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魔女編:カミーユたちとの特訓
【81話】特訓2日目
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特訓二日目、モニカはリアーナと、アーサーはカトリナと小屋の外へ出た。
昨日とは違い、リアーナは小川のそばへモニカを連れて行った。
「モニカ!魔力は回復したか?」
「うん!魔女さんのおかげで満タンだよ!」
「だろぉ?!じゃ、今日もエーテル飲んで特訓だ!!」
リアーナはモニカにエーテルを投げ渡した。ちゃんと味のことも考慮されているエーテルにモニカが安堵の表情を浮かべる。
「さて!今日からは無駄な魔法を漏らさねえように魔法を打つ訓練をするぞ!これに関しては集中しろとしか言えねえな!適当に魔法を打つんじゃねえ。常に杖の先を意識しろ」
「分かった!」
「今からする訓練は地味でしんどいぞ?がんばれるか?」
「がんばる!!」
「よし!じゃあ、まずは自分の打ちやすい量で水をたれ流せ。…そうだな、とりあえず1時間、ずっと同じ量の水を出し続けろ。少しでも量がブレたり魔法が途切れたりしたら川に突き落とすぞ!」
「ひぇぇぇ!!」
「いいかモニカ、ただ水を流すだけじゃねえぞ。杖の先を意識しろ。魔法が出ているところをキュッと締めるイメージを持つんだ」
「やってみる!」
「よし!じゃあやるぞ!あたしも一緒にやるから、がんばろうな!」
まるで釣りに来た親子のように、二人は小川の前で腰をかけ杖を握った。リアーナが手本を見せてくれる。杖の先からチロチロと水が流れ始めた。モニカも歌を歌って水を出したが、バケツをひっくり返した量の水が川に落ちていった。
「わぁ!」
「…それがお前の一番打ちやすい量の水かよ。とんでもねえな。モニカ!がんばってその量維持しろよ」
「う、うん!」
一時間、同じ量の水を出し続けるのは予想以上に難しかった。疲れてきたら水の量が減るし、リアーナに話しかけられたらびっくりして水の量が増える。ムラのある魔法を見てもリアーナは「まあはじめはそんなもんだ!」と励ましてくれた。
隣で座っているリアーナは、常に一定の量を完璧に保っていた。しかも杖から出ているのは糸ほどの細い水。かなりのコントロールがないと維持できないだろう。モニカは一度リアーナを驚かせようと耳元で大声をあげてみたが、びっくりしてひっくり返りそうになっても杖から流れる水の量に影響はしなかった。
1時間ごとに休憩を入れながら、モニカはその訓練を繰り返した。夕方ごろになると、ずいぶんコントロールができるようになっていた。
(あれ…?)
集中しすぎたのか、モニカは杖と一体化したような感覚に陥った。魔法を発動していることも、息をしているかのように当たり前のことのように感じた。そこで気付く。杖の先から、魔法になっていない魔力がたくさん漏れていることを。
(リアーナが言ってたのはこれね。えーっと、杖の先を…締める!)
《うっ!》
「おっ」
杖が呻き声をあげ、リアーナはニヤッとした。発動している魔法は先ほどと全く変わっていない。優秀な魔法使いしかこの変化に気付かないだろう。
(まだまだこれからだが、まさか1日でここまでできるようになるとはな…!くははっ!やっぱモニカおもしれえ!!)
「モニカ、今いい感じになってるだろ」
「うん…なんだかすごく心地がいいの」
「よし、じゃあこのまま魔力が切れるまで続けろ。今の残量だとあと3時間くらいだな。いけるか?」
「うん…」
リアーナの推定時刻から大きくズレた5時間後にモニカの魔力は底をついた。時間が経つにつれ魔力の漏れが少なくなっていったからだ。リアーナは、後半は疲れて雑な魔法になるだろうと思っていたが、モニカは魔力の最後の一滴まで丁寧に使い果たした。
モニカの魔力残量0、リアーナの魔力残量60%。単純計算して昨日の倍、モニカは魔力をコントロールできるようになった。
「信じられねえぜモニカ!!おい!!お前!!すっげえな!!」
「えへへ!ありがとう!!」
モニカはニコォと笑ってリアーナに抱きついたが、今日一日でリアーナの凄さを実感して内心穏やかでなかった。
(リアーナ…すごい。特殊な魔法を使えるってだけでS級冒険者になっているんじゃないわ。私と基礎が違う。いつもお酒を飲んでるだけで一日が終わってるんじゃないかなって思ってたけど、きっと毎日私たちが見ていないところで訓練しているんだわ…。私、今すごい魔法使いに教えてもらってるんだわ!この2か月、大事にしないと…!!)
