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決戦編:裏S級との戦い
マルムとヘラ
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先ほどまで和んだ雰囲気だったのが一変、S級冒険者と双子に電撃のような緊張が走った。
サンプソンの背中には短剣が刺さっている。彼は吐血がカトリナにかからないよう、顔を背けていた。
マルムは立ち上がり、不思議そうに首を傾げる。
「あれ? 心臓を刺したはずだったのにどうして生きてるの? もしかして、咄嗟に避けたのかな」
ミントとモニカが、サンプソンに回復魔法をかけようと杖を振った。
しかし、それは毒魔術で相殺される。
「……っ」
「回復なんてさせるわけないだろぉぉ? ヒヒッ! ヒヒヒィッ!!」
彼女たちの背後には、自身の身長ほどの高さがある杖を狂気的に降りまわし、けたたましい笑い声をあげる魔術師ヘラがいた。
彼女を見たサンプソンが、口から血を流しながら顔を歪める。
「お前……は……!」
「ヒヒヒィ! 久しぶりだねえ、ご子息様ぁぁぁ!! あんたのおかげであたしはピカイチの素材を失っちまったんだよぉぉ! 今日はそれを返してもらうからねぇぇ! ヒヒッ!」
サンプソンは冷や汗をだらだら流していたが、彼女にニヤッと笑ってみせた。
「それで……どうして君は……、裏S級なんてものになったんだい……? 大公家を追い出されたのかな……?」
「ンンン! 違うよぉ! 大公家での活躍を認められて、なんと国王にスカウトされたのさあ! おかげで今まで、素材に困ることはなかったよぉぉ!」
「そうか……やはり王族は腐っているね……」
ヘラはサンプソンの言葉を無視して、マデリアの方を向く。うっとりと恍惚の表情を浮かべ、ねっとりした仕草で手招きした。
「さあ、おいでぇ~。メンテナンスをしてあげるよぉぉ……。ンンン、見たところ魔物の手がよく馴染んでいるねえ。とっておきの魔術で繋ぎ合わせていたんだよ。使えば使うほど、元の体とぴったりくっつくんだぁ~」
「ふふふ。私の体をめちゃくちゃにしたあなたをやっと殺せるのね。楽しみだわ」
「フヒッ! フヒヒィッ! 可愛いねえ~!」
ヘラを観察していたリアーナは、眉をひそめてカミーユに囁いた。
「なあ……なんかあいつ、おかしいぞ……」
「そんなのあの笑い方聞いたら誰だって分かるだろ……」
「いや、そこじゃねえ。あいつ……あいつの中に、魔力の器がねえんだ」
「……はあ? でもさっき毒魔法使ってたろ」
「だからおかしいんだよ……。あいつは魔法使いじゃねえ。それなのにどうして魔法が使えるんだ……」
それに答えたのはマデリアだった。
「ええ、このサイコパス魔術師は魔法使いじゃないわ。魔力を持ってないんだもの。それでも魔法……いえ、魔術を使うから〝魔術師〟なのよ」
「はぁ? 魔力持ってなかったら魔法なんて使えねえだろ」
「彼女は魔物の魂魄から魔力の器を抽出して、杖にはめこまれた石に注いでいる。それと特殊な術を使って、魔法と同じようなものを使うのよ」
彼らの会話を聞いていたアーサーは、まるでジッピンのミコのようだと思った。
説明を聞いてもよく分からなかったリアーナは、曖昧な返答をして杖を魔術師に向けた。
「ま! 要するに敵ってことだな!!」
「それははじめから分かってるだろうが」
そう言いつつ、カミーユも大剣をマルムに向けた。
「こいつらが出てきたってことは、そろそろバンスティンダンジョンも終盤だ。ホッとしたぜ」
「そうだね。残すはあと洞窟一階分……僕たちのアジト」
「そうか。やっと出られるんだな」
「出られないよ。僕たちがアウスとモリア以外みんな殺すから」
「誰も死なせねえよ。かかってこい」
「まずはそのゴリラから殺せばいいんだね。分かった、いいよ」
「……言うこともジルとそっくりかよ……。気分悪いなオイ……」
カミーユとマルムが武器を構えたとき、「待って」とジルが間に入った。
「僕がやる」
