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北部編:イルネーヌ町
イルネーヌ町
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シチュリアがくれた毛皮を羽織り、アーサーとモニカは大雪の中を歩く。彼らの手には、白金貨が1枚握られていた。一文無しになった彼らに、フィックが白金貨2枚をくれた。フィックは白金貨を10枚渡そうとしていたが、双子が頑なに断ったのだ。
双子はまず町を探した。吹雪で前が真っ白の中、目を細めて標識を探す。彼らが歩くそばを馬車が通ったが、今の所持金では運賃すら惜しい。
半日歩いてやっと、町を見つけた。門番に身分証を求められたが、彼らが提示できるものは何もない。これ以上極寒の地で彷徨うのは命が危ういと判断したアーサーは、門番に白金貨1枚を握らせて町へ入るのを許可させた。
アーサーとモニカが足を踏み入れた町の名は、イルネーヌ。北風をまともに受けるその町は、バンスティン国で最も寒いと言われている。
イルネーヌ町に佇む建物は石造りでできていて、どれも小さくて窓が少ない。特に、勾配が急な三角屋根が印象的だった。双子はポントワーブとは全く違う建物を見て、異国に踏み入れたような感覚になった。
「アーサー……、もう、寒いよぉ……」
モニカが歯をガチガチ鳴らした。真っ青な彼女の顔色に、アーサーは慌てて宿屋を探す。
「いらっしゃぁい。二人部屋なら、一泊が大銀貨五枚。五泊なら金貨二枚だよぉ」
凍えた少年と少女が入ってきても、宿屋の店主は心配する素振りも見せず、おっとりした口調でそう声をかけただけだった。
二人は五泊分の宿泊料を支払った。所持金がもう、金貨八枚しかない。おつりとして渡された金色の硬貨を受け取ったアーサーの表情は、思いつめていた。
借りた部屋のドアを開け、モニカはすぐさま暖炉に向かって火魔法を放つ。
アーサーとモニカは暖炉に手をかざし、やっと一息つくことができた。
「あ~……。手の感覚が戻ってきたぁ……」
「あったかいねえ……。あたたかい飲み物飲みたくない?」
アーサーがそう尋ねると、モニカはうんうんと大きく頷く。
「飲みたいー! ホットミルク飲みたい!」
「宿屋の店主さんにお願いしたら、作ってくれるかな?」
「聞いてみよ!」
「とりあえず体を温めてからにしよ」
青白くなっていた双子の肌が、徐々に赤みを帯びていく。手足の感覚がしっかり戻ってから、ぐっしょり濡れた靴を暖炉の前で干して、店主の元へ向かった。
「すみません。飲み物はいただけますか?」
「ラウンジに置いてあるよ。好きなものを飲んでねぇ」
「ありがとうございます!」
ラウンジには、コーヒー、ホットミルク、オレンジジュース、リンゴジュース、水が用意されていた。アーサーとモニカはソファに腰かけて、ホットミルクを啜る。温かく甘いものが喉を通ると、急激におなかが空いてきた。そういえば、ピュトア泉をあとにしてから何も食べていなかった。
「ごはん食べたいね」
「おなかすいたぁ」
店主に食事を用意してもらえるか尋ねると、彼女は汚れたメニューを双子に渡した。
【メニュー】
パン 小銀貨一枚
スープ 小銀貨二枚
サラダ 小銀貨二枚
スクランブルエッグ 小銀貨一枚
ガレット 小銀貨五枚
肉の腸詰め 小銀貨五枚
生ハム 小銀貨五枚
クレープ 小銀貨三枚
「見て、アーサー! クレープがあるわ!」
「いいね! でもその前にごはん食べなきゃ。……ガレットってなんだろう」
見慣れない料理名にアーサーが首を傾げると、店主が「うちの郷土料理さぁ」と答えた。
「そば粉で作ったクレープみたいな薄くて丸い生地に、チーズや卵、ハムなんかを包むのさぁ」
「えー! おいしそう! アーサー、わたしガレット食べてみたい!」
「うんうん! 僕も食べてみたいー! ふたつ作ってもらおっか!」
「はぁい」
店主が厨房に入ると、すぐにジューッと油が跳ねる音が聞こえてきた。
アーサーとモニカがうずうずしながら料理が運ばれるのを待っていると、店主が湯気の立った皿を二枚手に持ち、ラウンジに戻って来た。
「お待たせぇ。ガレットだよぉ」
「わぁぁ!」
初めて見た料理を、双子は身を乗り出して覗き込んだ。薄く伸ばした丸い生地の上に、目玉焼き、肉の塩漬け、キノコが載せられていて、生地の端を小さく四つ折りにされた、ホカホカの料理。卵焼きは半熟で、ぷるぷると揺れていた。
「かっ、かわいいー!」
モニカが目を輝かせて、足をばたつかせる。食べるのがもったいないくらい、見た目がかわいらしい料理だった。
