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北部編:イルネーヌ町
カミーユみたいな魔物がうじゃうじゃ
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モニカは生唾を飲み込み、兄に声をかける。
「アーサー」
「ん?」
「もしわたしが危険な目に遭っても、身代わりになるのだけはやめてね」
「いや、それは約束できない」
「どうしてよ。約束してよ」
「できるわけないの、モニカは知ってるでしょ?」
「知ってるから約束してって言ってるの。わたしより先に死なないで」
「それは心配ないよ。僕たちの寿命は共有されてるんだから。どっちかが先に死ぬなんてありえない」
「……この糸、切って欲しいわ」
「僕もそう思ってるよ、ずっと」
アーサーとモニカは睨み合った。お互い、自分の命よりも相方の命を大切にしていることに苛立ちを覚えているようだ。その上、二人を繋いでいる加護の糸のせいで、身を挺して守っても命が共有されているので、自分の死は相方の寿命を奪うことと同じであることも疎ましかった。
先に視線を背けたのはアーサーだった。
「まあ、命を共有してるって言っても、身体が欠損してしまったら欠けたままになっちゃうから。モニカの体は守らないとね」
「守らないでって言ってるのよ」
「守るに決まってるでしょ。僕はモニカのことが一番大事なんだから」
「自分のことを一番大事にしてって言ってるの!」
「それはモニカもでしょ!?」
双子が言い争っていることに気付き、サンプソンが慌てて戻って来る。
「おいおい。どうしたんだい? そんなに大声を出したら寝ている魔物まで起きてしまうよ」
「サンプソンさん! アーサーが自分のことを大事にしてくれないの!」
「モニカもだって言ってるじゃないか!」
「落ち着いて。どういう話でそうなったのか、僕に教えてくれないかな?」
ぷんぷん怒りながら、双子はサンプソンに説明した。話を聞いていたサンプソンとマデリアは、こっそり目を見合わせて肩をすくめる。
「君たち、勘違いしているようだけど」
話を聞き終わり、サンプソンが口を開いた。
「仲間が危険な目に遭っていたら、守ろうとするのは冒険者として当然だよ。兄妹に限らずそうだ。人情的な理由だけじゃなくて、戦力が欠けたら不利になるからね」
「それを守らないでってお願いするのはおかしなことよ。モニカ、あなた死にたいの?」
「死にたいわけじゃなくて、アーサーは無理をしてでもわたしを守ろうとするから……」
「そう。それが嫌なら、守られるような状況を作らなければいいのよ。守ろうとするアーサーを怒るんじゃなくて、守られる自分に怒りなさい」
確かにぃ……、とモニカが小さく呟くのが聞こえ、マデリアは口角を上げる。
「人を守る前に自分を守りなさいって、カミーユに教わらなかったかしら? 冒険者としての基本よ」
「そろそろ行こう。地下で魔物が待っているからね」
再びS級冒険者が階段を下りていく。アーサーとモニカは気まずそうに互いを見た。仲直りをしたいのか、アーサーが妹の手をそっと握ると、モニカもその手を握り返す。
「……わたし、守られるようなことしないから」
「うん。僕も、危険な目に遭わないようにする」
「元気にこのダンジョン出ようね」
「うん」
「……一人にしないでね」
「うん。それは約束できるよ」
「ありがとう、アーサー」
バンスティン国、最北のダンジョンである「ヴァラバンダンジョン」。Bランクダンジョンのそれは、最強レベルの魔物はほとんどいないものの雑魚魔物のレベルが高く、さらに地下五階という広さから、持久力のある冒険者でないと険しい道のりになると言われている。
マデリアが言っていたように、ヴァラバンダンジョンでは、ゴブリンやオーク等の低級魔物は生息していない。その代わりにヒト型魔物オーガ(Ⅾ級魔物)や、ヒト型魔物トロール(E級魔物)がうじゃうじゃとその辺をうろついていた。
「う、わぁー……」
見たことのない光景に、アーサーはか細い声を漏らした。
階段を下りるとひらけた場所に出た。点々と壁に取り付けられた松明に、マデリアが火魔法で火を灯す。仄暗くだが、かろうじて当たりの様子が視認できるようになった。その場に約三十体の巨大な魔物がいることが分かったので、アーサーは剣の柄に手をかけ、モニカは杖を握った。
二人の様子にサンプソンが満足げに呟く。
「二人とも夜目がきくんだね。魔物の姿ははっきり見えるかい?」
「ううん、カミーユみたいな魔物の影がぼんやり見えるくらい」
「僕は魔物の姿がなんとなく見えるかな。カミーユみたいな魔物」
モニカとアーサーが答えると、マデリアがケタケタ笑った。
「確かにカミーユにそっくりね。正しくはオーガなんだけど。身長も二・五メートルでカミーユよりひとまわり大きいくらいだし、体格も、粗野な振る舞いも、怪力なところも彼にそっくり」
「ひとつだけ違うとしたら、オーガの主食が人というくらいかな」
サンプソンが冗談交じりでそう言って弓を構える。
「アーサー。分かっていると思うけど、ヒト型魔物の弱点は、斬撃は首、心臓。打撃、射撃はみぞおち、喉、耳のうしろ、こめかみ、顎だよ」
「モニカ。オーガ相手であれば、魔法はなんでも有効よ。ただし、今回は素材回収が目的だから、傷めないように気を付けて」
「オーガの素材は、目玉、髪、爪、心臓、背骨だよ」
S級冒険者の説明に、双子はこくこくと頷く。
「また目玉くり抜かないといけないのね。やってやるわ」
