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学院編:オヴェルニー学院
【110話】大会後
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貧血を起こしているものの、体の感覚や変色していた肌は元通りになったのでアーサーは控室に戻った。そこでは冷や汗をかいているカーティス先生が部屋の中をうろうろと歩き回っていた。アーサーが入ってきたことに気付き、ホッとしたような怒ったような表情で駆け寄ってきた。
「アーサー!!治療も受けずにどこへ行っていた!!お前がここに戻ってくるかもしれないと思って待っていたが…もし万が一お前になにかあったらと思うと…!」
傷がすでに治癒していることを知ると、先生はアーサーを質問攻めにした。剣のブレや不自然な体力切れから、シリルが不正を働いたことを確信している様子だった。シリルの性格を知っている先生は、王子に脅されたのではないかというところまで推察していた。アーサーの反応からそれが確信に変わると、先生は青筋を立てて控室を飛び出そうとした。アーサーは慌てて引き留める。
「せ、先生どこに行くんですか?!」
「あいつをぶん殴る!!もう我慢ならねえ!!」
「だめ!!そんなことしたら伝書インコを飛ばされて処刑されますよ!!」
「それがどうした!!!みんながそんなことにビビって口出しできないからあんなクソになってんじゃねえか!!!あいつはアーサーを殺そうとした!!シリルを踏みにじった!!そんなことが許されるかよ!!」
「お気持ちは分かります!僕だってウィルクを一発殴りたい!でも、それじゃなんの解決にもならないってモニカが…!」
アーサーはそう叫びながら先生の巨体を控室に引き戻した。
(こいつ…!俺を引きずりやがった!力有り余ってんじゃねえか!!)
「先生、僕たちに任せてもらえませんか」
「アーサーてめえ、何しようとしてる?」
「手懐けます」
「あん?」
「カトリナが言ってました。暴力で人を従えるより、恐怖で人を押さえつけるより、ジンシンをショウアクして相手に気持ち良く言うことを聞かせるのが一番コウリツが良くてリスクの少ない方法だって」
「カトリナさん、15歳になんてこと教えてんだよ…」
「本当はこんなこと考えながら人と接するのはいやだったけど…。やるって決めました。モニカはすでに気に入られてるから、カトリナ仕込みの人心掌握術でウィルクをコントロールします」
「カトリナさん…14歳になにを教えてんだよ…」
「僕は…嫌われてるからうまくいくか分からないけど、言うこと聞いてもらえるようになるまで信頼されることを目指します。もう二度とウィルクがあんなことしなくなるように、性根から叩き直します」
「お前ら一体何者なんだ?カミーユさんのパーティと深いかかわりがあるようだし、お前の戦闘技術とモニカのしたたかさは子どもとは思えねえ。お前ら本当にただの貴族の子どもか?」
先生が疑わしそうにアーサーをじっと見た。アーサーは(やばい、話しすぎた…!)とびくついたが、すぐにあどけない笑顔を作って取り繕った。
「何を言ってるんですか先生!僕たちはリングイール家の子どもですよ!お父様がオーヴェルニュ侯爵に良くしてもらってて、侯爵の紹介でカミーユのパーティに師事してもらったんです!」
ジトッとした目でしばらくアーサーを見ていたが、最終的に先生はため息をついてそれ以上は言及してこなかった。
「はあ。分かった。この件はもういい。だがアーサー、お前治ったと言っているが顔が真っ青だぞ。貧血を起こしてる。医務室に行けよ」
「はい。…いろいろとすみません」
「いいから早く医務室行け。そんでメシ食ってさっさと寝ろ。あと無茶だけはすんな」
