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1章
第10話 LINE
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◇◇◇
放課後にデッサンを見せてもらったあの日から一週間経ったが、海茅は匡史と一度も話せていない。
週に二日、匡史が絵画教室までの時間を潰すために放課後も教室にいることを海茅は知っていた。また鉢合わせすることを期待して、海茅は部活中の休憩時間には毎回トイレに行っていたが、一度も会えなかった。
かと言って、クラスメイトがいる前で話しかける勇気は出ない。海茅に話しかけられた匡史が困るんじゃないとか、匡史のグループの子たちに笑われるんじゃないかとか、本当に起こるかどうかも分からないことを想像して怖くなってしまう。
なので海茅は、友だちとおしゃべりをしているときに、こっそり匡史に視線を送ることしかできなかった。
その日も海茅がちらちらと匡史を見ていたので、優紀は隠れてニヤニヤした。
授業が終わり、パート練習をしているとき、優紀が海茅に話しかけた。
「ねえ、海茅ちゃん」
「んー?」
「あのさ、私、今日多田君のLINE教えてもらったんだけど」
びっくりした海茅が大声を出したので、音楽室で練習していたパート仲間の視線が集まった。
真っ赤な顔で咳払いしてから練習に戻った海茅に、優紀は笑いを堪えながら尋ねる。
「海茅ちゃんも知りたい? 多田君のLINE」
「えっ、そ、そ、そんなの、無理無理。多田君に迷惑だよ」
正直に言うと知りたい。しかし海茅は、匡史にLINE交換を断られるにちがいないと決めつけていた。恥をかくくらいなら、はじめから聞かない方がマシだ。
しかし優紀は、海茅の言葉に首を傾げた。
「なんで迷惑? 多田君にはもう聞いてあるけど、海茅ちゃんに教えても大丈夫って言ってたよ」
ファー!と、蒸気機関車の汽笛のようなおかしな声を海茅が発した。海茅は、奇声にのけぞる優紀の肩を掴み、ぐあんぐあん揺らす。
「どうしてもう聞いてあるのぉ!?」
「ごめん! だって海茅ちゃんが聞きたそうな顔してたからさ~。でも……大きなお世話、ってわけでもないでしょ?」
海茅は両手で顔を覆い、消え入りそうな声で言った。
「……私ってそんなに分かりやすいかなあ」
「うーん、気付いてるのは私くらいだと思うけど」
「多田君も気付いてるのかな……。わぁぁぁ……気持ち悪がられてたらどうしよう~……」
「気持ち悪がってたらLINE交換なんてしないよー! 大丈夫!」
優紀は海茅の背中を叩いて元気づけ、休憩時間になると早速匡史のLINEを教えた。
しかし海茅はなかなか友だち追加ボタンを押せないでいる。
「優紀ちゃんどうしよう……! やっぱり嫌ですって言われたらどうしようか!?」
「嫌われるほども仲良くないでしょ!? ほら、さっさと押しなよ!」
「ん~……南無三!!」
海茅は半ばヤケクソに友だち追加ボタンを押し、ぐったり床に倒れ込んだ。
隣で優紀が腹を抱えて笑っている。
「南無三……っ! 友だち追加ボタン押すときに南無三って言う人初めて見た……!!」
「ひぃぃ……。怖いよぉ~……。ブロックされたらどうしよう~……」
「まずメッセージ送りなよ!」
「なんて送ればいいのかな……? 男の子とLINEなんて交換したことないから分かんないんだけど」
「普通に名前とよろしくだけでいいんじゃない?」
優紀のアドバイスの元、海茅は匡史に初めてのメッセージを送った。すぐに既読になり返事がくる。
《よろしく。今日も部活?》
「へーんーじーきーたー……っ! 優紀ちゃん、どうすればいいの!?」
海茅は、スマホの画面を食い入るように見ながら優紀に指示を仰いだ。普通に返せばいいだけだと優紀が言うのだが、普通というのが一番難しい。
「顔文字と絵文字どっちの方が良いと思う? スタンプはどれがいいかな……私、変なのしか持ってないけど……これなんて送ったら引かれるかな……」
「……なんでもいいんじゃない?」
「ちょっと面倒くさくなってるよね、優紀ちゃん?」