「また背骨を取り出さないといけないんだね。了解」
「じゃあ、早速始めようか。アーサー、おいで」
「アーサー」
「ん?」
「もしわたしが危険な目に遭っても、身代わりになるのだけはやめてね」
「いや、それは約束できない」
「どうしてよ。約束してよ」
「できるわけないの、モニカは知ってるでしょ?」
「知ってるから約束してって言ってるの。わたしより先に死なないで」
「それは心配ないよ。僕たちの寿命は共有されてるんだから。どっちかが先に死ぬなんてありえない」
「……この糸、切って欲しいわ」
「僕もそう思ってるよ、ずっと」
アーサーとモニカは睨み合った。お互い、自分の命よりも相方の命を大切にしていることに苛立ちを覚えているようだ。その上、二人を繋いでいる加護の糸のせいで、身を挺して守っても命が共有されているので、自分の死は相方の寿命を奪うことと同じであることも疎ましかった。
先に視線を背けたのはアーサーだった。
「まあ、命を共有してるって言っても、身体が欠損してしまったら欠けたままになっちゃうから。モニカの体は守らないとね」
「守らないでって言ってるのよ」
「守るに決まってるでしょ。僕はモニカのことが一番大事なんだから」
「自分のことを一番大事にしてって言ってるの!」
「それはモニカもでしょ!?」
双子が言い争っていることに気付き、サンプソンが慌てて戻って来る。
「おいおい。どうしたんだい? そんなに大声を出したら寝ている魔物まで起きてしまうよ」
「サンプソンさん! アーサーが自分のことを大事にしてくれないの!」
「モニカもだって言ってるじゃないか!」
「落ち着いて。どういう話でそうなったのか、僕に教えてくれないかな?」
ぷんぷん怒りながら、双子はサンプソンに説明した。話を聞いていたサンプソンとマデリアは、こっそり目を見合わせて肩をすくめる。
「君たち、勘違いしているようだけど」
話を聞き終わり、サンプソンが口を開いた。
「仲間が危険な目に遭っていたら、守ろうとするのは冒険者として当然だよ。兄妹に限らずそうだ。人情的な理由だけじゃなくて、戦力が欠けたら不利になるからね」
「それを守らないでってお願いするのはおかしなことよ。モニカ、あなた死にたいの?」
「死にたいわけじゃなくて、アーサーは無理をしてでもわたしを守ろうとするから……」
「そう。それが嫌なら、守られるような状況を作らなければいいのよ。守ろうとするアーサーを怒るんじゃなくて、守られる自分に怒りなさい」
確かにぃ……、とモニカが小さく呟くのが聞こえ、マデリアは口角を上げる。
「人を守る前に自分を守りなさいって、カミーユに教わらなかったかしら? 冒険者としての基本よ」
「そろそろ行こう。地下で魔物が待っているからね」
再びS級冒険者が階段を下りていく。アーサーとモニカは気まずそうに互いを見た。仲直りをしたいのか、アーサーが妹の手をそっと握ると、モニカもその手を握り返す。
「……わたし、守られるようなことしないから」
「うん。僕も、危険な目に遭わないようにする」
「元気にこのダンジョン出ようね」
「うん」
「……一人にしないでね」
「うん。それは約束できるよ」
「ありがとう、アーサー」
バンスティン国、最北のダンジョンである「ヴァラバンダンジョン」。Bランクダンジョンのそれは、最強レベルの魔物はほとんどいないものの雑魚魔物のレベルが高く、さらに地下五階という広さから、持久力のある冒険者でないと険しい道のりになると言われている。
マデリアが言っていたように、ヴァラバンダンジョンでは、ゴブリンやオーク等の低級魔物は生息していない。その代わりにヒト型魔物オーガ(Ⅾ級魔物)や、ヒト型魔物トロール(E級魔物)がうじゃうじゃとその辺をうろついていた。
「う、わぁー……」
見たことのない光景に、アーサーはか細い声を漏らした。
階段を下りるとひらけた場所に出た。点々と壁に取り付けられた松明に、マデリアが火魔法で火を灯す。仄暗くだが、かろうじて当たりの様子が視認できるようになった。その場に約三十体の巨大な魔物がいることが分かったので、アーサーは剣の柄に手をかけ、モニカは杖を握った。
二人の様子にサンプソンが満足げに呟く。
「二人とも夜目がきくんだね。魔物の姿ははっきり見えるかい?」
「ううん、カミーユみたいな魔物の影がぼんやり見えるくらい」
「僕は魔物の姿がなんとなく見えるかな。カミーユみたいな魔物」
モニカとアーサーが答えると、マデリアがケタケタ笑った。
「確かにカミーユにそっくりね。正しくはオーガなんだけど。身長も二・五メートルでカミーユよりひとまわり大きいくらいだし、体格も、粗野な振る舞いも、怪力なところも彼にそっくり」
「ひとつだけ違うとしたら、オーガの主食が人というくらいかな」
サンプソンが冗談交じりでそう言って弓を構える。
「アーサー。分かっていると思うけど、ヒト型魔物の弱点は、斬撃は首、心臓。打撃、射撃はみぞおち、喉、耳のうしろ、こめかみ、顎だよ」
「モニカ。オーガ相手であれば、魔法はなんでも有効よ。ただし、今回は素材回収が目的だから、傷めないように気を付けて」
「オーガの素材は、目玉、髪、爪、心臓、背骨だよ」
S級冒険者の説明に、双子はこくこくと頷く。
「また目玉くり抜かないといけないのね。やってやるわ」
「また背骨を取り出さないといけないんだね。了解」
「じゃあ、早速始めようか。アーサー、おいで」
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