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ショートストーリー

【教会編SS】ある冒険者の初恋

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魔物を痛めつけて殺すことでしか、生きる意味を見出せなかった。

「ギェァァァ!!」

「ねえ、痛い? 魔物でも痛みを感じるの? ふふ」

今回の依頼はは合同クエストだった。シャナの残酷な魔物の殺し方を見慣れているパーティは、何食わぬ顔でその光景を眺めていたが、初めて彼女とダンジョンに潜った他のパーティは、顔を真っ青にして目を背けているーーただ一人を除いて。

期限まで時間がない。彼らは魔物を倒しながら洞窟を駆け抜けた。

シャナはヒト型の魔物を見つけると、ニヤリと口角を上げて杖を構える。

「苦しんで死になさい」

複雑な詠唱を経て、杖から魔法が放たれる。即死なんてさせない。断続的な痛みを与えるために、敢えて魔力を抑えている。

「うおらぁぁ!! 俺が倒してやんよ!! くらえー!」

「あっ、ちょっとカミーユ!!」

何を思ったか、合同パーティの一人であるカミーユが、シャナが狙っていた魔物に斬りかかった。彼の大剣が魔物を真っ二つに斬りつけたのはいいものの、背後にはシャナが放った魔法が迫ってきている。

「ぐあぁぁぁっ!!」

「……バカッ」

まともにシャナの魔法を食らったカミーユは、黒焦げになり地面に倒れ込んだ。洞窟に野太い悲鳴が響き渡る。シャナは慌てて彼に回復魔法をかけたが、他の仲間はゲラゲラと笑っていた。

「またかよカミーユ!! お前、何回シャナの魔法食らう気だ!?」

そう、今日はこんなことばかりだ。シャナが魔物目掛けて魔法を放つも、ほとんど毎回カミーユに割って入られる。そして大怪我を負った彼に、シャナが仕方なしに回復魔法をかけるのだ。

「いい加減にして頂戴、カミーユ。回復魔法は魔力をかなり消費するのよ。あなたが邪魔するし、大怪我を負うしで、全く魔物を殺せないじゃないの」

「へへっ。悪いな」

頬を膨らませるシャナに、カミーユがヘヘっと笑い頭を掻いた。
シャナは、どうしてこんなヒトが私の夫なのかしらと、呆れた顔でため息をついた。

無事ダンジョンを攻略して、合同パーティは帰路につく。シャナはもちろん、同じ家に帰ろうとしているカミーユと一緒だ。

「シャナは……その、魔物に家族を殺されでもしたのか?」

道中、カミーユがおそるおそるシャナに尋ねた。シャナは驚いて夫の顔を見る。

「どうして分かったの?」

「俺もそうだからな」

互いの家族の話をするのは、これが初めてだった。彼らはどちらも、魔物に家族を殺された。冒険者になった理由も同じだった——魔物に復讐をすること。

「でもな、シャナ。俺は、今はそうじゃねえ。シャナと出会って、惚れて。結婚してもらえるようにS級目指して頑張ってたら、いつの間にか生きるのが楽しくなってきちまった。それからは、復讐のためじゃなく、好きな人のために生きていこうって思うようになったんだ」

シャナは応えず、ただじっと夫の目を見つめている。
カミーユは言葉を続ける。

「だからシャナにも、俺のために生きようって思ってもらえるようにさ、俺、頑張るからな。魔物を殺すより、もっと楽しいことを、俺が教えてやるからな」

三百歳以上も年が離れているヒトに、まさか心を動かされるとは、思いもよらなかった。
シャナは半年前、仕方なしにカミーユと結婚した。そしてたった今シャナは、カミーユという一人の男性に、恋をした。

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