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淫魔編:モニカの画家生活
【228話】新しい波
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「おーい!モニカー!!」
「ん?」
突然後ろから声をかけられたモニカは振り返り、懐かしい顔ぶれに「きゃー!!」と歓声をあげて立ち上がった。嬉しすぎて彼らに駆け寄りぎゅーっと抱きつく。
「リーノにニコロじゃないの!!わー!!どうしてここに?!」
「どうしてって、ここは俺の住んでる町だしなあ」
モニカに抱きつかれて顔を赤らめているリーノがボソボソと答えた。ニコロはガチガチに固まって返事をすることもできない。
リーノとニコロ。双子がオヴェルニー学院へ潜入捜査をしている時に出会った生徒だ。彼らは寮対抗戦で実況者を務めており、二人の掛け合いが面白く生徒からも先生からも大人気だった。彼らはアーサーと仲が良かったので、モニカもよく話をしていた。そんな彼らが突然目の前に現れ、モニカは嬉しさにぴょんぴょんと飛び跳ねた。離れた場所で絵を描いていた画家たちは、おおはしゃぎしているモニカの様子に「なんだなんだ?」と手を止めてクロネの傍に集まっている。
「住んでる町…?あ!そうだったわね!リーノはこのあたりの領主さまの息子だって聞いたわ!」
「そうそう。俺の親父はグサンヴィーレ地区の領主だからなー」
「ニコロはどうしてここに?」
「俺はレガッタを見にきがてらリーノに会いに来たんだ」
「俺と実況コンビ組んでからは毎年来てるんだよな!」
「そう。でもメインはレガッタだから」
「嘘つけ!俺だろ俺!」
「レガッタだから」
「ふふ。二人はとっても仲が良いのね」
「やめてよモニカ。俺が休暇にわざわざ遠出して野郎とレガッタ見に来てるとか思わないで。レガッタ見に来たらたまたまリーノがいただけだから」
「同じじゃない?」
「全然違う」
「俺の家で寝泊まりしてるのに"たまたま"は無理があるんじゃないかあ?」
「たまたま寝泊まりしてる場所がリーノの家なだけ」
「かたくなだなあ」
リーノはケタケタ笑いながら「もうそれでいいさ」と言ってニコロの肩に腕を乗せた。
「で?どうしてモニカがここにいるんだ?旅行?」
「ううん。依頼を受けに来たの」
「あっ!そっか!そういや冒険者だったなあ!…でも、依頼を受けてるようには見えないけど…」
そう言いながらリーノがモニカの後ろに立てられているイーゼルとキャンバスをちらりと見た。モニカは絵を見られたくないのかすこし横にずれてリーノの視線を遮る。
「えっと!私は前の依頼で魔力使い切っちゃったからお休み中なの!」
「ほー。で、絵を描いてると。どれどれ?」
「まだあんまり進んでないね」
「もうっ、あんまり見ないでよぉ!」
「あの画家たちはツレ?」
ニコロがクロネたちを盗み見ながらモニカに耳打ちした。モニカは「うん!」とコクコク頷く。彼はクロネの絵を見て「変わった絵だなあ」と興味深げに呟いていた。リーノも彼らに目をやり、クロネの後ろでコソコソ隠れている画家を指さして「あーー!」と大きな声をあげた。大声にヴァジーが体をびくつかせる。
「おいヴァジー!こんなところで何してる!」
「げっ…見つかってしまったか…」
「コソコソ隠れてないで出てこい!」
「はぁ…どうしてモニカとリーノが知り合いなんだ…」
観念してノロノロとモニカの傍へ歩いてきたヴァジーを見上げて、モニカは首を傾げた。
「ん?リーノとヴァジーは知り合いなの?」
「知合いどころか俺の名付け親!」
「ええー!?」
「親父の親友だし町で二番目の資産家だしその上賢いから、親父がすっごく頼りにしてる相談役なんだよ!なのに最近まったく顔を出さなくて困ってたんだ!どこで油売ってんのかと思えばー!!」
「リーノ。僕の本業は画家なんだよ…」
「画業もいいけどそろそろ顔出してくれ!親父がヴァジーヴァジーうるさくてかなわないんだよ!」
