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第二章
第27話 年越しそば
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大晦日の夜。午前〇時が近づくにつれ、ムミィのボルテージが徐々に上がっていくのが分かった。今なんて、持て余したテンションを発散させるために、逆立ちして部屋の中を行ったり来たりしている。不審者だ。不審者がいる。
私はというと、えびの天ぷらを二本載せた、ねぎたっぷりの年越し蕎麦を作っていた。
昆布を三十分浸けておいた七百ミリリットルの水に中火をかけ、沸騰する直前に昆布を取り出す。
そこに十三グラムのかつお削り節を投入。弱火で五分ほど煮だしているうちに、ふわふわのかつお節がゆっくりと沈み湯の中で小躍りする。
かつお節を濾しただし汁に、大さじ四杯の醤油とみりんを入れると、かけつゆの完成。
ここに蕎麦と長ねぎ、そして特大のえび天ぷらを添えて、年越し蕎麦の出来上がり。
「はーい、ムミィ。年越し蕎麦できたよー。意味不明な行動をしていないで、早くこっちに来なさい」
「年越しそばぁ!? やったぁ~!!」
ムミィは逆立ちしたままキッチンまでやって来て、やっと足で立ったかと思えば、出汁が鼻につきそうなほど蕎麦に顔を近づけた。
「ん~! かつおの良い香りがたまりません~」
「柚子の皮は添える?」
はぁーん、とムミィは天使に胸に矢を射抜かれたような声を上げた。
「ぜひともお願いしますぅっ……!」
「ムミィの食に対する反応が、毎度ちょっと気持ち悪いんだよねえ」
そんなことを呟きながら、私は柚子の皮を切り落とし、千切りして蕎麦に添えた。
私とムミィはそそくさとコタツに潜り込み、両手を合わせる。
「「いただきます!!」」
ムミィは早速えびの天ぷらに丸かじりして、口から尻尾をぴろぴろ出したまま「んまい!」と叫んだ。
「さくさくの衣にぷりっぷりのえび! この天ぷらも真白さんの手作りですね!?」
「うん。さっき揚げたの」
「やっぱり! 必要以上の鎧を纏わぬもののふが、今僕の中で暴れています!」
つまり、余計な衣でかさましされていないからおいしいということをムミィは言いたいようだ。えびも特大の良いエビ使っているしね。お気に召してなにより。
「僕の剣をもののふが受け止め、必死に抵抗しています……っ! もののふの身を貫いた僕の剣は、新鮮な肉圧に喜んでいますぅぅぅっ……」
弾力の強いえびを噛み切った時の食感が好きということだな。ムミィの食レポは比喩がききすぎて、逆に伝わりにくいのよ。
ムミィは、二本のてんぷらのうち、一本目はすぐに食べて二本目は最後までとっていた。サクサクの衣とおつゆが沁み込んだフワフワの衣、どちらも味わいたいからだそうだ。
どんぶりにそのまま口を付けておつゆを飲んだムミィは、天上を見上げ涙を流す。
「かつおの生き様がこのおつゆに沁み込んでいます……。奥行きのある風味は、まさに彼が泳いできた海のよう……。昆布によってうま味も増していますね」
そしてムミィは私に目を向け、真剣な表情で言った。
「これはプロポーズということでよろしいでしょうか?」
「は? 何言ってんの? なんで?」
「このおつゆは真白さんの愛情そのもの。こんなおつゆを僕に食べさせてくれた……それは愛の告白、つまりプロポーズということですよね?」
私は真顔で首を横に振る。
「ううん。違うよ。ただの年越し蕎麦」
「真白さんのお気持ちはとっても嬉しいのですが、僕は神です。ヒトと結ばれるなんてそんなことは。……ちょっと上司に相談してきてもいいですか?」
「しなくていいよ。そんなつもりないから」
そうですよねえー、とムミィが口をひくつかせながら残念そうに作り笑いした。
「それよりさ、お蕎麦美味しい?」
「はい! 今まで食べてきたどの蕎麦よりも美味しいです!」
おつゆを飛び散らせながら豪快に蕎麦を啜ったあと、ムミィが私に尋ねた。
「真白さんは、麺類だとどれが一番好きですか?」
「えー、選べないな。だってどれも美味しくない?」
「美味しいですねえ。僕も選べません! でも、蕎麦が一番好きかもしれません」
ムミィは、その時に出た食卓の料理が一番好きなものになる。数日前にうどんを出したときは、うどんが世界で一番好きって言っていたもん。
