魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ

文字の大きさ
42 / 69

40

しおりを挟む
 ディタの部屋は王族専用階の1番目立たない隅にあった。王子たちの部屋と比べれば装飾は少なく、天蓋に覆われたベッドがあるだけの殺風景な部屋だ。
 薄暗い部屋を進んで天蓋のカーテンを開けると、ベッドに横たわった友人がいる。

「ディタ……」

 呼びかけても反応はない。舞踏会の事件から日の経った今日でも、ディタの意識は戻らないままだった。頭の怪我は問題なく治療され命に別状はないということで自室に戻されているが、ディタが目を開けることはなかった。
 窓から月明かりが差し込むのを見て、俺はディタに話しかける。

「……一緒に泉を探しに行くって約束、覚えてる? もし、ディタが起きるより先に新月が来たら、俺1人で行っちゃうからな。水はディタの分も持って帰ってきてあげるよ」

 医師の話によれば、頭を強く打っており意識が戻るかはわからない状態ということだった。来月の新月までに目が覚める可能性は限りなく低い。

(命が助かっただけ良かった、けど……)

「ルカくん、やっぱここにいたか」

 カーテンの開く音に振り返ると、クシェル王子が立っていた。いつも飄々としている彼も、表情の隙間に疲れが見える。舞踏会の一件で王子たちは繁忙を極めていて、寮ですれ違うくらいしか交流できなくなっていた。

「クシェル王子もディタのお見舞いですか」
「それはまた後日ちゃんとするよ。今はルカくんを呼びに来たんだ。みんな大方落ち着いたから、王家室に集まろうってことになってさ」

 クシェル王子はディタを見て少し感情をなくしたが、すぐに「行こう」と俺に笑顔を向ける。
 彼の笑顔の向こうには月が見えて、新月のことが気になった。思えば魔界はずっと満月で、三日月になっているのも見たことがない。地球では毎月ある新月も、魔界では違うはずだ。

「……あの、来月は新月の日があるって聞いたんですけど、その次の新月がいつか知ってますか?」
「あ~新月か。えーっと、確か3年に1回だから次は3年後だね」

 3年後。その頃には俺は誰かと結婚して至上宮にいるだろう。

(それか俺に力が戻らなくて、魔界が大変なことになってるか)

「新月がどうかしたの?」
「いや……。なんでもないです。王家室、行きましょうか」

 俺が曖昧に誤魔化すと、クシェル王子はそれ以上何も聞いて来なかった。いつの日か、俺の部屋に押し入ってきて騒ぎあったとは思えない湿った空気を感じながら、俺たちはディタに別れを告げて歩き出した。








++
「はい、注目! ルカくんのご到着だよ」
「お久しぶりです、みなさん」

 王家室に入ると、ソファに座った3王子がこちらを見た。皆それぞれ、覇気のない顔をして書類の積み重なったテーブルを囲んでいる。
 ダン王子が持っていた書類を投げ置いて、「あとは側近か」と腕を組んだ。

(イリスさん、仕事終わらないんだろうな。本当に忙しそうだったから……)

 魔王のいない期間は、イリスさんが実質至上宮のトップだ。舞踏会の件について各国から報告を受け、対応策の構築と調査を取りまとめていると聞いた。時折俺の世話をしに部屋に来てくれていたが、それが申し訳なくなるほどには仕事に追われていた。これでさらに至上様が影武者だと勘付かれないようにしなくてはならないのだから、激務に決まっている。

「この集まりの発案者はイリス殿です。来るはずですが──」
「遅れて誠に申し訳ございません。早速ですが、こちら一連の報告書でございます」

 マーティアス王子が言いかけた時、イリスさんが転位で現れた。謝罪もそこそこに、すぐに手にしていた書面を俺たちに飛ばし、中央に立つ。

「皆様それぞれ事情を把握されているでしょうが、粒度を合わせるため、そしてルカ様へのご共有のために今回の件について改めて整理できればと存じます。半月前、アクラマ魔導学院・大ホールにて舞踏会開催中に、突如人々が行動不能となる現象が発生。続いてホール天井に設置されていたシャンデリア計4つがすべて崩落し、それの下敷きになった者、破片が突き刺さった者など多くの負傷者が出ました。その後行動不能状態が解除され、人々が一斉に動き出した結果、衝突による更なる負傷者が出て、全体で約70名が医師の治療を必要としました」

 イリスさんが配った報告書には怪我の程度や対応にかかった費用などが事細かにまとめられていた。ページの下部に『死者:0』の記載を見つけて、肩の緊張が解ける。

「アクラマは怪我人の対応で大変だったにせよ、死人が出なかったことが救いだね。……ディタはいまだに目が覚めないけど」
「……」

 クシェル王子の言葉に、ダン王子は黙って報告書を読み続けるだけだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

処理中です...