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決戦編:裏S級との戦い
美しすぎる魂
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◇◇◇
その日の夜、オーヴェルニュ家に来客があった。
マントを深く被った少女二人。
突然現れた少女に、侯爵と冒険者は警戒した。
「おやっさん、俺が会って来る」
「悪いね。頼むよ」
「おう、ちょっと待ってろ」
侯爵家の敷地外でカミーユが応対した。
「……誰だお前」
「申し遅れました。わたくし、ユリアン・ロベスと申します」
「なっ……!」
ユリアン・ロベス。
ベニートたちが受けていた指定依頼の依頼主だ。彼女は動揺するカミーユに興味を示すことなく、侯爵家に目をやった。
そして、少女二人はベッドで眠っているモニカの傍で立つ。
「アーサー様とモニカ様はどちらに?」
しかしカミーユは答えず、警戒したまま口を開いた。
「……ユリアン・ロベス。お前がヴィクス王子と手を組んでるヤツだってことは分かってるんだぞ。恐らくその名は偽名だろう。そして本当の名前は……」
「まあ。そこまでお気づきだったのですね。では……」
少女はそう言い、マントのフードを外した。
彼女はカミーユの予想通り――ジュリア王女だった。
「アーサー様とモニカ様をお呼びいただけますか? 急ぎのことなの」
「もう一人は誰だ?」
問いかけられたもう一人の少女もフードを外す。
「申し遅れました。わたし、ピュトア泉の聖女、シチュリアと申します。ヴィクスより命を受け、あなたたちの傷を治しにきました」
「ピュトア泉の聖女……! モニカとアーサーの命を救ってくれた聖女か……」
「ええ。今回もできる限りを尽くします。そのためにも、アーサーを交えて話がしたい。どうかお呼びいただけませんか」
敵か味方か分からないジュリア王女だけなら呼ぼうとしなかったカミーユも、双子の命を救った……それも、魔物絡みの治癒をしてくれたことがあるシチュリアなら頼れるかもしれないと思い、彼女たちの願いを聞き入れた。
「その前に……どうして俺らがここにいると分かった?」
「簡単なことですわ。私たちは一度イルネーヌ町に行きました。でもあなたたちがもういなかったの。だったら行くところは一カ所しかございませんでしょう?」
「……ちょっと待ってろ。侯爵に話を……」
「シチュリアはあなたたちに預けますが、私は中に招いていただかなくて結構ですわ。お話はこちらで。とにかくアーサー様とモニカ様をお呼びいただけますか?」
「……ああ」
呼び戻されたアーサーとモニカは、ジュリアとシチュリアを見て「えっ!?」と大声を上げた。
「ジュリアにシチュリア!?」
「どうしたのこんなところで!」
「ああああ、良かった!! お二人とも思っていたよりは悪くなさそうですわ……!!」
双子の顔を見た途端、ジュリア王女はブワッと涙を溢れさせ、彼らに力いっぱい抱きついた。
状況が掴めないままジュリア王女の頭を撫でるアーサーは、助けを求めるかのようにシチュリアを見た。
シチュリアは、アーサーをじっと見たかと思えばジュリア王女に声をかける。
「ジュリア。見た目よりはとてもまずいことになっているわ」
「えっ?」
そしてシチュリアがアーサーに向き直る。
「また新たな魔物の血が入っているわね、アーサー」
「あ……うん……」
「それも恐ろしいほど強い魔物?」
「そうなんだよ……」
「全く……。聖女の魂を持ちながら魔物に愛されるなんて、さすがはミモレス様の生まれ変わりね」
「……」
シチュリアは嫌味のつもりで言ったようだったが、アーサーはそれを聞いてどこかホッとした。
「そうだった……。ミモレスもセルジュ先生とシルヴェストルに愛されてたもんね……。そっか、よかった……」
「美しすぎる魂は、魔物でさえも魅了してしまうのよ。それほどまでにあなたの魂が特別美しく清らかなの。ミモレス様の生まれ変わりだということに、もう少し自覚を持たないといけないわ、あなた」
「僕の魂が清らか?」
「ええ。恐ろしいほどにね」
「こんなになっても……?」
「それほど魔物の血と魔力に毒されておきながら、自我を保っているのが何よりの証拠でしょう?」
