63 / 718
魔女編:カミーユたちとの特訓
【82話】特訓1か月
しおりを挟む
山での特訓を初めて1か月が経った。この一か月間、双子はカミーユたちにそれはもう厳しく訓練された。
モニカは魔力のコントロールの練習やリアーナとの対戦を主にしていた。コントロールが上手になり、その頃には魔力の底をつくのがリアーナと同じタイミングまでになっていた。(リアーナよりモニカの方が1.5倍ほど魔力量が多いので、それでもリアーナに遠く及ばないが)
アーサーはひたすら実践、ときどき動きの矯正を受けた。まだカミーユとジルに一発も攻撃を当てられないが、山に棲む上級魔物は軽々と倒せるほどまでに成長していた。成長速度は剣技に劣るが、弓技も動く魔物相手に的確に当てられるようになっている。
まだまだ未熟なところはたくさんあるが、山へ入った時よりも見違えるほど双子の動きは洗練されていた。二人のあまりの成長速度にS級冒険者は驚きを隠せなかった。
「アーサー、モニカ。今日は2対2でやり合うぞ」
朝食をたいらげ、いつものように小屋の外へ出ようとする双子にカミーユが声をかけた。
「2対2?!」
「お前ら二人対、俺とリアーナだ。もちろん手加減するが」
「相手が二人になることも厄介だけど、味方と連携しないといけないのも結構大変なんだぜ!」
アーサーとモニカはうずうずと体を震わせた。アーサーもモニカも、お互いがどの程度強くなったのか実際に見ていないので、成長を披露したくてやる気満々だ。興奮しすぎて奇声を発しながら小屋の外を走り回った。
双子とカミーユ、リアーナが向かい合って立った。カトリナとジルが少し離れたところでコーヒーを飲みながら見学している。始まりの合図を出すよう言われたカトリナは、空高く矢を放った。その矢がカミーユ組とアーサー組の間の地面に突き刺さる。その瞬間、カミーユの姿が消えた。
「えっ?!」
「きゃ!!」
カミーユを見失い慌てたアーサーの背後で、モニカの小さな悲鳴が聞こえた。振り返ると、カミーユがモニカの首に剣を添えている。
「モニカ!」
「魔法使いはパーティーの生命線だ。こいつを倒すとずいぶん戦いやすくなる。だから対人戦で真っ先に狙われるのは魔法使いだ。アーサー、覚えとけ」
「くっ!」
アーサーが妹の元へ駆け寄ろうとしたが、爆風で遠くへ吹き飛ばされた。
「な?魔法使いを早く始末しねえとこうなる」
リアーナはニヤニヤしながら宙を舞っているアーサーに言った。
「わーーー!!」
「アーサー!」
「モニカ!風魔法を相殺するには?」
「…逆風の風魔法を使う!」
「そーだ!それをしてりゃあアーサーはあんな遠くまで吹っ飛ばなかった!」
「むぅっ!」
「お前は自分の心配しろ。首に剣突き立てられてんだぞ?」
「っ」
チリ…チリ…と音が鳴る。カミーユが異変を感じ空を見上げた瞬間、大きな雷が頭上に落ちてきた。
「うおぁっ!」
「ぎゃはは!カミーユなにビビってんだよ!!」
雷はリアーナの土魔法で簡単に相殺されてしまう。
「モニカ!そんだけあからさまにどの属性の魔法打つか見せたらだめだろ!」
モニカは歯ぎしりをして全属性魔法をカミーユとリアーナに放った。
「モニカやるじゃねーか。一瞬びびったぜ」
カミーユがそう言いながら剣で魔法攻撃を受け流す。
(そんなこと言いながら余裕綽々じゃない!こうなったら…!)
