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はじまりの再会
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うさぎの今までの人生は、悪いものだった。
バスから降りる。感じたのは纏わりつくような暑さ。潮の香り。次に一面の深い青いろ。海と空のコントラスト。雲一つない。バスはわたしだけを放り出してそのまま遠くへと走り去った。
バス停には『桃果町 三丁目』の文字。およそ十三年ぶりにやってきたこの町。記憶も朧気だけどこの香りと青いろだけは変わっていないな……と感じる。
次いで周囲を見渡した。
ママのお姉さんである周子おばさんがこのバス停まで迎えに来てくれることになっていた。でもその姿は見当たらない。
スマホを開く。おばさんからの連絡は来ていない。
それならちょっとだけ砂浜に降りようかな。そんな風に考えて一か月分の荷物が入ったリュックを背負い直してわたしは砂浜に続く階段を駆け降りた。
暑くてたまらない。そう思ったわたしはスニーカーを脱いでまっしろの靴下も脱ぐと裸足で砂浜に立った。しかし熱くて火傷しそうだ。鉄板の上に放り出されたみたい。鉄板の上から逃げるように、わたしは海へ駆け出した。
「わっ……」
ひんやりとしていて気持ちいい。青いろは透明になってわたしの足に絡みついた。その場でじっとしていると砂の中にずぶずぶと足が埋まっていく。このままじっとし続けたらどうなるのだろう? 体が全部砂に埋まっちゃうのかな? そんな妄想が浮かぶ。
しばらくの間、そうしていた。海の冷たさを身体で感じる。太陽の熱はとにかくあつい。いっそ全身で青いろに飛び込んでしまいたかった。
でもわたしが身に着けているグリーンのワンピースはお気に入り。ママが珍しく誕生日にくれたもの。だからこの服は汚したくない。海に入るならもっと適当なTシャツやハーフパンツで入るべきだと思う。
そういえば、十三年前もこうして足だけを水につけていた? あれ? その時、隣に誰かがいたような……。
「うさぎ!」
「あっ……おばさん!」
遠くから名前を呼ばれて振り返る。階段の上で大きく手を振るおばさんの姿があった。
わたしはリュックの背中側に入れていたサンダルを引っ張り出すとそれを履いてスニーカーを片手におばさんに駆け寄った。足がぬるぬるして気持ち悪い。でもきっとこの暑さならすぐに乾いちゃうと思う。
おばさんの家は昔と変わっていない。大きな、青い屋根の一軒家におばさんが一人で住んでいる。
「二階の部屋、掃除しておいたから」
「うんっ! ありがとう」
玄関を入ってすぐの階段を駆け上がる。この家にはわたしの部屋がある。十三年前にわたしがここへ遊びにくることになって、その時におばさんが用意してくれたお部屋。
「わっ!」
変わっていない、わたしの部屋だった。
お姫様のような部屋。白い家具にピンクのラグ、ベッドは天蓋付き。抱えるのにちょうど良い大きさのテディベアがわたしに向かって微笑んでる。可愛い。
「この子の名前は……ええと」
十三年前。わたしはこの子に名前を付けた。
「そう! ももちゃん!」
ももちゃんだ。桃色のリボンをしているから、ももちゃん。十三年ぶりに再会したももちゃんは何も変わっていない。
この部屋は変わらず、お姫様のようなわたしのお部屋。
そのことが嬉しくってはしゃいでいると一階からおばさんの声が聞こえた。
「はーい! 今行くね!」
大きなリュックを置くとわたしは階段を降りておばさんのところへ向かった。
おばさんは家で仕事をしているから日中は一階にある書斎に籠っている。
わたしはその邪魔をしちゃいけない。リビングにある大きなテレビで面白い番組を見ても良いんだけど、でもわたしは大声で笑っちゃうから、邪魔になっちゃう。
だからサンダルを履いて外に出てみた。
今日の服はレースのキャミソールにフレアスカート。それからつばの広い帽子。お姫様の部屋からお出かけだから、気分はお城を抜け出したお姫様そのものだった。
(どこへ行こう?)