「えへへ。ありがとう、シチュリア」
「……どうしてお礼を言われたのかしら」
その日の夜、オーヴェルニュ家に来客があった。
マントを深く被った少女二人。
突然現れた少女に、侯爵と冒険者は警戒した。
「おやっさん、俺が会って来る」
「悪いね。頼むよ」
「おう、ちょっと待ってろ」
侯爵家の敷地外でカミーユが応対した。
「……誰だお前」
「申し遅れました。わたくし、ユリアン・ロベスと申します」
「なっ……!」
ユリアン・ロベス。
ベニートたちが受けていた指定依頼の依頼主だ。彼女は動揺するカミーユに興味を示すことなく、侯爵家に目をやった。
そして、少女二人はベッドで眠っているモニカの傍で立つ。
「アーサー様とモニカ様はどちらに?」
しかしカミーユは答えず、警戒したまま口を開いた。
「……ユリアン・ロベス。お前がヴィクス王子と手を組んでるヤツだってことは分かってるんだぞ。恐らくその名は偽名だろう。そして本当の名前は……」
「まあ。そこまでお気づきだったのですね。では……」
少女はそう言い、マントのフードを外した。
彼女はカミーユの予想通り――ジュリア王女だった。
「アーサー様とモニカ様をお呼びいただけますか? 急ぎのことなの」
「もう一人は誰だ?」
問いかけられたもう一人の少女もフードを外す。
「申し遅れました。わたし、ピュトア泉の聖女、シチュリアと申します。ヴィクスより命を受け、あなたたちの傷を治しにきました」
「ピュトア泉の聖女……! モニカとアーサーの命を救ってくれた聖女か……」
「ええ。今回もできる限りを尽くします。そのためにも、アーサーを交えて話がしたい。どうかお呼びいただけませんか」
敵か味方か分からないジュリア王女だけなら呼ぼうとしなかったカミーユも、双子の命を救った……それも、魔物絡みの治癒をしてくれたことがあるシチュリアなら頼れるかもしれないと思い、彼女たちの願いを聞き入れた。
「その前に……どうして俺らがここにいると分かった?」
「簡単なことですわ。私たちは一度イルネーヌ町に行きました。でもあなたたちがもういなかったの。だったら行くところは一カ所しかございませんでしょう?」
「……ちょっと待ってろ。侯爵に話を……」
「シチュリアはあなたたちに預けますが、私は中に招いていただかなくて結構ですわ。お話はこちらで。とにかくアーサー様とモニカ様をお呼びいただけますか?」
「……ああ」
呼び戻されたアーサーとモニカは、ジュリアとシチュリアを見て「えっ!?」と大声を上げた。
「ジュリアにシチュリア!?」
「どうしたのこんなところで!」
「ああああ、良かった!! お二人とも思っていたよりは悪くなさそうですわ……!!」
双子の顔を見た途端、ジュリア王女はブワッと涙を溢れさせ、彼らに力いっぱい抱きついた。
状況が掴めないままジュリア王女の頭を撫でるアーサーは、助けを求めるかのようにシチュリアを見た。
シチュリアは、アーサーをじっと見たかと思えばジュリア王女に声をかける。
「ジュリア。見た目よりはとてもまずいことになっているわ」
「えっ?」
そしてシチュリアがアーサーに向き直る。
「また新たな魔物の血が入っているわね、アーサー」
「あ……うん……」
「それも恐ろしいほど強い魔物?」
「そうなんだよ……」
「全く……。聖女の魂を持ちながら魔物に愛されるなんて、さすがはミモレス様の生まれ変わりね」
「……」
シチュリアは嫌味のつもりで言ったようだったが、アーサーはそれを聞いてどこかホッとした。
「そうだった……。ミモレスもセルジュ先生とシルヴェストルに愛されてたもんね……。そっか、よかった……」
「美しすぎる魂は、魔物でさえも魅了してしまうのよ。それほどまでにあなたの魂が特別美しく清らかなの。ミモレス様の生まれ変わりだということに、もう少し自覚を持たないといけないわ、あなた」
「僕の魂が清らか?」
「ええ。恐ろしいほどにね」
「こんなになっても……?」
「それほど魔物の血と魔力に毒されておきながら、自我を保っているのが何よりの証拠でしょう?」
「えへへ。ありがとう、シチュリア」
「……どうしてお礼を言われたのかしら」
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