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魂魄編:闇オークション
ヴァルタニア家の髪
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ハーフエルフの少女は白金貨1万枚で落札された。
落札した男性が少女を引き取りに行くが、彼女は泣き叫んで檻にしがみついて離れない。そんな彼女をルリンが鞭で痛めつけ、無理矢理檻から引きずり出した。
「いやだ!! 帰して!! おうちに帰してぇぇっ!! おかあさん!! おとうさん!!」
少女の叫び声が会場に響き渡る。観客はそれすらも楽しんでいるようで、拍手や口笛を返している。
落札した男性が彼女を猿ぐつわをして、手と足を縄で縛り、片手で担いで会場を出た。どうやらハーフエルフを手に入れることができて、大満足した彼は帰るようだ。
モニカは顔を手で覆ってうなだれていた。血が出るほど唇を噛み、わなわなと震えている。
「なによこれ……。あの子……家に帰りたがってた……。攫われたんだわ。それをみんな分かってるのに……どうして……どうしてこんなに楽しそうなの……」
悔しいのに、今の彼女では何もできない。
「ねえ……。アーサーならどうしてたの……。わたし、ほんとに一人じゃなにもできないのね……」
その後も闇オークションは続いた。呪われた指輪、ヒト型魔物が身に付けていた衣服、美しいヒト型魔物、小人……。どれもこれも、モニカにとってはいらないものばかりだったが、それらは次々と落札されていく。
中盤、モニカの髪が競りにかけられた。
「みなさま驚くことなかれ。こちらの髪は、あのヴァルタニア家の血筋を引く人間の髪!」
ザワッと観客がどよめいた。国王と王妃は顔を見合わせ、首を伸ばして覗き込んでいる。
「御存じの通り、ヴァルタニア家の人間には、ヴァルーダ神の血が流れておりますわ。この髪は、ヴァルタニア家系の聖女のものであるわけがございませんが、この見事なまでの銀髪は、色濃くヴァルーダ神の加護を受け継いでいる証拠ではございませんでしょうか」
ルリンは銀色の髪を愛おしげに撫でて言葉を続ける。
「今やヴァルタニア家の人間は数えるほどしかございません。今ではかの家系にはたった一人しか聖女がいないそうですわ。聖女として生まれなかったヴァルタニア家の人間は、山を降りて庶民との子を産み血を濁らせ続けています。そのため、ヴァルタニア家が治めるピュトァ泉はほとんど枯れ、今ではその幼い聖女が一人で泉を守っているとか。
それほどまでに稀少な一族の血を色濃く引いた者の髪……!見てくださいまし! この輝く銀色は、ヴァルタニア家の血が色濃く表れている証拠!! 闇オークションの歴史でも、初めての出品ですわ。では……白金貨50枚からいきましょうかしら」
「51枚!」
「53枚!」
「55枚!」
ルリンが合図をする前に競りが始まった。ヴァルタニア家の血を引いていなかっとしても、その髪は艶やかで美しい。人体をコレクションしている人にとっては、喉から手が出るほど欲しい物だった。
「……」
ロイアーサーは、舞台ではなく国王と王妃を観察していた。彼らは楽しげな様子で耳元で囁き合っている。
「……なんだか変だな」
ロイが呟いたのが聞こえ、モニカが不安げな目を向けた。
「ね、ねえ。私の髪ってバレないかな……?」
「バレてると思う」
「えっ」
「ごめんね。僕も国王と王妃が来ると思わなくて、モニカさんの髪を出品しようって提案したんだけど。正直に言うとずっとビクビクしてたんだ。彼らがあの髪束を見たら、モニカさんの髪って気付いて殺気立つんじゃないかって」
「そ、そうよね……」
「でも見て。髪束を指さして、とても楽しそうに笑ってるんだ」
「どうして……」
ロイアーサーはしばらく考え込んだ。
上機嫌な国王と王妃。暗殺を仕掛けたその週末に闇オークションへ出席した彼ら。盗まれたペンダントも、闇オークションへ出品された……。
「そうか」
「なにか分かった……?」
「たぶんだけど、国王と王妃がこの闇オークションに参加したのは必然だったんだ。王妃は裏S級冒険者にこう命令してたんじゃないかな。……いや、ヴァランスの口ぶりからして次期国王の命令かな……」
「ヴィクスの……」
「”フィールディング騎士の魂魄が入ったペンダントを奪え。そして、アウス王子とモリア王女を生け捕りにしろ。任務が遂行できたら、証明としてペンダントと王女の髪を闇オークションへ出品しろ”……って」
「ロイ。そんなの不思議だわ。そんな回りくどいことをしなくても、奪ったその日にすぐ王城へ持ってこさせたらいいじゃない」
「ペンダントに関しては理由が分かる。以前お父さまがこんなことを言ってた。王族が魔物の魂魄を買うことがあるが、王城へは決して持ち込まないし、それに王族の人間が触れることもない。王族が所有しているある城で保管しているって。そしてその城に国王が行くことは決してない。
……つまり、ペンダントを王城へ持ち込むことはできない。国王が魔物の魂魄を目にする機会があるとすれば、それは闇オークションの場だけ。魂魄を扱い慣れた薄汚い貴族たちが、厳重に管理している安全な場所で確認がしたかったんじゃないかな。
それに、闇オークションで競り落とせば、フィールディング騎士の魂魄を王族が所有しているとアピールもできるしね。だからあえて、闇オークションで出品させて購入する、っていう手を使うんじゃないかな」
