【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

文字の大きさ
538 / 718
魂魄編:ピュトア泉

そんなアーサーが、わたしは好きなんだけどね

しおりを挟む
シチュリアがひとしきり感情を吐き出し落ち着いてきたころ、アーサーが尋ねた。

「ねえシチュリア。もしかして君が僕たちを助けた理由の”大切な人”って、ミアーナのこと?」

「?」

「ほら、だって僕の命はミアーナのものだから」

「……」

シチュリアは眉を寄せてアーサーの心臓をじっと見た。今は杖に結ばれている、切れた加護の糸。その色褪せた古い糸から感じる懐かしさは、言われてみれば見覚えがあった。

「……まさか、あなたは一度命を失って……?」

「あ……うん」

「それで、予め与えられていたお母様の命で生き長らえたと……?」

(あ……違ったみたい。やばい。言わない方が良かったやつだこれ……)

思った通り、シチュリアの表情が瞬く間に鬼のようになり、アーサーの顔面に拳が飛んできた。モニカは兄に呆れているようで、彼女を止めようともしない。

シチュリアはブルブルと震え、アーサーを殴り続けた。

「どうして! お母様は! 私じゃなくて! あなたに! 命を! 与えたの!?」

「ぶえっ! ぶあっ! ぶほっ! ぶべばぁあ!」

「自分の! 娘のことは! どうでも! いいの!?」

「ぶぉっ! ばぁっ! ぎゅぁっ! ぷぇぱぁっ!」

「ていうか何!? 6年ぶりに会って! 元気? とかごめんね? とかもなく! なにが! 王子と王女を! 守りなさい! よ!!」

「ふぎゅ! ぷぁっ! ぶぅっ! ぽぺぇっ!」

「お母様! あなたは! 聖女としては! 完璧だったかもしれないけれど! 母親としては! 最悪でした!!」

「ぷぁっ!!」

最後に思いっきりアーサーを殴りつけ、シチュリアは腕をだらんと垂らして肩で息をした。彼女はアーサーを見下ろした。彼の顔は腫れあがり、端正の顔立ちが台無しになっている。

シチュリアとアーサーの目が合った。心なしかスッキリした表情をしている彼女に、アーサーは嬉しそうに笑う。そんな彼につられて、シチュリアも笑った。

「どうしてこんなになるまで殴られたのに、笑うんですか?」

「やっと、シチュリアと友だちになれた気がしたから」

「ふふ。なんですか、それ。意味が分かりません。モニカも、どうして私を止めなかったのです?」

「今のは完全にアーサーが悪いからよ」

「大丈夫だよシチュリア。モニカのアッパーに比べたら、シチュリアのパンチは撫でられてるのと同じだから」

「ちょ……っ、アーサー! わたしはアーサーの顔面殴ったことないよ!?」

「うん! もっと危ないところを狙うよね! みぞおちとか、あごとか!」

「そっ、そうでもしないと、アーサー痛がらないんだもん!」

顔面血だらけにしてのほほんと笑うアーサーは少し気味が悪いほどだったが、双子のくだらないやり取りにシチュリアは思わず噴き出した。

「ぷっ……。なんですかあなたたちは。憎まれている相手に愛情で返し、感情に任せた暴力に笑顔を返すなんて。聖女らしいとかそんな次元ではありません。ただの変態です」

「へんたっ……!?」

「そうね、アーサーは変態ね」

「モニカまで何言ってるの!?」

「今まででアーサーが変態じゃなかったことある?」

「あるよ!! 僕は変態じゃないもん!!」

「本当の変態は自分が変態って分からないのよ!」

また口喧嘩を始めた双子を眺めながら、シチュリアが苦笑いをした。

「……毒気を抜かれてしまいました。この話はもうおしまいにしましょう」

「あっ、うん……」

「ご、ごめんねシチュリア。大切なお話をしてるときに騒いじゃって」

「いいんです。私も取り乱してしまいましたし。……おかげでスッキリしました」

「それならよかった!!」

「僕もこうしてシチュリアの本音を聞けてスッキリした! ありがとう」

殴られた相手に満面の笑みでお礼を言うアーサーに、シチュリアは肩をすくめ、手招きする。

「アーサー、怪我を治癒します。こちらに来てください」

「うん!」

その後アーサーの顔面は、シチュリアの回復魔法によって元通りになった。

それからのシチュリアは、普段通りの起伏の少ない表情をしていたが、心なしかいつもよりも柔らかいような気がした。

騒ぎが落ち着くまで待っていたのか、聖女と双子が白湯を飲み始めたときにフィックが寝室から顔を出した。彼はアーサーとモニカに爽やかに挨拶をしてから、シチュリアの隣に腰かける。そして彼女の肩を抱き、ポンポンと頭を撫でてから何かを耳元で囁いた。

するとシチュリアは、ほんのり目を潤ませて、はにかみながら頷いた。
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。