【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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最終編:反乱編:侯爵家にて

正体を明かすとき

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 カミーユ、双子、そしてシチュリアが城の中に戻ると、すでに侯爵とカトリナたちのS級冒険者がサロンで話し合いをしていた。彼らが部屋に入ってきたことに気付いた侯爵は、カミーユを呼び寄せた。

「カミーユ。私は他の貴族にも呼びかけるつもりだが、構わないね」
「……ああ、おやっさんがいいのならこちらも助かる」
「そこで相談なんだが、争いを引き起こすためには大義名分が必要でね。大公の血を引くサンプソンを旗印にするのが今のところ一番良いと思っているのだが……彼だけでは少し弱くてな……。なにか良い案はないか?」
「……」

 カミーユはちらっと双子を窺い見た。サンプソンで弱いのであれば、アウスとモリアの名前を使えばいい。国王の第一子である彼らが立ち上がったとすれば、この腐敗した王族に反旗を翻す充分な大義名分となるだろう。
 しかしそのような重い役割をアーサーとモニカに押し付けて良いものか、とカミーユは口に出すのを躊躇ったし、他のS級も言えないようだった。

 そんな中、アーサーが遠慮がちに手を挙げる。

「こ、侯爵……」
「どうしたアーサー。小腹がすいたかな? あちらに君の好きなバナナが……」
「う、ううん、そうじゃなくてね、あの」
「?」

 アーサーはもごもごと聞き取れないほどの小声で何かを言ったが、侯爵には聞き取れなかった。

「すまないアーサー。何て言ったんだい? トイレならあっちに――」
「ぼ、僕たちの名前を使ってください!!」
「「「「「!!」」」」」

 S級たちの視線がアーサーに集まる。アーサーの一言で彼らは涙ぐんだ。一方侯爵はなんのことかさっぱり分からない様子だ。

「……? アーサーとモニカの名前を? どこに?」
「えっと、大義名分に……」
「……えーっと、アーサーとモニカの名前を……? ありがたいんだが、エリクサーの生みの親であるE級冒険者というだけでは、少し弱いんだ……」
「えっと、あの、その、そうじゃなくて……」

 うまく説明できずにしどろもどろになっているアーサーの肩に手を置き、カミーユが尋ねた。

「アーサー……。いいのか? 正体を明かしても。ここで明かすと、国中の貴族……いや、全国民に知れ渡るぞ」
「うん……。だって正体を秘密にしてたのも、国王との約束を守ってたからだから……。もう今となってはそんな約束なんて守ることもないでしょ……?」
「……そうだな。ありがとう、アーサー、モニカ」
「お礼を言うのは僕たちの方だよ」

 二人の会話に首をかしげている侯爵に、カミーユが真実を明かす。
 
「おやっさん。アーサーとモニカは……現国王の第一子と第二子、アウス王子とモリア王女だ」
「……え?」
「アウス王子とモリア王女は死んじゃいなかった。十一年前、森に捨てられたんだ。で、そいつらは生き延び、ポントワーブの町で生活を始め第二の人生を歩んでいた。それが――こいつらだ」

 突然明かされた衝撃の事実に侯爵は口をパクパクさせた。カミーユと双子に交互に目をやり、カトリナたちS級冒険者にも視線を送る。目が合ったS級冒険者が頷いて肯定すると、侯爵は慌てて双子の前に跪いた。

「出会ってから今までのご無礼、どうかお許し下さい……!」
「やっ、やめてください侯爵!」
「私たちが正体を隠してただけだし、それにこんなことされるほど私たちはエライ人じゃないのよ!」
「そう言われると……銀色の髪、灰色の瞳……アウス王子とモリア王女の特徴そのままだ……」

 カミーユとカトリナが侯爵を落ち着かせ、ソファに座らせた。

「ま、そういうことで、大義名分にアウスとモリアの名前を使えばいい」
「あ、ああ……。充分すぎるほどだ。では、早速貴族に書簡を飛ばそう。今の王族に不満を抱く貴族は少なくない。きっと大勢が集まるぞ」
「おやっさんからの呼びかけだしな。大半がこっちにつくんじゃねえか?」
「ああ、腐った貴族以外はな」

 オーヴェルニュ侯爵から書簡を受け取った貴族。侯爵の呼びかけというだけでなく、実は生存していたアウスとモリアが先頭に立つということに加え、カミーユパーティとクルドパーティも兵に加わると知り、大勢の貴族が参加の意を示した。
 双子がオヴェルニー学院で過ごしていたときに出会った生徒たちの親には、アーサーとモニカの顔を知っている人や、子どもから双子の人柄を聞いている人が多かった。彼らはアーサーとモニカがアウスとモリアだと知り、驚きと共に大喜びしたらしい。

「アーサーとモニカがアウス王子とモリア王女だったなんて!」
「彼らなら、今の腐敗した王族をつくり変えてくれるにちがいない」
「さらに侯爵とS級冒険者がついている」
「立ち上がるのは今しかない!」

 侯爵は、闇オークションに積極的に参加しているような腐った貴族――タールの家やルリンの家など――には呼びかけすらしなかった。

 一方、侯爵から呼びかけられた信頼されている貴族の中に、参加したくてもできない貴族がいくつかあった。
 その代表的な貴族が、ライラ、シリル、クラリッサの家だった。彼らは子どもをヴィクスの近衛兵として預けている。いわば人質を取られているようなものだ。彼らは参加できないという意思と、子どもを取り返してほしいという願いを載せた手紙を侯爵に送った。

 意外だったのはグレンダの家だ。彼女の父親は公爵――降下した王族である。しかし今の王族に辟易していたのだと、ノリノリで参加の意を示した。(追伸で、この争いが終わったらグレンダをアーサーに嫁がせてくれないかという文章があり、モニカが怒り狂った)

 侯爵の書簡が貴族に届く前に、彼が学長を務めるオヴェルニー学院で過ごしていた生徒たちが家に帰された。

「人質を取っているようで気持ち悪いからね。生徒たちを私が預かっているとなると、貴族は思うように動けないだろう」

 侯爵の度量の広さに、多くの貴族はより一層侯爵への信頼感が増したという。

 王族に宣戦布告するのは一ヶ月後。
 それまでにオーヴェルニュ侯爵が貴族に呼びかけ、軍に加わる貴族たちが、争いに向けて戦力を整える。
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