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残りのエンドロール

66話 月曜日

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苦しくても辛くても、月曜日は無情にもやってくる。
泣き腫らした目を化粧で隠し、笑いたくもないのに笑顔を作る。大切なひとたちが見えなくなっても、私はいつも通り明るい声で社員さんたちに挨拶をした。

「おはようございまーす!」

「おはよう観澤さん」

「今日も元気だねえ」

「はい!今日も一日がんばりますよー!」

なにやってんだろう。どうして笑えるんだろう。こんなに元気に振舞えるなんて、私って本当に人の心を持ってるのかな。
そう思いながらも笑顔を振りまく。壊れたスイッチはそう簡単に切らせてくれない。

「観澤さんさ…まだあの子連れのヒモと続いてるの…?」

昼食時、篠崎さんがおずおずと私に尋ねた。リアルタイムな質問に胸が詰まる。私はなんとか笑顔を保ったまま答えた。

「あー。いなくなっちゃった」

「わ!やっと出て行ったんだねー!!よかったねー!!」

「あー…うん…。ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」

「いってらっしゃーい」

耐え切れずに私はトイレに駆け込んだ。水を長し、ハンカチで口を押さえつけ泣く。
泣くな泣くな。職場で泣くなんて恥ずかしいことするな私。

薄雪と綾目はまだ私の家にいてくれてるらしいけど、見えなくなっちゃった私には分からない。
本当にいてくれてるの?私を傷つけないためにそう言っただけじゃないの?
薄雪と綾目がそんな嘘つくわけないって分かってるけど、募る不安はそれを信じさせてくれない。

1年前までひとりが当たり前だった。ひとりだけの時間がないとストレスがたまるくらい、誰かと一緒にいるのが好きじゃなかった。だって疲れるし。気を遣うし。自分の悪いとこを見せたくなくて無理しちゃうし。

それなのにいつの間にか、薄雪と綾目が家にいることが当たり前になっていた。取り繕った私じゃなくて、素の私を受け入れてくれたふたりにべったりくっついて、甘えて、楽しく笑って、心地よくて、しあわせで。

「ふえっ…ふっ…うぅぅ…っ」

だからいやなのよ。大切な人をつくることは。
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