【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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異国編:ジッピン前編:出会い

【264話】商談成立

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とんでもない値から始まったクロネたちの絵画は、キヨハルとカユボティが火花を散らした結果300,000ウィンで落ち着いた。1,000,000ウィンと聞いたとき、さすがのキヨハルも口元を引きつらせてピキピキ青筋を立てていた。ヴァジーでさえひっくり返ったほどだ。300,000ウィンに落ち着き、キヨハルもカユボティも満足げにしている。

「まったく。彼は容赦という言葉を知らないのかな…」

「あなたもですけどね…」

ため息をつきながら呟くキヨハルに、ヴァジーが小さな声でつっこんだ。聞こえなかったのかフリなのかは分からないが、キヨハルはその言葉を無視してアーサーに向き直った。

「アーサー、では買い取らせてもらうよ」

「ウン!ドレ オシイ?」

「うーん…。君はどれを残したい?」

「エッオ…チョッオ マッエ。モニカ、どの絵を残したい?僕たちにはまだ家にたくさん大きい絵があるから、本当に欲しい絵だけ持って帰ろう」

「分かった!えっとね!この絵と…この絵と…」

モニカはそれぞれの画家の絵を1枚ずつ選んでアイテムボックスに戻した。モニカのチョイスに画家2人もキヨハルも感心したように目を見開いている。

「ほう…。すべて私が狙っていた絵だったよ。残念残念」

「ええ。彼女が選んだ絵はそれぞれの画家の一番良い絵でしたね」

「モニカ…。君は絵を見る目があるね。ふむ…」

カユボティが思案し始めた様子を見て、またなにか企んでいるとヴァジーとキヨハルはすぐに分かった。二人は目を見合わせてくすりと笑ってから、まだ残っている話し合いを進めた。

「では整理しようかヴァジー。ヒデマロの浮世絵は1枚5,000ウィンで売ろう。枚数は…そうだな、特別に一杯…200枚摺ってあげよう。いいね?」

「ありがとうござます。それでお願いします」

「またヒデマロが浮世絵を描いたら、それも一杯摺ってあげる。ヒデマロ、君の絵はカユボティたちに1枚5,000ウィンで売る。そのうちの6割を君に渡そう」

「えっ?!そんなに?!」

「ああ。だが君は金遣いが荒いから…僕が預かっていてあげる。そしてその資金が貯まったら異国へ絵の勉強に行くといい。ずっと夢だったんだろう?異国へ行くことが」

「はい!!ありがとうござます!!」

「だからたくさん浮世絵を描いて」

「がんばります!!!」

やる気満々になったヒデマロににっこり笑ったあと、キヨハルがクロネの絵を1枚手に取った。

「それで、私は君たちの絵画を1枚300,000ウィンで買い取ろう。今回は…30枚だね」

「はい。ありがとうございます。アーサー、モニカ。この絵はもう君たちのものだから、絵を売って得た儲けはもちろん全額君たちのものだよ」

「え?!そんなぁ!僕たちなにもしてないのに…」

「そうよ!クロネたちの絵がすごかったからキヨハルさんは買い取ってくれたのよ!これはクロネたちの儲けよ!」

「うーん、僕たちはそういう仕事をしているんだがなあ…」

一向に首を縦に振ろうとしない双子に、ヴァジーは困って頭を掻いた。欲のない二人に驚きながら、カユボティが言って聞かせる。

「アーサー、モニカ。君たちは立派な仕事をしたんだよ。異国へ渡り、そこで売れそうなものを出して商人と交渉をした。その手数料が、今君たちが得た儲けだ。受け取りなさい」

「でもそんなの…」

「そう思うなら、儲けたお金でまたクロネたちの絵を買ってあげたらいい。ただお金を渡すよりそっちのほうが、画家にとって嬉しいものなんだ」

「…分かった!」

「バンスティンに帰ったら、またクロネたちの絵をたくさん買う!!」

「そうしてあげて」

「うん!!」

こうしてカユボティはヒデマロの浮世絵を1枚5,000ウィンで買い取らせてもらえることになり、その上仲間たちの絵画を30枚も買い取ってもらうことができた。、ヴァジーとカユボティは満足そうにヒデマロの家を出る。見送るために玄関先までついてきたヒデマロにハグをして(ヒデマロはハグに慣れていないのかガチガチに緊張していた)、ヒデマロが見えなくなるまで手を振ったり振り返ったりして別れを惜しんだ。

「あれ?モニカ、早速ワキザシを腰にさしてきたんだね」

「あー!やっと気付いてくれたぁ」

町を歩いているとき、アーサーがモニカのワキザシに気付き声をかけた。モニカは嬉しそうにそれを見せびらかす。

「どう?!かっこいい?」

「かっこいいー!強そうだよモニカ!」

「えへへー!!アーサー聞いて!これね、前はウスユキが持ってたらしいの!」

「ふぎゃっ」

「びっくりだよね!ウスユキが言ってたんだけど、私とウスユキは深いエニシで繋がってるらしいよー!すごいよねー」

「んぎゅぅ…」

「なあにアーサー。変な声出して」

「な、なんでもない!よかったね!!」

「アーサー?ちょっと、アーサー!」

アーサーはぷぅと頬を膨らませ、モニカを置いてずんずんと早足で歩いて行った。モニカが追いかけて手を掴んでも、振りほどくまではしないまでもアーサーはその手を握り返してくれなかった。ツンとしたままヴァジーの腕にしがみつき、彼とジッピンのことばで話し始めたのでモニカには何を言っているのか分からない。それが寂しくてモニカのむねがきゅっと苦しくなった。

「ヴァジー…。モニカ ウスユキノ コオ バッカリ アナス…」

「ウスユキ?誰だい?」

「モニカ ケガ サセタヒオ…。ケガ ナオシエカラモ アッエル。モニカ ウスユキノ コオ アナスオキ アノシソウ…」

「ふふ。モニカの次はアーサーがやきもちをやいているのかい?忙しい兄妹だねえ」

「ボク イイ オニイサン ダカラ ヤキモイ ヤイチャ ダメ。ワカッエルノニ モニカ ウスユキ アナスノ キクオ ムネ ムズムズ スル」

「直接言えばいいのに」

「ウウン。コンナコオ モニカニ イイアクナイ。ダメナ オニイサンニ ナッチャウ」

「いいお兄さんなら、隣にモニカがいるのにジッピンの言葉で話して仲間外れにしちゃいけないよ」

「ウウ…」

「アーサー。いいお兄さんになりたいなら、自分の気持ちをちゃんとモニカに伝えるか、いつもと同じように接してあげるかのどっちかにしなさい。中途半端なことをするとモニカだってかわいそうだよ」

「ソウダネ…。ゴメンナサイ。…モニカ、ごめんね」

反省したアーサーは、モニカの手を握り返してバンスティンのことばで声をかけた。しょんぼりしているモニカは、上目遣いで兄を見る。

「…どうして謝るの…?」

「モニカがいるのにジッピンのことばで話しちゃって。寂しかったよね」

「うん…。さっきからずっと、みんな分からないことばで話すから寂しいよ…」

「分かるよ。私もジッピンのことばはさっぱり分からないからね。モニカ、なかまなかま」

カユボティが泣きそうになっているモニカの頭に手を置いて笑いかけた。モニカはクスっと笑いカユボティの手を握る。バンスティン人が4人並んで手を繋いでいるのを、キヨハルは微笑まし気に眺めてヴァジーに言った。

「まるで家族みたいだね」

「ええ。家族を持ったらこういう気持ちになるのかなとちょうど考えてました。かわいらしくて、世話が焼けて…とても、愛おしいですね」
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