十三年前はわたしも小さかったから行ける場所は限られていた。大抵は海で過ごした。足をつけたり、階段に座って海を眺めたり。
だけどわたしはもう二十歳。こどもじゃない、大人になった。
もう少し、どこか遠い場所へ行ってもいいように思う。
そう思ってわたしは桃果町を歩き始めた。
そうは言ってもここは田舎町。カラオケとかゲームセンターとかそういう場所はないみたい。でもパチンコ屋さんだけは見つけた。わたしはもう大人だからパチンコ屋さんに入ることもできる。でも大きな音が嫌いだし煙草の匂いも嫌い。だからパチンコ屋さんには入りたくない。
結局、わたしが辿り着いたのはスーパーだった。グミが好きだからぶどうのグミを手に取る。それから店内を歩き回ってノートを一冊買うことにした。
お金を払って元来た道を戻る。海沿いの道はずっと潮風がふいている。わたしが普段暮らす町は海とは遠い場所にあるから潮風は心地良い。
おばさんの家に戻ってもそっとドアを開ける。音をたてないように階段を上る。邪魔しちゃいけないから、そっと。
「ももちゃん、ただいま」
ももちゃんは変わらずベッドの上で微笑んでいる。
わたしは買ってきたノートを取り出すと机の上に開いた。
リュックからペンケースを取り出してその中身をひっくり返す。ピンク色のシャープペンを手に取ってかちかちと芯を出す。
『八月二日
きょうはお散歩に行きました。ぶどうのグミとこのノートを買って帰りました。このノートは日記を書いたりらくがきしたり、好きに使おうと思います』
それだけ書いてわたしはノートを閉じた。我ながら幼稚な文章だと感じる。
ここでの暮らしは思ったよりも退屈。十三年前は何をしていたんだろう? それを思い出したくてわたしはもう一度おばさんの家を飛び出した。
おばさんの家を出ても出来ることは限られてる。もう歩くのは疲れちゃったし、海の方へ向かう。
砂浜に続く階段に座った。ちょっと熱いけど大丈夫。そもそもこの県は北にあるから涼しい方だし。常夏の南の品にくらべれば、よっぽど。
「ん~」
十三年前のことを考える。
あの頃はまだママとわたしの二人暮らしで、ママが病院に入院しちゃったから、わたしは一か月だけおばさんのところに預けられていた。
確か、そう。
記憶は朧気。だけどあの頃のわたしは誰かと一緒に遊んでいた。海に足をつけたり、砂のお城を作ったり。泥団子も作ったっけ?
(あ……でも……)
遊んだのは、そう。
だけどそれよりもお兄さんのお話を聞くことが大好きだった。
「お兄さん?」
思い出す。背の高い、お兄さん。長い前髪から見える優しい目とそこから零れる雫が好きだった。
わたしの、《みゃう》の大切な人。
(そうだ、どうして忘れていたんだろう)
お兄さん。とーまお兄さんだ。毎日のようにわたしと遊んでくれた。それで『ちゅうがっこう』の話を聞かせてくれた。
わたしはとーまお兄さんが大好きだった。毎日のように一緒だった。約束なんかしなくても毎日この海で会うことが出来た。
思い出した途端に会いたくなった。だけどどんなに思い出そうとしてもわたしはそれ以上のことを思い出せなかった。
否、知らないのかもしれない。とーまお兄さんの家がどこにあるとか、そういう情報。だってわたしたちはこの海に集まっていたから。それにわたしが七歳の時に中学生だったならとーまお兄さんはもう二十代後半。この町にはいないかもしれないし、いたとしても結婚して子どもなんかがいるかも。
(だめだなぁ……でも、また会いたいな)
七歳の《みゃう》が遊んでいた相手。
それならおばさんが知っているかも。帰って、おばさんが書斎から出て来たら聞いてみよう。
でもここで待っていたら会えないかな? なんて思ってわたしは陽が沈むまでここでとーまお兄さんを待ってみた。だけどお兄さんは現れなかった。
落胆しながら家に帰る。まず鼻についたのはカレーの匂い。キッチンから音が聞こえて、わたしはキッチンに顔を出した。
「ただいま、おばさん」
「あぁ、おかえり。どこへ行ってたの?」
「ちょっと海に」
「そう。あ、もうご飯にするから手を洗ってらっしゃい」
