【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

文字の大きさ
240 / 718
異国編:ジッピン前編:出会い

【260話】商談開始

しおりを挟む
ヒデマロは恥ずかしそうに自分のウキヨエを1枚持ってきた。それを床に広げ、顔を手で覆いながらキヨハルのうしろに隠れる。海に浮かぶ2隻の船の絵。画家と双子は床に広げられた木版画を覗き込んで「おぉぉ!!」と歓声をあげた。

「すばらしい…!なんと美しいんだ…!」

「昨日も思ったがジッピンの絵師は空間の描き方が美しい…!」

「わー!アーサー!すっごくきれいだね!クロネたちの絵とはまた違った良さがあるわ!」

「本当に!きれいだなあ」

「うわぁぁ…恥ずかしすぎるぅ…。喜代春さん、彼らなんて言ってるんですか…?反応的に気に入ってくれてるのはなんとなく分かるんですけど…」

「さあ。私もバンスティンのことばはあまり知らないから分からないな…。子どもたちが"きれいだ"と言っているのは分かるけれど…」

「ヒデマロさん!他にあなたのウキヨエはあるかな?!」

「?」

「?」

興奮しすぎてヴァジーがバンスティンのことばでジッピン人に話しかけた。二人とも首を傾げていたのでハッとし、すぐにジッピンのことばで言い直す。ヒデマロは気まずそうに首を横に振った。

「いやぁ…。実はまだそれしかなくてですね…。俺、本当の浮世絵師じゃないんで…。その浮世絵は喜代春さんが遊び半分で力を貸してくれたから作れたんです。俺にはまだ版元がないので…」

「ああそうか。ウキヨエは木版画だから自分一人では作れないのか。ヒデマロが描いた絵を板に彫る人、紙に摺る人、そしてそれを売ってくれる人が必要だろうから…」

「そう。残念ながらヒデマロには版元がいないから彫師や摺師もついていない。この浮世絵は私が趣味で彫師と摺師に頼んだんだ。良い出来だろう?」

まるで自分が描いたかのように自慢げにヒデマロの浮世絵を見せるキヨハルに、クスクス笑いながらヴァジーが頷いた。

「ええ。素晴らしいです。彼にまだ版元がついていないなんて信じられない…」

「なに。彼はまだ若いからね。これからだ」

「いやぁ…。俺の浮世絵は新しすぎてなかなか受け入れられないですよ。当分ね」

「そうだね。君は浮世絵の世界を変えるだろう」

「確かに昨日見たウキヨエとは全く別物ですね。どちらも素敵だ」

「ヴァジー!キヨハルに聞いてくれ!ヒデマロのウキヨエは買い取れないのかどうか!」

ヒデマロのウキヨエがいたく気に入ったのか、必死の形相でカユボティがヴァジーを小突いている。鼻息を荒くしている彼に代わり、ヴァジーがキヨハルとヒデマロに話をもちかけた。

「キヨハルさん、ヒデマロさん。カユボティからのお願いです。どうかヒデマロさんのウキヨエを買い取らせていただけないでしょうか」

「えっ?!」

「ふむ…」

突然の申し出にヒデマロがぎょっと体をのけぞらせた。キヨハルは予想していたのか、扇子で口元を隠してヴァジーとカユボティを見定めるような視線を送る。隣に座っていたヒデマロだけが、扇子の奥でニヤニヤ笑っていることに気付いていた。

「さて、では商談に入ろうか。ヴァジー、カユボティ。ここからが君たちの腕の見せ所だ」

「出たな本性が…」

ヴァジーが苦々し気に笑いながらバンスティンのことばで悪態をついた。その様子にカユボティも状況を察したようだ。

「始まったのかい?」

「ああ。カユボティ、頼んだぞ」

「ふう…。私はどうしてもヒデマロの絵を買い取りたい。しかも、これは木版画だ。できるだけ多く欲しい。そしてできるなら今後もその関係を続けたい。あと…バンスティンへ卸すのは私を通してのみにしてほしい。だが…損はしたくないよねえ、ヴァジー?」

「君らしい欲張りな希望だな」

「欲張りでなければジッピンにまで足を運ばないさ」

「確かに」

画家二人のやりとりを聞いていた双子は、むずかしい話に首を傾げた。どうやらカユボティとヴァジーがヒデマロのウキヨエを買い取ろうとしていることだけは分かったが、大人の駆け引きにはついていけていない。

「金額はどうする?」

「昨日キヨハルはウキヨエの相場は300~400ウィンと言っていたね?」

「ああ。だがこのウキヨエは版元を通さずキヨハルさんが趣味で摺らせたものだ。そう安くは買い取らせてくれないだろうな」

「ふむ。だがヒデマロは学生だ。本業でもないんだろう。だったら…1枚500ウィンから始めようか」

「…そうだな。そこからだとヒデマロにも失礼ではないだろう」

「上限は1000ウィンまで。頼むよヴァジー」

「きついなぁ…。きっとキヨハルさんは5,000ウィンくらいは狙っているぞ」

「ふふ。甘いね。キヨハルは10,000ウィン程度で売りたいはずだ。始まりは…50,000ウィンあたりかな?くすくす」

「まったく…。面白がっているな?」

「ああ。面白い。私はこの瞬間が大好きだ。1,000ウィンにおさめられたら、ご褒美にクロネに良い画材を新調してあげようかな」

「なぜ僕じゃなくてクロネにご褒美が与えられるんだ…」

「話はまとまったかな?」

待ちかねたキヨハルは扇子をぱちんと音を立てて閉じる。ヴァジーはジッピンのことばで「ええ…」と答えて姿勢を正した。

「カユボティはヒデマロのウキヨエを是非買い取らせて欲しいと言っています。今後、ヒデマロが新しいウキヨエを描いたときも。そして、バンスティンへ販売するときは、カユボティを専属の買い取り口にしていただきたい」

「なるほど。さすがカユボティ。わがままな希望だね」

「ははは…」

「無限袋…アイテムボックスも、他のバンスティンの商品や素材も…カユボティの口車に乗せられて彼からしか買い取らせてもらえない契約を結んでしまったし。本当に彼は…無害そうに見えてなかなかのやり手だねえ。実はね、今日はそのお返しをしたくてヒデマロを紹介したんだよ」

「……」

「彼の浮世絵を見て君たちは欲しくて欲しくてたまらなくなっただろう?君たちは先見の目を持っている。無名でも学生でも、ヒデマロの絵の素晴らしさと可能性に気付いただろう。喉から手が出るほど欲しいだろう?ふふ」

「あなたはそういう人でしたねえ。それを言うならこちらはアイテムボックスやバンスティンの商品を破格の値段まで引き下げられたんですがね。お互い様でしょう」

「おやおや。それはこちらも同じこと。まったく。ジッピンに来たバンスティン人があなたたちでなければ、3倍の値段でジッピンの素材を卸せたというのに」

「ふふ。それは残念でしたね。今回もあなたの思惑を潰してみせますよ」

「楽しみだ…。では…始めようか。始まりの値を言うよ」

そう言ってキヨハルは扇子を開いた。焦らすようにそれをちらつかせ、再びそれを閉じる音と同時に二人が値を出す。

「500ウィン」

「50,000ウィン」
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。