モニカは動きをぴたりと止め、杖をカミーユに向けた。カミーユは「何する気だ?」と首を傾げ、興味本位で眺めている。リアーナも様子を伺っていたが、何の魔法を打つか分かった瞬間慌ててカミーユに声をかけた。
「カミーユ!!避けろ!!毒だ!」
「何?…ぐっ!」
カミーユは口を手で押さえ膝をついた。冷や汗をかいて体が震えている。モニカはリアーナを見てニッと笑った。
「リアーナは回復魔法苦手だもんね。これだと相殺されないでしょ?」
「ギクゥッ」
「ちっ、やるじゃねえかモニカァ…」
カミーユは顔を歪めながらゆらりと立ち上がった。
「こんなきっつい毒もらったのは久しぶりだぜおい」
「ひっ」
全く削がれていない闘気にモニカは震えあがった。これ以上近づかせたくないと爆風を吹かせるが、リアーナに相殺されてしまう。カミーユはモニカの手から杖を叩き落とし、杖を遠くへ蹴飛ばした。
「ああっ、杖!」
《この我を足蹴にするなど!!なんという屈辱!!おいモニカ丸焼きにしてしまえ!!》
「できるならやってるって!!」
「おいお前誰と話してんだ?」
「ははん。勝負あったかあ?まあ初戦にしちゃあ上出来…っ!」
一瞬気を抜いたリアーナの背後からピリピリとした気配を感じ振り返る。いつの間にか距離を詰めていたアーサーが弓を引いていた。リアーナの胸に向かって矢を射たが、矢じりを掴んで止められる。
「アーサー!いつの間にそこにいやがった!全然気づかなかったぜ!だがそんな遅ぇ矢じゃあたしには当たらねえよ…うわあ!」
矢じりを握った右手がただれ落ちる。リアーナは痛みに顔をしかめ矢を投げ捨てた。
「聖水を塗った矢だよ。リアーナには魔女の血が流れてるから効くと思った」
「こんの…!」
アーサーは間髪入れずリアーナの間合いに飛び込んだ。リアーナは舌打ちをして剣を避ける。何度も斬りこまれ、一筋がリアーナの頬をかすった。剣にも聖水が塗られていたのか、頬が焼けただれる。リアーナは再び風魔法でアーサーを吹き飛ばそうとするが、今度はモニカに相殺された。
「はっ?!お前杖なしでもそんな威力の魔法使えんのかよ!」
カミーユが驚いてモニカを見る。モニカは「そうだよ」とカミーユに手を当てた。
「だからね、杖を落としたくらいじゃダメだよカミーユ」
「うぐぁっ」
さらに毒魔法をかけられ、カミーユがしゃがみこんで血を吐き出した。命の危険を感じて咄嗟にモニカの手を背中にまわして掴み、モニカを地面に叩きつける。
「おいおいおいモニカ。お前危険すぎるぜ。ちと大人しくしてくれや」
「うううっ…」
その間もアーサーはリアーナに斬りこんでいる。カミーユほど軽々ではないが、リアーナも充分すばしっこい。かすりは付けられるが仕留められない。だが聖水を塗られているためかすっただけでもリアーナの体はただれて効果は大きい。
リアーナが小さな属性魔法でアーサーを攻撃するが、アーサーはそれを避けようともせず斬りかかってくる。しばらく二人の戦闘を眺めていたカミーユが立ち上がった。
「ちっ!すばしっこいしこわがんねえし厄介だなあ!剣筋もなかなかいいじゃねえか!」
「そりゃあ俺が教えてるからなあ」
「ぐぅっ!」
リアーナとアーサーの間に割って入ったカミーユが、剣を握っているアーサーの左手を掴みみぞうちに拳をのめりこませた。アーサーの口から血が噴き出す。
「やべ、骨折っちまったか」
「アーサー!!」
モニカが再び毒魔法を打とうとしたのを察知し、リアーナが彼女に向かって数々の属性魔法を打った。相殺する魔法を打たされ、毒魔法を放つ余裕がない。
