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異国編:ジッピン後編:別れ
【289話】記憶の旅
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◆◆◆
夢を見た。夢の中のモニカは、神水を探すために森の奥深くを歩いていた。この森には一滴の穢れもない神水が流れているらしい。奥へ奥へと進んでいくと、川のせせらぎが聞こえてきた。音を辿ってさらに奥へ進む。そこには小さな小川が流れていた。
「おお、これが神水」
モニカは膝を曲げて水を汲んだ。一筋の風がモニカの頬を撫でる。風は白い花びらも運んできた。
「これは…桜の花びら?」
立ち上がり小川を飛び越える。川を越えた途端、空気が冷たくなった気がした。心地の良い風が花びらを躍らせている。モニカは少しわくわくしながら森を駆けた。
「おお…」
木々の群れを抜けるとそこには立派な桜の大木が佇んでいた。今まで見たことのない、淡い淡い桜色の花びらが満開に咲き乱れている。その美しさに、モニカの胸が熱くなった。
◆◆◆
次の日も夢を見た。モニカの手には脇差が握られている。彼女は緊張した面持ちで、またあの森へ足を踏み入れた。桜の大木の前で跪き、脇差をそっと差し出し鞘から抜いた。
「美しい桜の大木様。私はあなたに心打たれ、あなたのことを想いながらこの脇差を打ちました。この森の神水を使い、上質な鉄で仕上げたものです。あなたに一目見ていただきたくてお持ちしました」
俯いていると、ふわりと花の香りがした。頭を上げようとしたら、なにかにそっと頭を押さえられる。モニカの手から脇差が離れ、香りの主の声がした。
「美しいですね」
「っ…」
「いただいても?」
「っ、はい…!」
「ありがとう」
声の主はそう言うと、そよ風と共に姿を消した。モニカはおそるおそる顔を上げたが、そこには誰もいなかった。そして脇差もなくなっていた。
「…あれ…?」
体に違和感を抱いたモニカは自分の両手を見た。刀を打ち続けてボロボロだった手が、女性のようにつやつやになっている。持病だった胸の痛みもすっかり消え、数十年ぶりに肺一杯に息を吸い込むことができた。
「…あれは、桜の神さまだったんだ。脇差のお返しに体を治してくださったんだ…。これはすごい…。みんなに教えてあげないと」
◆◆◆
夢は続く。モニカは泣きじゃくっていた。怒りと悲しみで胸が苦しく、どうして気持ちを分かってくれないのかと叫んでいた。そんなモニカを見知らぬ男性が抱きあげている。困ったような呆れたような表情でモニカを見ていた。
「あいつらはお前をめちゃくちゃにしたんだぞ!!!殺してなにが悪いんだよボケぇ!!」
「この子たちには関係ないだろう。彼らはただ私に神酒を奉げに来てくれただけだよ。枝も折ろうとしないし、根も踏まないよう気を付けてくれていた。それなのに君は…」
「知るか!!どうせこいつらも放っといたら調子に乗って枝折ったりなんやかんやした!!お前のこと傷つけた!!だからそうなる前に殺したんだそれのどこが悪いんだよクソがぁっ!」
「決めつけるのは君の悪い癖だ。いい加減にしないか」
「なんで分からねぇんだよ!!お前どんどん妖気穢れてきてんだぞ!!穢れに弱いお前の体はもうボロボロだ!!お前だって気付いてんだろ!!このままじゃっ、このままじゃ…っ!」
「かまわない。それでヒトが幸せになるのなら」
「アホボケェェエ!!◆◆◆のボケェッ!!クソがァァッ!!もう知らん!!お前なんかもう知らねぇ!!そんなに死にてぇんなら一人で死ね!!俺はもうお前と一緒にいたくない!!クソがぁっ!!弱っていくお前なんか見たくねぇんだよぉぉっ!!だからっ…もうヒトなんて…」
