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プロローグ
第2話 おさがりの銀色
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◇◇◇
「ただいまー。……って、誰もいないか」
海茅は誰もいない家の電気をつけ、制服のままリビングのソファに腰を下ろした。テレビのチャンネルを適当に変えるが、結局見たい番組がなかったので電源を消した。
今日から侭白中学校の一年生になった冴えない女の子、彼方海茅。
クラスは三組。知らない人がたくさんいて、緊張してしまって自分から話しかけられなかった。明日はちゃんと友だちができるかな、と考えているとまた緊張してきたので、海茅は気分を変えるためにテレビ台の引き出しから細長いケースを取り出した。
ケースを開けると銀色に輝くフルートがあらわれる。去年、姉にもらったおさがりだ。
吹奏楽部でフルートを演奏している姉は、高校に上がるタイミングでもっと良いフルートを買ってもらっていた。
姉に吹き方を教えてもらったことがある海茅は、まだ曲を演奏するのは難しいが、少しだけなら音を出すことができる。姉が「音が出るだけでもすごいよ」と褒めてくれたことが嬉しくて、海茅は時たまこうしてフルートの練習をしているのだ。
空が暗くなった頃、姉が学校から帰ってきた。
「おー! 前より上手になってるね。海茅、あんたフルートの才能あるんじゃなーい?」
「えへへ、そうかなあ。そうだったらいいんだけど!」
「どれどれ、お姉ちゃんが教えてあげよう」
「よろしくお願いします、センパイ!」
姉は教えるのが上手だ。中学高校で後輩に何度も教えてきたのだろう。
「あのねお姉ちゃん。私も吹奏楽部に入ろうと思うの」
「えっ! 本当に? 最高じゃん! 希望の楽器はもちろん?」
「フルート!」
「だよね~! 海茅ならきっとオーディションも受かるよ」
「えー、そんなの分からないよ~?」
侭白中学校の吹奏楽部は、入部初日にオーディションがおこなわれ、顧問が担当楽器を決めることになっている。
「コンクールではほとんど毎年銀賞だし、そこまで有名ではないんだー。だから部員数も少ないし、競争率低いだろうからきっと大丈夫! それどころかたぶんコンクールも一年から出場できると思うよ」
姉の言葉を聞き、海茅は頭の中で、舞台の上でフルートを吹く自分の姿を思い描いた。舞台の照明できらきら輝く銀色のフルート。海茅のフルートの音色にうっとりと目を瞑る観客席の人たち。
頬を緩める海茅の耳元で、姉が妄想に拍車をかけることを囁いた。
「もしかしたらソロもらえるかもね!」
姉の冗談に海茅は笑ったが、頭の中では、ソロを演奏して拍手喝采を受ける自分の姿がはっきりと浮かび上がった。
「ただいまー。……って、誰もいないか」
海茅は誰もいない家の電気をつけ、制服のままリビングのソファに腰を下ろした。テレビのチャンネルを適当に変えるが、結局見たい番組がなかったので電源を消した。
今日から侭白中学校の一年生になった冴えない女の子、彼方海茅。
クラスは三組。知らない人がたくさんいて、緊張してしまって自分から話しかけられなかった。明日はちゃんと友だちができるかな、と考えているとまた緊張してきたので、海茅は気分を変えるためにテレビ台の引き出しから細長いケースを取り出した。
ケースを開けると銀色に輝くフルートがあらわれる。去年、姉にもらったおさがりだ。
吹奏楽部でフルートを演奏している姉は、高校に上がるタイミングでもっと良いフルートを買ってもらっていた。
姉に吹き方を教えてもらったことがある海茅は、まだ曲を演奏するのは難しいが、少しだけなら音を出すことができる。姉が「音が出るだけでもすごいよ」と褒めてくれたことが嬉しくて、海茅は時たまこうしてフルートの練習をしているのだ。
空が暗くなった頃、姉が学校から帰ってきた。
「おー! 前より上手になってるね。海茅、あんたフルートの才能あるんじゃなーい?」
「えへへ、そうかなあ。そうだったらいいんだけど!」
「どれどれ、お姉ちゃんが教えてあげよう」
「よろしくお願いします、センパイ!」
姉は教えるのが上手だ。中学高校で後輩に何度も教えてきたのだろう。
「あのねお姉ちゃん。私も吹奏楽部に入ろうと思うの」
「えっ! 本当に? 最高じゃん! 希望の楽器はもちろん?」
「フルート!」
「だよね~! 海茅ならきっとオーディションも受かるよ」
「えー、そんなの分からないよ~?」
侭白中学校の吹奏楽部は、入部初日にオーディションがおこなわれ、顧問が担当楽器を決めることになっている。
「コンクールではほとんど毎年銀賞だし、そこまで有名ではないんだー。だから部員数も少ないし、競争率低いだろうからきっと大丈夫! それどころかたぶんコンクールも一年から出場できると思うよ」
姉の言葉を聞き、海茅は頭の中で、舞台の上でフルートを吹く自分の姿を思い描いた。舞台の照明できらきら輝く銀色のフルート。海茅のフルートの音色にうっとりと目を瞑る観客席の人たち。
頬を緩める海茅の耳元で、姉が妄想に拍車をかけることを囁いた。
「もしかしたらソロもらえるかもね!」
姉の冗談に海茅は笑ったが、頭の中では、ソロを演奏して拍手喝采を受ける自分の姿がはっきりと浮かび上がった。
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