551 / 718
北部編:イルネーヌ町
イルネーヌ町
しおりを挟む
シチュリアがくれた毛皮を羽織り、アーサーとモニカは大雪の中を歩く。彼らの手には、白金貨が1枚握られていた。一文無しになった彼らに、フィックが白金貨2枚をくれた。フィックは白金貨を10枚渡そうとしていたが、双子が頑なに断ったのだ。
双子はまず町を探した。吹雪で前が真っ白の中、目を細めて標識を探す。彼らが歩くそばを馬車が通ったが、今の所持金では運賃すら惜しい。
半日歩いてやっと、町を見つけた。門番に身分証を求められたが、彼らが提示できるものは何もない。これ以上極寒の地で彷徨うのは命が危ういと判断したアーサーは、門番に白金貨1枚を握らせて町へ入るのを許可させた。
アーサーとモニカが足を踏み入れた町の名は、イルネーヌ。北風をまともに受けるその町は、バンスティン国で最も寒いと言われている。
イルネーヌ町に佇む建物は石造りでできていて、どれも小さくて窓が少ない。特に、勾配が急な三角屋根が印象的だった。双子はポントワーブとは全く違う建物を見て、異国に踏み入れたような感覚になった。
「アーサー……、もう、寒いよぉ……」
モニカが歯をガチガチ鳴らした。真っ青な彼女の顔色に、アーサーは慌てて宿屋を探す。
「いらっしゃぁい。二人部屋なら、一泊が大銀貨五枚。五泊なら金貨二枚だよぉ」
凍えた少年と少女が入ってきても、宿屋の店主は心配する素振りも見せず、おっとりした口調でそう声をかけただけだった。
二人は五泊分の宿泊料を支払った。所持金がもう、金貨八枚しかない。おつりとして渡された金色の硬貨を受け取ったアーサーの表情は、思いつめていた。
借りた部屋のドアを開け、モニカはすぐさま暖炉に向かって火魔法を放つ。
アーサーとモニカは暖炉に手をかざし、やっと一息つくことができた。
「あ~……。手の感覚が戻ってきたぁ……」
「あったかいねえ……。あたたかい飲み物飲みたくない?」
アーサーがそう尋ねると、モニカはうんうんと大きく頷く。
「飲みたいー! ホットミルク飲みたい!」
「宿屋の店主さんにお願いしたら、作ってくれるかな?」
「聞いてみよ!」
「とりあえず体を温めてからにしよ」
青白くなっていた双子の肌が、徐々に赤みを帯びていく。手足の感覚がしっかり戻ってから、ぐっしょり濡れた靴を暖炉の前で干して、店主の元へ向かった。
「すみません。飲み物はいただけますか?」
「ラウンジに置いてあるよ。好きなものを飲んでねぇ」
「ありがとうございます!」
ラウンジには、コーヒー、ホットミルク、オレンジジュース、リンゴジュース、水が用意されていた。アーサーとモニカはソファに腰かけて、ホットミルクを啜る。温かく甘いものが喉を通ると、急激におなかが空いてきた。そういえば、ピュトア泉をあとにしてから何も食べていなかった。
「ごはん食べたいね」
「おなかすいたぁ」
店主に食事を用意してもらえるか尋ねると、彼女は汚れたメニューを双子に渡した。
【メニュー】
パン 小銀貨一枚
スープ 小銀貨二枚
サラダ 小銀貨二枚
スクランブルエッグ 小銀貨一枚
ガレット 小銀貨五枚
肉の腸詰め 小銀貨五枚
生ハム 小銀貨五枚
クレープ 小銀貨三枚
「見て、アーサー! クレープがあるわ!」
「いいね! でもその前にごはん食べなきゃ。……ガレットってなんだろう」
見慣れない料理名にアーサーが首を傾げると、店主が「うちの郷土料理さぁ」と答えた。
「そば粉で作ったクレープみたいな薄くて丸い生地に、チーズや卵、ハムなんかを包むのさぁ」
「えー! おいしそう! アーサー、わたしガレット食べてみたい!」
「うんうん! 僕も食べてみたいー! ふたつ作ってもらおっか!」
「はぁい」
店主が厨房に入ると、すぐにジューッと油が跳ねる音が聞こえてきた。
アーサーとモニカがうずうずしながら料理が運ばれるのを待っていると、店主が湯気の立った皿を二枚手に持ち、ラウンジに戻って来た。
「お待たせぇ。ガレットだよぉ」
「わぁぁ!」
初めて見た料理を、双子は身を乗り出して覗き込んだ。薄く伸ばした丸い生地の上に、目玉焼き、肉の塩漬け、キノコが載せられていて、生地の端を小さく四つ折りにされた、ホカホカの料理。卵焼きは半熟で、ぷるぷると揺れていた。
「かっ、かわいいー!」
モニカが目を輝かせて、足をばたつかせる。食べるのがもったいないくらい、見た目がかわいらしい料理だった。
空腹に耐えられなかったアーサーは、躊躇いなくナイフで半熟卵の黄身を割った。ぷに、と弾力を感じたあと、とろとろの黄身が溢れ出す。それを見ただけで、アーサーは「ほわー」と満たされたような表情を浮かべた。
