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魂魄編:ピュトア泉

モニカの本音

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「アーサー」

「ん?」

「起きてる?」

「うん」

森から連れ戻されベッドに潜ったモニカは、隣で目を閉じている兄に声をかけた。
アーサーは目を閉じたまま返事をした。

「あのね。話してもいい?」

「うん、聞かせて」

「わたしね、ポントワーブに帰るのが怖いの」

「……」

「カフェのお兄さんこわいし、ぐちゃぐちゃにされた家を見るのもこわい。それに……ジルに会うのがこわいの。ジルも、カミーユたちも……」

「シャナは?」

「シャナは、平気。どうしてか分からないけど」

「シャナには一番助けてもらってるもんね」

「うん……」

モニカの目にはじんわりと涙が滲んでいる。ぴったりとくっついてきたので、アーサーは腕をまわして頭を撫でてあげた。

「ジルによく似た人が僕たちにこわいことしたから?」

「うん……」

「そんなに似てたの?」

「そっくりだったの。顔も、髪型も、声も、表情も……」

「そっかあ。でもジルがそんなことするなんて、思えないけどなあ」

「わたしも頭では分かってるの。ジルがあんなことするわけないって。でも……こわいの。すごくこわかったの、あの日……」

「うん。こわかったよね。ごめんね、辛い思いをさせて」

「アーサーが謝ることじゃないわ」

「うん」

「……ポントワーブに帰りたくない……」

「……」

モニカは本気で怖がっている。ふるさととして大好きだった町を、慕っていた人たちを。そんなところに無理矢理帰す理由もない。

それに、まだヴァラリアや裏S級冒険者が見張っているかもしれない。確かに今ポントワーブに帰るのは危険だった。

「そっか。じゃあしばらく、町に帰らず放浪しようよ」

「……いいの?」

「もちろん。僕も今ポントワーブに戻るのはあぶないと思うし。でもそうなると、どこに行くかなんだよねー……。僕たち今一文無しだし、お金を稼がなきゃいけないし、住むところも……」

「エリクサーを売れば、すぐにお金は手に入るわ」

「だめ。エリクサーは僕たちだけしか作れないんだよ? 売ったら、出所を掴まれて居場所がバレちゃうかもしれない」

「あ、そっか……」

「それだったら冒険者の仕事をする方がましかな……」

「アーサーの武器、全部取られちゃったよ」

「あ……」

「わたしたちに残されたのは、藍とアサギリと、枝と簪だけ」

「本当に、一文無しだね」

「そういうこと」

「服もないのかあ。困ったな」

「アーサーがずっと大事にしてた、穴の開いたパンツも取られちゃったね」

「うぅ~……結構ショック……」

クスクスと笑い合ったあと、二人はため息をついた。

「あー、どうしよう」

「きっとなんとかなるわよ。町にさえ行けば、働き口はいくらでもあるわ」

「……二カ月で白金貨300枚、稼げるところじゃないといけないけどね」

「……え」

「キャネモにお金払わないといけないでしょ?」

「あ」

「そんなとこあるのかなあ……」

「……」

絶対にない、それはさすがにモニカでも分かることだった。
絶望的な状況に気付いた双子は考えることをやめた。

「寝よっか」

「そうね」

「おやすみ、モニカ」

「おやすみアーサー」

「……」

「……」

「モニカ」

「ん?」

「こわい思いをして、不安でいっぱいだと思う」

「うん」

「でも僕はやっぱり、ジルやカミーユたちのことは信じたいな」

「……うん」

「今までジルたちが僕とモニカにしてくれたこと、一緒に思い出していこう。それでちょっとずつ、こわい気持ちが薄れてくれたらいいな」

「うん」

「いつか、笑顔でみんなに会えるようにね」

「うん」

「モニカ、今回のこと、本当にたくさんこわい思いしたと思う。ひとりで頑張らせてごめんね。僕を助けてくれて、ありがとう」

「ううん。ひとりじゃなかったもん。ロイがずっとそばにいてくれたの。タールも助けてくれた」

「うん。命の恩人だね」

「うん」

「でもやっぱり、ありがとう、モニカ」

「……うん。……ふぇぇ……こわかったよぉ……。アーサーが……死んじゃうかもしれないって……思ってぇ……っ。ポントワーブもこわいし……信じられる人……いなくてぇっ……」

「うん」

「ロイも……なんかちょっとこわかったし……タールとロイ……なんか変な雰囲気だったしぃぃ……。髪っ……髪だって、切っちゃって、アーサーにきらわれちゃうんじゃないかって、思ってぇぇ……」

「うん」

「シチュリアもっ……はじめ、すっごく冷たくてっ……こわくて……っ。フィックもあんまり喋ってくれないし……っ、ひとりで、こわかったぁぁっ……」

「うん。僕のためにがんばってくれたんだね。ありがとう」

一度本音を漏らすと止めることができなくなった。モニカは、アーサーの寝衣を涙と鼻水でびしゃびしゃに濡らして泣いた。アーサーはモニカが泣き疲れて寝てしまうまで、ずっと相槌を打っていた。
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