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休日

12話 ペースト調味料

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トイレの中で叫びまくり、やっと落ち着いた私はそろそろとトイレを出た。ちらとリビングに目をやると、綾目が猫に戻っており薄雪の膝の上で喉を鳴らしていた。薄雪そこ代われ…。

戻ってきた私に、薄雪が「花雫は食事をとりなさい」と言った。私は狭いキッチンに立ち、買い込んだ食料で適当なごはんを作った。

「薄雪も食べますか?」

「いただこうかな」

「私の料理、まずいですよ」

「かまわないですよ。私はなんだっておいしくいただけますから」

「それを聞いてほっとしました。まずいって言われるの、あんまり嬉しくないから…」

ボソッと呟いたことばを聞いた薄雪は、微笑むだけで何も言わなかった。それがちょっとありがたかった。何を言われたって、私はきっと渋い顔をしただろうから。

私は気を取り直して食材がたっぷり入ったレジ袋を漁った。まず白菜を適当にざくざく切って沸騰した湯の中に入れる。そこに中華風ペースト調味料を入れたら立派なスープの完成。

次にキャベツと豚肉を適当にざくざく切ってフライパンで炒める。その中に卵を割って塩コショウ振ったら美味しそうな野菜炒めの完成。

あとはお酒のつまみにカマンベールチーズ。すごい。今日の私料理してる。

薄雪と綾目が待っているテーブルに料理を出すと、ミルちゃんが「みぇぁぁ!!」と目を輝かせた。

「え?ミルちゃんの姿でこんなの食べていいの?」

「まぅぅんぁ!」

「よし、じゃあお皿にいれてあげるね」

いつもキャットフードを入れていたお皿に、野菜炒めを山盛り入れる。ミルちゃんはバクバク食べて「みぇぇあぉ!」と嬉しそうに鳴いていた。どうやらキャットフードよりはおいしかったようだ。よかった。

「じゃあ、薄雪もどうぞ…」

ビクビクしながら薄雪にごはんを出す。彼は「いただきます」と言って野菜炒めを一口食べた。おいしいともまずいとも言わなかったけど、穏やかな顔でぱくぱくと口に運ぶ。

でも、スープを飲んだ時に「ん?」と目を見開いた。さすがに白菜だけのスープはまずかったかな、とビクビクしていると、薄雪が私の名前を呼んだ。

「花雫」

「は、はい…」

「この汁物は、あなたが作ったのですか?」

「はい…」

「とてもおいしいです。上手じゃないですか、料理」

そんなことを言われたことがなくて、私はポッと頬を赤らめた。たぶん薄雪がおいしいと思ったのは、ペースト調味料のおかげだ。だって私白菜切っただけだもん。でも、あんな料理をおいしそうに食べてくれたのが、ちょっと泣きそうになるほど嬉しかった。

「…おいしい?」

「ええ。とても」

「すごい?」

「すごいです。アチラ側では味わえなかったですね、コレは。ふふ。コチラ側に来てよかった」

「~~~…っ」

あんな質素なスープを、隣にいるあやかし二人はまるでご馳走かのようにおいしいと言って食べてくれた。明日からはもうちょっと、凝った料理を作ってあげようかな。

二缶目のビールを飲んでいると、薄雪も飲みたそうにチラチラとこちらを見ていた。頂き物の日本酒(私は日本酒が飲めないから長年眠っていたもの)を出すと、彼の表情がパッと明るくなった気がした。

「ふふ。私はコチラ側の酒が好きでね」

薄雪は上機嫌でグラスに日本酒を注ぎ、くいと飲み干した。薄雪もこんな顔するんだ。子どもみたいに喜んでいる。

くいくい飲む薄雪につられて、私もビールをいつも以上に飲んでしまった。きっと理由はそれだけじゃない。気の遣わない席で誰かとお酒を飲むのが久しぶりで、ちょっと楽しかったからっていうのもあるのかも。

私と薄雪はケタケタ笑いながらお酒を酌み交わした。ミルちゃんは薄雪の太ももの上で寝てる。なんで私の上にこないの?

「花雫。グラスが空いていますよ。まだ飲みますか?」

「薄雪は?飲みます?」

「私はもう少し飲みます」

「じゃあ私も飲む~」

「ふふ。私に合わせて飲むと、ひどい目にあいますよ」

「こう見えても強いから大丈夫~!ねえ、私の料理おいしかったあ?」

「おいしかったですよ。これ10回目ですね」

「へへへ。うれしい」

「嬉しいのですか。でしたら何度でも、言ってあげましょう」

「明日も作るね~」

「楽しみです」

酔いすぎて呂律が回らなくなっ私を眺めながら、薄雪は私のグラスにビールを注いだ。
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