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エピローグ
第47話 タマムシ色
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肉を詰めたピーマンを、熱したフライパンに下向きに載せる。
ぢぅぅ、と控えめな焼き音が、ムミィと八幡神の耳かきをする。二人は気持ちよさそうに、「はぅぅん……」と気持ち悪い声を漏らし、へにゃんと床にへたりこんだ。
フライパンに蓋をして、焼いている間にソースを作る。その間も、神たちは時々蓋を開けて、焼けていくピーマンを眺めては二人でコソコソ感動を共有していた。
肉に焦げ目がついてからソースを投入。
ソースと絡まるピーマンを眺めていたムミィが、うっとりとした声を出す。
「八幡神、見て。ピーマンの下で、漏れた肉汁がぱちぱち弾けてるよ」
「ああ、美しいなあ」
「キラキラ光ってるみたいだね。まるでレアアイテムのエフェクトみたい」
「む。それはどういうことだ」
首を傾げる八幡神に向けて、ムミィは小ばかにした笑みを浮かべた。
「ああ、八幡神はウツシヨのゲームをしたことがないのかあ」
「ゲームならしたことがあるぞ。独楽、めんこ、けん玉、……」
「わ、懐かしい~。今度一緒に独楽で遊ぼうよ~!」
「いいぞ! で、れああいてむのえふぇくととは一体なんだ?」
「それはね――」
まるでおじいちゃんと孫の会話だな、なんて思いながら、私は二人の和む会話をBGMにして料理を進めていった。
ピーマンをひっくり返し、種の部分にスライスチーズを散らす。じわぁとチーズが溶けていき、ピーマンから垂れた。フライパンの上に落ちたチーズがソースや肉汁と混ざり、焦げていくさまがなんとも食欲をそそる。
「はい、どうぞ。ピーマンの肉詰めです」
できたての料理を目の前に出された八幡神は、涎を垂らして「うおぉぉぉ!」と咆哮した。
ムミィまで箸を持って待っている。
「真白さん! 僕の分はぁ!?」
「そう言うと思ったよ。どうぞ」
「やったぁー!! 真白さんの料理だぁぁぁぁっ!」
「朝も食べたでしょ」
「真白さんの料理は、何度食べたって足りません!」
ムミィはカウンターから数本の酒を持ってきて、八幡神に振舞った。もちろんムミィも飲む気満々だ。
乾杯して酒をこくりと飲んでから、二人はピーマンの肉詰めを口に入れた。
そして八幡神が目を見開き、「なんだこれはぁぁっ!」と叫ぶ。
「噛むと肉汁が溢れるのはもちろんだが、ピーマンからもじゅわぁとジューシーな汁が溢れてくる!」
ムミィは頷きながら、今にも永遠の眠りについてしまいそうなほどうっとりした。
「口に入れたときに、ピーマンの風味がふわりと香るのもいいですねえ……。それに、苦みとフルーティーさを兼ね備えているピーマンは、お肉の味に深みを出しつつ口の中をさっぱりさせてくれます……。こんなの、何個だって食べられちゃいますよぉ……」
「ふっくら仕上がっている肉に、無駄な味付けを感じない。素朴で肉の味をしっかり味わえて美味い!」
二人ともピーマンの肉詰めを気に入ってくれたようで良かった。
オンオン泣きながら料理を頬張っていたムミィと八幡神が、ピーマンを幅八ミリで縦に切っていた私に話しかけた。
「これは真白さんが僕のために作ってくれたレアアイテム……! つまり、婚約指輪ということでよろしいですか、真白さん!?」
「いやいや、だったらその指輪は俺のモンだろうが! マシロは俺のために作ったんだ。お前のはオマケなんだからな!! そうだよなあ、マシロ!!」
私は視線も向けずに応える。
「ううん、それはただのピーマンの肉詰め。婚約指輪じゃないから争いはやめて」
切ったピーマンをフライパンにぶち込み、弱火でじっくり炒める。溜まった洗い物をしつつ、片手間にフライパンを振って両面に火を通していく。