◇◇◇
一方アーサーは、カトリナに弓技を学んでいた。まずは固定された的に射させて精度を確認する。文句なしの命中率でカトリナが拍手した。
「すごいわアーサー。ここまで弓も上手だとは思わなかったわァ」
「えへへ」
「じゃあ、次は動く相手に弓を射てみましょう。山を下りるわよォ」
「え?!山には上級魔物が…」
「そうよ。上級魔物。練習相手にちょうどいいでしょう?アーサー、敵に弓を射るときはどこを狙う?」
「えっと、頭とか、首とか…」
「そうねェ。でも、強い敵の頭や首はとっても硬いことが多いでしょう?アーサーの力だったら矢が刺さらないんじゃない?」
アーサーは頷いた。今のアーサーでは、Fクラス魔物の皮膚さえ貫けない。
「そういう時はね、目を狙うのよォ」
カトリナの視界に魔物の姿が入る。弓を引き、2本の矢を同時に放った。その矢が両目に貫通して、魔獣が悲鳴をあげた。
「目、へそ、肛門。皮膚の薄いところを狙いなさい。強い敵でも、毒や聖水みたいにその魔物が弱いものを塗り込めばそれで死ぬから」
「うんっ!」
アーサーはひたすら魔物の目を狙って矢を射た。しかし上級魔物は動きが素早く、目という小さな的に矢を当てるのはかなりの集中力とコントロールが必要だ。標的に意識を集中させすぎて背後から魔物に襲われたことも何度もあった。
「うわっ!」
「アーサー、一体だけに夢中になっちゃだめよォ。それじゃああなた死んじゃうわ」
アーサーにのしかかった魔物の首を射抜きながらカトリナが声をかける。アーサーはこくりと頷き態勢を立て直した。
「魔物が死ななくてもいいわ。とどめは私がさしてあげるからァ。アーサーはとりあえず500体の魔物の目に矢を射るまで続けて頂戴?」
「ひぇ…」
軽い口調で無理難題を出すカトリナにアーサーは小さな絶望の声をあげた。カトリナの訓練は単純だ。単純に鬼畜だ。
アーサーは夜になるまで弓を射続け、カトリナが訓練終了と言ってもまだ続けると聞かなかった。
「まだ500体いってない!!」
「ええ。いってないわね。でもこれ以上続けると明日に差し支えるわァ。さあ、戻るわよアーサー」
「やだ!あともうちょっとだけやらせてカトリナ!!」
「わがまま言わないのォ」
カトリナはアーサーの首根っこを掴んで小屋まで引きずった。ちらりと先ほどまでアーサーが弓を射ていた場所に目を向ける。そこには300体以上の上級魔物の死骸が積みあがっていた。
(私だって500体の魔物を一日で狩れるなんて思ってないわよアーサー。それで戦意喪失しないか確認しただけ。まさか夜まで休みもせずに300体以上を魔物を相手にして、それでもまだやる気なんて…。ふふ。今まで教えてた冒険者と比べ物にならないほど教えがいがあるわァ。次にアーサーに教えるのが楽しみ)
◇◇◇
「アーサー、寝る前まで勉強しようか」
温泉から戻った後、ジルが分厚い本を持ってアーサーに近づいた。アーサーは「えええ…」とあからさまに嫌な顔をする。クスクスと笑いながら、テーブルの上に本を開く。
「大丈夫。一度読めば覚えられるんでしょ?僕も付き合うから、一緒に読もう」
「分かったぁ…」
ジルは魔物の種類、弱点、生息地などを分かりやすく教えた。ジルの経験談を聞くのが楽しくて、アーサーも夢中になって本を眺めることができた。アーサーが机につっぷして寝てしまうまで、ジルはずっと隣で本を読んでくれた。
「あら、寝ちゃったのォ?」
「ああ。カミーユとカトリナに連日しごかれてるんだ。そりゃ疲れるよね」
「確かに」
カトリナとジルがくすくすと笑った。眠りこけているアーサーをベッドまで運び、布団をかける。よだれを垂らして気持ちよさそうに眠るアーサーはむにゃむにゃと寝言を言いながら枕に抱きついた。
「小屋に戻ってきたとき、アーサーの手の皮がずるむけになってるのを見てびっくりしたよ。それなのに痛そうな顔ひとつしなかったねアーサーは」
「この子、私が止めなかったら朝まで矢を射続けていたと思うわァ」
「まじめで素直で粘り強い。その上センスが抜群だ。手助けしてあげたくもなるし、ちょっといじめたくもなるね」