「そうか。残念だけど君がそう言うなら…。君を手放そう」
「えっ」
「今まで200年。一緒にいてくれてありがとう」
「いやっ、ちょ、待て…」
「君は口が悪くてうるさかったけれど、我が子のようにかわいいと思っていたよ」
「ちがっ、俺はただお前の…っ」
「さようなら、愛しい◆◆◆。またいつか会うことがあれば、そのときは仲よくしよう」
「待てっ、まっ、うわぁぁぁっ…!!クソボケコラァァァ…」
男性が扇子を振ると、モニカは空高く吹き飛ばされた。ここから遠い山へ落ち、そこでモニカは悪態をつきながら三日三晩大声で泣き続けた。
◆◆◆
その夢ではモニカは着物を身に着けていた。アーサーと手を繋ぎ、桜の大木にもたれかかって目を瞑っている男性の前に立った。モニカとアーサーは彼の肩を揺する。
「ヌシサマ」
「ん…。どうしたんだい?」
「元気ない。まだ傷が癒えない?」
「ああ…。大丈夫だよ。◆◆◆のおかげで穢れも清められたからね」
男性はゆっくりと立ち上がり、アーサーとモニカの頭を撫でる。双子は心配そうに彼を見上げた。
「でも…」
「元気ない」
「そうだね…。もうヒトに会えないのかと思うと寂しくて」
「私たちがいる」
「◆◆◆も近くにいる」
「ありがとう。せめて◆◆◆に会えたらまだましなのかな」
「私たちじゃだめ…?」
「そんなことないよ。君たちのおかげで救われている」
「よかった」
「ずっとそばにいる」
「ありがとう。…ねえ、こっそりヒトを連れてきてくれないかな」
「だめ」
「◆◆◆に怒られる」
「そこをなんとか」
「…どうしてもヒトの手が必要になったとき」
「そばにいてもヌシサマを穢さない清らかなヒトがいたら」
「連れてくる」
「ふむ。ではその時を楽しみに待っておこうかな」
「それがいい」
「ヌシサマ。あそぼ」
「いいよ。あそぼうか」
◆◆◆
最後に見た夢は夜の森から始まった。モニカの隣に立っている男性は、遠い目をして微笑んでいる。呆れているような、それでいて愛おしそうな表情。その表情があまりにも儚げで、モニカは無意識に彼の手を握っていた。
「ん?」
「あ、ごめんなさい!なんだか◆◆◆が今にも消えちゃいそうに思っちゃって…」
「消えませんよ。ここに閉じ込められ、ヒトの目に映らず、清らかな生命力を与え続けられている私は消えることができません。月日が流れるごとに妖力が増すばかり。妖力が増したところで、ヒトの苦しみを祓うこともしてやれないのに」
「◆◆◆…」
男性は土に膝をつきモニカと目線を合わせた。彼女の頬を両手で包み、なんとも寂し気な表情で微笑んだ。
「あなたと…ヒトと話すことはなんて楽しいことでしょう」
「……」
「表情がころころ変わり、大声で騒ぎ、そして…とてもあたたかい」
「……」
「私をその目に映してくれてありがとう」
彼の表情を見ていると胸が苦しくなった。なぜか分からないが喉元が熱くなり、目じりにじんわり涙が滲む。モニカはぶんぶんと首を横に振り、彼の頭をぎゅっと抱き寄せた。
「ううん!私のほうこそ、私の目に映ってくれてありがとう。◆◆◆、◆◆◆、私を◆◆◆の元に連れて来てくれてありがとう」
男性は微笑み、そっと立ち上がる。
「◆◆◆、桜の枝が欲しいんですよね?」
「え?」
「特別に私の枝を一本あげましょう。誰にも内緒ですよ」
男性はそう言いながら細い枝を二本手折った。先に桜の花が付いているその枝を、モニカの髪に当てて目じりを下げる。
「その髪の色によく似合う」
「本当にもらっていいの…?」
「もらってほしい。そして私のことを忘れないでほしい」
モニカは男性から受け取ったその枝を、ぎゅっと握り大きく頷いた。
「絶対にわすれないよ!だって◆◆◆と、◆◆◆と◆◆◆は、私のはじめてのともだちなんだもん!!」
