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北部編:王城にて
近衛兵
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◇◇◇
ある雪の降る日、四人の少年少女の元に伝書インコが一羽降り立った。羽に王族の紋章が刻印されている真っ白のインコを見た従者は、悲鳴を上げ、仕事を放り投げて主に報告しに行く。
インコの伝言とアイテムボックスに入れられた書状に、主――少年少女の父親は、喜ぶ者もいれば憂う者もいた。
しかしどのような感情を抱いても、その書状に逆らうことはできない。
次期国王から直々に、近衛兵として働くようにとの命令が下されたのだから。
「よく来てくれたね」
集められた四人の前に、これから仕える主であるヴィクスが現れる。
ダフ、ライラ、シリル、クラリッサは跪き、「はっ!」とはっきりとした声で返事をした。
ヴィクスは一人一人の前で立ち止まり、挨拶を交わす。
「ダフ。君の活躍は僕の耳にも入っているよ。これからは僕の傍で、その力を存分に発揮してほしい」
「はい! 命を懸けてお守りいたします!」
「ライラ、シリル、クラリッサ。学院を卒業してもいないのに、突然こんなところに呼び出してすまないね。しばらくの間、休学してもらうことになるけれど……構わないね?」
「「「はい!」」」
「ありがとう。……ライラ。君の話は貴族の間での噂でも、ジュリアからも聞いているよ。彼女の命を守ってくれてありがとう。これからしばらくは、その忠誠心を僕の為に使って欲しい」
「は、はい! が、がが、がんばります!」
「シリル。君のことも、ジュリアから聞いている。なんでも剣技が美しくて目を奪われるとか。是非僕の前でも披露してほしい。剣と血を華麗に舞わせてくれ」
「……はい!」
「クラリッサ。君もジュリアから話を聞いているよ。魔法と武術を使いこなせる君に、僕は期待している」
「ご期待に添えるよう、誠心誠意頑張ります!」
「みんな、顔をあげて」
次期国王の命令に、四人は震えながら顔を上げる。そこには、歴史書や教科書に載っている肖像画とは似ても似つかない、やつれきった王子が立っていた。
こけた頬、目の下の深いくま、今にも折れてしまいそうな細い四肢。彼の容姿があまりに痛ましく、目を逸らしてしまいたくなる。しかしそのようなことをしては首が飛ぶ。四人は浅い息を繰り返し、なんとか彼を見上げ続けた。
「……ごめんね。目を背けたいのも分かるよ。でもしっかりと見て。君たちの目に映っているその人が、今日から君たちが命を懸けて守る者だよ」
「……」
「何があっても、君たちは僕を守り抜けるかい?」
「「「「はい!!」」」」
「……そう」
ヴィクスは目尻を下げ、一番大きな声で返事をしたダフの耳元で囁く。
「君のお父さんが僕を殺そうとしたら、君は誰を守る?」
「……」
王子の静かで冷たい声に、ダフの背筋が凍り付く。彼は冷や汗を垂らし、なんとか声を絞り出した。
「……ヴィクス王子です」
「本当に? 守れるかい? 自分の父親を殺してでも?」
「……はい」
「そう」
次にヴィクスはライラの耳元で囁いた。
「もしこの四人の中に裏切り者が出たら、君は誰を守る?」
「……ヴィ、ヴィクス王子です」
「君は僕を守るために、仲間を殺せるかい?」
「……は、……は、い……」
次はシリルの耳元で。
「泣き叫ぶ民が僕の死を願っていたら、君は誰を守る?」
最後にクラリッサの耳元で。
「国王が僕を殺せと命令したら、君は誰を守る?」
彼らは「ヴィクス王子」と答えたが、全員が顔を青くして、震えていた。
(本当に俺は……父親を殺せるのだろうか……)
(わ、私は友だちを殺せるのかな……)
(僕は……ただ平和を願う民を……本当に殺さないといけないのだろうか……)
(国王に手をかけることが……私にできるのかしら……)
ヴィクス王子を守るためだけに、これから何人の人を殺さなければならないのだろう。
これから自分たちがすることは、果たして正しいことなのだろうか。
(俺たちは……)
(な、なんのために……)
(剣を握るのだろうか……)
(国を守るためのはずなのに……)
なぜ、これほどまでに不安になるのだろうか。
憂虞に満ちた彼らの目を見て、ヴィクスは微かに口角を上げた。