「わかったわかった…。明日行くから…」
「本当だな!?」
「ああ、約束しよう…」
「だったらいいけどー」
リーノが騒いでいる間、クロネたち画家はモニカを見ながらヒソヒソ話をしていた。
「え…?まさかモニカ、オリバ伯爵の息子と仲が良いのか?」
「だろうね。さっき抱きついていたし。それにごリーノさんの隣にいるのは…ヴィーフ子爵のご子息だよな?」
「ああ、去年もちらっと見たから覚えてる。彼は確かにヴィーフ子爵の息子だ」
「貴族の友人がいるなんて…。モニカは一体何者なんだ…」
「それよりモニカ、アーサーはいないのか?」
リーノとニコロはきょろきょろとあたりを見回した。久しぶりにアーサーと会えるかもしれないと思いそわそわしているようだった。モニカは二人の様子にクスクス笑いながら答える。
「アーサーはダンジョン掃討に行ってるの。でも今日のお昼には帰ってくる予定よ」
「本当か?!やったなニコロ!アーサーに会えるぞ!!」
「嬉しいな。学院を卒業してからアーサーとモニカとの連絡手段がなかったから、もう会えないと思ってた」
「うちの親父はギルドに手紙を預けてたけど、なかなか返事が返ってこないし諦めてたんだー」
「うちの親父も同じ」
「そう言えばクサカヴさんがそんなこと言ってたわね。バタバタしてたから手紙を受け取れてないの。ごめんね。私たちの住所教えるね」
モニカはそう言って紙にポントワーブの住所を書いて二人に渡した。双子がポントワーブに住んでいると知って、リーノが「うお!?」とたまげている。
「モニカたちポントワーブに住んでたのか?!近所じゃないか!!」
「そうなの!よかったらうちに遊びに来て!」
「行く行く!!」
「ああ、そう言えばリングイール家って架空の貴族なんだっけ。本当は二人とも貴族じゃないんだった」
「うん。あのときは騙しててごめんね」
「かまわないさ。潜入捜査依頼だったんだから。それに、友だちに貴族かどうかなんて関係ないだろ?」
「えへへ。ありがとう」
それからモニカとリーノ、ニコロは学院を卒業してからの話で盛り上がった。あれからまだ1か月ほどしか経っていないのに、双子が壮絶な日々を過ごしていたと聞いて「すげえええ!」「こええぇぇぇ…!」と話しごたえのあるリアクションをしていた。
リーノとニコロは、学院を卒業してから領主の跡取りとしての修行をしているらしい。毎日かたくるしい話や難しい仕事をしなければならず発狂しそうだと嘆いていた。話を聞いているだけで頭が痛くなるほど大変そうだった。
「へぇ…貴族って大変なんだねえ…」
「大変だけど…モニカたちに比べたらマシかもって思った!だって俺らは死ぬことはないんだから」
「うん。ダンジョンでやばい魔物と戦うなんて無理。あんな強かったモニカとアーサーが苦戦するなんて…怖すぎるよ」
「いやぁ…あれはただ私たちが準備不足だけだったと言うか…」
「それでも怖いよ…」
「ところで、どうしてモニカはヴァジーとその愉快な仲間たちと知り合いなんだ?彼らはそこまで有名じゃないだろうに。…いや、ある意味有名か」
「僕たちとこの子たちは2年前からの知り合いだよ。たまたま知り合ったクロネが護衛依頼をしたのがきっかけでね」
傍で話を聞いていたヴァジーが答えた。
「えー!モニカたち、2年前からルアンに行き来してたのか?!」
「そうなの!もしかしたらその時もすれ違ったりしてたかもしれないね!」
「かもな!へぇー!」
「リーノいいなぁ。俺の町はここから少し遠いしな…。モニカたちとあんまり会えない」
羨ましそうにそう呟いたニコロの腕に、モニカがぎゅっと抱きついてにっこり笑った。
「何言ってるのニコロ!私たちは冒険者よ?いろんなところを旅しているの!だからニコロの町にもきっと行くわ。そのときは仲良くしてね?」
「も、もちろん。…ごめんモニカ、離れてくれない?ちょっとドキドキするから…」
「あっ、ごめん!」
「モニカもアーサーも距離感がおかしいからなあ…」
