パパには言わない

田中潮太

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変化していく日常

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 その週の土曜日に翠は早速市立図書館へと向かった。
 ひとりで電車に乗るのはこれが初めてで緊張したが最寄り駅は路線がひとつしか通っていない小さな駅だった為に乗る電車を間違えることもなく無事乗車することが出来た。ICカードを改札にタッチした際のピピっという機械音にいちいち驚かなくてもいいのだ。

 駅からそう遠くはない、駅を出て大きな通りを真っすぐ歩けば辿り着ける。

 天気は快晴。風は涼しく気持ちが良い。しかし今の翠にその心地よさを感じながら図書館への道を歩く。日差しがほんの少し眩しい。
 ようやく自分と紅の為の一歩を踏み出せるのだから。フェイクの為に持ってきた教科書や参考書が入ったトートバッグも重く感じなかった。十分ほど歩いたところで白っぽい外壁の大きな建物が見えてきた。翠は高鳴る胸を抑え込みながら歩みを進める。
 心なしかいつもより足が早まった。ここに自分たちが生きていく為のヒントが隠されている。

 自動ドアをくぐり抜けて入った図書館は古い本の匂いで満たされていた。翠は館内マップに目を通す。目当ての本がある『医学』のジャンルは一階の奥にあるようだった。

 クローゼットを開いて紅のことを見つけた時に思い浮かんだドキュメンタリー番組。翠も事細かに内容を覚えていたわけではない。しかしそのテーマとしてのあるワードだけは鮮明に覚えていた。
 医学分野の棚の間を練り歩く。医学分野の棚の中でも更に事細かく区分された、恐らくこの分野だろうという箇所を探す。背表紙をひとつひとつ確認していく。しかし思い当たるタイトルの本は中々見当たらない。ひとつひとつ、丁寧に見落とさないよう確認していく。上から確認していき三段目。思い当たるタイトルの本を発見しそれを引っ張り出した。

(あ……あった、これだ)

 開いて目次を確認する。それから数ページ捲り間違いなくこの本だと翠は確信した。
 その本を始め同じ事柄を扱っているタイトルが数冊並んでいた。翠はひとまず今手に取った本を読むことに決め、近くの空いた席へと向かった。

 席に着く。図書館は土曜日という事もあってかそれとなく混んでいる。持ってきたトートバッグは足元に置く。胸が高鳴る。大きな一歩を今踏み出すのだ。自ら進んで選び取った、未来を左右する事象。
改めて、本のタイトルを確認する。

『多重人格――解離性同一性障害の傾向と治療――』

 間違いなく翠と紅を指す言葉――そのものだった。
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