魔法学園の令嬢ですが、婚約破棄され悪魔に囁かれました

しきど

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5.カボチャ頭

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 ラ・ベイザルド教会──とは、国の魔法技術の発展幇助、及びそれらを管理する国家最大の機関である。

 魔法大国して知られる当国最大の権限をもっているといっても過言ではない。この国で魔導士として大成したいなら彼等の門下に加わる以外の選択肢はなく、彼等の許可なしにはどんな魔導士でも、一定レベル以上の魔法の行使を、無断で行う事が許されていない。

 彼等は国中の魔法の発生を観測し、管理している。

 そんなどえらい機関の人間が、一体私に、どんな用が……?

 「……どんなお話です?」

 「それは僕も分からないが……まぁ、失礼はないようにな。怖い人ではないから、多分」

 多分?

 「先生は、お会いしたのですか?」

 「うん」

 「どんな方ですか?」

 「どんな……? どんな、って、ううん……まぁ、会ってみれば分かるとしか」

 何それ怖い。

 「あ……会わないという選択肢は? さっきの先生の話ではないですが、万が一風邪を移しては申し訳ないですし」

 「彼等の調査に当園は全面的な協力の義務がある。大人の都合で悪いが、頑張ってくれ」

 糞っ。

 応接室の扉の前まで辿り着くと、先生は、私の肩を叩いてヒラヒラ手を振り去っていった。鼓動の高鳴りを感じながら、私は軽く、扉を二回ノックした。

 「どうぞ」

 返事はすぐにあった。やや特徴的だが中性的な声だった。私は深呼吸を一つして、ドアノブに手をかけた。

 「……失礼……致します?」

 そこには、誰もいなかった。

 日当たりの良い部屋に、机やソファーといった家具の類いがあるのみ。私は素早く、部屋を一通り見渡した。確かに、返事はあったのに。

 「やぁここ、ここ! ここだよ!」

 私は声がした方を注視した。ひょっこりと、テーブルの向こう、ソファーの上から顔が出てきた。

 「……」

 顔? なのだろうか? それは奇妙なカボチャの面に見えた。しかしそれは作り物ではないという証拠のように、くりぬかれた穴の部分──口に当たる部分が動いている。

 ──悪魔種族。

 「初めまして。ちょい、人間の家具は大きすぎて一々困る。はしたないけど上に失礼するよ」

 なんて言いながら、もそもそとテーブルによじ登って上がってくる二頭身。

 何これ可愛い。

 大きなカボチャの頭に、身体は真っ黒なローブのようなもので覆われている。どうあっても子供向けの人形のようなものにしか見えぬ彼は、どうにかテーブルに登るとぺたんと座り込み、そうして改めてこちらを見て言った。

 「俺はラ・ベイザルド教会所属、調査員のグリルフェン・アイザード・ウェンリールオールスだ。覚えてくれとは言わないが、よろしくね」

 「……フレア・ルナソルです」

 くり貫かれた穴──目の部分が、スッと細まった。笑っている、のかもしれない。

 「知ってるよ、子爵のご令嬢だろう。しかし、ははぁ、本当に人狼の娘さんだな! オオカミ族の生き残りに会ったのは、初めてだ」

 私はいぶかんだ。獣人特有の身体的特徴は皆無の筈である。何をもって確信したような口ぶりなのか。

 「怖い顔しないでよ。馬鹿にしてるんじゃない。この通り、俺も悪魔族なわけだし……今日はちょっと、お話を聞きに来ただけだ。素直に協力してくれれば、悪いようにはしないから」

 ……前言撤回、だ。

 なんだこの横柄な態度。可愛いようで、可愛くないくない。

 「君、我々ラ・ベイザルド教会が国内で発生した全ての魔法を検知出来る事を知っている?」

 キナ臭い質問だが正直に答える。

 「……国の至るところに配備された魔力観測装置によって、ですね? 当然この学園にもありますから」

 「見たことは?」

 「……いえ、現物は」

 「そうだろうね。設置した場所が簡単に学生に分かるようじゃ、配備した人間の不手際だ。いくら管理体制のずさんな学園でも、そこまでの事はあっちゃいけないね」

 当て付けがましい物言いをするカボチャだ。

 「単刀直入に言うよ。先日、この学園で無許可の魔法の発生を確認した。その、装置が緊急信号を出すぅ……! そう、特二級に該当する内容の魔法を、だ。君、知っているよね?」

 「存じませんが」

 私はそう即答した。当然ながら、本当に知らない。

 「……知らない?」

 カボチャ頭は首を傾げてみせた。

 「私は装置ではありませんので」

 「なるほどな。なるほど」

 神妙に頷くカボチャ頭。そうして彼は、ローブの内側を何やらごそごそとやりだした。

 取り出したのは、マッチ棒のような一本の枝上のもの。魔導士の杖? のようにも見える。

 「俺もこの仕事を初めて日が浅い。正直に話してくれた方が嬉しかったんだけどな」

 「……何を?」

 「心配するな、少し恥ずかしいところを覗くだけで、すぐに終わる……あれ? どうだっけ?」

 「え?」

 「ああこうだ」

 「ッ──!?」

 突如、杖から眩い光のようなものが放たれ、部屋中に広がった。硝子を爪で引っ掻いたような耳障りな音が響く。

 何が起こったのか、何をされているのか全く分からない。しかし音だけはどんどん遠くなっていき……。

 ……そのまま私は、意識を失ってしまった。
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