「モニカお前カミーユのこと不死身だとでも思ってんのか?!そんな何回も毒魔法打たれたらいくらカミーユでも死ぬぞオイ?!」
「えっ?!カミーユって死ぬの?!」
「アホかこれ以上毒盛られたら普通に死ぬわ。今俺の体内毒でやべえことになってんだからよ…。さっさと終わらせてエリクサー飲みてえ」
「まだ終わってないよ!!」
カミーユにあばらを折られてアーサーは一瞬よろめいたが、血を流しながらもカミーユに反撃する。掴まれている左手を支点にして体を回転させ、カミーユの顎を蹴り上げた。
「がっ!」
「…アーサー、モニカァ。お前らほんと最高だよ!楽しいなあおい!!」
カミーユとリアーナから余裕の笑みが消える。ジルは「やばいんじゃない?」と呟いた。
「本気の顔だ。今までは二人にできるだけ傷をつけずに戦ってたけど、そんな余裕なくなってるかもしれない」
「カミーユ、リアーナ、落ち着いてェ」
カトリナが二人に声をかけるも、聞こえていない。カミーユは一瞬でアーサーに詰め寄り腹に剣を突き刺した。
「うぅっ!」
カミーユはアーサーの体から剣を抜いてアーサーを蹴り飛ばした。アーサーが吹き飛びモニカにぶつかる。二人して倒れると、リアーナが地面に手を付けて詠唱をした。
「ぐっ!」
二人にとてつもない重力がのしかかる。息ができず、体が地面にのめりこむ。アーサーは顔をしかめ、モニカはぜぇぜぇと苦しそうに息をするので精いっぱいだ。
「モニカ、これはなんの魔法だ?」
「…風…魔法…」
「風魔法を相殺するには何をすればいい?」
「逆風…の…」
「そうだ。早くしねえと窒息して死ぬぞ」
「ぐっ…」
モニカは沈み込む手で杖を握りなおし、息も絶え絶えに歌を歌った。彼女の風魔法が、のしかかっていたリアーナの風を押し返す。リアーナは「うん、合格だ」と言って風を止ませた。
「はっ…はっ…」
「お前ら、おつかれさん」
意識を失いかけている双子を抱きかかえ、カミーユがエリクサーを飲ませる。その後、カミーユとリアーナもそれぞれエリクサーを飲んで回復した。
「にしてもなんだこの毒は。エリクサーでも完全に消えねえじゃねえか。きもちわりい…」
「あたしもこの傷は完治するのに時間がかかりそうだ。聖水かけられるとは思わなかったぜェ…」
「もう!カミーユ!切り傷はすぐ治るからいいけど、骨が折れちゃってるじゃないのォ!もうちょっと手加減しなさい!」
アーサーの容態を診ていたカトリナがぷんぷんとカミーユを怒鳴りつける。ジルもものすごく怖い顔でカミーユを睨んだ。
「ねえ。これって練習試合だよね?エリクサーで即時回復できるくらいの傷でとどめようって昨日決めたよね?君、途中から本気になっちゃってそれ忘れてたでしょ」
「すみませんでした…」
「リアーナもいじめすぎだよ」
「すまんすまん。熱くなっちまった!」
意識がはっきりしてきたのか、モニカがばっと起き上った。急いでカミーユとリアーナに駆け寄り回復魔法をかける。
「カミーユ、ごめんなさい!カミーユが死ぬなんて思わなくて…!今解毒するから…!リアーナもあとで回復魔法かけるね」
「お前は俺のことなんだと思ってるんだ?」
回復魔法を受けながら、カミーユはジト目でモニカを見た。
「カミーユはある程度の毒だったら耐性ついてるから大丈夫だけど、モニカの毒はきついからなあ。重ね掛けされたら…誰でも死ぬんじゃねえか…?」
「モニカの毒ってそんなにきついんだ。こわ…」
