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5章
第47話 ふらり
しおりを挟む「あれ、そう言えば……」
海茅はあることに気付き、何気なく話を変えた。
「さっき匡史君いなかったね」
「あー……うん」
歯切れの悪い返事だ。何かあると察した海茅は、無意識に声を落とす。
「なんかあったの?」
「あったというか、なかったというか……」
「そういえば、ちょくちょく教室から姿消すよね、匡史君」
「あはは……」
職員室に呼ばれて叱られるようなことでもしたのかな、なんて考えていると、階段から下りてきた匡史とばったり出会った。
「あ、匡史君だ。どこ行ってたの?」
「えっと、別に……」
匡史はふいと顔を背け、小さな声でそっけなく応えただけだった。そんな反応をされたのは初めてだったので、海茅の心臓は石を詰め込まれたように重くなった。
「お、俺、教室戻るね。ばいばい」
「う、うん……。ばいばい……」
そそくさと教室に逃げていく匡史の背中を目で追っていると、海茅の喉がヒリヒリ痛くなった。
匡史がいなくなったあと、海茅は全てを諦めて穏やかな顔をしている優紀に尋ねる。
「優紀ちゃん……。私、匡史君に何かしちゃったかなぁ」
「してないよ」
「じゃあどうして、いつもと違ったんだろう……。優紀ちゃん、何か知ってるんだよね? 良かったら私が匡史君を怒らせた理由教えてほしいな……」
優紀は深いため息を吐き、乱暴に頭を掻く。
「あー……。本当に海茅ちゃんは関係ないの。多田君、呼び出されてたんだよ」
「先生に? どうして……」
「違う。女の子に」
「ヒェッ」
思いもよらなかった答えに海茅は体をこわばらせた。しかしそんな彼女に、優紀は呆れた目を向ける。
「多田君って結構人気あるの。かっこよくて、頭が良くて、優しいでしょ。それは海茅ちゃんがよく知ってると思うけど」
言われてみたらそうだ。匡史は特段派手ではないので、悪目立ちはしていない。しかし目立たないかと言われると決してそんなわけではない。
「一年生はもちろん、上級生からもちょっと人気あるみたい。ま、あのグループは歩いてるだけでも華があるしね」
息のしかたを忘れて呆然と突っ立つ海茅に、優紀が気まずそうに言った。
「海茅ちゃん気付いてなさそうだったし、ショック受けるの分かってたから、今まで言ってなかったの」
「ゆ、優紀ちゃんはどうして知ってるの……?」
「私、多田君が告白されてるところに鉢合わせちゃったことあるんだよね。そこから多田君がフラッといなくなるときは、女の子に呼び出されたときなんだろうなーって分かるようになった」
海茅は、匡史が女の子に告白されるシーンを想像して床に崩れ落ちた。
匡史が女子に人気があるということを全く考えていなかった。距離が近くなりすぎて感覚がおかしくなっていたようだ。もしくは毎日LINEをしているから浮かれていたかのどちらかだ。どちらにせよ迂闊だった。
優紀が珍しく言い訳がましいことを言う。
「多田君には、あんまり人に言わないでってお願いされてたの。それにこれを聞いたら海茅ちゃんが落ち込むと思ったから今まで話してなかったんだけど……。話さないと海茅ちゃんが、多田君に嫌われたって勘違いしちゃいそうだったから……」
優紀は、あとで匡史に、海茅にそのことを話したと正直に打ち明けるつもりだと言った。
それはそれで気まずい。海茅は、これからどのように匡史と接したらいいのか分からなくなった。
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