「いいね。やはり君たちを選んで正解だったよ」
ある雪の降る日、四人の少年少女の元に伝書インコが一羽降り立った。羽に王族の紋章が刻印されている真っ白のインコを見た従者は、悲鳴を上げ、仕事を放り投げて主に報告しに行く。
インコの伝言とアイテムボックスに入れられた書状に、主――少年少女の父親は、喜ぶ者もいれば憂う者もいた。
しかしどのような感情を抱いても、その書状に逆らうことはできない。
次期国王から直々に、近衛兵として働くようにとの命令が下されたのだから。
「よく来てくれたね」
集められた四人の前に、これから仕える主であるヴィクスが現れる。
ダフ、ライラ、シリル、クラリッサは跪き、「はっ!」とはっきりとした声で返事をした。
ヴィクスは一人一人の前で立ち止まり、挨拶を交わす。
「ダフ。君の活躍は僕の耳にも入っているよ。これからは僕の傍で、その力を存分に発揮してほしい」
「はい! 命を懸けてお守りいたします!」
「ライラ、シリル、クラリッサ。学院を卒業してもいないのに、突然こんなところに呼び出してすまないね。しばらくの間、休学してもらうことになるけれど……構わないね?」
「「「はい!」」」
「ありがとう。……ライラ。君の話は貴族の間での噂でも、ジュリアからも聞いているよ。彼女の命を守ってくれてありがとう。これからしばらくは、その忠誠心を僕の為に使って欲しい」
「は、はい! が、がが、がんばります!」
「シリル。君のことも、ジュリアから聞いている。なんでも剣技が美しくて目を奪われるとか。是非僕の前でも披露してほしい。剣と血を華麗に舞わせてくれ」
「……はい!」
「クラリッサ。君もジュリアから話を聞いているよ。魔法と武術を使いこなせる君に、僕は期待している」
「ご期待に添えるよう、誠心誠意頑張ります!」
「みんな、顔をあげて」
次期国王の命令に、四人は震えながら顔を上げる。そこには、歴史書や教科書に載っている肖像画とは似ても似つかない、やつれきった王子が立っていた。
こけた頬、目の下の深いくま、今にも折れてしまいそうな細い四肢。彼の容姿があまりに痛ましく、目を逸らしてしまいたくなる。しかしそのようなことをしては首が飛ぶ。四人は浅い息を繰り返し、なんとか彼を見上げ続けた。
「……ごめんね。目を背けたいのも分かるよ。でもしっかりと見て。君たちの目に映っているその人が、今日から君たちが命を懸けて守る者だよ」
「……」
「何があっても、君たちは僕を守り抜けるかい?」
「「「「はい!!」」」」
「……そう」
ヴィクスは目尻を下げ、一番大きな声で返事をしたダフの耳元で囁く。
「君のお父さんが僕を殺そうとしたら、君は誰を守る?」
「……」
王子の静かで冷たい声に、ダフの背筋が凍り付く。彼は冷や汗を垂らし、なんとか声を絞り出した。
「……ヴィクス王子です」
「本当に? 守れるかい? 自分の父親を殺してでも?」
「……はい」
「そう」
次にヴィクスはライラの耳元で囁いた。
「もしこの四人の中に裏切り者が出たら、君は誰を守る?」
「……ヴィ、ヴィクス王子です」
「君は僕を守るために、仲間を殺せるかい?」
「……は、……は、い……」
次はシリルの耳元で。
「泣き叫ぶ民が僕の死を願っていたら、君は誰を守る?」
最後にクラリッサの耳元で。
「国王が僕を殺せと命令したら、君は誰を守る?」
彼らは「ヴィクス王子」と答えたが、全員が顔を青くして、震えていた。
(本当に俺は……父親を殺せるのだろうか……)
(わ、私は友だちを殺せるのかな……)
(僕は……ただ平和を願う民を……本当に殺さないといけないのだろうか……)
(国王に手をかけることが……私にできるのかしら……)
ヴィクス王子を守るためだけに、これから何人の人を殺さなければならないのだろう。
これから自分たちがすることは、果たして正しいことなのだろうか。
(俺たちは……)
(な、なんのために……)
(剣を握るのだろうか……)
(国を守るためのはずなのに……)
なぜ、これほどまでに不安になるのだろうか。
憂虞に満ちた彼らの目を見て、ヴィクスは微かに口角を上げた。
「いいね。やはり君たちを選んで正解だったよ」
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