それにしても、今日は特に冷えるな…と呟いている先生を残してアーサーは控室から出て外で待っていたモニカと合流した。先生が凍えるはずだ。控室の周囲が吹雪いている。アーサーは、吹雪かせながら歩くモニカにおそるおそる声をかけた。
「あの…モニカさん、ちょっと氷魔法おさえられるかな…?」
「あっ!ごめんね、寒いよね」
モニカが我に返るとぴたりと吹雪が止んだ。二人はそのまま一緒に医務室へ行った。白衣を身に付けた男性がアーサーとモニカに気が付き、椅子へ座らせた。
「アーサーくんだね?はじめまして。私はセルジュ。医務室の先生だよ」
「よろしくお願いします」
「今日の戦い見ていたよ。素晴らしかった。さあ、容態を診るね」
セルジュ先生はアーサーの容態を診たあと少量の血を採った。注射器の先をペロリと舐め「うん。…ん?」と首を傾げている。その行為に双子は唖然とした。彼らの表情に気付いた先生は、慌てて弁解する。
「いやっ!今から増血薬を作るからその参考に舐めただけだからね?決して私が変な性癖の持ち主だなんて思わないように」
「は、はあ…」
「アーサーくんとモニカくんは兄妹だったね?モニカくん、君の血を分けてもらってもいいかい?」
「ええ。もちろん」
「ありがとう」
先生はモニカの腕にも注射器を刺した。採血をして、彼女の血も舐める。先生はしばらく不思議そうに注射器を眺めたあと、双子に向き直りにこりと笑った。
「…うん。これなら良い増血薬が作れるよ」
「お願いします」
薬素材とモニカの血を混ぜ、セルジュ先生特製の増血薬が出来上がった。先生はそれに魔法をかけ、圧縮して小さな錠剤にした。手渡されたものをアーサーが飲んだ瞬間、ふらふらしていた体に血が満ちていくのを感じた。
「わあ、すごい!貧血がなくなった!」
「だろう?私の薬はなかなかすごいんだよ」
「ありがとうございます!変な人だなんて思っちゃってごめんなさい!」
「ああ、やっぱり変な人って思われちゃってたか。よく言われるから慣れているけどね。また何かあったらいつでも医務室へおいで」
「はい!」
アーサーとモニカは先生にお礼を言ってリリー寮へ帰っていった。セルジュ先生の薬を見て、二人の薬師としての血が騒いだ。ポントワーブへ帰ったら錠剤を作る練習をしようと決めた。
◇◇◇
アーサーとシリルの対戦は、大多数の人がアーサーが体力切れを起こして負けたと思っていた。しかしカーティス先生やダフと同様に、戦術に長けている人たちはアーサーの最後の動きに違和感を覚えた。ジュリア王女もその一人だ。
(アーサー様ほど剣術に長けた人があんなところで剣の角度を変えるわけがないわ。それに始めの一太刀を受けてから急に動きが鈍くなった。それに、鼻血…。アーサー様は顔をぶつけてなんかいなかった。まさか…毒…?シリル、不正を働いたんじゃ…)
「やりましたね王子!!」
ジュリア王女が考えながら歩いていると、数メートル先を歩いている弟たちの声が聞こえた。
「ああ、やっとあいつの負けた姿が見れた。満足だ」
「しかしシリルになんて脅したんです?あいつの必死な顔、笑っちゃいました」
「はは。簡単なことだ。どんな手を使ってでもあいつに勝て。じゃないとお前の家族もろとも処刑してやるって言っただけさ。猛毒が入った瓶を渡してね」
「毒ぅ?!やばいですね!」
「ちょっと、ウィルク」
「ひっ」
ウィルク王子は震えあがった。振り返らなくても、声の主が激怒しているのが分かる。
「あなた、まさかシリルに毒を使わせたの?」
「な、なんのことだ?お姉さまには関係ないだろ!…ひっ」
背後から冷気を感じる。ジュリア王女は本気で怒っているとき、魔力が抑えられず氷魔法が出てしまう。