空腹に耐えられなかったアーサーは、躊躇いなくナイフで半熟卵の黄身を割った。ぷに、と弾力を感じたあと、とろとろの黄身が溢れ出す。それを見ただけで、アーサーは「ほわー」と満たされたような表情を浮かべた。
じっくり観賞してから、双子はガレットを口に運んだ。
双子はまず町を探した。吹雪で前が真っ白の中、目を細めて標識を探す。彼らが歩くそばを馬車が通ったが、今の所持金では運賃すら惜しい。
半日歩いてやっと、町を見つけた。門番に身分証を求められたが、彼らが提示できるものは何もない。これ以上極寒の地で彷徨うのは命が危ういと判断したアーサーは、門番に白金貨1枚を握らせて町へ入るのを許可させた。
アーサーとモニカが足を踏み入れた町の名は、イルネーヌ。北風をまともに受けるその町は、バンスティン国で最も寒いと言われている。
イルネーヌ町に佇む建物は石造りでできていて、どれも小さくて窓が少ない。特に、勾配が急な三角屋根が印象的だった。双子はポントワーブとは全く違う建物を見て、異国に踏み入れたような感覚になった。
「アーサー……、もう、寒いよぉ……」
モニカが歯をガチガチ鳴らした。真っ青な彼女の顔色に、アーサーは慌てて宿屋を探す。
「いらっしゃぁい。二人部屋なら、一泊が大銀貨五枚。五泊なら金貨二枚だよぉ」
凍えた少年と少女が入ってきても、宿屋の店主は心配する素振りも見せず、おっとりした口調でそう声をかけただけだった。
二人は五泊分の宿泊料を支払った。所持金がもう、金貨八枚しかない。おつりとして渡された金色の硬貨を受け取ったアーサーの表情は、思いつめていた。
借りた部屋のドアを開け、モニカはすぐさま暖炉に向かって火魔法を放つ。
アーサーとモニカは暖炉に手をかざし、やっと一息つくことができた。
「あ~……。手の感覚が戻ってきたぁ……」
「あったかいねえ……。あたたかい飲み物飲みたくない?」
アーサーがそう尋ねると、モニカはうんうんと大きく頷く。
「飲みたいー! ホットミルク飲みたい!」
「宿屋の店主さんにお願いしたら、作ってくれるかな?」
「聞いてみよ!」
「とりあえず体を温めてからにしよ」
青白くなっていた双子の肌が、徐々に赤みを帯びていく。手足の感覚がしっかり戻ってから、ぐっしょり濡れた靴を暖炉の前で干して、店主の元へ向かった。
「すみません。飲み物はいただけますか?」
「ラウンジに置いてあるよ。好きなものを飲んでねぇ」
「ありがとうございます!」
ラウンジには、コーヒー、ホットミルク、オレンジジュース、リンゴジュース、水が用意されていた。アーサーとモニカはソファに腰かけて、ホットミルクを啜る。温かく甘いものが喉を通ると、急激におなかが空いてきた。そういえば、ピュトア泉をあとにしてから何も食べていなかった。
「ごはん食べたいね」
「おなかすいたぁ」
店主に食事を用意してもらえるか尋ねると、彼女は汚れたメニューを双子に渡した。
【メニュー】
パン 小銀貨一枚
スープ 小銀貨二枚
サラダ 小銀貨二枚
スクランブルエッグ 小銀貨一枚
ガレット 小銀貨五枚
肉の腸詰め 小銀貨五枚
生ハム 小銀貨五枚
クレープ 小銀貨三枚
「見て、アーサー! クレープがあるわ!」
「いいね! でもその前にごはん食べなきゃ。……ガレットってなんだろう」
見慣れない料理名にアーサーが首を傾げると、店主が「うちの郷土料理さぁ」と答えた。
「そば粉で作ったクレープみたいな薄くて丸い生地に、チーズや卵、ハムなんかを包むのさぁ」
「えー! おいしそう! アーサー、わたしガレット食べてみたい!」
「うんうん! 僕も食べてみたいー! ふたつ作ってもらおっか!」
「はぁい」
店主が厨房に入ると、すぐにジューッと油が跳ねる音が聞こえてきた。
アーサーとモニカがうずうずしながら料理が運ばれるのを待っていると、店主が湯気の立った皿を二枚手に持ち、ラウンジに戻って来た。
「お待たせぇ。ガレットだよぉ」
「わぁぁ!」
初めて見た料理を、双子は身を乗り出して覗き込んだ。薄く伸ばした丸い生地の上に、目玉焼き、肉の塩漬け、キノコが載せられていて、生地の端を小さく四つ折りにされた、ホカホカの料理。卵焼きは半熟で、ぷるぷると揺れていた。
「かっ、かわいいー!」
モニカが目を輝かせて、足をばたつかせる。食べるのがもったいないくらい、見た目がかわいらしい料理だった。
空腹に耐えられなかったアーサーは、躊躇いなくナイフで半熟卵の黄身を割った。ぷに、と弾力を感じたあと、とろとろの黄身が溢れ出す。それを見ただけで、アーサーは「ほわー」と満たされたような表情を浮かべた。
じっくり観賞してから、双子はガレットを口に運んだ。
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