◆◆◆
夢を見た。夢の中のモニカは、神水を探すために森の奥深くを歩いていた。この森には一滴の穢れもない神水が流れているらしい。奥へ奥へと進んでいくと、川のせせらぎが聞こえてきた。音を辿ってさらに奥へ進む。そこには小さな小川が流れていた。
「おお、これが神水」
モニカは膝を曲げて水を汲んだ。一筋の風がモニカの頬を撫でる。風は白い花びらも運んできた。
「これは…桜の花びら?」
立ち上がり小川を飛び越える。川を越えた途端、空気が冷たくなった気がした。心地の良い風が花びらを躍らせている。モニカは少しわくわくしながら森を駆けた。
「おお…」
木々の群れを抜けるとそこには立派な桜の大木が佇んでいた。今まで見たことのない、淡い淡い桜色の花びらが満開に咲き乱れている。その美しさに、モニカの胸が熱くなった。
◆◆◆
次の日も夢を見た。モニカの手には脇差が握られている。彼女は緊張した面持ちで、またあの森へ足を踏み入れた。桜の大木の前で跪き、脇差をそっと差し出し鞘から抜いた。
「美しい桜の大木様。私はあなたに心打たれ、あなたのことを想いながらこの脇差を打ちました。この森の神水を使い、上質な鉄で仕上げたものです。あなたに一目見ていただきたくてお持ちしました」
俯いていると、ふわりと花の香りがした。頭を上げようとしたら、なにかにそっと頭を押さえられる。モニカの手から脇差が離れ、香りの主の声がした。
「美しいですね」
「っ…」
「いただいても?」
「っ、はい…!」
「ありがとう」
声の主はそう言うと、そよ風と共に姿を消した。モニカはおそるおそる顔を上げたが、そこには誰もいなかった。そして脇差もなくなっていた。
「…あれ…?」
体に違和感を抱いたモニカは自分の両手を見た。刀を打ち続けてボロボロだった手が、女性のようにつやつやになっている。持病だった胸の痛みもすっかり消え、数十年ぶりに肺一杯に息を吸い込むことができた。
「…あれは、桜の神さまだったんだ。脇差のお返しに体を治してくださったんだ…。これはすごい…。みんなに教えてあげないと」
◆◆◆
夢は続く。モニカは泣きじゃくっていた。怒りと悲しみで胸が苦しく、どうして気持ちを分かってくれないのかと叫んでいた。そんなモニカを見知らぬ男性が抱きあげている。困ったような呆れたような表情でモニカを見ていた。
「あいつらはお前をめちゃくちゃにしたんだぞ!!!殺してなにが悪いんだよボケぇ!!」
「この子たちには関係ないだろう。彼らはただ私に神酒を奉げに来てくれただけだよ。枝も折ろうとしないし、根も踏まないよう気を付けてくれていた。それなのに君は…」
「知るか!!どうせこいつらも放っといたら調子に乗って枝折ったりなんやかんやした!!お前のこと傷つけた!!だからそうなる前に殺したんだそれのどこが悪いんだよクソがぁっ!」
「決めつけるのは君の悪い癖だ。いい加減にしないか」
「なんで分からねぇんだよ!!お前どんどん妖気穢れてきてんだぞ!!穢れに弱いお前の体はもうボロボロだ!!お前だって気付いてんだろ!!このままじゃっ、このままじゃ…っ!」
「かまわない。それでヒトが幸せになるのなら」
「アホボケェェエ!!◆◆◆のボケェッ!!クソがァァッ!!もう知らん!!お前なんかもう知らねぇ!!そんなに死にてぇんなら一人で死ね!!俺はもうお前と一緒にいたくない!!クソがぁっ!!弱っていくお前なんか見たくねぇんだよぉぉっ!!だからっ…もうヒトなんて…」
「そうか。残念だけど君がそう言うなら…。君を手放そう」
「えっ」
「今まで200年。一緒にいてくれてありがとう」
「いやっ、ちょ、待て…」
「君は口が悪くてうるさかったけれど、我が子のようにかわいいと思っていたよ」