「ちょっと待って? それってつまり……」
「うん。君は国王と競り合わないといけないってことだね」
落札した男性が少女を引き取りに行くが、彼女は泣き叫んで檻にしがみついて離れない。そんな彼女をルリンが鞭で痛めつけ、無理矢理檻から引きずり出した。
「いやだ!! 帰して!! おうちに帰してぇぇっ!! おかあさん!! おとうさん!!」
少女の叫び声が会場に響き渡る。観客はそれすらも楽しんでいるようで、拍手や口笛を返している。
落札した男性が彼女を猿ぐつわをして、手と足を縄で縛り、片手で担いで会場を出た。どうやらハーフエルフを手に入れることができて、大満足した彼は帰るようだ。
モニカは顔を手で覆ってうなだれていた。血が出るほど唇を噛み、わなわなと震えている。
「なによこれ……。あの子……家に帰りたがってた……。攫われたんだわ。それをみんな分かってるのに……どうして……どうしてこんなに楽しそうなの……」
悔しいのに、今の彼女では何もできない。
「ねえ……。アーサーならどうしてたの……。わたし、ほんとに一人じゃなにもできないのね……」
その後も闇オークションは続いた。呪われた指輪、ヒト型魔物が身に付けていた衣服、美しいヒト型魔物、小人……。どれもこれも、モニカにとってはいらないものばかりだったが、それらは次々と落札されていく。
中盤、モニカの髪が競りにかけられた。
「みなさま驚くことなかれ。こちらの髪は、あのヴァルタニア家の血筋を引く人間の髪!」
ザワッと観客がどよめいた。国王と王妃は顔を見合わせ、首を伸ばして覗き込んでいる。
「御存じの通り、ヴァルタニア家の人間には、ヴァルーダ神の血が流れておりますわ。この髪は、ヴァルタニア家系の聖女のものであるわけがございませんが、この見事なまでの銀髪は、色濃くヴァルーダ神の加護を受け継いでいる証拠ではございませんでしょうか」
ルリンは銀色の髪を愛おしげに撫でて言葉を続ける。
「今やヴァルタニア家の人間は数えるほどしかございません。今ではかの家系にはたった一人しか聖女がいないそうですわ。聖女として生まれなかったヴァルタニア家の人間は、山を降りて庶民との子を産み血を濁らせ続けています。そのため、ヴァルタニア家が治めるピュトァ泉はほとんど枯れ、今ではその幼い聖女が一人で泉を守っているとか。
それほどまでに稀少な一族の血を色濃く引いた者の髪……!見てくださいまし! この輝く銀色は、ヴァルタニア家の血が色濃く表れている証拠!! 闇オークションの歴史でも、初めての出品ですわ。では……白金貨50枚からいきましょうかしら」
「51枚!」
「53枚!」
「55枚!」
ルリンが合図をする前に競りが始まった。ヴァルタニア家の血を引いていなかっとしても、その髪は艶やかで美しい。人体をコレクションしている人にとっては、喉から手が出るほど欲しい物だった。
「……」
ロイアーサーは、舞台ではなく国王と王妃を観察していた。彼らは楽しげな様子で耳元で囁き合っている。
「……なんだか変だな」
ロイが呟いたのが聞こえ、モニカが不安げな目を向けた。
「ね、ねえ。私の髪ってバレないかな……?」
「バレてると思う」
「えっ」
「ごめんね。僕も国王と王妃が来ると思わなくて、モニカさんの髪を出品しようって提案したんだけど。正直に言うとずっとビクビクしてたんだ。彼らがあの髪束を見たら、モニカさんの髪って気付いて殺気立つんじゃないかって」
「そ、そうよね……」
「でも見て。髪束を指さして、とても楽しそうに笑ってるんだ」
「どうして……」
ロイアーサーはしばらく考え込んだ。
上機嫌な国王と王妃。暗殺を仕掛けたその週末に闇オークションへ出席した彼ら。盗まれたペンダントも、闇オークションへ出品された……。
「そうか」
「なにか分かった……?」
「たぶんだけど、国王と王妃がこの闇オークションに参加したのは必然だったんだ。王妃は裏S級冒険者にこう命令してたんじゃないかな。……いや、ヴァランスの口ぶりからして次期国王の命令かな……」
「ヴィクスの……」
「”フィールディング騎士の魂魄が入ったペンダントを奪え。そして、アウス王子とモリア王女を生け捕りにしろ。任務が遂行できたら、証明としてペンダントと王女の髪を闇オークションへ出品しろ”……って」
「ロイ。そんなの不思議だわ。そんな回りくどいことをしなくても、奪ったその日にすぐ王城へ持ってこさせたらいいじゃない」
「ペンダントに関しては理由が分かる。以前お父さまがこんなことを言ってた。王族が魔物の魂魄を買うことがあるが、王城へは決して持ち込まないし、それに王族の人間が触れることもない。王族が所有しているある城で保管しているって。そしてその城に国王が行くことは決してない。
……つまり、ペンダントを王城へ持ち込むことはできない。国王が魔物の魂魄を目にする機会があるとすれば、それは闇オークションの場だけ。魂魄を扱い慣れた薄汚い貴族たちが、厳重に管理している安全な場所で確認がしたかったんじゃないかな。
それに、闇オークションで競り落とせば、フィールディング騎士の魂魄を王族が所有しているとアピールもできるしね。だからあえて、闇オークションで出品させて購入する、っていう手を使うんじゃないかな」
「ちょっと待って? それってつまり……」
「うん。君は国王と競り合わないといけないってことだね」
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