「にしし。ニコロ、顔真っ赤だぞ?」
「うるさいな。さっきリーノだって真っ赤だったじゃないか」
「そ、そんなことないしっ!」
モニカ、リーノ、ニコロは雑談しながらアーサーの帰りを待った。二人が何度お願いしても、モニカは恥ずかしがって絵を描いてくれなかった。ヴァジーに懐いているリーノは、絵を描いている彼に構いにいくのでものすごく嫌がられていた。初めてクロネたちの絵を見たニコロは、夢中になってキャンバスを眺めている。
「ニコロ、そんなにクロネの絵をじーっと見てどうしたの?」
「いや、俺の知ってる絵画じゃないから興味深くて。ほら、よくある絵画って堅苦しくて見ててしんどいだろ?でもこの絵はなんか…そうじゃないから」
どうせバカにされるのだろうと思ってニコロを無視していたクロネが手を止めた。ゆっくりと振り返り、彼の目をまっすぐと見る。
「…驚いたな」
「ん?俺なにか変なことを言った?」
「いえ。まさか俺の絵をそう言ってくれる人がモニカたち以外にもいるとは思わなくて」
「そうかな。今の絵画界って面白くないじゃん。頭かたいおじいさんたちが好きな絵ばっかりでさ。宗教画だって、なにかと理由づけてるけど結局女の人のはだかを描きたいだけじゃん」
「ははは!もっと言ってやって欲しいな!」
「おいクロネ!ヴィーフ子爵のご子息だぞ!言葉遣いには気を付けろ!」
「おっと、申し訳ありません。つい」
「いや、気にしないで。あんまり堅苦しいの好きじゃないから。…それよりこの技法はなに?」
「ああ、これは色彩分割と言って…」
「へー。ニコロって絵に興味があったんだな。知らなかった」
クロネの説明を熱心に聞いているのを見て、リーノは少し驚いていた。ヴァジーは彼を眺めながら目じりを下げており、モニカはどこか誇らしげだった。
遠くで絵を描いていたリュノとシスルもこっそりとその様子を眺めていた。リュノはフッと笑いキャンバスに目を戻す。単色の絵具をたっぷり筆に付け、キャンバスに乗せながらポソリと呟いた。
「新しい波が来ているね。ゆっくりと…。でも、確実に」
「ん?」
突然後ろから声をかけられたモニカは振り返り、懐かしい顔ぶれに「きゃー!!」と歓声をあげて立ち上がった。嬉しすぎて彼らに駆け寄りぎゅーっと抱きつく。
「リーノにニコロじゃないの!!わー!!どうしてここに?!」
「どうしてって、ここは俺の住んでる町だしなあ」
モニカに抱きつかれて顔を赤らめているリーノがボソボソと答えた。ニコロはガチガチに固まって返事をすることもできない。
リーノとニコロ。双子がオヴェルニー学院へ潜入捜査をしている時に出会った生徒だ。彼らは寮対抗戦で実況者を務めており、二人の掛け合いが面白く生徒からも先生からも大人気だった。彼らはアーサーと仲が良かったので、モニカもよく話をしていた。そんな彼らが突然目の前に現れ、モニカは嬉しさにぴょんぴょんと飛び跳ねた。離れた場所で絵を描いていた画家たちは、おおはしゃぎしているモニカの様子に「なんだなんだ?」と手を止めてクロネの傍に集まっている。
「住んでる町…?あ!そうだったわね!リーノはこのあたりの領主さまの息子だって聞いたわ!」
「そうそう。俺の親父はグサンヴィーレ地区の領主だからなー」
「ニコロはどうしてここに?」
「俺はレガッタを見にきがてらリーノに会いに来たんだ」
「俺と実況コンビ組んでからは毎年来てるんだよな!」
「そう。でもメインはレガッタだから」
「嘘つけ!俺だろ俺!」
「レガッタだから」
「ふふ。二人はとっても仲が良いのね」
「やめてよモニカ。俺が休暇にわざわざ遠出して野郎とレガッタ見に来てるとか思わないで。レガッタ見に来たらたまたまリーノがいただけだから」
「同じじゃない?」
「全然違う」
「俺の家で寝泊まりしてるのに"たまたま"は無理があるんじゃないかあ?」
「たまたま寝泊まりしてる場所がリーノの家なだけ」
「かたくなだなあ」
リーノはケタケタ笑いながら「もうそれでいいさ」と言ってニコロの肩に腕を乗せた。
