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ディタの部屋は王族専用階の1番目立たない隅にあった。王子たちの部屋と比べれば装飾は少なく、天蓋に覆われたベッドがあるだけの殺風景な部屋だ。
薄暗い部屋を進んで天蓋のカーテンを開けると、ベッドに横たわった友人がいる。
「ディタ……」
呼びかけても反応はない。舞踏会の事件から日の経った今日でも、ディタの意識は戻らないままだった。頭の怪我は問題なく治療され命に別状はないということで自室に戻されているが、ディタが目を開けることはなかった。
窓から月明かりが差し込むのを見て、俺はディタに話しかける。
「……一緒に泉を探しに行くって約束、覚えてる? もし、ディタが起きるより先に新月が来たら、俺1人で行っちゃうからな。水はディタの分も持って帰ってきてあげるよ」
医師の話によれば、頭を強く打っており意識が戻るかはわからない状態ということだった。来月の新月までに目が覚める可能性は限りなく低い。
(命が助かっただけ良かった、けど……)
「ルカくん、やっぱここにいたか」
カーテンの開く音に振り返ると、クシェル王子が立っていた。いつも飄々としている彼も、表情の隙間に疲れが見える。舞踏会の一件で王子たちは繁忙を極めていて、寮ですれ違うくらいしか交流できなくなっていた。
「クシェル王子もディタのお見舞いですか」
「それはまた後日ちゃんとするよ。今はルカくんを呼びに来たんだ。みんな大方落ち着いたから、王家室に集まろうってことになってさ」
クシェル王子はディタを見て少し感情をなくしたが、すぐに「行こう」と俺に笑顔を向ける。
彼の笑顔の向こうには月が見えて、新月のことが気になった。思えば魔界はずっと満月で、三日月になっているのも見たことがない。地球では毎月ある新月も、魔界では違うはずだ。
「……あの、来月は新月の日があるって聞いたんですけど、その次の新月がいつか知ってますか?」
「あ~新月か。えーっと、確か3年に1回だから次は3年後だね」
3年後。その頃には俺は誰かと結婚して至上宮にいるだろう。
(それか俺に力が戻らなくて、魔界が大変なことになってるか)
「新月がどうかしたの?」
「いや……。なんでもないです。王家室、行きましょうか」
俺が曖昧に誤魔化すと、クシェル王子はそれ以上何も聞いて来なかった。いつの日か、俺の部屋に押し入ってきて騒ぎあったとは思えない湿った空気を感じながら、俺たちはディタに別れを告げて歩き出した。
++
「はい、注目! ルカくんのご到着だよ」
「お久しぶりです、みなさん」
王家室に入ると、ソファに座った3王子がこちらを見た。皆それぞれ、覇気のない顔をして書類の積み重なったテーブルを囲んでいる。
ダン王子が持っていた書類を投げ置いて、「あとは側近か」と腕を組んだ。
(イリスさん、仕事終わらないんだろうな。本当に忙しそうだったから……)
魔王のいない期間は、イリスさんが実質至上宮のトップだ。舞踏会の件について各国から報告を受け、対応策の構築と調査を取りまとめていると聞いた。時折俺の世話をしに部屋に来てくれていたが、それが申し訳なくなるほどには仕事に追われていた。これでさらに至上様が影武者だと勘付かれないようにしなくてはならないのだから、激務に決まっている。
「この集まりの発案者はイリス殿です。来るはずですが──」
「遅れて誠に申し訳ございません。早速ですが、こちら一連の報告書でございます」
マーティアス王子が言いかけた時、イリスさんが転位で現れた。謝罪もそこそこに、すぐに手にしていた書面を俺たちに飛ばし、中央に立つ。
「皆様それぞれ事情を把握されているでしょうが、粒度を合わせるため、そしてルカ様へのご共有のために今回の件について改めて整理できればと存じます。半月前、アクラマ魔導学院・大ホールにて舞踏会開催中に、突如人々が行動不能となる現象が発生。続いてホール天井に設置されていたシャンデリア計4つがすべて崩落し、それの下敷きになった者、破片が突き刺さった者など多くの負傷者が出ました。その後行動不能状態が解除され、人々が一斉に動き出した結果、衝突による更なる負傷者が出て、全体で約70名が医師の治療を必要としました」
イリスさんが配った報告書には怪我の程度や対応にかかった費用などが事細かにまとめられていた。ページの下部に『死者:0』の記載を見つけて、肩の緊張が解ける。
「アクラマは怪我人の対応で大変だったにせよ、死人が出なかったことが救いだね。……ディタはいまだに目が覚めないけど」
「……」