「お前ら明日気を付けろよ。カトリナはそこまで毒耐性ついてねえから下手したら一発食らっただけで動けなくなるぞ」
「そんなにィ?恐ろしいわねェ」
「それよりモニカ、痛むところはねえか?」
「うん。私にけがはないわ。二人とも私を傷つけないように戦ってくれてたんだもん」
「さすがに俺だってモニカを傷つけらんねーよ」
「いたたたた」と呻きながらアーサーが起き上がった。カミーユとジルが「大丈夫?」と尋ねるとこくんと頷く。
「リアーナ、大丈夫?ごめんね聖水なんて使って」
「いいんだいいんだ!むしろよくそこに気付いたな!さすがアーサーだ」
リアーナはそう言ってアーサーの頭をわしゃわしゃと撫でた。アーサーははにかみながら「えへへ」と笑った。
「やっぱり二人とも強いなあ。私たちじゃ全然歯が立たないや」
「いや、上出来だ。俺らの弱いもんをちゃんと見極めて攻撃できてた。後半はちっとばかし二人で連携もとれてたしな。よし、小屋へ戻るぞ。メシ食いながら反省会だ」
「はぁい」
こうして二対二の特訓が終わった。少し反撃できたとは言え、実力の差をみせつけられた双子は悔しくて拳を握りしめた。対してS級冒険者たちは、二人の戦闘センスに内心舌を巻き期待で胸を躍らせていた。
(こいつらまじ鍛え甲斐あるなぁおい!もっともっと鍛えて強くしてやりてぇ)
(やべえ早く明日来い。朝から晩までこいつらと戦いてえ)
(モニカに防御術を教えないとダメだな。明日はモニカを借りよう)
(ふふ、弓術がまだまだねェ。明日みっちり教え込まないとォ)
ニヤニヤと思いを馳せている大人たちに嫌な予感がして、アーサーとモニカは鳥肌を立てた。双子の予感は的中した。特訓合宿が終わるまでの残り一か月間、スイッチが入ってしまった彼らに双子は今まで以上に血反吐を吐くほどのスパルタ訓練をみっちり受けることになった。
モニカは魔力のコントロールの練習やリアーナとの対戦を主にしていた。コントロールが上手になり、その頃には魔力の底をつくのがリアーナと同じタイミングまでになっていた。(リアーナよりモニカの方が1.5倍ほど魔力量が多いので、それでもリアーナに遠く及ばないが)
アーサーはひたすら実践、ときどき動きの矯正を受けた。まだカミーユとジルに一発も攻撃を当てられないが、山に棲む上級魔物は軽々と倒せるほどまでに成長していた。成長速度は剣技に劣るが、弓技も動く魔物相手に的確に当てられるようになっている。
まだまだ未熟なところはたくさんあるが、山へ入った時よりも見違えるほど双子の動きは洗練されていた。二人のあまりの成長速度にS級冒険者は驚きを隠せなかった。
「アーサー、モニカ。今日は2対2でやり合うぞ」
朝食をたいらげ、いつものように小屋の外へ出ようとする双子にカミーユが声をかけた。
「2対2?!」
「お前ら二人対、俺とリアーナだ。もちろん手加減するが」
「相手が二人になることも厄介だけど、味方と連携しないといけないのも結構大変なんだぜ!」
アーサーとモニカはうずうずと体を震わせた。アーサーもモニカも、お互いがどの程度強くなったのか実際に見ていないので、成長を披露したくてやる気満々だ。興奮しすぎて奇声を発しながら小屋の外を走り回った。
双子とカミーユ、リアーナが向かい合って立った。カトリナとジルが少し離れたところでコーヒーを飲みながら見学している。始まりの合図を出すよう言われたカトリナは、空高く矢を放った。その矢がカミーユ組とアーサー組の間の地面に突き刺さる。その瞬間、カミーユの姿が消えた。