「シリル…。彼は才能がある上に努力を惜しまない素晴らしい人よ。剣への愛情は私の耳にも入っていた。将来は騎士に向か入れようとも思っていたの。そんな彼を脅し、あんな汚い手を使わせたなんて。シリルの心情を考えるといたたまれないわ。あなたはそんなことをしても何も思わないの?」
「姉上、あいつはビオラ寮ですよ。矮小な貴族になにをしたって僕の勝手でしょう。階級の低い貴族なんてどうなったって王族になんの影響もない」
「呆れた。あなた、本当に人を見る目がないわね。だからあなたのまわりにはバカしか集まらないのよ。あなたたち、あの試合ちゃんと見ていた?おそらくアーサー様はウィルクの目論見に気付いていたわよ。だからわざと負けたのね。納得がいったわ」
「なんのことだ!あいつはただ弱かったから負けた!体力切れでな!」
「話にならないわ。お母さまのおなかの中からやり直してきなさい。この出来損ないのクソネズミ」
「なっ…!」
「…シリルとアーサー様には私から謝っておくわ。…どうせ王族の毒を使わせたんでしょう?アーサー様がケロっとしていたのがそもそも不可解だわ。普通なら死んでいたわよ。人を殺してまで何をしたいのかしらこの子は。本当に意味が分からないわ。シリルだってきっと深い傷を負ったでしょうね。私で償いきれるかしら…。謝ったってなんにもならないでしょうけど…身内がこんなことしたなんて私の気がすまない。でももうバカなあなたには付き合いきれない。今回の事実を覚えさせたインコを送るわ。ヴィクスお兄様にね」
ジュリア王女は額に手を当てて途方に暮れているようだった。途中から王子がいることも忘れてぶつぶつと独り言を呟いていた。ヴィクスの名前が出てきたのでウィルク王子は顔を真っ青にして震えあがった。
「ヴィクスお兄様だって…?!それだけはおやめください…!」
王子が懇願するが、王女には聞こえていないようだ。姫の恐ろしい独り言は続いた。
「学院から追放してもらうのが一番良いかしら。この子の役目はそろそろ終わるし、お兄さまに頼めば数年は投獄してくれるかもしれないわね。…そもそもお兄さまがウィルクをこんなバカに育てたんだもの。ちょっとくらい私のために動いてくれたっていいと思うのよね。ああ、尻ぬぐいはいつも私。お兄さまにだって損な役回りを押し付けられるしほんとにもう…」
「お…お姉さま正気ですか?!弟を投獄?!僕は王位継承権を持つ者ですよ!!そんなことが許されるはずがない!!!」
「王位継承権を持つ者は何をしても投獄されないとでも?いいえ逆よ。何もしていないのに投獄されていた人を私は知っている」
「お…お姉さま…考え直してください…。お願いします…。どうかお兄さまにだけは…」
「やめてほしいならあなたも身の振りを考えるのね。まずあなたがするべきことは、シリルとアーサー様への謝罪。そしてアーサー様に使った毒をあなたも飲みなさい」
ジュリア王女はそう言って内ポケットから紫色の液体が入った瓶を取り出した。後ずさる王子にじりじりと詰め寄りながら、瓶の蓋を開ける。背を向けて走り出した弟を風魔法で引き戻し、倒れた彼に馬乗りになって口元に液体をぶちまけた。
「ガァッ!!!グホッ!!ああぁぁぁ!!!」
ウィルク王子の鼻と口から大量の血が噴き出した。同時に吐瀉物も吐き出している。あっという間に肌が変色して痙攣を起こした。王子は苦しさで大粒の涙を流しながら必死に姫に懇願した。
「おねえざまっっ!!げっ…げどぐやぐをっ…!ガボォッ!!ばやぐ、げどぐやぐっ…!ぐるじいっ!!いぎがでぎないっ…!!おねえざまっ!!おねえざまっ!!!」
「あなたはこの毒をアーサー様に食らわせた。シリルに使わせた。そうね、アーサー様はこの毒を受けて15分間戦っていたわ。あなたも15分間はこのままでいなさい。まあ、普通の人なら死ぬでしょうけど」