「で?どうしてモニカがここにいるんだ?旅行?」
「ううん。依頼を受けに来たの」
「あっ!そっか!そういや冒険者だったなあ!…でも、依頼を受けてるようには見えないけど…」
そう言いながらリーノがモニカの後ろに立てられているイーゼルとキャンバスをちらりと見た。モニカは絵を見られたくないのかすこし横にずれてリーノの視線を遮る。
「えっと!私は前の依頼で魔力使い切っちゃったからお休み中なの!」
「ほー。で、絵を描いてると。どれどれ?」
「まだあんまり進んでないね」
「もうっ、あんまり見ないでよぉ!」
「あの画家たちはツレ?」
ニコロがクロネたちを盗み見ながらモニカに耳打ちした。モニカは「うん!」とコクコク頷く。彼はクロネの絵を見て「変わった絵だなあ」と興味深げに呟いていた。リーノも彼らに目をやり、クロネの後ろでコソコソ隠れている画家を指さして「あーー!」と大きな声をあげた。大声にヴァジーが体をびくつかせる。
「おいヴァジー!こんなところで何してる!」
「げっ…見つかってしまったか…」
「コソコソ隠れてないで出てこい!」
「はぁ…どうしてモニカとリーノが知り合いなんだ…」
観念してノロノロとモニカの傍へ歩いてきたヴァジーを見上げて、モニカは首を傾げた。
「ん?リーノとヴァジーは知り合いなの?」
「知合いどころか俺の名付け親!」
「ええー!?」
「親父の親友だし町で二番目の資産家だしその上賢いから、親父がすっごく頼りにしてる相談役なんだよ!なのに最近まったく顔を出さなくて困ってたんだ!どこで油売ってんのかと思えばー!!」
「リーノ。僕の本業は画家なんだよ…」
「画業もいいけどそろそろ顔出してくれ!親父がヴァジーヴァジーうるさくてかなわないんだよ!」
「わかったわかった…。明日行くから…」
「本当だな!?」
「ああ、約束しよう…」
「だったらいいけどー」
リーノが騒いでいる間、クロネたち画家はモニカを見ながらヒソヒソ話をしていた。
「え…?まさかモニカ、オリバ伯爵の息子と仲が良いのか?」
「だろうね。さっき抱きついていたし。それにごリーノさんの隣にいるのは…ヴィーフ子爵のご子息だよな?」
「ああ、去年もちらっと見たから覚えてる。彼は確かにヴィーフ子爵の息子だ」
「貴族の友人がいるなんて…。モニカは一体何者なんだ…」
「それよりモニカ、アーサーはいないのか?」
リーノとニコロはきょろきょろとあたりを見回した。久しぶりにアーサーと会えるかもしれないと思いそわそわしているようだった。モニカは二人の様子にクスクス笑いながら答える。
「アーサーはダンジョン掃討に行ってるの。でも今日のお昼には帰ってくる予定よ」
「本当か?!やったなニコロ!アーサーに会えるぞ!!」
「嬉しいな。学院を卒業してからアーサーとモニカとの連絡手段がなかったから、もう会えないと思ってた」
「うちの親父はギルドに手紙を預けてたけど、なかなか返事が返ってこないし諦めてたんだー」
「うちの親父も同じ」
「そう言えばクサカヴさんがそんなこと言ってたわね。バタバタしてたから手紙を受け取れてないの。ごめんね。私たちの住所教えるね」
モニカはそう言って紙にポントワーブの住所を書いて二人に渡した。双子がポントワーブに住んでいると知って、リーノが「うお!?」とたまげている。
「モニカたちポントワーブに住んでたのか?!近所じゃないか!!」
「そうなの!よかったらうちに遊びに来て!」
「行く行く!!」
「ああ、そう言えばリングイール家って架空の貴族なんだっけ。本当は二人とも貴族じゃないんだった」
「うん。あのときは騙しててごめんね」
「かまわないさ。潜入捜査依頼だったんだから。それに、友だちに貴族かどうかなんて関係ないだろ?」
「えへへ。ありがとう」
それからモニカとリーノ、ニコロは学院を卒業してからの話で盛り上がった。あれからまだ1か月ほどしか経っていないのに、双子が壮絶な日々を過ごしていたと聞いて「すげえええ!」「こええぇぇぇ…!」と話しごたえのあるリアクションをしていた。