「おい……ジル、こいつはお前のアニキだろうが。身内に手をかけるな。俺がやるから……」
「僕がやる」
「……」
ジルの表情を見て、カミーユが困ったように頭を掻いた。
瞳孔が開き、こめかみには血管が浮いているジル。湧き上がる殺意で髪がピリピリと逆立っている。
「……それでお前の気が済むなら、勝手にしろ……」
「うん」
暇そうに小石を蹴っていたマルムは、「話はまとまった?」とジルに尋ねた。
「僕は誰とでもいいよ。二人同時でもいいし」
「僕がやる」
「そう」
マルムはふと微かに口元を緩めた。
「なかなか良い表情するようになったじゃないか」
「そんなことどうでもいい」
ジルとマルムが槍を手に向き合ったとき、次はミントが割って入った。
「待って~! 私にさせて、お願い~!」
「……ああ、そうか。君はマルムに両親を殺されて……」
「お願い、本当にお願いジル。あなたの気持ちはよく分かるけど、私はこの日をずっとずっと待ち侘びてて~……」
トロトロとした口調にうんざりしたマルムが、話を最後まで聞かずにミントと距離を詰め、槍を一突きした。
「もうめんどくさいからみんなまとめて来てよ」
それとほぼ同時に、背後にぴったりくっついていたジルがマルムの背中に槍の穂を向けた。
「うん。そうするよ」
ジルとミントに挟まれても顔色一つ変えないマルム。彼は素早く反魔法液を取り出し、ミントの足元に叩きつけた。瓶が割れ、魔法液がミントにかかる。それでもミントは動じず杖を振った。
鋭い風がマルムの首元に襲いかかる。咄嗟に避けようとしたものの、ジルに邪魔され完全には躱せずマルムの首から血が吹き出した。
「はぁぁぁあ!♡」
「……」
ミントが漏らした甘ったるい声に、ミントは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……あ、君もヘラみたいなタイプ? 魔法使いって変態しかいないわけ?」
「もっと見せて~!! あなたの血! 私のお父さんとお母さん~!!♡」
「……え、大丈夫この人」
マルムがミントを指さしながら、ジトッとした目でジルに尋ねた。
ジルはなんとも言えない顏で小さく頷く。
「うん、大丈夫じゃない人」
サンプソンの背中には短剣が刺さっている。彼は吐血がカトリナにかからないよう、顔を背けていた。
マルムは立ち上がり、不思議そうに首を傾げる。
「あれ? 心臓を刺したはずだったのにどうして生きてるの? もしかして、咄嗟に避けたのかな」
ミントとモニカが、サンプソンに回復魔法をかけようと杖を振った。
しかし、それは毒魔術で相殺される。
「……っ」
「回復なんてさせるわけないだろぉぉ? ヒヒッ! ヒヒヒィッ!!」
彼女たちの背後には、自身の身長ほどの高さがある杖を狂気的に降りまわし、けたたましい笑い声をあげる魔術師ヘラがいた。
彼女を見たサンプソンが、口から血を流しながら顔を歪める。
「お前……は……!」
「ヒヒヒィ! 久しぶりだねえ、ご子息様ぁぁぁ!! あんたのおかげであたしはピカイチの素材を失っちまったんだよぉぉ! 今日はそれを返してもらうからねぇぇ! ヒヒッ!」
サンプソンは冷や汗をだらだら流していたが、彼女にニヤッと笑ってみせた。
「それで……どうして君は……、裏S級なんてものになったんだい……? 大公家を追い出されたのかな……?」
「ンンン! 違うよぉ! 大公家での活躍を認められて、なんと国王にスカウトされたのさあ! おかげで今まで、素材に困ることはなかったよぉぉ!」
「そうか……やはり王族は腐っているね……」
ヘラはサンプソンの言葉を無視して、マデリアの方を向く。うっとりと恍惚の表情を浮かべ、ねっとりした仕草で手招きした。
「さあ、おいでぇ~。メンテナンスをしてあげるよぉぉ……。ンンン、見たところ魔物の手がよく馴染んでいるねえ。とっておきの魔術で繋ぎ合わせていたんだよ。使えば使うほど、元の体とぴったりくっつくんだぁ~」
「ふふふ。私の体をめちゃくちゃにしたあなたをやっと殺せるのね。楽しみだわ」
「フヒッ! フヒヒィッ! 可愛いねえ~!」