じっくり観賞してから、双子はガレットを口に運んだ。
双子はまず町を探した。吹雪で前が真っ白の中、目を細めて標識を探す。彼らが歩くそばを馬車が通ったが、今の所持金では運賃すら惜しい。
半日歩いてやっと、町を見つけた。門番に身分証を求められたが、彼らが提示できるものは何もない。これ以上極寒の地で彷徨うのは命が危ういと判断したアーサーは、門番に白金貨1枚を握らせて町へ入るのを許可させた。
アーサーとモニカが足を踏み入れた町の名は、イルネーヌ。北風をまともに受けるその町は、バンスティン国で最も寒いと言われている。
イルネーヌ町に佇む建物は石造りでできていて、どれも小さくて窓が少ない。特に、勾配が急な三角屋根が印象的だった。双子はポントワーブとは全く違う建物を見て、異国に踏み入れたような感覚になった。
「アーサー……、もう、寒いよぉ……」
モニカが歯をガチガチ鳴らした。真っ青な彼女の顔色に、アーサーは慌てて宿屋を探す。
「いらっしゃぁい。二人部屋なら、一泊が大銀貨五枚。五泊なら金貨二枚だよぉ」
凍えた少年と少女が入ってきても、宿屋の店主は心配する素振りも見せず、おっとりした口調でそう声をかけただけだった。
二人は五泊分の宿泊料を支払った。所持金がもう、金貨八枚しかない。おつりとして渡された金色の硬貨を受け取ったアーサーの表情は、思いつめていた。
借りた部屋のドアを開け、モニカはすぐさま暖炉に向かって火魔法を放つ。
アーサーとモニカは暖炉に手をかざし、やっと一息つくことができた。
「あ~……。手の感覚が戻ってきたぁ……」
「あったかいねえ……。あたたかい飲み物飲みたくない?」
アーサーがそう尋ねると、モニカはうんうんと大きく頷く。
「飲みたいー! ホットミルク飲みたい!」
「宿屋の店主さんにお願いしたら、作ってくれるかな?」
「聞いてみよ!」
「とりあえず体を温めてからにしよ」
青白くなっていた双子の肌が、徐々に赤みを帯びていく。手足の感覚がしっかり戻ってから、ぐっしょり濡れた靴を暖炉の前で干して、店主の元へ向かった。
「すみません。飲み物はいただけますか?」
「ラウンジに置いてあるよ。好きなものを飲んでねぇ」
「ありがとうございます!」
ラウンジには、コーヒー、ホットミルク、オレンジジュース、リンゴジュース、水が用意されていた。アーサーとモニカはソファに腰かけて、ホットミルクを啜る。温かく甘いものが喉を通ると、急激におなかが空いてきた。そういえば、ピュトア泉をあとにしてから何も食べていなかった。
「ごはん食べたいね」
「おなかすいたぁ」
店主に食事を用意してもらえるか尋ねると、彼女は汚れたメニューを双子に渡した。
【メニュー】
パン 小銀貨一枚
スープ 小銀貨二枚
サラダ 小銀貨二枚
スクランブルエッグ 小銀貨一枚
ガレット 小銀貨五枚
肉の腸詰め 小銀貨五枚
生ハム 小銀貨五枚
クレープ 小銀貨三枚
「見て、アーサー! クレープがあるわ!」
「いいね! でもその前にごはん食べなきゃ。……ガレットってなんだろう」
見慣れない料理名にアーサーが首を傾げると、店主が「うちの郷土料理さぁ」と答えた。
「そば粉で作ったクレープみたいな薄くて丸い生地に、チーズや卵、ハムなんかを包むのさぁ」
「えー! おいしそう! アーサー、わたしガレット食べてみたい!」
「うんうん! 僕も食べてみたいー! ふたつ作ってもらおっか!」
「はぁい」
店主が厨房に入ると、すぐにジューッと油が跳ねる音が聞こえてきた。
アーサーとモニカがうずうずしながら料理が運ばれるのを待っていると、店主が湯気の立った皿を二枚手に持ち、ラウンジに戻って来た。
「お待たせぇ。ガレットだよぉ」
「わぁぁ!」
初めて見た料理を、双子は身を乗り出して覗き込んだ。薄く伸ばした丸い生地の上に、目玉焼き、肉の塩漬け、キノコが載せられていて、生地の端を小さく四つ折りにされた、ホカホカの料理。卵焼きは半熟で、ぷるぷると揺れていた。
「かっ、かわいいー!」
モニカが目を輝かせて、足をばたつかせる。食べるのがもったいないくらい、見た目がかわいらしい料理だった。
空腹に耐えられなかったアーサーは、躊躇いなくナイフで半熟卵の黄身を割った。ぷに、と弾力を感じたあと、とろとろの黄身が溢れ出す。それを見ただけで、アーサーは「ほわー」と満たされたような表情を浮かべた。
じっくり観賞してから、双子はガレットを口に運んだ。
12
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。