リーノとニコロは、学院を卒業してから領主の跡取りとしての修行をしているらしい。毎日かたくるしい話や難しい仕事をしなければならず発狂しそうだと嘆いていた。話を聞いているだけで頭が痛くなるほど大変そうだった。
「へぇ…貴族って大変なんだねえ…」
「大変だけど…モニカたちに比べたらマシかもって思った!だって俺らは死ぬことはないんだから」
「うん。ダンジョンでやばい魔物と戦うなんて無理。あんな強かったモニカとアーサーが苦戦するなんて…怖すぎるよ」
「いやぁ…あれはただ私たちが準備不足だけだったと言うか…」
「それでも怖いよ…」
「ところで、どうしてモニカはヴァジーとその愉快な仲間たちと知り合いなんだ?彼らはそこまで有名じゃないだろうに。…いや、ある意味有名か」
「僕たちとこの子たちは2年前からの知り合いだよ。たまたま知り合ったクロネが護衛依頼をしたのがきっかけでね」
傍で話を聞いていたヴァジーが答えた。
「えー!モニカたち、2年前からルアンに行き来してたのか?!」
「そうなの!もしかしたらその時もすれ違ったりしてたかもしれないね!」
「かもな!へぇー!」
「リーノいいなぁ。俺の町はここから少し遠いしな…。モニカたちとあんまり会えない」
羨ましそうにそう呟いたニコロの腕に、モニカがぎゅっと抱きついてにっこり笑った。
「何言ってるのニコロ!私たちは冒険者よ?いろんなところを旅しているの!だからニコロの町にもきっと行くわ。そのときは仲良くしてね?」
「も、もちろん。…ごめんモニカ、離れてくれない?ちょっとドキドキするから…」
「あっ、ごめん!」
「モニカもアーサーも距離感がおかしいからなあ…」
「にしし。ニコロ、顔真っ赤だぞ?」
「うるさいな。さっきリーノだって真っ赤だったじゃないか」
「そ、そんなことないしっ!」
モニカ、リーノ、ニコロは雑談しながらアーサーの帰りを待った。二人が何度お願いしても、モニカは恥ずかしがって絵を描いてくれなかった。ヴァジーに懐いているリーノは、絵を描いている彼に構いにいくのでものすごく嫌がられていた。初めてクロネたちの絵を見たニコロは、夢中になってキャンバスを眺めている。
「ニコロ、そんなにクロネの絵をじーっと見てどうしたの?」
「いや、俺の知ってる絵画じゃないから興味深くて。ほら、よくある絵画って堅苦しくて見ててしんどいだろ?でもこの絵はなんか…そうじゃないから」
どうせバカにされるのだろうと思ってニコロを無視していたクロネが手を止めた。ゆっくりと振り返り、彼の目をまっすぐと見る。
「…驚いたな」
「ん?俺なにか変なことを言った?」
「いえ。まさか俺の絵をそう言ってくれる人がモニカたち以外にもいるとは思わなくて」
「そうかな。今の絵画界って面白くないじゃん。頭かたいおじいさんたちが好きな絵ばっかりでさ。宗教画だって、なにかと理由づけてるけど結局女の人のはだかを描きたいだけじゃん」
「ははは!もっと言ってやって欲しいな!」
「おいクロネ!ヴィーフ子爵のご子息だぞ!言葉遣いには気を付けろ!」
「おっと、申し訳ありません。つい」
「いや、気にしないで。あんまり堅苦しいの好きじゃないから。…それよりこの技法はなに?」
「ああ、これは色彩分割と言って…」
「へー。ニコロって絵に興味があったんだな。知らなかった」
クロネの説明を熱心に聞いているのを見て、リーノは少し驚いていた。ヴァジーは彼を眺めながら目じりを下げており、モニカはどこか誇らしげだった。
遠くで絵を描いていたリュノとシスルもこっそりとその様子を眺めていた。リュノはフッと笑いキャンバスに目を戻す。単色の絵具をたっぷり筆に付け、キャンバスに乗せながらポソリと呟いた。
「新しい波が来ているね。ゆっくりと…。でも、確実に」
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