「分かる!モニカもそうなんだ!」
二人の会話を聞いていたリアーナが話に割って入ってきた。
「あいつは負けず嫌いで、あたしにもひるまず魔法を打ってくる。ヘロヘロになったって、諦めたり弱音吐いたりしないんだ。つい本気出しちまう。今日なんて、わずか一日で魔力の深淵までたどり着いた。まじですげえよ」
「ああ…今日もモニカの魔力がカスカスになってたな」
カミーユがちらりと寝ているモニカを見て呟いた。
「まだまだ無駄な魔力漏れてるからな。でも昨日よりはずいぶん良くなってきたぜ!明日はなにしよっかな~楽しみだな~」
「ジルは?明日アーサーに何をするの?」
「防御力の高い相手をどう打ち崩すかを教えようと思う。盾を持った僕とやり合うだけだけどね」
「ええ…ジルに一発当てるの、カミーユでも難しいんじゃないか…?」
「無理だな。こいつは防御力高いわ判断が早いわでなかなか崩せねえ」
「ふふ。とりあえずアーサーとモニカでこの山の魔物を一掃できるくらいまでには育てましょう」
「カトリナ、今日はたぁくさん魔物を殺したね?私の力がみなぎっているよぉ」
魔女がニヤニヤしながらカトリナの隣に座った。カトリナは「ええ、たくさん」とほほ笑んで頷いた。
「アーサー、筋が良いわァ。日が暮れるころには魔獣の目を高確率で射れるようになった」
「あいつ、弓のセンスも抜群かよ…。恐ろしいな」
「剣の方はどう?」
「はじめは無駄な動きが多かったが、矯正してからはかなり洗練されたな。太刀筋も良いし、ガキとは思えねえ筋力を持ってる。大人になったら俺なんてすぐ追い越すだろうな」
「へえ。カミーユにそこまで言わせるなんて」
「本当のことさ」
そう言ってビールを飲んだカミーユは、どことなく嬉しそうな顔をしていた。
昨日とは違い、リアーナは小川のそばへモニカを連れて行った。
「モニカ!魔力は回復したか?」
「うん!魔女さんのおかげで満タンだよ!」
「だろぉ?!じゃ、今日もエーテル飲んで特訓だ!!」
リアーナはモニカにエーテルを投げ渡した。ちゃんと味のことも考慮されているエーテルにモニカが安堵の表情を浮かべる。
「さて!今日からは無駄な魔法を漏らさねえように魔法を打つ訓練をするぞ!これに関しては集中しろとしか言えねえな!適当に魔法を打つんじゃねえ。常に杖の先を意識しろ」
「分かった!」
「今からする訓練は地味でしんどいぞ?がんばれるか?」
「がんばる!!」
「よし!じゃあ、まずは自分の打ちやすい量で水をたれ流せ。…そうだな、とりあえず1時間、ずっと同じ量の水を出し続けろ。少しでも量がブレたり魔法が途切れたりしたら川に突き落とすぞ!」
「ひぇぇぇ!!」
「いいかモニカ、ただ水を流すだけじゃねえぞ。杖の先を意識しろ。魔法が出ているところをキュッと締めるイメージを持つんだ」
「やってみる!」
「よし!じゃあやるぞ!あたしも一緒にやるから、がんばろうな!」
まるで釣りに来た親子のように、二人は小川の前で腰をかけ杖を握った。リアーナが手本を見せてくれる。杖の先からチロチロと水が流れ始めた。モニカも歌を歌って水を出したが、バケツをひっくり返した量の水が川に落ちていった。
「わぁ!」
「…それがお前の一番打ちやすい量の水かよ。とんでもねえな。モニカ!がんばってその量維持しろよ」
「う、うん!」
一時間、同じ量の水を出し続けるのは予想以上に難しかった。疲れてきたら水の量が減るし、リアーナに話しかけられたらびっくりして水の量が増える。ムラのある魔法を見てもリアーナは「まあはじめはそんなもんだ!」と励ましてくれた。
隣で座っているリアーナは、常に一定の量を完璧に保っていた。しかも杖から出ているのは糸ほどの細い水。かなりのコントロールがないと維持できないだろう。モニカは一度リアーナを驚かせようと耳元で大声をあげてみたが、びっくりしてひっくり返りそうになっても杖から流れる水の量に影響はしなかった。
1時間ごとに休憩を入れながら、モニカはその訓練を繰り返した。夕方ごろになると、ずいぶんコントロールができるようになっていた。
(あれ…?)
