【完結】花が結んだあやかしとの縁

mazecco

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二週目

32話 夢

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「ほ、ほんとにあやかしがいたんですか?ケモノっぽい叫び声とか聞こえるからびっくりしましたよ私!」

帰り道の車内で、私はぐったりしている薄雪と綾目に尋ねた。薄雪がこんなに疲れているところなんて初めて見た。すごいしんどそう…。大丈夫かな。綾目も車に乗った途端ため息をついて寝転んでるし。

「ええ。小さなあやかしでしたが、いましたよ」

「えええ…こわ。追い出してくれましたか?」

「はい」

「ありがとうございます。じゃあおばあさんはご主人の夢をみることができるかもしれないんですね!」

「ええ。まちがいなく」

「よかったあ。えへへ。薄雪がいてくれてよかったです」

「喜んでいただけたならよかった」

「それにしても…ずいぶん疲れてますね。私になにかできることはありますか?」

そう言うと、薄雪がちらりと私を見て目じりを下げた。

「幸せになってください」

「え?」

薄雪は返事をせずに目を瞑った。どうやら寝てしまったようだ。

◇◇◇

会社に戻り、今日も終電ギリギリまで事務仕事をしていた。薄雪と綾目は、じーっと私が仕事をしているところを眺めていたり、オフィスをうろちょろと動き回り興味深げに人や機械を見ていた。薄雪がちょいちょい北窪さんの背後に立ってジッとしていたのがちょっと怖かった。

「薄雪さま!!見てください!!ここを押すと紙が出てきます!!」

「ほう。すごい」

「きゃっ!コピー機がひとりでに動いたっ」

「えっ!?こ、こわー!!」

「ちょっ…!」

コピー機で遊び始めた綾目と薄雪のせいで、怪奇現象を怖がる女性社員たちが大騒ぎしている。私は慌ててあやかしたちを連れ戻し、心の中で叱りつけた。やばい。心労がすごい。目が離せない。仕事が終わらない。…明日に持ち越しだ…。

仕事を切り上げ会社を出る。汗臭い満員電車に揺られ、虚無の表情でスマホをいじる。だんだんと人が減っていき座席へ座ると、一瞬で寝てしまった。

夢を見た。小川が流れる森の奥で、立派に咲いている桜の花。一人の少女が木にもたれかかって眠っている。長い髪が風になびき、舞い散る花びらが彼女の髪を彩る。
ただそれだけの夢だったのに、目が覚めたとき、私は幸福感に包まれていた。

「花雫」

「はっ」

「目が覚めましたか?」

まだ夢から覚め切らない頭でまわりを見渡す。一瞬どこにいるのか分からなかったけど、アナウンスで電車に乗っていることを思い出した。しかも一駅過ぎちゃってるし!!

「ぎゃー!寝過ごした!!」

慌てて電車から降りて改札を通る。最悪だよもう…。
タクシーを呼んでやっと家に到着したときには日付が変わっていた。綾目も相当疲れたのか、化粧も落とさず布団に潜りこんだ私を叱る元気もないようだ。私と一緒に布団に入り、すぐに寝息を立てていた。薄雪も布団に入って来る。

「…って!なんで大きいままなんですか!いつもみたいに小さくなってください」

「すみません花雫。今日は少し妖力を使いすぎてしまいまして…。化ける元気がありません」

「そ、そんなに大変だったんですか…?」

「あやかし自体は大したことはなかったのですがね。…花雫が気にすることではありません。ただ、今日だけは許してください」

「は、はい…」

「おやすみなさい、花雫」

「おやすみなさい…」

気にするなと言われても、気にするに決まってるじゃん…。いつも飄々としてる薄雪が見るからにしんどそうな顔してるし。もしかして私のせいなんじゃ…。

「花雫のせいではありませんよ。私がしたいことをしただけです」

「そうだよ花雫。花雫が気にしたら元も子もないんだ」

綾目が目を瞑りながらぼそぼそと呟いた。薄雪も頷き、私の頭を撫でた。

「そういうことです。あなたはいつものように、誰よりも早く眠りに落ちて、いびきと歯ぎしりを交互にしていたらいいのです」

「ぎゃっ!なんでそんなこというのかなあ!ふん!もう寝る!」

「ええ。今度こそ、おやすみなさい」

その日からなぜか、仕事の夢にうなされることがなくなった。その代わりに見知らぬ少女の夢をよく見るようになった。彼女はいつも桜の木のそばにいた。眠っていたり、笑っていたり、泣いていたり。どんな表情をした夢でも、目が覚めたときは決まって幸せな気持ちになっていた。

また、訪問したおばあさんから一週間後に電話があった。無事保険金が支払われたことのお礼と、ご主人が夢に出て来てくれたというお話を聞かせてくれた。おばあさんがご主人の夢を見ることができたのは、きっと薄雪のおかげだろう。電話ごしだったけど、絶望に打ちひしがれていた彼女が少しだけ生きる気力を取り戻したように思えた。

保険金も受け取ってもらえて、その上(薄雪のおかげで)お客さんの心を満たすことができたことが、泣きそうになるほど嬉しかった。その時、よく上司が言ってた言葉を思い出した。「保険の営業は、保険を売ることだけが仕事じゃない。それ以外のものを満たしてやっと、本当の営業だ」ーー私は今回はじめて、その言葉の意味が分かった気がした。
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