「わかった」
今日の晩ご飯はカレーだ。おばさんの得意料理。そういえば、十三年前もこうしてカレーばかり食べたっけ。合理的な料理、だっけ。おばさんはそう言っていた。
昔と変わらないカレー。お肉は豚肉、野菜はじゃがいもと人参。シンプルなカレーだ。たまねぎはおばさんが嫌いだから入っていない。
甘口。おばさんもわたしもカレーは甘口派だ。
「ねぇおばさん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「ん?」
「あのね。わたしが七歳の時にね、わたしとよく遊んでたとーまお兄さんって覚えてない?」
そう尋ねるとおばさんは手を止めて考えるように眉間に皺を寄せた。考えごとをするときのおばさんの癖だ。
「……あぁ、三野さん家の」
「みのさん?」
「そう。確か三野さん家の次男坊よ。都真くんでしょ?」
三野都真。それがとーまお兄さんの名前。言われてみれば、とーまお兄さんは苗字を「みの」って言っていた気がする。
「その人、今何してるか知らない?」
するとおばさんは露骨に顔をしかめた。何か良くないこと、言っちゃったかな。わたしは鈍いし空気を読むのが苦手だから、わからない。
「一回実家を出て行ったけど今は戻って何もしてないって、ご近所さんに聞いた話だけどね」
「家にいるの?」
「そう。金食い虫」
かねくいむし。意味はよくわからないけどあまり良い意味じゃなさそうだった。だからわたしはそれ以上、とーまお兄さんのことを聞かなかった。
でも家にいるなら、会いにいけるかもしれない。それにご近所さんの間で話題にあがるぐらいだから誰かに聞けば家の場所もわかるかも。
わたしの明日の行動は決まった。
とーまお兄さんに会いに行く。昔のように遊ぶことは出来なくても家にいるならちょっと挨拶するぐらいは出来るかもしれない。
わたしは例のノートを開いてそこにでかでかと『とーまお兄さんに会いに行く』と目標を掲げた。
バスから降りる。感じたのは纏わりつくような暑さ。潮の香り。次に一面の深い青いろ。海と空のコントラスト。雲一つない。バスはわたしだけを放り出してそのまま遠くへと走り去った。
バス停には『桃果町 三丁目』の文字。およそ十三年ぶりにやってきたこの町。記憶も朧気だけどこの香りと青いろだけは変わっていないな……と感じる。
次いで周囲を見渡した。
ママのお姉さんである周子おばさんがこのバス停まで迎えに来てくれることになっていた。でもその姿は見当たらない。
スマホを開く。おばさんからの連絡は来ていない。
それならちょっとだけ砂浜に降りようかな。そんな風に考えて一か月分の荷物が入ったリュックを背負い直してわたしは砂浜に続く階段を駆け降りた。
暑くてたまらない。そう思ったわたしはスニーカーを脱いでまっしろの靴下も脱ぐと裸足で砂浜に立った。しかし熱くて火傷しそうだ。鉄板の上に放り出されたみたい。鉄板の上から逃げるように、わたしは海へ駆け出した。
「わっ……」
ひんやりとしていて気持ちいい。青いろは透明になってわたしの足に絡みついた。その場でじっとしていると砂の中にずぶずぶと足が埋まっていく。このままじっとし続けたらどうなるのだろう? 体が全部砂に埋まっちゃうのかな? そんな妄想が浮かぶ。
しばらくの間、そうしていた。海の冷たさを身体で感じる。太陽の熱はとにかくあつい。いっそ全身で青いろに飛び込んでしまいたかった。
でもわたしが身に着けているグリーンのワンピースはお気に入り。ママが珍しく誕生日にくれたもの。だからこの服は汚したくない。海に入るならもっと適当なTシャツやハーフパンツで入るべきだと思う。
そういえば、十三年前もこうして足だけを水につけていた? あれ? その時、隣に誰かがいたような……。
「うさぎ!」
「あっ……おばさん!」
遠くから名前を呼ばれて振り返る。階段の上で大きく手を振るおばさんの姿があった。
わたしはリュックの背中側に入れていたサンダルを引っ張り出すとそれを履いてスニーカーを片手におばさんに駆け寄った。足がぬるぬるして気持ち悪い。でもきっとこの暑さならすぐに乾いちゃうと思う。