ヘラを観察していたリアーナは、眉をひそめてカミーユに囁いた。
「なあ……なんかあいつ、おかしいぞ……」
「そんなのあの笑い方聞いたら誰だって分かるだろ……」
「いや、そこじゃねえ。あいつ……あいつの中に、魔力の器がねえんだ」
「……はあ? でもさっき毒魔法使ってたろ」
「だからおかしいんだよ……。あいつは魔法使いじゃねえ。それなのにどうして魔法が使えるんだ……」
それに答えたのはマデリアだった。
「ええ、このサイコパス魔術師は魔法使いじゃないわ。魔力を持ってないんだもの。それでも魔法……いえ、魔術を使うから〝魔術師〟なのよ」
「はぁ? 魔力持ってなかったら魔法なんて使えねえだろ」
「彼女は魔物の魂魄から魔力の器を抽出して、杖にはめこまれた石に注いでいる。それと特殊な術を使って、魔法と同じようなものを使うのよ」
彼らの会話を聞いていたアーサーは、まるでジッピンのミコのようだと思った。
説明を聞いてもよく分からなかったリアーナは、曖昧な返答をして杖を魔術師に向けた。
「ま! 要するに敵ってことだな!!」
「それははじめから分かってるだろうが」
そう言いつつ、カミーユも大剣をマルムに向けた。
「こいつらが出てきたってことは、そろそろバンスティンダンジョンも終盤だ。ホッとしたぜ」
「そうだね。残すはあと洞窟一階分……僕たちのアジト」
「そうか。やっと出られるんだな」
「出られないよ。僕たちがアウスとモリア以外みんな殺すから」
「誰も死なせねえよ。かかってこい」
「まずはそのゴリラから殺せばいいんだね。分かった、いいよ」
「……言うこともジルとそっくりかよ……。気分悪いなオイ……」
カミーユとマルムが武器を構えたとき、「待って」とジルが間に入った。
「僕がやる」
「おい……ジル、こいつはお前のアニキだろうが。身内に手をかけるな。俺がやるから……」
「僕がやる」
「……」
ジルの表情を見て、カミーユが困ったように頭を掻いた。
瞳孔が開き、こめかみには血管が浮いているジル。湧き上がる殺意で髪がピリピリと逆立っている。
「……それでお前の気が済むなら、勝手にしろ……」
「うん」
暇そうに小石を蹴っていたマルムは、「話はまとまった?」とジルに尋ねた。
「僕は誰とでもいいよ。二人同時でもいいし」
「僕がやる」
「そう」
マルムはふと微かに口元を緩めた。
「なかなか良い表情するようになったじゃないか」
「そんなことどうでもいい」
ジルとマルムが槍を手に向き合ったとき、次はミントが割って入った。
「待って~! 私にさせて、お願い~!」
「……ああ、そうか。君はマルムに両親を殺されて……」
「お願い、本当にお願いジル。あなたの気持ちはよく分かるけど、私はこの日をずっとずっと待ち侘びてて~……」
トロトロとした口調にうんざりしたマルムが、話を最後まで聞かずにミントと距離を詰め、槍を一突きした。
「もうめんどくさいからみんなまとめて来てよ」
それとほぼ同時に、背後にぴったりくっついていたジルがマルムの背中に槍の穂を向けた。
「うん。そうするよ」
ジルとミントに挟まれても顔色一つ変えないマルム。彼は素早く反魔法液を取り出し、ミントの足元に叩きつけた。瓶が割れ、魔法液がミントにかかる。それでもミントは動じず杖を振った。
鋭い風がマルムの首元に襲いかかる。咄嗟に避けようとしたものの、ジルに邪魔され完全には躱せずマルムの首から血が吹き出した。
「はぁぁぁあ!♡」
「……」
ミントが漏らした甘ったるい声に、ミントは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……あ、君もヘラみたいなタイプ? 魔法使いって変態しかいないわけ?」
「もっと見せて~!! あなたの血! 私のお父さんとお母さん~!!♡」
「……え、大丈夫この人」
マルムがミントを指さしながら、ジトッとした目でジルに尋ねた。
ジルはなんとも言えない顏で小さく頷く。
「うん、大丈夫じゃない人」
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