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ショートストーリー

【教会編SS】紫色のきのこを巡って

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森に捨てられてしまった双子の兄妹、アウスとモリアは、のんびりとした森での生活をそれなりに楽しんでいた。

「ねえモリア、きのこ採ってきたよ!」

狩りから帰ってきたアウスがアイテムボックスをひっくり返すと、色とりどりのきのこがわんさか落ちてきた。茶色いきのこ、赤いきのこ、白いきのこの他に、明らかに食べたらいけなさそうな、青いきのこや紫色のきのこもある。
モリアは積みあがったきのこをジトっと眺めている。

「アウスくんは、ごはんが食べたいの? それとも毒が食べたいの?」

「もちろんごはんだよ!!」

「そう。じゃあこの青と紫のきのこは捨てようね。絶対にダメなやつだわ、これは」

そう言って、モリアがきのこを放り捨てようとしたら、慌ててアウスが妹の腕にしがみつく。

「だめだよモリア! ど……食べ物を粗末にしちゃ!」

「今毒って言いかけたよね? 毒入りって分かってるよねえ!?」

「わ、分かんないよ! 食べたことないんだもん! だからさ、一回だけ食べてみようよ、ね?」

「じゃあ、先にわたしが食べるね」

そう言って紫色のきのこを掴み、モリアは大きく口を開けた。アーサーは「わー!!」と大声をあげて、妹の手からきのこを引ったくった。

「モリア! これ、触っただけで危ないから! 真っ青になって、手の皮べろべろになっちゃうから! 食べちゃったらたぶん口の中もべろべろになるよ!」

「そこまで分かっててどうして食べたがるの!?」

「だって食べたことない毒きのこなんだもん!」

「とうとう白状したわね! やっぱり毒が食べたいんじゃない!!」

「モリアだって! どうして僕が食べたいって分かってるのに捨てようとするのさ!」

「毒きのこだからでしょお!?」

そこから毒きのこの奪い合いが始まった。うっとり眺めてから口に放り込もうとするアウス。タックルをして妨害をするモリア。華麗にダイブして毒きのこを取り返すアウス。

「いい加減にあきらめなさいよぉ!!」

何度阻止しても諦めないアウスに、とうとうモリアが魔法を解禁した。手の平を兄に向けて歌を歌うと、アウスは真っ赤な炎に包まれた。

「あづいっ! あづいぃぃっ!!」

火を消そうとアウスは地面を転がりまわるが、めらめらと燃える炎は一向に弱まる気配がない。普通の人であれば死んでしまいそうなものだが、異様なまでに基礎能力値が高いアウスにとっては、「あづい」で済む程度のものだった。

しばらくしてモリアが手をおろすと、炎はスッと消えてなくなった。真っ黒こげになったアウスは、ほどよい焼き加減になっている毒きのこを大事そうに抱きしめている。

「えぇっ!? どうしていい感じの焼き加減になってるのぉ!?」

「全力で守ってたからね! ん~、香ばしいにおい。いただきまあす」

「あーーー!!」

アウスは良い感じに火が通った毒きのこを、丸ごと口の中に放り込んだ。
噛むとコリコリとした触感が楽しめて、噛んでいくうちにじんわり苦みが広がってくる。舌が痺れ、腹痛、吐き気、呼吸困難の症状が現れるのが、良いスパイスだ。

「いや、何もおいしそうじゃないよ!? どうしてこの状況でニヤけてるの!?」

結局、やけども毒も、モリアの回復魔法でさっぱり綺麗に治してもらった。
毒きのこを食べられて大満足のアウスだったが、その後モリアにこっぴどく叱られた。
しかし、兄があまりに美味しそうに食べていたので、後日こっそりモリアも一口齧ってみたが、「まっずぅーー!」と叫んで消し炭にしたのであった。
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