おばさんの家は昔と変わっていない。大きな、青い屋根の一軒家におばさんが一人で住んでいる。
「二階の部屋、掃除しておいたから」
「うんっ! ありがとう」
玄関を入ってすぐの階段を駆け上がる。この家にはわたしの部屋がある。十三年前にわたしがここへ遊びにくることになって、その時におばさんが用意してくれたお部屋。
「わっ!」
変わっていない、わたしの部屋だった。
お姫様のような部屋。白い家具にピンクのラグ、ベッドは天蓋付き。抱えるのにちょうど良い大きさのテディベアがわたしに向かって微笑んでる。可愛い。
「この子の名前は……ええと」
十三年前。わたしはこの子に名前を付けた。
「そう! ももちゃん!」
ももちゃんだ。桃色のリボンをしているから、ももちゃん。十三年ぶりに再会したももちゃんは何も変わっていない。
この部屋は変わらず、お姫様のようなわたしのお部屋。
そのことが嬉しくってはしゃいでいると一階からおばさんの声が聞こえた。
「はーい! 今行くね!」
大きなリュックを置くとわたしは階段を降りておばさんのところへ向かった。
おばさんは家で仕事をしているから日中は一階にある書斎に籠っている。
わたしはその邪魔をしちゃいけない。リビングにある大きなテレビで面白い番組を見ても良いんだけど、でもわたしは大声で笑っちゃうから、邪魔になっちゃう。
だからサンダルを履いて外に出てみた。
今日の服はレースのキャミソールにフレアスカート。それからつばの広い帽子。お姫様の部屋からお出かけだから、気分はお城を抜け出したお姫様そのものだった。
(どこへ行こう?)
十三年前はわたしも小さかったから行ける場所は限られていた。大抵は海で過ごした。足をつけたり、階段に座って海を眺めたり。
だけどわたしはもう二十歳。こどもじゃない、大人になった。
もう少し、どこか遠い場所へ行ってもいいように思う。
そう思ってわたしは桃果町を歩き始めた。
そうは言ってもここは田舎町。カラオケとかゲームセンターとかそういう場所はないみたい。でもパチンコ屋さんだけは見つけた。わたしはもう大人だからパチンコ屋さんに入ることもできる。でも大きな音が嫌いだし煙草の匂いも嫌い。だからパチンコ屋さんには入りたくない。
結局、わたしが辿り着いたのはスーパーだった。グミが好きだからぶどうのグミを手に取る。それから店内を歩き回ってノートを一冊買うことにした。
お金を払って元来た道を戻る。海沿いの道はずっと潮風がふいている。わたしが普段暮らす町は海とは遠い場所にあるから潮風は心地良い。
おばさんの家に戻ってもそっとドアを開ける。音をたてないように階段を上る。邪魔しちゃいけないから、そっと。
「ももちゃん、ただいま」
ももちゃんは変わらずベッドの上で微笑んでいる。
わたしは買ってきたノートを取り出すと机の上に開いた。
リュックからペンケースを取り出してその中身をひっくり返す。ピンク色のシャープペンを手に取ってかちかちと芯を出す。
『八月二日
きょうはお散歩に行きました。ぶどうのグミとこのノートを買って帰りました。このノートは日記を書いたりらくがきしたり、好きに使おうと思います』
それだけ書いてわたしはノートを閉じた。我ながら幼稚な文章だと感じる。
ここでの暮らしは思ったよりも退屈。十三年前は何をしていたんだろう? それを思い出したくてわたしはもう一度おばさんの家を飛び出した。
おばさんの家を出ても出来ることは限られてる。もう歩くのは疲れちゃったし、海の方へ向かう。
砂浜に続く階段に座った。ちょっと熱いけど大丈夫。そもそもこの県は北にあるから涼しい方だし。常夏の南の品にくらべれば、よっぽど。
「ん~」
十三年前のことを考える。
あの頃はまだママとわたしの二人暮らしで、ママが病院に入院しちゃったから、わたしは一か月だけおばさんのところに預けられていた。
確か、そう。
記憶は朧気。だけどあの頃のわたしは誰かと一緒に遊んでいた。海に足をつけたり、砂のお城を作ったり。泥団子も作ったっけ?