「ごめんなざいっ!!!ごめんなざいっ!!もうじまぜんっ!!ごめんなざいっ!!おねえざまっ、おねっ…おねえざまっ!!」
「あなたがいくら私に謝っても、名誉ある剣術大会を台無しにしたこと、シリルを踏みにじったこと、アーサー様に卑劣な手をつかったこと。私はあなたが死ぬまで許さないから」
「アーサー!!治療も受けずにどこへ行っていた!!お前がここに戻ってくるかもしれないと思って待っていたが…もし万が一お前になにかあったらと思うと…!」
傷がすでに治癒していることを知ると、先生はアーサーを質問攻めにした。剣のブレや不自然な体力切れから、シリルが不正を働いたことを確信している様子だった。シリルの性格を知っている先生は、王子に脅されたのではないかというところまで推察していた。アーサーの反応からそれが確信に変わると、先生は青筋を立てて控室を飛び出そうとした。アーサーは慌てて引き留める。
「せ、先生どこに行くんですか?!」
「あいつをぶん殴る!!もう我慢ならねえ!!」
「だめ!!そんなことしたら伝書インコを飛ばされて処刑されますよ!!」
「それがどうした!!!みんながそんなことにビビって口出しできないからあんなクソになってんじゃねえか!!!あいつはアーサーを殺そうとした!!シリルを踏みにじった!!そんなことが許されるかよ!!」
「お気持ちは分かります!僕だってウィルクを一発殴りたい!でも、それじゃなんの解決にもならないってモニカが…!」
アーサーはそう叫びながら先生の巨体を控室に引き戻した。
(こいつ…!俺を引きずりやがった!力有り余ってんじゃねえか!!)
「先生、僕たちに任せてもらえませんか」
「アーサーてめえ、何しようとしてる?」
「手懐けます」
「あん?」
「カトリナが言ってました。暴力で人を従えるより、恐怖で人を押さえつけるより、ジンシンをショウアクして相手に気持ち良く言うことを聞かせるのが一番コウリツが良くてリスクの少ない方法だって」
「カトリナさん、15歳になんてこと教えてんだよ…」
「本当はこんなこと考えながら人と接するのはいやだったけど…。やるって決めました。モニカはすでに気に入られてるから、カトリナ仕込みの人心掌握術でウィルクをコントロールします」
「カトリナさん…14歳になにを教えてんだよ…」
「僕は…嫌われてるからうまくいくか分からないけど、言うこと聞いてもらえるようになるまで信頼されることを目指します。もう二度とウィルクがあんなことしなくなるように、性根から叩き直します」
「お前ら一体何者なんだ?カミーユさんのパーティと深いかかわりがあるようだし、お前の戦闘技術とモニカのしたたかさは子どもとは思えねえ。お前ら本当にただの貴族の子どもか?」
先生が疑わしそうにアーサーをじっと見た。アーサーは(やばい、話しすぎた…!)とびくついたが、すぐにあどけない笑顔を作って取り繕った。
「何を言ってるんですか先生!僕たちはリングイール家の子どもですよ!お父様がオーヴェルニュ侯爵に良くしてもらってて、侯爵の紹介でカミーユのパーティに師事してもらったんです!」
ジトッとした目でしばらくアーサーを見ていたが、最終的に先生はため息をついてそれ以上は言及してこなかった。
「はあ。分かった。この件はもういい。だがアーサー、お前治ったと言っているが顔が真っ青だぞ。貧血を起こしてる。医務室に行けよ」
「はい。…いろいろとすみません」
「いいから早く医務室行け。そんでメシ食ってさっさと寝ろ。あと無茶だけはすんな」
それにしても、今日は特に冷えるな…と呟いている先生を残してアーサーは控室から出て外で待っていたモニカと合流した。先生が凍えるはずだ。控室の周囲が吹雪いている。アーサーは、吹雪かせながら歩くモニカにおそるおそる声をかけた。