集中しすぎたのか、モニカは杖と一体化したような感覚に陥った。魔法を発動していることも、息をしているかのように当たり前のことのように感じた。そこで気付く。杖の先から、魔法になっていない魔力がたくさん漏れていることを。
(リアーナが言ってたのはこれね。えーっと、杖の先を…締める!)
《うっ!》
「おっ」
杖が呻き声をあげ、リアーナはニヤッとした。発動している魔法は先ほどと全く変わっていない。優秀な魔法使いしかこの変化に気付かないだろう。
(まだまだこれからだが、まさか1日でここまでできるようになるとはな…!くははっ!やっぱモニカおもしれえ!!)
「モニカ、今いい感じになってるだろ」
「うん…なんだかすごく心地がいいの」
「よし、じゃあこのまま魔力が切れるまで続けろ。今の残量だとあと3時間くらいだな。いけるか?」
「うん…」
リアーナの推定時刻から大きくズレた5時間後にモニカの魔力は底をついた。時間が経つにつれ魔力の漏れが少なくなっていったからだ。リアーナは、後半は疲れて雑な魔法になるだろうと思っていたが、モニカは魔力の最後の一滴まで丁寧に使い果たした。
モニカの魔力残量0、リアーナの魔力残量60%。単純計算して昨日の倍、モニカは魔力をコントロールできるようになった。
「信じられねえぜモニカ!!おい!!お前!!すっげえな!!」
「えへへ!ありがとう!!」
モニカはニコォと笑ってリアーナに抱きついたが、今日一日でリアーナの凄さを実感して内心穏やかでなかった。
(リアーナ…すごい。特殊な魔法を使えるってだけでS級冒険者になっているんじゃないわ。私と基礎が違う。いつもお酒を飲んでるだけで一日が終わってるんじゃないかなって思ってたけど、きっと毎日私たちが見ていないところで訓練しているんだわ…。私、今すごい魔法使いに教えてもらってるんだわ!この2か月、大事にしないと…!!)
◇◇◇
一方アーサーは、カトリナに弓技を学んでいた。まずは固定された的に射させて精度を確認する。文句なしの命中率でカトリナが拍手した。
「すごいわアーサー。ここまで弓も上手だとは思わなかったわァ」
「えへへ」
「じゃあ、次は動く相手に弓を射てみましょう。山を下りるわよォ」
「え?!山には上級魔物が…」
「そうよ。上級魔物。練習相手にちょうどいいでしょう?アーサー、敵に弓を射るときはどこを狙う?」
「えっと、頭とか、首とか…」
「そうねェ。でも、強い敵の頭や首はとっても硬いことが多いでしょう?アーサーの力だったら矢が刺さらないんじゃない?」
アーサーは頷いた。今のアーサーでは、Fクラス魔物の皮膚さえ貫けない。
「そういう時はね、目を狙うのよォ」
カトリナの視界に魔物の姿が入る。弓を引き、2本の矢を同時に放った。その矢が両目に貫通して、魔獣が悲鳴をあげた。
「目、へそ、肛門。皮膚の薄いところを狙いなさい。強い敵でも、毒や聖水みたいにその魔物が弱いものを塗り込めばそれで死ぬから」
「うんっ!」
アーサーはひたすら魔物の目を狙って矢を射た。しかし上級魔物は動きが素早く、目という小さな的に矢を当てるのはかなりの集中力とコントロールが必要だ。標的に意識を集中させすぎて背後から魔物に襲われたことも何度もあった。
「うわっ!」
「アーサー、一体だけに夢中になっちゃだめよォ。それじゃああなた死んじゃうわ」
アーサーにのしかかった魔物の首を射抜きながらカトリナが声をかける。アーサーはこくりと頷き態勢を立て直した。
「魔物が死ななくてもいいわ。とどめは私がさしてあげるからァ。アーサーはとりあえず500体の魔物の目に矢を射るまで続けて頂戴?」
「ひぇ…」
軽い口調で無理難題を出すカトリナにアーサーは小さな絶望の声をあげた。カトリナの訓練は単純だ。単純に鬼畜だ。
アーサーは夜になるまで弓を射続け、カトリナが訓練終了と言ってもまだ続けると聞かなかった。
「まだ500体いってない!!」
