【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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決戦編:ダフ

友だち

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アデーレと別れの挨拶を交わしたダフは、最後にアーサーとモニカを探した。アデーレから部屋にいると聞いたので、大きなノックをしてから返事を待たずにドアを開ける。

「アーサー! モニカー!」

そこでダフが見たものは、半裸のモニカの肩に顔をうずめているアーサー。
ダフとモニカの目が合った。モニカは驚きすぎて固まっていたので、ダフはそっとドアを閉めた。

「ちょ、ちょっとダフ! 待って待って!!」

慌ててモニカがドアを開けて、顔を真っ赤にしているダフを部屋の中に引きずり込む。

「す、すまないな!! 見てはいけないものを見てしまった!!」
「ちがうのちがうの! 事情を聞いて!?」
「分かったから、モニカは服を着てくれないか!?」
「あ」

気まずそうに部屋の端に佇むダフに、唇に血が滲んでいるアーサーが話しかける。

「ごめんねダフ。変なところ見せちゃって」
「いや! 気にしないでくれ! 返事を待たずに入った俺が悪い!」

アーサーはクスッと笑ったが、顔色が悪い。ダフが心配そうに彼の顔を覗き見ると、アーサーは頬をぽりぽり掻きながら口を開いた。

「実はさ、僕、いろいろあって吸血鬼の血が体の中に流れちゃってて。それで吸血行為が必要なんだよね」
「ん? どういうことだ?」
「今の僕には魔物の血がちょびっと流れてるってこと」
「……どうしてそんな重大なことを、躊躇いもなく俺に話す?」

冷や汗を垂らすダフに、アーサーはきょとんと首を傾げた。

「どうしてって? だってダフは、そんなことで僕のことを嫌いにならないでしょ?」
「違う。そうじゃない。俺は……これから君たちと対立関係になるんだぞ」

それでもアーサーは、もっと首を傾げるだけだ。

「? それとこれと、何か関係あるかなあ?」
「あるだろう。元々身体能力が桁違いに優れているアーサーに魔物の血が入ったなんて、立派な戦争兵器になりえるだろうし……逆に魔物の血が入っているからと理由づけて殺すことだって容易い」
「それが?」
「アーサー。俺は王族側の人間なんだぞ。そんな俺に情報を漏らしてどうする」
「でも、ダフはそんなこと誰にも言わないでしょ?」
「まあ、そうだが……」

ダフはアーサーとモニカの純粋で人を信じやすいところが好きだった。だが今では、そんな彼らにヒヤヒヤしてしまう。
ダフの感情を読み取ってか、アーサーはまたクスクス笑った。

「安心して。言う人は選んでるよ。クルドパーティには言ってないし」
「クルドパーティにも言っていないことを、どうして俺に……」
「だってダフは、気心知れた友だちだし!」
「……」

違う、そうじゃない。確かに少し前まではそうだった。だが今は、表面上とはいえ敵同士だ。今となってはダフは、罪のない人を何人も殺してしまった立派な悪役だ。

「アーサー、あのな……」
「ん?」
「俺は、もう前の俺とは違うんだ」
「そう? 変わってないけど」
「アーサーにはそう見えるだけだ。俺は……」
「ねえモニカ、ダフ、変わってないよねえ?」
「ええ、変わってないわ」
「違う。俺は……」
「あー、でもちょっとゲッソリしちゃったねえ」
「だめよ、ダフ。しっかり食べないと」

呑気でホワホワした雰囲気で話しかけてくる双子に心臓が苦しくなる。
アーサーとモニカは以前とひとつも変わっていない。綺麗で、純粋で、優しい子どものままだ。
変わってしまったダフにとって、彼らはどうしようもなく眩しくて直視できない。

「俺は……」
「ダフ、今晩はここに泊まるのー? だったら僕たちの部屋でお泊りしてよー!」
「きゃー! いいわね! いろいろお話聞かせて!」
「そんなのダメだ。俺は……」
「どうしてえ? 僕、久しぶりにダフと寝たいよー」
「わたしも! ダフとお話してたら元気もらえるんだもーん!」
「俺は人を何人も殺しているんだ!!」

思わず叫んでしまった。我に返ったダフは、ぽかんとしている双子から顔を背ける。

「アーサー、モニカ……。俺はもう、合宿の時の俺とは違う。罪のない人をたくさん殺した。ひどいことをたくさんした。君たちと楽しくお喋りできるような俺は、もういないんだ」

肩で息をしているダフに、アーサーはもう一度「どうして?」と尋ねた。

「僕も人をたくさん殺したことがあるよ」
「……そんなくだらない嘘つかなくていい」
「本当だよ。何十人もの人を殺した。それに、僕たちのせいで何百人もの人が不幸になった」
「……」
「大切な人が僕たちのせいで処刑されてね、大切な人の家族も、村人も、みんな殺された。独りだけ生き残った子はいるけど、その子の心も、僕たちのせいで深く傷ついたんだ」
「アーサー……」
「ヴィクスがああなっちゃったのも、僕たちのせいなんだ。だから君がそんなことをさせられてるのも、僕たちのせいだよ」
「……すまない。俺は、そんなつもりで言ったわけじゃ……」

狼狽えるダフに、アーサーははっきりと言い切った。

「ひどいことをたくさんしたのは、僕たちのほうだ」

続いてモニカは、ダフにそっと問いかける。

「そんなわたしたちでも、友だちでいてくれる?」

ダフは双子を窺い見た。アーサーとモニカの表情は、先ほどとは違い翳りが見える。

「もう知っての通り、僕たちの本当の名前はアウスとモリア。双子として生まれ、不吉の象徴として恐れられていた存在だ。今、こうして振り返ってみたら、確かに僕たちは不吉の象徴であり、前兆なのかもしれない。だって僕たちがいなかったら、この国は今、こんなことにはなってなかったんだから」

アーサーはそう言うと、モニカの方を見て口角を上げた。それを見たモニカは、満面の笑みでダフの手を握る。

「でもね、だからって〝生まれてこなきゃよかった〟とか、〝死んじゃおう〟とか、そんな風には思わないようにしてるわ! だって今さらそんなこと考えたって意味がないんだもの! わたしたちは、前に進むしかないの! そうしないと次に進めないの! 暗い顔してたって、なんにも変わらないの!」
「モニカ……」
「ダフも前に進みましょう! もう罪のない人を殺さなくてよくなるように。ひどいことをしなくてよくなるように。ね?」

ダフはふぅとため息を吐き、モニカの手を握り返した。

「そうだな。すまない、少し思いつめていたみたいだ」
「仕方ないわよ。だってダフは優しいから!」
「とりあえずさ、中に入ってお話しようよ! ヴィクスのこともいろいろ聞きたいしー!」

にぱにぱ。双子の表情はそんな感じだ。ダフの頬も思わず緩み、モニカに手を引かれるままベッドに腰かけた。
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