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休日

11話 花の痕とふぐり

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「さて、私の願いをかなえてくださった花雫にご褒美を差し上げましょう。綾目、猫に化けておやりなさい」

「はい!」

ポン、と音がして綾目がミルちゃんの姿になった。も…もふもふだああああ!!!
私は即座にミルちゃんを抱きかかえておなかに顔をうずめた。あったかい!!いい匂いする!!ねこの汗のにおいがするぅぅぅぅ!!!

「ミルちゃああああああん!!!うわああああミルちゃんの匂いだああああ!!!」

「みぇぁぉん」

「綾目…猫はそんな鳴き方をしません。猫の鳴き声はみゃーですよ」

「むぉぇぉぁ」

「まったく…」

「ミルちゃぁぁあん!!!」

久々のミルちゃんに興奮してしまい、私は肉球にがぶりと噛みついた。ミルちゃんは「ギャッ!」と鳴いて綾目の姿に戻ってしまった。綾目は手をさすりながらぷんぷんと怒っている。

「痛いよ花雫!!君はいっつもそうだ!僕のことが好きすぎるからってガブガブ噛んでさ!!」

「ご、ごめん綾目…。もうしないからもう一回ミルちゃんになって…」

「しないなんて嘘だね!花雫に噛み癖があることは知ってるんだから!!前の彼氏のときも…」

「ぎゃーーー!!そんなこと言わなくていいから!!ごめんって!!」

「あと僕のふぐりをこねくりまわすのやめて!!猫だからって好き勝手してぇ!!」

「うぎゃあああああ!!そうだ私暇さえあればこの子のふぐりいじってたああああ!!!」

ふぐりをいじってた猫の正体が男の子の姿をしたあやかしだったなんて…!!今思うとなんてことしてたんだ私はあああ!!犯罪者じゃないですか!!!

「花雫は性癖がねじれまくってるんだよ。ふん」

「あああ…」

小さな男の子に侮蔑の眼差しを向けられた私は大ダメージをくらい床に崩れ落ちた。つらい。消えてしまいたい。

「ほう。花雫は噛むことで愛情を表現するのですか?変わったヒトですね」

私の変わった癖に薄雪は目を丸くしている。顔を真っ赤にしている私が面白かったのか、クスクス笑って袖をめくりあげた。青白い細腕に浮き上がる血管に、私は生唾を飲みこんだ。

「薄雪さま。気をつけてください。花雫は血管フェチです」

「なんだい。血管ふぇちとは。はじめて聞くね」

「やめて!!薄雪にいらない知識を与えないで綾目!!!」

「花雫、噛んでみますか?」

「えっ」

「えっ、じゃないよ花雫!!なに噛みたそうに見てるのさ!!」

「別に噛みたそうになんてしてないしい!!」

「僕たちに嘘は通用しないよ!?うわ、細くて白い腕…血管浮いてる…ここに歯型付けていいのまじで?じゃないよ!!」

「ぐっ…!だから心を読むなんて反則だってば!!ダダ漏れじゃん!隠せないじゃん!!」

「私が噛まれて痛がる顔を見たいのですか花雫。嗜虐心が強いんですね」

「や…やめれぇ…」

「かまわないですよ花雫。噛んでごらんなさい」

口元に薄雪の腕が差し出される。ためらいながら、おそるおそる彼の腕をかぷりと噛んだ。だんだんと強く噛んでも、ギリギリと歯を立てても、薄雪が痛がる様子は見られなかった。私が口を離すと、薄雪は赤く歯形がついた腕を面白そうにまじまじと見た。

「満足しましたか?」

「あ…はい。ありがとうございます…。痛くないんですか?」

「もちろん痛みは感じますよ。でも見てごらん。私の腕に花が咲いたように見えませんか?」

薄雪は歯形のついた腕を見せた。正直まったく花の柄には見えなかった。ただの私の歯形だし。
綾目は薄雪に駆け寄り、その腕を心配そうに撫でた。

「ああああ薄雪さまの腕にこんな醜い痕が…!」

「ひどい言いようじゃないの、綾目」

綾目が噛み痕に手をかざそうとすると、薄雪が「こら綾目。治そうとするんじゃないよ。このままでいい」と言った。

「しかし…!」

「私が気に入っているのだからそれでいいでしょう?」

「は…はい…」

綾目が手を離すと、薄雪は袖を元に戻して歯形を隠した。彼の表情はあまり読めないけど、ちょっとだけ口角が上がってるように見えるのは気のせいかな。
そんなことを考えていると薄雪と目が合った。彼はにっこりと笑う。

「そうだ。私のものでよければ好きなだけふぐりをこねくりまわしていいですよ」

「結構です!!!!」

私は顔を真っ赤にして立ち上がり、恥ずかしさのあまりトイレにこもって「ぎゃーーーー!!!」と叫んだ。
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