【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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初夏編:田舎のポントワーブ

【343話】田舎のポントワーブ

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花びらと光が舞う寝室で目覚めたアーサーとモニカは、しばらくベッドでゴロゴロしながらそれらを掴んだり撫でたりして遊んでいた。すると音もなく寝室のドアが開きベニートが静かに入ってきた。

「んあっ?ベニート!」

「おはよぉー!!」

「なんだもう起きてたのか。朝早くに悪い」

「大丈夫だよ!」

「そんなコソコソしてどうしたのー?」

「アーサー、モニカ。空が明るむ前に服を着替えてついてきてくれ。事情はあとで話す」

「?」

わけが分からないまま双子は服を着替えた。ベニートはクローゼットからありったけの服を取り出してアイテムボックスに詰め込んでいる。荷造りを終えたベニートは、双子の手を引いて馬車に乗り込んだ。

「……」

「……」

「……」

「…あの、ベニート…」

「あ、ああ。すまないな。そんな怖がらなくてもいい。カミーユさんたちに会いに行くだけだ」

「カミーユたち…?」

「カミーユ、家にいないの?」

「ああ。今、4人はポントワーブの田舎でこっそり生活してる」

「どうして?」

「カミーユさんたち、S級冒険者だろ?」

「うん」

「S級冒険者ってのは、指定依頼を断ることができない。それは知ってるな?」

「うん」

「ここ長らく、カミーユさんたちは国からの指定依頼で休む間もなく働かされてたんだ。その結果が、アレさ」

ベニートの言葉に双子は顔を伏せた。弱り切ったカミーユたちの姿は今でも鮮明に覚えている。

「…普段のカミーユさんたちなら、あそこまでの致命傷を食らうはずはなかった。疲弊した状態で高ランクのダンジョンに潜らされ、変異種のヒト型魔物とかち合うなんて最悪の状況だ」

「……」

「お前らのおかげでなんとか一命を取り留めたが、まだカミーユさんたちは万全じゃない。不幸中の幸いで、あの依頼が彼らが引き受けていた最後の指定依頼だったんだ。だから今はゆっくり休みたいってのがカミーユさんたちの本音だ。…だが、カミーユさんたちが生きてることを知られたら、また指定依頼を出されるだろう。だから今は、生きてることを内緒にして家にも帰らずこっそり田舎で暮らしてるのさ」

「そんな…カミーユたちが怪我してるって言ったら、指定依頼止めてくれないの…?」

アーサーがそう尋ねると、ベニートは苦々しげに鼻で笑った。

(怪我してるって言ったら余計高ランクダンジョンの指定依頼出されるっつーの。…って、事情も知らないこいつらにそんなこと言えないしな。カミーユさんから口酸っぱく口止めされてるし)

「ああ。S級ってのはそんな甘くないからな。ま、カミーユさんたちは田舎暮らし楽しんでるから安心していいぞ。小旅行気分ではしゃいでる」

「あはは!カミーユたちらしい!」

「で、お前らに会いたいってワガママ言われてな。それで寝ぼけてるお前らを馬車に突っ込んで今向かってるってわけ」

「そうだったんだー!」

「早く会いたいねー!」

カミーユたちに会うのが楽しみでいてもたってもいられなくなったモニカは、馬車の窓から身を乗り出して田舎の風景を見た。まだほんのり暗かったが見覚えのある景色にぱっと顔を輝かせる。

「あっ、見てアーサー!ここ、私たち知ってる!」

「ほんとだ!トロワの野菜を買い付けに行ったとこだね!」

「ブグルの家に近いかも!」

「僕、このあたりのどかで好きだな~」

「わたしもすきー!」

「ふっ。カトリナさんも好きだと言っていたな。こっちでずっと暮らしたいって言ってた」

「ちょっと分かるかも!」

「リアーナさんはつまんないってぶーたれてたよ。あの人は都会の方が好きみたいだ」

「きゃはは!想像できる!!」

「ジルさんはどっちでも良さそうだったな。どこでもいいから早くお前らに会いたいって言ってた。…ジルさん、お前らのことになったら人格変わるよな?」

「あ、うん!ジル、僕たちのことになったらよく大声あげるよね」

「あげるー!いつもは聞き取りづらいくらいボソボソ喋るのにね!」

「へー。ジルさんが大声ねえ…。想像できないな」

「それで?!カミーユは?!」

「カミーユはなんて言ってるの?!」

「カミーユさんは酒がうまいって喜んでたな」

「あはは!カミーユらしいねー!」

そんな取り留めのない話をしているとあっという間に目的地へ到着した。馬車を走らせて1時間ほどの場所に建っている、大きくも小さくもないレンガ造りの家。塀には"カールソン"という表札がかかっていた。

「カールソン…?」

「カミーユさんの偽名だそうだ。カミーユさんのパーティーはそこら中にアジトを持ってるらしい。普通に本名名義で持ってるアジトもあるが、カールソン名義で持ってるのもいくつかあって、目立ちたくないときは素性を隠してしばらくカールソン家として変装して過ごすんだと。ま、S級冒険者ってどこ行ったって目立つからな…。たまには一般人としてのんびり暮らしたいんだと思う」

「おおおー!」

「すごい!有名人みたい!」

「世界的な有名人なんだよ…」

「ねえベニート!カールソン家を名乗って変装してるカミーユたちってどんな感じなの?!」

「カミーユさんが世帯主、カトリナさんが奥さん、ジルさんがカミーユさんの弟で、リアーナさんがジルさんの奥さんって設定だったかな。みんなカツラかぶったり眼鏡かけたりしてるからほんとに別人みたいだぞ。偽名は、カルロス、キャシー、ジョージ、リナ、だった。たしか」

「えええー!!はやく見てみたいなーー!!!」

「あ!!アーサー!いいこと考えた!!」

「なになに?!」

「この前さ、入れ替えっこしたじゃない?!カミーユたちにもやってみない?!」

「わ!いいねー!!」

「え、お前ら、なにを…」

「ちょっとだけ待っててねベニート!」

「すぐ戻る~!」

アーサーとモニカはそう言い残して馬車へ引き返した。ベニートがポカンと塀の前で待つこと30分、アーサーとモニカが戻って来た。特段変わったところは見受けられない。

「…?お前らなにしてたんだ?」

「ううん!なにも!」

「そ、そうか…?」

「うん!待たせてごめんね!はやくいこ!」

「あ、ああ」

双子に手を引かれベニートは玄関の前に立つ。ちらりと二人を見たが、やはりいつもと変わらなかった。ベニートは首を傾げながらノックをした。2回、3回、1回、2回とノックをすると、家の中から3回ノックが返ってきた。それにベニートが2回ノックで返し、やっと玄関の扉が開いた。
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