魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ

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 ダンの献身により、絶縁枷が消滅。続いてその場にいた複数人が、立ち上がる佐藤流嘉を視認。
 しかし、その者はもはや佐藤流嘉ではなかった。誰も触れたことのない異様な魔力に、誰もが気づいていた。実力者ほど気圧される、息をするのも憚れる空気が満ち、ディタもユーリも動けなかった。

「っ、オイ、やれ! 足止めを──え?」

 ──ドシュッ!

 力量を測れない雑兵が動いた瞬間、彼の口から上は吹っ飛んでいた。彼だけではない、周囲にいた兵士十数名も合わせて顔が飛んでいた。その間、佐藤流嘉は瞬きひとつせず立っているだけだった。一連の現象は佐藤流嘉が何者だったのか、全員に思い出させ吐き気を与えた。

 至上様、顕現。

 魔界の掌握者は悠然と周囲を見渡し、血濡れの相貌がことの首謀者を捉える。見られたディタは、全身が大きく震え本能的に抜いた剣を落とした。その金属音を契機に、ディタとユーリはやっと呼吸を思い出した。

「ッ、おいディタ、どうする!? アイツ、力が……!」
「落ち着け! ……至上と相まみえるチャンスなんて、今しかない。もうひとつの絶縁枷を使う……!」

 震える手を握り締め、ディタは懐の枷を掴む。
 佐藤流嘉に使用された絶縁枷は試作品だった。ロット国の村民500人程度の犠牲で作られた中級品だ。ディタが切り札として残していたもうひとつの絶縁枷は、国が秘匿していた戦争遺物。数千人の犠牲を与えられた一級品だった。支給された呪具の中で最も強力、つまりは使用者への負担が甚大ではない道具だった。これを使えば良くて卒倒、悪くて即死だ。
 雑兵かユーリに使わせればいいという考えも一瞬過ったが、呪具は使用者の生命力の強さによって効果が左右される。そして生命力の質には覆らない完璧な序列があった。血筋だ。王の直系が最も強く、庶民ほど弱い。一級品など雑魚が扱えば、使う前に死ぬ。皮肉なことに、ディタは呪具の使用で初めて王家に生まれた恩恵を受けていた。

「ユーリ! 至上の気を引け!」
「はぁ!? んなこと言われても──」
「なんでもいい! やれ!!」

 とにかく、何もしなくても死ぬしかない状況なのだから、絶縁枷を使うしかなかった。

「クソ! おい雑兵ども! 至上に攻撃せえや!」

 ユーリにたきつけられて、動けなくなっていた兵士たちは弾かれた様に攻撃を放った。しかしどの魔法も至上の結界に弾かれかすりもせず、代わりに攻撃をした兵士は天から降ってきた氷柱に次々と貫かれていく。何をどうすればこの化け物に隙ができるのかディタにはわからなかったが、自棄で身体を動かした。
 目を逸らさないまま静観していた至上が、すっとディタを指差す。

「あ、っ!?」

 絶縁枷を持った手が弾け飛んだ。続けて絶縁枷は一瞬で至上の手元へと移動し、至上は手にした枷をその辺の雑兵に当てた。何が起きたのか理解もできずに封印された兵士が、その場に倒れる。
 1秒も経たない間に、手は落とされ切り札は使用済みになった。
 圧倒的。為す術がない。痛みより先に、激しい絶望がディタを襲った。
 異常を認識した兵士たちが逃げようと散り始めるが、呪具の結界により出て行くことは叶わない。その騒ぎは至上のお気に召さなかったようで、結界を壊そうとした兵士たちは周囲の空気でも奪われたのか、もがき苦しんで静かになっていった。

「イリス」

 悠々と歩いた至上は、横たわる肉体に呼びかける。
 側近はどう見ても死んでいた。瞳孔の開いた目は乾き、喉元には深々とユーリの剣が突き刺さっていた。

「“起きろ”」

 至上は剣を引き抜き、イリスの頭に手をかざして言う。
 イリスは至上に力を与えられた者だとされているが、事実は多少異なる。既存の人に力を分け与えたのではなく、至上が魔力で一から生み出した魔物──それがイリスだった。生きた盾となるべくして生まれた、至上の魔力さえあれば修復される肉体を持つ、人ならざる者。
 暗かった目に生気が戻り、イリスの身体が起き上がった。

「っ、ウソやろ、生き返んのか……!!」
「クソッ、どうなってる……っ」

 ディタは先のなくなった手首を押さえながら、奥歯を噛んだ。至上の封印はもう無理な上、側近まで蘇るなど形勢逆転どころの話ではない。なんの策も思いつかぬまま、ただ至上とイリスを見るしかなかった。

「ル、ルカ様……なのですか」
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