「ええ。いってないわね。でもこれ以上続けると明日に差し支えるわァ。さあ、戻るわよアーサー」
「やだ!あともうちょっとだけやらせてカトリナ!!」
「わがまま言わないのォ」
カトリナはアーサーの首根っこを掴んで小屋まで引きずった。ちらりと先ほどまでアーサーが弓を射ていた場所に目を向ける。そこには300体以上の上級魔物の死骸が積みあがっていた。
(私だって500体の魔物を一日で狩れるなんて思ってないわよアーサー。それで戦意喪失しないか確認しただけ。まさか夜まで休みもせずに300体以上を魔物を相手にして、それでもまだやる気なんて…。ふふ。今まで教えてた冒険者と比べ物にならないほど教えがいがあるわァ。次にアーサーに教えるのが楽しみ)
◇◇◇
「アーサー、寝る前まで勉強しようか」
温泉から戻った後、ジルが分厚い本を持ってアーサーに近づいた。アーサーは「えええ…」とあからさまに嫌な顔をする。クスクスと笑いながら、テーブルの上に本を開く。
「大丈夫。一度読めば覚えられるんでしょ?僕も付き合うから、一緒に読もう」
「分かったぁ…」
ジルは魔物の種類、弱点、生息地などを分かりやすく教えた。ジルの経験談を聞くのが楽しくて、アーサーも夢中になって本を眺めることができた。アーサーが机につっぷして寝てしまうまで、ジルはずっと隣で本を読んでくれた。
「あら、寝ちゃったのォ?」
「ああ。カミーユとカトリナに連日しごかれてるんだ。そりゃ疲れるよね」
「確かに」
カトリナとジルがくすくすと笑った。眠りこけているアーサーをベッドまで運び、布団をかける。よだれを垂らして気持ちよさそうに眠るアーサーはむにゃむにゃと寝言を言いながら枕に抱きついた。
「小屋に戻ってきたとき、アーサーの手の皮がずるむけになってるのを見てびっくりしたよ。それなのに痛そうな顔ひとつしなかったねアーサーは」
「この子、私が止めなかったら朝まで矢を射続けていたと思うわァ」
「まじめで素直で粘り強い。その上センスが抜群だ。手助けしてあげたくもなるし、ちょっといじめたくもなるね」
「分かる!モニカもそうなんだ!」
二人の会話を聞いていたリアーナが話に割って入ってきた。
「あいつは負けず嫌いで、あたしにもひるまず魔法を打ってくる。ヘロヘロになったって、諦めたり弱音吐いたりしないんだ。つい本気出しちまう。今日なんて、わずか一日で魔力の深淵までたどり着いた。まじですげえよ」
「ああ…今日もモニカの魔力がカスカスになってたな」
カミーユがちらりと寝ているモニカを見て呟いた。
「まだまだ無駄な魔力漏れてるからな。でも昨日よりはずいぶん良くなってきたぜ!明日はなにしよっかな~楽しみだな~」
「ジルは?明日アーサーに何をするの?」
「防御力の高い相手をどう打ち崩すかを教えようと思う。盾を持った僕とやり合うだけだけどね」
「ええ…ジルに一発当てるの、カミーユでも難しいんじゃないか…?」
「無理だな。こいつは防御力高いわ判断が早いわでなかなか崩せねえ」
「ふふ。とりあえずアーサーとモニカでこの山の魔物を一掃できるくらいまでには育てましょう」
「カトリナ、今日はたぁくさん魔物を殺したね?私の力がみなぎっているよぉ」
魔女がニヤニヤしながらカトリナの隣に座った。カトリナは「ええ、たくさん」とほほ笑んで頷いた。
「アーサー、筋が良いわァ。日が暮れるころには魔獣の目を高確率で射れるようになった」
「あいつ、弓のセンスも抜群かよ…。恐ろしいな」
「剣の方はどう?」
「はじめは無駄な動きが多かったが、矯正してからはかなり洗練されたな。太刀筋も良いし、ガキとは思えねえ筋力を持ってる。大人になったら俺なんてすぐ追い越すだろうな」
「へえ。カミーユにそこまで言わせるなんて」
「本当のことさ」
そう言ってビールを飲んだカミーユは、どことなく嬉しそうな顔をしていた。
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