馬がモーセの十戒のように割れ、その中心にダン王子が立っている。
「げっ。ダン王子」
「少し目を離しただけでこれか。世話の焼ける」
ダン王子はやれやれとため息を吐いて、俺に近づいてくる。助けてくれるのかと思った矢先、顎を掴まれた。
(え?)
何をされたのか一瞬わからなかった。唇に柔らかいものが当たって離れる。
キスだった。公衆の面前で、キスされていた。
直後、地響きのような悲鳴が沸き上がった。無論、喜びの悲鳴ではなく絶望的な悲鳴だ。
「こいつは俺と交際している。今後手を出したものは俺の顔に泥を塗ったことになると覚えておけ」
「はぁ!? ちょ、なに言って──」
「行くぞ」
「!? うわっ……!」
悲鳴を意にも介さないダン王子に腰を抱かれて、俺の身体は宙に浮いた。すぐに屋根を越える高さになり、身体が風を切るスピードで飛んでいく。
(落ちたら死ぬ……!!)
その恐怖のせいで俺は、下にいる生徒たちの視線を気にする余裕もなくダン王子の腰に抱きついていた。
「は~、クソだるいわ……」
騒ぎの収まらない野次馬の中で飛んでいく2人を見上げたユーリは、ダンを睨んで呟いた。
授業を終えて他は全部サボると言ったディタと別れた俺は、次の教室へと向かっていた。もっと体育みたいなものかと思っていたのに、アクション映画でしか見たことのない戦闘訓練ばかりで俺の身体は悲鳴をあげている。
(ディタ強かったなぁ。1回も攻撃当てられなかった)
それどころか、ディタは俺に攻撃を当てまくれるだろうに全部寸止めでやめてくれていて、実力差は雲泥だった。俺の身体が痛いのは、攻撃をするにも避けるにも転んでばかりだったせいである。
(至上様って体術もできんのかな……。そこのセンスくらい継承させてくれよ)
「なぁ、キミがルカ・サトーくん?」
突然呼ばれて足を止めると、目の前にグレーの髪をした男子生徒が立っていた。笑顔を浮かべているが、ズボンに手を突っ込んで立つ姿は優等生には見えない。
「……そうですけど。何か用ですか」
「俺はロット国のユーリ・ガルス。ま、よろしゅうね。実はな、弱小国家出身の魔法できん雑魚貴族が、ダン様に取り入ってるって聞いたんやけど。キミやろ?」
ニコニコというよりニヤニヤという笑みをして、ユーリと名乗った男は流れるように俺を馬鹿にしてくる。
(なんだこいつ……。変な関西弁みたいな訛りだし……)
今まで俺にヘイトを向けてきた生徒とは一線を画す濃さがあった。ついさっきの授業でディタに「面と向かっては攻撃されなくなった」と報告したのに、もう面と向かって攻撃されていて悲しくなる。
「ダン王子に取り入ってるなんて誤解です。別に何もしてません」
「ウソはあかんな。ダン様の部屋から朝出てくるって噂なってんで。随分たらし込んどるみたいやん」
「! いや、それは、深い意味はなくて……!」
(バレてんのかよ……! 最悪……!)
部屋に行くときも出て行くときも、俺なりに細心の注意を払っているつもりだった。王族専用階の中でも4王子の部屋は別格で人通りのないエリアにあり、廊下に誰もいない時を見計って移動していたのだ。
(それでもバレてるってことは、面と向かって攻撃されなくなってただけで影では目の敵にされ続けてたんだな……)
「ダン様と寝ておきながら、ディタにも色目使っとんのは俺も友人として見過ごせん。王族フェチなん? 節操のない」
ユーリは顎を上げて、やれやれと俺を見下ろした。
(こいつディタと友達なのかよ)
そこでふと学院に来た初日、ディタと別れた直後にディタに肩を組んできていた男のことを思い出した。こいつだったかは定かではないが、ああいうディタと仲良くしている一員──というかボス枠なのだろう。ユーリの周囲を見れば、取り巻きのような男女が続々と増えている。
「ユーリ! そいつムカつくからやっちゃってよ」
「ダン様に生意気な口聞きやがって。身の程を知れ」
どんどん集まる野次馬の生徒たちからどんどん野次が飛ぶ。
「外野も盛り上がっとるし殴り合いでもしよか? 俺が勝ったら、今日にでも学院辞めて国帰ってや」
「は? なんだよその条件。おかしいだろ……!」
「聞こえんなぁ。決まりや。キミの意見なんてどうでもええねん。特別に魔法はなしにしたる」
「俺は喧嘩なんかする気ないって言ってんだけど!?」
「往生際の悪いやつやな。男なら覚悟決めんか──……チッ」
俺を殴ろうと重心を低くしたユーリが、俺の後ろを見て舌打ちをした。「空気読めや」と構えを戻すユーリを警戒しながら振り返ると、野次馬がモーセの十戒のように割れ、その中心にダン王子が立っている。
「げっ。ダン王子」
「少し目を離しただけでこれか。世話の焼ける」
ダン王子はやれやれとため息を吐いて、俺に近づいてくる。助けてくれるのかと思った矢先、顎を掴まれた。
(え?)
何をされたのか一瞬わからなかった。唇に柔らかいものが当たって離れる。
キスだった。公衆の面前で、キスされていた。
直後、地響きのような悲鳴が沸き上がった。無論、喜びの悲鳴ではなく絶望的な悲鳴だ。
「こいつは俺と交際している。今後手を出したものは俺の顔に泥を塗ったことになると覚えておけ」
「はぁ!? ちょ、なに言って──」
「行くぞ」
「!? うわっ……!」
悲鳴を意にも介さないダン王子に腰を抱かれて、俺の身体は宙に浮いた。すぐに屋根を越える高さになり、身体が風を切るスピードで飛んでいく。
(落ちたら死ぬ……!!)
その恐怖のせいで俺は、下にいる生徒たちの視線を気にする余裕もなくダン王子の腰に抱きついていた。
「は~、クソだるいわ……」
騒ぎの収まらない野次馬の中で飛んでいく2人を見上げたユーリは、ダンを睨んで呟いた。
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