(あ……でも……)
遊んだのは、そう。
だけどそれよりもお兄さんのお話を聞くことが大好きだった。
「お兄さん?」
思い出す。背の高い、お兄さん。長い前髪から見える優しい目とそこから零れる雫が好きだった。
わたしの、《みゃう》の大切な人。
(そうだ、どうして忘れていたんだろう)
お兄さん。とーまお兄さんだ。毎日のようにわたしと遊んでくれた。それで『ちゅうがっこう』の話を聞かせてくれた。
わたしはとーまお兄さんが大好きだった。毎日のように一緒だった。約束なんかしなくても毎日この海で会うことが出来た。
思い出した途端に会いたくなった。だけどどんなに思い出そうとしてもわたしはそれ以上のことを思い出せなかった。
否、知らないのかもしれない。とーまお兄さんの家がどこにあるとか、そういう情報。だってわたしたちはこの海に集まっていたから。それにわたしが七歳の時に中学生だったならとーまお兄さんはもう二十代後半。この町にはいないかもしれないし、いたとしても結婚して子どもなんかがいるかも。
(だめだなぁ……でも、また会いたいな)
七歳の《みゃう》が遊んでいた相手。
それならおばさんが知っているかも。帰って、おばさんが書斎から出て来たら聞いてみよう。
でもここで待っていたら会えないかな? なんて思ってわたしは陽が沈むまでここでとーまお兄さんを待ってみた。だけどお兄さんは現れなかった。
落胆しながら家に帰る。まず鼻についたのはカレーの匂い。キッチンから音が聞こえて、わたしはキッチンに顔を出した。
「ただいま、おばさん」
「あぁ、おかえり。どこへ行ってたの?」
「ちょっと海に」
「そう。あ、もうご飯にするから手を洗ってらっしゃい」
「わかった」
今日の晩ご飯はカレーだ。おばさんの得意料理。そういえば、十三年前もこうしてカレーばかり食べたっけ。合理的な料理、だっけ。おばさんはそう言っていた。
昔と変わらないカレー。お肉は豚肉、野菜はじゃがいもと人参。シンプルなカレーだ。たまねぎはおばさんが嫌いだから入っていない。
甘口。おばさんもわたしもカレーは甘口派だ。
「ねぇおばさん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「ん?」
「あのね。わたしが七歳の時にね、わたしとよく遊んでたとーまお兄さんって覚えてない?」
そう尋ねるとおばさんは手を止めて考えるように眉間に皺を寄せた。考えごとをするときのおばさんの癖だ。
「……あぁ、三野さん家の」
「みのさん?」
「そう。確か三野さん家の次男坊よ。都真くんでしょ?」
三野都真。それがとーまお兄さんの名前。言われてみれば、とーまお兄さんは苗字を「みの」って言っていた気がする。
「その人、今何してるか知らない?」
するとおばさんは露骨に顔をしかめた。何か良くないこと、言っちゃったかな。わたしは鈍いし空気を読むのが苦手だから、わからない。
「一回実家を出て行ったけど今は戻って何もしてないって、ご近所さんに聞いた話だけどね」
「家にいるの?」
「そう。金食い虫」
かねくいむし。意味はよくわからないけどあまり良い意味じゃなさそうだった。だからわたしはそれ以上、とーまお兄さんのことを聞かなかった。
でも家にいるなら、会いにいけるかもしれない。それにご近所さんの間で話題にあがるぐらいだから誰かに聞けば家の場所もわかるかも。
わたしの明日の行動は決まった。
とーまお兄さんに会いに行く。昔のように遊ぶことは出来なくても家にいるならちょっと挨拶するぐらいは出来るかもしれない。
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