「えっ?!」
「きゃ!!」
カミーユを見失い慌てたアーサーの背後で、モニカの小さな悲鳴が聞こえた。振り返ると、カミーユがモニカの首に剣を添えている。
「モニカ!」
「魔法使いはパーティーの生命線だ。こいつを倒すとずいぶん戦いやすくなる。だから対人戦で真っ先に狙われるのは魔法使いだ。アーサー、覚えとけ」
「くっ!」
アーサーが妹の元へ駆け寄ろうとしたが、爆風で遠くへ吹き飛ばされた。
「な?魔法使いを早く始末しねえとこうなる」
リアーナはニヤニヤしながら宙を舞っているアーサーに言った。
「わーーー!!」
「アーサー!」
「モニカ!風魔法を相殺するには?」
「…逆風の風魔法を使う!」
「そーだ!それをしてりゃあアーサーはあんな遠くまで吹っ飛ばなかった!」
「むぅっ!」
「お前は自分の心配しろ。首に剣突き立てられてんだぞ?」
「っ」
チリ…チリ…と音が鳴る。カミーユが異変を感じ空を見上げた瞬間、大きな雷が頭上に落ちてきた。
「うおぁっ!」
「ぎゃはは!カミーユなにビビってんだよ!!」
雷はリアーナの土魔法で簡単に相殺されてしまう。
「モニカ!そんだけあからさまにどの属性の魔法打つか見せたらだめだろ!」
モニカは歯ぎしりをして全属性魔法をカミーユとリアーナに放った。
「モニカやるじゃねーか。一瞬びびったぜ」
カミーユがそう言いながら剣で魔法攻撃を受け流す。
(そんなこと言いながら余裕綽々じゃない!こうなったら…!)
モニカは動きをぴたりと止め、杖をカミーユに向けた。カミーユは「何する気だ?」と首を傾げ、興味本位で眺めている。リアーナも様子を伺っていたが、何の魔法を打つか分かった瞬間慌ててカミーユに声をかけた。
「カミーユ!!避けろ!!毒だ!」
「何?…ぐっ!」
カミーユは口を手で押さえ膝をついた。冷や汗をかいて体が震えている。モニカはリアーナを見てニッと笑った。
「リアーナは回復魔法苦手だもんね。これだと相殺されないでしょ?」
「ギクゥッ」
「ちっ、やるじゃねえかモニカァ…」
カミーユは顔を歪めながらゆらりと立ち上がった。
「こんなきっつい毒もらったのは久しぶりだぜおい」
「ひっ」
全く削がれていない闘気にモニカは震えあがった。これ以上近づかせたくないと爆風を吹かせるが、リアーナに相殺されてしまう。カミーユはモニカの手から杖を叩き落とし、杖を遠くへ蹴飛ばした。
「ああっ、杖!」
《この我を足蹴にするなど!!なんという屈辱!!おいモニカ丸焼きにしてしまえ!!》
「できるならやってるって!!」
「おいお前誰と話してんだ?」
「ははん。勝負あったかあ?まあ初戦にしちゃあ上出来…っ!」
一瞬気を抜いたリアーナの背後からピリピリとした気配を感じ振り返る。いつの間にか距離を詰めていたアーサーが弓を引いていた。リアーナの胸に向かって矢を射たが、矢じりを掴んで止められる。
「アーサー!いつの間にそこにいやがった!全然気づかなかったぜ!だがそんな遅ぇ矢じゃあたしには当たらねえよ…うわあ!」
矢じりを握った右手がただれ落ちる。リアーナは痛みに顔をしかめ矢を投げ捨てた。
「聖水を塗った矢だよ。リアーナには魔女の血が流れてるから効くと思った」
「こんの…!」
アーサーは間髪入れずリアーナの間合いに飛び込んだ。リアーナは舌打ちをして剣を避ける。何度も斬りこまれ、一筋がリアーナの頬をかすった。剣にも聖水が塗られていたのか、頬が焼けただれる。リアーナは再び風魔法でアーサーを吹き飛ばそうとするが、今度はモニカに相殺された。