大盛り上がりしている間に休憩時間が終わった。海茅と優紀は気持ちを切り替え、コンクール曲の練習にとりかかった。
放課後にデッサンを見せてもらったあの日から一週間経ったが、海茅は匡史と一度も話せていない。
週に二日、匡史が絵画教室までの時間を潰すために放課後も教室にいることを海茅は知っていた。また鉢合わせすることを期待して、海茅は部活中の休憩時間には毎回トイレに行っていたが、一度も会えなかった。
かと言って、クラスメイトがいる前で話しかける勇気は出ない。海茅に話しかけられた匡史が困るんじゃないとか、匡史のグループの子たちに笑われるんじゃないかとか、本当に起こるかどうかも分からないことを想像して怖くなってしまう。
なので海茅は、友だちとおしゃべりをしているときに、こっそり匡史に視線を送ることしかできなかった。
その日も海茅がちらちらと匡史を見ていたので、優紀は隠れてニヤニヤした。
授業が終わり、パート練習をしているとき、優紀が海茅に話しかけた。
「ねえ、海茅ちゃん」
「んー?」
「あのさ、私、今日多田君のLINE教えてもらったんだけど」
びっくりした海茅が大声を出したので、音楽室で練習していたパート仲間の視線が集まった。
真っ赤な顔で咳払いしてから練習に戻った海茅に、優紀は笑いを堪えながら尋ねる。
「海茅ちゃんも知りたい? 多田君のLINE」
「えっ、そ、そ、そんなの、無理無理。多田君に迷惑だよ」
正直に言うと知りたい。しかし海茅は、匡史にLINE交換を断られるにちがいないと決めつけていた。恥をかくくらいなら、はじめから聞かない方がマシだ。
しかし優紀は、海茅の言葉に首を傾げた。
「なんで迷惑? 多田君にはもう聞いてあるけど、海茅ちゃんに教えても大丈夫って言ってたよ」
ファー!と、蒸気機関車の汽笛のようなおかしな声を海茅が発した。海茅は、奇声にのけぞる優紀の肩を掴み、ぐあんぐあん揺らす。
「どうしてもう聞いてあるのぉ!?」
「ごめん! だって海茅ちゃんが聞きたそうな顔してたからさ~。でも……大きなお世話、ってわけでもないでしょ?」
海茅は両手で顔を覆い、消え入りそうな声で言った。
「……私ってそんなに分かりやすいかなあ」
「うーん、気付いてるのは私くらいだと思うけど」
「多田君も気付いてるのかな……。わぁぁぁ……気持ち悪がられてたらどうしよう~……」
「気持ち悪がってたらLINE交換なんてしないよー! 大丈夫!」
優紀は海茅の背中を叩いて元気づけ、休憩時間になると早速匡史のLINEを教えた。
しかし海茅はなかなか友だち追加ボタンを押せないでいる。
「優紀ちゃんどうしよう……! やっぱり嫌ですって言われたらどうしようか!?」
「嫌われるほども仲良くないでしょ!? ほら、さっさと押しなよ!」
「ん~……南無三!!」
海茅は半ばヤケクソに友だち追加ボタンを押し、ぐったり床に倒れ込んだ。
隣で優紀が腹を抱えて笑っている。
「南無三……っ! 友だち追加ボタン押すときに南無三って言う人初めて見た……!!」
「ひぃぃ……。怖いよぉ~……。ブロックされたらどうしよう~……」
「まずメッセージ送りなよ!」
「なんて送ればいいのかな……? 男の子とLINEなんて交換したことないから分かんないんだけど」
「普通に名前とよろしくだけでいいんじゃない?」
優紀のアドバイスの元、海茅は匡史に初めてのメッセージを送った。すぐに既読になり返事がくる。
《よろしく。今日も部活?》
「へーんーじーきーたー……っ! 優紀ちゃん、どうすればいいの!?」
海茅は、スマホの画面を食い入るように見ながら優紀に指示を仰いだ。普通に返せばいいだけだと優紀が言うのだが、普通というのが一番難しい。
「顔文字と絵文字どっちの方が良いと思う? スタンプはどれがいいかな……私、変なのしか持ってないけど……これなんて送ったら引かれるかな……」
「……なんでもいいんじゃない?」
「ちょっと面倒くさくなってるよね、優紀ちゃん?」
大盛り上がりしている間に休憩時間が終わった。海茅と優紀は気持ちを切り替え、コンクール曲の練習にとりかかった。
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