「あの…モニカさん、ちょっと氷魔法おさえられるかな…?」
「あっ!ごめんね、寒いよね」
モニカが我に返るとぴたりと吹雪が止んだ。二人はそのまま一緒に医務室へ行った。白衣を身に付けた男性がアーサーとモニカに気が付き、椅子へ座らせた。
「アーサーくんだね?はじめまして。私はセルジュ。医務室の先生だよ」
「よろしくお願いします」
「今日の戦い見ていたよ。素晴らしかった。さあ、容態を診るね」
セルジュ先生はアーサーの容態を診たあと少量の血を採った。注射器の先をペロリと舐め「うん。…ん?」と首を傾げている。その行為に双子は唖然とした。彼らの表情に気付いた先生は、慌てて弁解する。
「いやっ!今から増血薬を作るからその参考に舐めただけだからね?決して私が変な性癖の持ち主だなんて思わないように」
「は、はあ…」
「アーサーくんとモニカくんは兄妹だったね?モニカくん、君の血を分けてもらってもいいかい?」
「ええ。もちろん」
「ありがとう」
先生はモニカの腕にも注射器を刺した。採血をして、彼女の血も舐める。先生はしばらく不思議そうに注射器を眺めたあと、双子に向き直りにこりと笑った。
「…うん。これなら良い増血薬が作れるよ」
「お願いします」
薬素材とモニカの血を混ぜ、セルジュ先生特製の増血薬が出来上がった。先生はそれに魔法をかけ、圧縮して小さな錠剤にした。手渡されたものをアーサーが飲んだ瞬間、ふらふらしていた体に血が満ちていくのを感じた。
「わあ、すごい!貧血がなくなった!」
「だろう?私の薬はなかなかすごいんだよ」
「ありがとうございます!変な人だなんて思っちゃってごめんなさい!」
「ああ、やっぱり変な人って思われちゃってたか。よく言われるから慣れているけどね。また何かあったらいつでも医務室へおいで」
「はい!」
アーサーとモニカは先生にお礼を言ってリリー寮へ帰っていった。セルジュ先生の薬を見て、二人の薬師としての血が騒いだ。ポントワーブへ帰ったら錠剤を作る練習をしようと決めた。
◇◇◇
アーサーとシリルの対戦は、大多数の人がアーサーが体力切れを起こして負けたと思っていた。しかしカーティス先生やダフと同様に、戦術に長けている人たちはアーサーの最後の動きに違和感を覚えた。ジュリア王女もその一人だ。
(アーサー様ほど剣術に長けた人があんなところで剣の角度を変えるわけがないわ。それに始めの一太刀を受けてから急に動きが鈍くなった。それに、鼻血…。アーサー様は顔をぶつけてなんかいなかった。まさか…毒…?シリル、不正を働いたんじゃ…)
「やりましたね王子!!」
ジュリア王女が考えながら歩いていると、数メートル先を歩いている弟たちの声が聞こえた。
「ああ、やっとあいつの負けた姿が見れた。満足だ」
「しかしシリルになんて脅したんです?あいつの必死な顔、笑っちゃいました」
「はは。簡単なことだ。どんな手を使ってでもあいつに勝て。じゃないとお前の家族もろとも処刑してやるって言っただけさ。猛毒が入った瓶を渡してね」
「毒ぅ?!やばいですね!」
「ちょっと、ウィルク」
「ひっ」
ウィルク王子は震えあがった。振り返らなくても、声の主が激怒しているのが分かる。
「あなた、まさかシリルに毒を使わせたの?」
「な、なんのことだ?お姉さまには関係ないだろ!…ひっ」
背後から冷気を感じる。ジュリア王女は本気で怒っているとき、魔力が抑えられず氷魔法が出てしまう。
「シリル…。彼は才能がある上に努力を惜しまない素晴らしい人よ。剣への愛情は私の耳にも入っていた。将来は騎士に向か入れようとも思っていたの。そんな彼を脅し、あんな汚い手を使わせたなんて。シリルの心情を考えるといたたまれないわ。あなたはそんなことをしても何も思わないの?」