「はっ?!お前杖なしでもそんな威力の魔法使えんのかよ!」
カミーユが驚いてモニカを見る。モニカは「そうだよ」とカミーユに手を当てた。
「だからね、杖を落としたくらいじゃダメだよカミーユ」
「うぐぁっ」
さらに毒魔法をかけられ、カミーユがしゃがみこんで血を吐き出した。命の危険を感じて咄嗟にモニカの手を背中にまわして掴み、モニカを地面に叩きつける。
「おいおいおいモニカ。お前危険すぎるぜ。ちと大人しくしてくれや」
「うううっ…」
その間もアーサーはリアーナに斬りこんでいる。カミーユほど軽々ではないが、リアーナも充分すばしっこい。かすりは付けられるが仕留められない。だが聖水を塗られているためかすっただけでもリアーナの体はただれて効果は大きい。
リアーナが小さな属性魔法でアーサーを攻撃するが、アーサーはそれを避けようともせず斬りかかってくる。しばらく二人の戦闘を眺めていたカミーユが立ち上がった。
「ちっ!すばしっこいしこわがんねえし厄介だなあ!剣筋もなかなかいいじゃねえか!」
「そりゃあ俺が教えてるからなあ」
「ぐぅっ!」
リアーナとアーサーの間に割って入ったカミーユが、剣を握っているアーサーの左手を掴みみぞうちに拳をのめりこませた。アーサーの口から血が噴き出す。
「やべ、骨折っちまったか」
「アーサー!!」
モニカが再び毒魔法を打とうとしたのを察知し、リアーナが彼女に向かって数々の属性魔法を打った。相殺する魔法を打たされ、毒魔法を放つ余裕がない。
「モニカお前カミーユのこと不死身だとでも思ってんのか?!そんな何回も毒魔法打たれたらいくらカミーユでも死ぬぞオイ?!」
「えっ?!カミーユって死ぬの?!」
「アホかこれ以上毒盛られたら普通に死ぬわ。今俺の体内毒でやべえことになってんだからよ…。さっさと終わらせてエリクサー飲みてえ」
「まだ終わってないよ!!」
カミーユにあばらを折られてアーサーは一瞬よろめいたが、血を流しながらもカミーユに反撃する。掴まれている左手を支点にして体を回転させ、カミーユの顎を蹴り上げた。
「がっ!」
「…アーサー、モニカァ。お前らほんと最高だよ!楽しいなあおい!!」
カミーユとリアーナから余裕の笑みが消える。ジルは「やばいんじゃない?」と呟いた。
「本気の顔だ。今までは二人にできるだけ傷をつけずに戦ってたけど、そんな余裕なくなってるかもしれない」
「カミーユ、リアーナ、落ち着いてェ」
カトリナが二人に声をかけるも、聞こえていない。カミーユは一瞬でアーサーに詰め寄り腹に剣を突き刺した。
「うぅっ!」
カミーユはアーサーの体から剣を抜いてアーサーを蹴り飛ばした。アーサーが吹き飛びモニカにぶつかる。二人して倒れると、リアーナが地面に手を付けて詠唱をした。
「ぐっ!」
二人にとてつもない重力がのしかかる。息ができず、体が地面にのめりこむ。アーサーは顔をしかめ、モニカはぜぇぜぇと苦しそうに息をするので精いっぱいだ。
「モニカ、これはなんの魔法だ?」
「…風…魔法…」
「風魔法を相殺するには何をすればいい?」
「逆風…の…」
「そうだ。早くしねえと窒息して死ぬぞ」
「ぐっ…」
モニカは沈み込む手で杖を握りなおし、息も絶え絶えに歌を歌った。彼女の風魔法が、のしかかっていたリアーナの風を押し返す。リアーナは「うん、合格だ」と言って風を止ませた。
「はっ…はっ…」
「お前ら、おつかれさん」
