魔法学園の令嬢ですが、婚約破棄され悪魔に囁かれました

しきど

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4.人生全て勉強

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 「ヴァンフォートさまぁ! お昼、ご一緒しーましょ!」

 昼の休憩時間になると、毎日のように、あの新しい婚約者が隣の教室からやってくる。

 「リイネ……僕から迎えに行くと言っていただろう?」

 「えっへへ……我慢できなくて来ちゃいました!」

 「ハハハッ、このっ! うい奴めっ!」

 彼等が食堂に消えるまでの時間、私は息を潜めるように机に突っ伏している。

 我慢出来ないかもしれない。そう思った。クラス替えまでの長い期間、たださえ大きい彼の声を聞き続け、下らない嫌がらせを受け続け……それらを割りきって、じっと堪えていけるのだろうか。

 「リイネさんて……あんなキャラだっけ?」

 「恋は女を変えるのね」

 「ねえ流石に悪いわよ、フレアさんの前で」

 ひそひそと、女生徒達が囁き合うのが聞こえたがどうでもよかった。

 我慢出来ないだろう。既に今の時点で、限界ギリギリのところまで来ている気がする。いつか爆発するだろう。こんな場所に居たくない。速やかに、彼の前から消えてしまいたい。

 いっそのこと、退学してしまおうか。

 しかし、折角勉強して、一流の魔導学園に入ったというのに。お父様やお母様、勉強を手伝ってくれたお兄様にも顔向け出来ないだろう。彼一人の為だけにこれから先の長い人生を棒に振る事になって、いいわけがない。私の中の極めて理性的な部分は、そう囁いている。

 でも、退学したからといって今後の人生、魔導士への道が完全に途絶えるわけでもないのである。今は便利な世の中だ。実力さえあれば独学でも資格をとる事は十分に出来る。私の中の、極めて楽観的な部分がそう囁いている。

 わかっている。それは悪魔の囁きだ。

 こんな事くらいで一々逃げ出しているような奴に、まともな未来などあるものか。そうとは限らなくとも、決めつけなくてはならぬ。堪えるしかない。軽率な行動は、いつだって人の身を滅ぼしてきたのである。

 「フレア・ルナソル」

 「へゃ!?」

 独り考え事をしているところに不意に背後から声をかけられ、私は跳び上がった。

 見やると、担任のアイレス先生がきょとんとした顔でこちらを眺めていた。それからプッ、と吹き出した。

 「……何、笑ってるんです?」

 「いや、すまん。面白い反応するなぁ、と思って」

 悪びれもなく言う。彼は去年正式に教員免許を取得したばかりの若い先生だ。ちょっと変わったところはあるけれど、話が面白く、爽やかで、スラッとした長身で、園内の誰より生徒に近い考えを持っていて、生徒からは人気がある先生だ。

 私自身、私の事を令嬢の色眼鏡で見ることなく接してくれる彼の事は、信頼のおける人物だと思っている。

 「ちょっと話があるんだ。一緒に来てくれないか?」

 周りの生徒達の視線が、僅かにこちらに当てられていた気がした。まぁ、担任からこんな事を言われている生徒は、勘繰りたくなるのが普通の反応ではある。

 でも一体、何だろう。心当たりは何もない。ひょっとしたら今日、五分ほど遅刻してしまった件についてだろうか。常習犯ならともかく、そこまで厳しい先生だとは思っていなかったけれど……。

 私はアイレス先生と連れだって教室を後にした。歩きながら、彼は私に話しかけてきた。

 「最近調子悪そうにしてるが、大丈夫か?」

 「少し風邪気味なだけです」

 「僕も学生時代遅刻した事がある。ただの風邪だと思ったら、どんどん具合が悪くなって、授業中にぶっ倒れて。その時は先生にも迷惑をかけたし、親まで呼ばれた。しかもその後、クラス中に病気が広まっちまってな。学級閉鎖にはならなかったけど、流石に申し訳なさ過ぎて、しばらく皆に頭が上がらなかった」

 語るアイレス先生の表情は、まるで当時のそのままのように苦々しいものだった。

 「……医療魔法のエキスパートだってのにだ。医者の不養生、ではないけれど、正しい選択をしているつもりで間違ってしまう事は、人生、多々あるものだ。自分一人の視野ってのは、自分で思っている以上に、狭い」

 「……何をお話したいのですか?」

 「そういう時は、他人の意見を聞くのが一番って事さ。多分それが今のお前に必要だろう。色んな人に話して色んな話を聞け。人生、全て勉強だよ」

 「……休めと?」

 「いや、なんとなく。お前友達少なそうだからな」

 ほっとけ。

 「まぁ、僕でもいいから、話したい気分になったら言え。いつだって、何処だって構わない。僕は暇人だからな……ところで、本題なんだが」

 ああ、それが本題じゃないのか、と思う。

 「ラ・ベイザルド教会から、お前に会いたいという方が来てる。次の授業は欠席していいから、そのお方の話を聞いてくれ」

 「ラ・ベイザルド教会……?」

 私は思わず眉を潜めた。
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