言うことがコロコロ変わるのはちょっと嘘くさい。でも、こっちがびっくりするくらい美味しそうに食べるムミィを見ていると、ついつい嬉しくなってしまうし、彼の言葉は全て本心なんだろうなと思う。
私はというと、えびの天ぷらを二本載せた、ねぎたっぷりの年越し蕎麦を作っていた。
昆布を三十分浸けておいた七百ミリリットルの水に中火をかけ、沸騰する直前に昆布を取り出す。
そこに十三グラムのかつお削り節を投入。弱火で五分ほど煮だしているうちに、ふわふわのかつお節がゆっくりと沈み湯の中で小躍りする。
かつお節を濾しただし汁に、大さじ四杯の醤油とみりんを入れると、かけつゆの完成。
ここに蕎麦と長ねぎ、そして特大のえび天ぷらを添えて、年越し蕎麦の出来上がり。
「はーい、ムミィ。年越し蕎麦できたよー。意味不明な行動をしていないで、早くこっちに来なさい」
「年越しそばぁ!? やったぁ~!!」
ムミィは逆立ちしたままキッチンまでやって来て、やっと足で立ったかと思えば、出汁が鼻につきそうなほど蕎麦に顔を近づけた。
「ん~! かつおの良い香りがたまりません~」
「柚子の皮は添える?」
はぁーん、とムミィは天使に胸に矢を射抜かれたような声を上げた。
「ぜひともお願いしますぅっ……!」
「ムミィの食に対する反応が、毎度ちょっと気持ち悪いんだよねえ」
そんなことを呟きながら、私は柚子の皮を切り落とし、千切りして蕎麦に添えた。
私とムミィはそそくさとコタツに潜り込み、両手を合わせる。
「「いただきます!!」」
ムミィは早速えびの天ぷらに丸かじりして、口から尻尾をぴろぴろ出したまま「んまい!」と叫んだ。
「さくさくの衣にぷりっぷりのえび! この天ぷらも真白さんの手作りですね!?」
「うん。さっき揚げたの」
「やっぱり! 必要以上の鎧を纏わぬもののふが、今僕の中で暴れています!」
つまり、余計な衣でかさましされていないからおいしいということをムミィは言いたいようだ。えびも特大の良いエビ使っているしね。お気に召してなにより。
「僕の剣をもののふが受け止め、必死に抵抗しています……っ! もののふの身を貫いた僕の剣は、新鮮な肉圧に喜んでいますぅぅぅっ……」
弾力の強いえびを噛み切った時の食感が好きということだな。ムミィの食レポは比喩がききすぎて、逆に伝わりにくいのよ。
ムミィは、二本のてんぷらのうち、一本目はすぐに食べて二本目は最後までとっていた。サクサクの衣とおつゆが沁み込んだフワフワの衣、どちらも味わいたいからだそうだ。
どんぶりにそのまま口を付けておつゆを飲んだムミィは、天上を見上げ涙を流す。
「かつおの生き様がこのおつゆに沁み込んでいます……。奥行きのある風味は、まさに彼が泳いできた海のよう……。昆布によってうま味も増していますね」
そしてムミィは私に目を向け、真剣な表情で言った。
「これはプロポーズということでよろしいでしょうか?」
「は? 何言ってんの? なんで?」
「このおつゆは真白さんの愛情そのもの。こんなおつゆを僕に食べさせてくれた……それは愛の告白、つまりプロポーズということですよね?」
私は真顔で首を横に振る。
「ううん。違うよ。ただの年越し蕎麦」
「真白さんのお気持ちはとっても嬉しいのですが、僕は神です。ヒトと結ばれるなんてそんなことは。……ちょっと上司に相談してきてもいいですか?」
「しなくていいよ。そんなつもりないから」
そうですよねえー、とムミィが口をひくつかせながら残念そうに作り笑いした。
「それよりさ、お蕎麦美味しい?」
「はい! 今まで食べてきたどの蕎麦よりも美味しいです!」
おつゆを飛び散らせながら豪快に蕎麦を啜ったあと、ムミィが私に尋ねた。
「真白さんは、麺類だとどれが一番好きですか?」
「えー、選べないな。だってどれも美味しくない?」
「美味しいですねえ。僕も選べません! でも、蕎麦が一番好きかもしれません」
ムミィは、その時に出た食卓の料理が一番好きなものになる。数日前にうどんを出したときは、うどんが世界で一番好きって言っていたもん。
言うことがコロコロ変わるのはちょっと嘘くさい。でも、こっちがびっくりするくらい美味しそうに食べるムミィを見ていると、ついつい嬉しくなってしまうし、彼の言葉は全て本心なんだろうなと思う。
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