意識を失いかけている双子を抱きかかえ、カミーユがエリクサーを飲ませる。その後、カミーユとリアーナもそれぞれエリクサーを飲んで回復した。
「にしてもなんだこの毒は。エリクサーでも完全に消えねえじゃねえか。きもちわりい…」
「あたしもこの傷は完治するのに時間がかかりそうだ。聖水かけられるとは思わなかったぜェ…」
「もう!カミーユ!切り傷はすぐ治るからいいけど、骨が折れちゃってるじゃないのォ!もうちょっと手加減しなさい!」
アーサーの容態を診ていたカトリナがぷんぷんとカミーユを怒鳴りつける。ジルもものすごく怖い顔でカミーユを睨んだ。
「ねえ。これって練習試合だよね?エリクサーで即時回復できるくらいの傷でとどめようって昨日決めたよね?君、途中から本気になっちゃってそれ忘れてたでしょ」
「すみませんでした…」
「リアーナもいじめすぎだよ」
「すまんすまん。熱くなっちまった!」
意識がはっきりしてきたのか、モニカがばっと起き上った。急いでカミーユとリアーナに駆け寄り回復魔法をかける。
「カミーユ、ごめんなさい!カミーユが死ぬなんて思わなくて…!今解毒するから…!リアーナもあとで回復魔法かけるね」
「お前は俺のことなんだと思ってるんだ?」
回復魔法を受けながら、カミーユはジト目でモニカを見た。
「カミーユはある程度の毒だったら耐性ついてるから大丈夫だけど、モニカの毒はきついからなあ。重ね掛けされたら…誰でも死ぬんじゃねえか…?」
「モニカの毒ってそんなにきついんだ。こわ…」
「お前ら明日気を付けろよ。カトリナはそこまで毒耐性ついてねえから下手したら一発食らっただけで動けなくなるぞ」
「そんなにィ?恐ろしいわねェ」
「それよりモニカ、痛むところはねえか?」
「うん。私にけがはないわ。二人とも私を傷つけないように戦ってくれてたんだもん」
「さすがに俺だってモニカを傷つけらんねーよ」
「いたたたた」と呻きながらアーサーが起き上がった。カミーユとジルが「大丈夫?」と尋ねるとこくんと頷く。
「リアーナ、大丈夫?ごめんね聖水なんて使って」
「いいんだいいんだ!むしろよくそこに気付いたな!さすがアーサーだ」
リアーナはそう言ってアーサーの頭をわしゃわしゃと撫でた。アーサーははにかみながら「えへへ」と笑った。
「やっぱり二人とも強いなあ。私たちじゃ全然歯が立たないや」
「いや、上出来だ。俺らの弱いもんをちゃんと見極めて攻撃できてた。後半はちっとばかし二人で連携もとれてたしな。よし、小屋へ戻るぞ。メシ食いながら反省会だ」
「はぁい」
こうして二対二の特訓が終わった。少し反撃できたとは言え、実力の差をみせつけられた双子は悔しくて拳を握りしめた。対してS級冒険者たちは、二人の戦闘センスに内心舌を巻き期待で胸を躍らせていた。
(こいつらまじ鍛え甲斐あるなぁおい!もっともっと鍛えて強くしてやりてぇ)
(やべえ早く明日来い。朝から晩までこいつらと戦いてえ)
(モニカに防御術を教えないとダメだな。明日はモニカを借りよう)
(ふふ、弓術がまだまだねェ。明日みっちり教え込まないとォ)
ニヤニヤと思いを馳せている大人たちに嫌な予感がして、アーサーとモニカは鳥肌を立てた。双子の予感は的中した。特訓合宿が終わるまでの残り一か月間、スイッチが入ってしまった彼らに双子は今まで以上に血反吐を吐くほどのスパルタ訓練をみっちり受けることになった。
55
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。