「姉上、あいつはビオラ寮ですよ。矮小な貴族になにをしたって僕の勝手でしょう。階級の低い貴族なんてどうなったって王族になんの影響もない」
「呆れた。あなた、本当に人を見る目がないわね。だからあなたのまわりにはバカしか集まらないのよ。あなたたち、あの試合ちゃんと見ていた?おそらくアーサー様はウィルクの目論見に気付いていたわよ。だからわざと負けたのね。納得がいったわ」
「なんのことだ!あいつはただ弱かったから負けた!体力切れでな!」
「話にならないわ。お母さまのおなかの中からやり直してきなさい。この出来損ないのクソネズミ」
「なっ…!」
「…シリルとアーサー様には私から謝っておくわ。…どうせ王族の毒を使わせたんでしょう?アーサー様がケロっとしていたのがそもそも不可解だわ。普通なら死んでいたわよ。人を殺してまで何をしたいのかしらこの子は。本当に意味が分からないわ。シリルだってきっと深い傷を負ったでしょうね。私で償いきれるかしら…。謝ったってなんにもならないでしょうけど…身内がこんなことしたなんて私の気がすまない。でももうバカなあなたには付き合いきれない。今回の事実を覚えさせたインコを送るわ。ヴィクスお兄様にね」
ジュリア王女は額に手を当てて途方に暮れているようだった。途中から王子がいることも忘れてぶつぶつと独り言を呟いていた。ヴィクスの名前が出てきたのでウィルク王子は顔を真っ青にして震えあがった。
「ヴィクスお兄様だって…?!それだけはおやめください…!」
王子が懇願するが、王女には聞こえていないようだ。姫の恐ろしい独り言は続いた。
「学院から追放してもらうのが一番良いかしら。この子の役目はそろそろ終わるし、お兄さまに頼めば数年は投獄してくれるかもしれないわね。…そもそもお兄さまがウィルクをこんなバカに育てたんだもの。ちょっとくらい私のために動いてくれたっていいと思うのよね。ああ、尻ぬぐいはいつも私。お兄さまにだって損な役回りを押し付けられるしほんとにもう…」
「お…お姉さま正気ですか?!弟を投獄?!僕は王位継承権を持つ者ですよ!!そんなことが許されるはずがない!!!」
「王位継承権を持つ者は何をしても投獄されないとでも?いいえ逆よ。何もしていないのに投獄されていた人を私は知っている」
「お…お姉さま…考え直してください…。お願いします…。どうかお兄さまにだけは…」
「やめてほしいならあなたも身の振りを考えるのね。まずあなたがするべきことは、シリルとアーサー様への謝罪。そしてアーサー様に使った毒をあなたも飲みなさい」
ジュリア王女はそう言って内ポケットから紫色の液体が入った瓶を取り出した。後ずさる王子にじりじりと詰め寄りながら、瓶の蓋を開ける。背を向けて走り出した弟を風魔法で引き戻し、倒れた彼に馬乗りになって口元に液体をぶちまけた。
「ガァッ!!!グホッ!!ああぁぁぁ!!!」
ウィルク王子の鼻と口から大量の血が噴き出した。同時に吐瀉物も吐き出している。あっという間に肌が変色して痙攣を起こした。王子は苦しさで大粒の涙を流しながら必死に姫に懇願した。
「おねえざまっっ!!げっ…げどぐやぐをっ…!ガボォッ!!ばやぐ、げどぐやぐっ…!ぐるじいっ!!いぎがでぎないっ…!!おねえざまっ!!おねえざまっ!!!」
「あなたはこの毒をアーサー様に食らわせた。シリルに使わせた。そうね、アーサー様はこの毒を受けて15分間戦っていたわ。あなたも15分間はこのままでいなさい。まあ、普通の人なら死ぬでしょうけど」
「ごめんなざいっ!!!ごめんなざいっ!!もうじまぜんっ!!ごめんなざいっ!!おねえざまっ、おねっ…おねえざまっ!!」
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