クシェル王子の言葉に、ダン王子は黙って報告書を読み続けるだけだった。
薄暗い部屋を進んで天蓋のカーテンを開けると、ベッドに横たわった友人がいる。
「ディタ……」
呼びかけても反応はない。舞踏会の事件から日の経った今日でも、ディタの意識は戻らないままだった。頭の怪我は問題なく治療され命に別状はないということで自室に戻されているが、ディタが目を開けることはなかった。
窓から月明かりが差し込むのを見て、俺はディタに話しかける。
「……一緒に泉を探しに行くって約束、覚えてる? もし、ディタが起きるより先に新月が来たら、俺1人で行っちゃうからな。水はディタの分も持って帰ってきてあげるよ」
医師の話によれば、頭を強く打っており意識が戻るかはわからない状態ということだった。来月の新月までに目が覚める可能性は限りなく低い。
(命が助かっただけ良かった、けど……)
「ルカくん、やっぱここにいたか」
カーテンの開く音に振り返ると、クシェル王子が立っていた。いつも飄々としている彼も、表情の隙間に疲れが見える。舞踏会の一件で王子たちは繁忙を極めていて、寮ですれ違うくらいしか交流できなくなっていた。
「クシェル王子もディタのお見舞いですか」
「それはまた後日ちゃんとするよ。今はルカくんを呼びに来たんだ。みんな大方落ち着いたから、王家室に集まろうってことになってさ」
クシェル王子はディタを見て少し感情をなくしたが、すぐに「行こう」と俺に笑顔を向ける。
彼の笑顔の向こうには月が見えて、新月のことが気になった。思えば魔界はずっと満月で、三日月になっているのも見たことがない。地球では毎月ある新月も、魔界では違うはずだ。
「……あの、来月は新月の日があるって聞いたんですけど、その次の新月がいつか知ってますか?」
「あ~新月か。えーっと、確か3年に1回だから次は3年後だね」
3年後。その頃には俺は誰かと結婚して至上宮にいるだろう。
(それか俺に力が戻らなくて、魔界が大変なことになってるか)
「新月がどうかしたの?」
「いや……。なんでもないです。王家室、行きましょうか」
俺が曖昧に誤魔化すと、クシェル王子はそれ以上何も聞いて来なかった。いつの日か、俺の部屋に押し入ってきて騒ぎあったとは思えない湿った空気を感じながら、俺たちはディタに別れを告げて歩き出した。
++
「はい、注目! ルカくんのご到着だよ」
「お久しぶりです、みなさん」
王家室に入ると、ソファに座った3王子がこちらを見た。皆それぞれ、覇気のない顔をして書類の積み重なったテーブルを囲んでいる。
ダン王子が持っていた書類を投げ置いて、「あとは側近か」と腕を組んだ。
(イリスさん、仕事終わらないんだろうな。本当に忙しそうだったから……)
魔王のいない期間は、イリスさんが実質至上宮のトップだ。舞踏会の件について各国から報告を受け、対応策の構築と調査を取りまとめていると聞いた。時折俺の世話をしに部屋に来てくれていたが、それが申し訳なくなるほどには仕事に追われていた。これでさらに至上様が影武者だと勘付かれないようにしなくてはならないのだから、激務に決まっている。
「この集まりの発案者はイリス殿です。来るはずですが──」
「遅れて誠に申し訳ございません。早速ですが、こちら一連の報告書でございます」
マーティアス王子が言いかけた時、イリスさんが転位で現れた。謝罪もそこそこに、すぐに手にしていた書面を俺たちに飛ばし、中央に立つ。
「皆様それぞれ事情を把握されているでしょうが、粒度を合わせるため、そしてルカ様へのご共有のために今回の件について改めて整理できればと存じます。半月前、アクラマ魔導学院・大ホールにて舞踏会開催中に、突如人々が行動不能となる現象が発生。続いてホール天井に設置されていたシャンデリア計4つがすべて崩落し、それの下敷きになった者、破片が突き刺さった者など多くの負傷者が出ました。その後行動不能状態が解除され、人々が一斉に動き出した結果、衝突による更なる負傷者が出て、全体で約70名が医師の治療を必要としました」
イリスさんが配った報告書には怪我の程度や対応にかかった費用などが事細かにまとめられていた。ページの下部に『死者:0』の記載を見つけて、肩の緊張が解ける。
「アクラマは怪我人の対応で大変だったにせよ、死人が出なかったことが救いだね。……ディタはいまだに目が覚めないけど」
「……」
クシェル王子の言葉に、ダン王子は黙って報告書を読み続けるだけだった。
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