ピーマンがしんなりしてきたら中火にして、大きめのちりめんじゃこをたっぷり入れる。そこに砂糖と万能つゆを加えピーマンに絡めると、ピーマンとちりめんじゃこ炒めの出来上がり。
料理をテーブルに置くと、すっかり肉詰めを平らげ、酒を楽しみながらムミィとお喋りしていた八幡神の顔がほころんだ。
「おお、来た来た。次の料理」
「ピーマンばっかりですみません。今日は大量のピーマンを捌かないといけなくて……」
「美味けりゃいいんだ。ピーマンは俺の好物だしな!」
ムミィはピーマン炒めに顔を近づけ、匂いを嗅いだ。
「ん~! 甘辛い匂いが食欲を刺激します~。それに、見てください、この照っているピーマンを!」
そして箸でピーマンをつまみ、光を当てる。
「油とたれ、そして焼き色によって、タマムシの甲羅のような輝きを放っています」
「……綺麗だけど、虫で喩えるのはやめて?」
食欲を失ったのは私だけだったようで、ムミィも八幡神も、じゃこの香ばしさがアクセントになっている、甘辛い和風の味付けを楽しんでくれた。
遠くでベルの音が鳴る。ムミィは急いで料理を呑み込み、来客の対応をしに行った。
その後もしばらく八幡神はキッチンで飲み、グラスが空になったタイミングで席を立った。
「マシロ。ムミィが嫌になったら、いつでも俺の神社に来い。愚痴ならいくらでも聞いてやるし、なんなら俺が守護してやる」
「ありがとうございます。本当に……色々とありがとうございました」
「構わんよ。気に入ったヒトにはついつい肩入れしていまうのが、神の性分でねえ」
八幡神は真っ白な歯を見せて笑う。
「それにマシロからはきっちりお代をもらっている。いつも美味いクッキー、ありがとうな」
「また神社にクッキーを持っていきますね」
「なに! そいつはありがたい!」
「クッキー以外の料理が食べたくなったら、いつでもパブに来てください」
「ああ、また来るよ。今日もご馳走さま、マシロ」
ぢぅぅ、と控えめな焼き音が、ムミィと八幡神の耳かきをする。二人は気持ちよさそうに、「はぅぅん……」と気持ち悪い声を漏らし、へにゃんと床にへたりこんだ。
フライパンに蓋をして、焼いている間にソースを作る。その間も、神たちは時々蓋を開けて、焼けていくピーマンを眺めては二人でコソコソ感動を共有していた。
肉に焦げ目がついてからソースを投入。
ソースと絡まるピーマンを眺めていたムミィが、うっとりとした声を出す。
「八幡神、見て。ピーマンの下で、漏れた肉汁がぱちぱち弾けてるよ」
「ああ、美しいなあ」
「キラキラ光ってるみたいだね。まるでレアアイテムのエフェクトみたい」
「む。それはどういうことだ」
首を傾げる八幡神に向けて、ムミィは小ばかにした笑みを浮かべた。
「ああ、八幡神はウツシヨのゲームをしたことがないのかあ」
「ゲームならしたことがあるぞ。独楽、めんこ、けん玉、……」
「わ、懐かしい~。今度一緒に独楽で遊ぼうよ~!」
「いいぞ! で、れああいてむのえふぇくととは一体なんだ?」
「それはね――」
まるでおじいちゃんと孫の会話だな、なんて思いながら、私は二人の和む会話をBGMにして料理を進めていった。
ピーマンをひっくり返し、種の部分にスライスチーズを散らす。じわぁとチーズが溶けていき、ピーマンから垂れた。フライパンの上に落ちたチーズがソースや肉汁と混ざり、焦げていくさまがなんとも食欲をそそる。
「はい、どうぞ。ピーマンの肉詰めです」
できたての料理を目の前に出された八幡神は、涎を垂らして「うおぉぉぉ!」と咆哮した。
ムミィまで箸を持って待っている。
「真白さん! 僕の分はぁ!?」
「そう言うと思ったよ。どうぞ」
「やったぁー!! 真白さんの料理だぁぁぁぁっ!」
「朝も食べたでしょ」