「ちがっ、俺はただお前の…っ」
「さようなら、愛しい◆◆◆。またいつか会うことがあれば、そのときは仲よくしよう」
「待てっ、まっ、うわぁぁぁっ…!!クソボケコラァァァ…」
男性が扇子を振ると、モニカは空高く吹き飛ばされた。ここから遠い山へ落ち、そこでモニカは悪態をつきながら三日三晩大声で泣き続けた。
◆◆◆
その夢ではモニカは着物を身に着けていた。アーサーと手を繋ぎ、桜の大木にもたれかかって目を瞑っている男性の前に立った。モニカとアーサーは彼の肩を揺する。
「ヌシサマ」
「ん…。どうしたんだい?」
「元気ない。まだ傷が癒えない?」
「ああ…。大丈夫だよ。◆◆◆のおかげで穢れも清められたからね」
男性はゆっくりと立ち上がり、アーサーとモニカの頭を撫でる。双子は心配そうに彼を見上げた。
「でも…」
「元気ない」
「そうだね…。もうヒトに会えないのかと思うと寂しくて」
「私たちがいる」
「◆◆◆も近くにいる」
「ありがとう。せめて◆◆◆に会えたらまだましなのかな」
「私たちじゃだめ…?」
「そんなことないよ。君たちのおかげで救われている」
「よかった」
「ずっとそばにいる」
「ありがとう。…ねえ、こっそりヒトを連れてきてくれないかな」
「だめ」
「◆◆◆に怒られる」
「そこをなんとか」
「…どうしてもヒトの手が必要になったとき」
「そばにいてもヌシサマを穢さない清らかなヒトがいたら」
「連れてくる」
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「いいよ。あそぼうか」
◆◆◆
最後に見た夢は夜の森から始まった。モニカの隣に立っている男性は、遠い目をして微笑んでいる。呆れているような、それでいて愛おしそうな表情。その表情があまりにも儚げで、モニカは無意識に彼の手を握っていた。
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「あ、ごめんなさい!なんだか◆◆◆が今にも消えちゃいそうに思っちゃって…」
「消えませんよ。ここに閉じ込められ、ヒトの目に映らず、清らかな生命力を与え続けられている私は消えることができません。月日が流れるごとに妖力が増すばかり。妖力が増したところで、ヒトの苦しみを祓うこともしてやれないのに」
「◆◆◆…」
男性は土に膝をつきモニカと目線を合わせた。彼女の頬を両手で包み、なんとも寂し気な表情で微笑んだ。
「あなたと…ヒトと話すことはなんて楽しいことでしょう」
「……」
「表情がころころ変わり、大声で騒ぎ、そして…とてもあたたかい」
「……」
「私をその目に映してくれてありがとう」
彼の表情を見ていると胸が苦しくなった。なぜか分からないが喉元が熱くなり、目じりにじんわり涙が滲む。モニカはぶんぶんと首を横に振り、彼の頭をぎゅっと抱き寄せた。
「ううん!私のほうこそ、私の目に映ってくれてありがとう。◆◆◆、◆◆◆、私を◆◆◆の元に連れて来てくれてありがとう」
男性は微笑み、そっと立ち上がる。
「◆◆◆、桜の枝が欲しいんですよね?」
「え?」
「特別に私の枝を一本あげましょう。誰にも内緒ですよ」
男性はそう言いながら細い枝を二本手折った。先に桜の花が付いているその枝を、モニカの髪に当てて目じりを下げる。
「その髪の色によく似合う」
「本当にもらっていいの…?」
「もらってほしい。そして私のことを忘れないでほしい」
モニカは男性から受け取ったその枝を、ぎゅっと握り大きく頷いた。
「絶対にわすれないよ!だって◆◆◆と、◆◆◆と◆◆◆は、私のはじめてのともだちなんだもん!!」
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