「真白さんの料理は、何度食べたって足りません!」
ムミィはカウンターから数本の酒を持ってきて、八幡神に振舞った。もちろんムミィも飲む気満々だ。
乾杯して酒をこくりと飲んでから、二人はピーマンの肉詰めを口に入れた。
そして八幡神が目を見開き、「なんだこれはぁぁっ!」と叫ぶ。
「噛むと肉汁が溢れるのはもちろんだが、ピーマンからもじゅわぁとジューシーな汁が溢れてくる!」
ムミィは頷きながら、今にも永遠の眠りについてしまいそうなほどうっとりした。
「口に入れたときに、ピーマンの風味がふわりと香るのもいいですねえ……。それに、苦みとフルーティーさを兼ね備えているピーマンは、お肉の味に深みを出しつつ口の中をさっぱりさせてくれます……。こんなの、何個だって食べられちゃいますよぉ……」
「ふっくら仕上がっている肉に、無駄な味付けを感じない。素朴で肉の味をしっかり味わえて美味い!」
二人ともピーマンの肉詰めを気に入ってくれたようで良かった。
オンオン泣きながら料理を頬張っていたムミィと八幡神が、ピーマンを幅八ミリで縦に切っていた私に話しかけた。
「これは真白さんが僕のために作ってくれたレアアイテム……! つまり、婚約指輪ということでよろしいですか、真白さん!?」
「いやいや、だったらその指輪は俺のモンだろうが! マシロは俺のために作ったんだ。お前のはオマケなんだからな!! そうだよなあ、マシロ!!」
私は視線も向けずに応える。
「ううん、それはただのピーマンの肉詰め。婚約指輪じゃないから争いはやめて」
切ったピーマンをフライパンにぶち込み、弱火でじっくり炒める。溜まった洗い物をしつつ、片手間にフライパンを振って両面に火を通していく。
ピーマンがしんなりしてきたら中火にして、大きめのちりめんじゃこをたっぷり入れる。そこに砂糖と万能つゆを加えピーマンに絡めると、ピーマンとちりめんじゃこ炒めの出来上がり。
料理をテーブルに置くと、すっかり肉詰めを平らげ、酒を楽しみながらムミィとお喋りしていた八幡神の顔がほころんだ。
「おお、来た来た。次の料理」
「ピーマンばっかりですみません。今日は大量のピーマンを捌かないといけなくて……」
「美味けりゃいいんだ。ピーマンは俺の好物だしな!」
ムミィはピーマン炒めに顔を近づけ、匂いを嗅いだ。
「ん~! 甘辛い匂いが食欲を刺激します~。それに、見てください、この照っているピーマンを!」
そして箸でピーマンをつまみ、光を当てる。
「油とたれ、そして焼き色によって、タマムシの甲羅のような輝きを放っています」
「……綺麗だけど、虫で喩えるのはやめて?」
食欲を失ったのは私だけだったようで、ムミィも八幡神も、じゃこの香ばしさがアクセントになっている、甘辛い和風の味付けを楽しんでくれた。
遠くでベルの音が鳴る。ムミィは急いで料理を呑み込み、来客の対応をしに行った。
その後もしばらく八幡神はキッチンで飲み、グラスが空になったタイミングで席を立った。
「マシロ。ムミィが嫌になったら、いつでも俺の神社に来い。愚痴ならいくらでも聞いてやるし、なんなら俺が守護してやる」
「ありがとうございます。本当に……色々とありがとうございました」
「構わんよ。気に入ったヒトにはついつい肩入れしていまうのが、神の性分でねえ」
八幡神は真っ白な歯を見せて笑う。
「それにマシロからはきっちりお代をもらっている。いつも美味いクッキー、ありがとうな」
「また神社にクッキーを持っていきますね」
「なに! そいつはありがたい!」
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「ああ、また来るよ。今日もご馳走さま、マシロ」
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