魔法学園の令嬢ですが、婚約破棄され悪魔に囁かれました

しきど

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14.取り戻した日常

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 「……ヴァンフォート、退学になるってよ」

 登校した時、朝っぱらからクラスメイトの男子達がそんな噂話をしていた。

 「マジかよ。酷くね?」

 「リイネちゃんのご両親が訴えたらしいぜ」

 「でもよ、仮にも子爵家の令息だろ? 示談の話とか、なかったのかな」

 「バルト子爵もバルト子爵でブチギレてたらしいからなぁ」

 「親にも見捨てられたのか。あーあ、残念だな、面白い奴だったのに」

 男子達の会話は聞かなかったフリをして、私は自分の席についた。

 強奪されたスキルは、取り返した。そのおかげだろうけど今日は本当に久し振りに、快調な朝を迎えていたのである。しかし、こんな晴れ晴れとした気分だったというのに、朝からあまり聞きたくない名前を聞かされる事になるとは。

 「フレアさん、おっはよう!」

 「ふゃ!?」

 急に背中をパチンと叩かれて、私は猫のように跳び上がった。

 「うはっ! そんなに驚く!?」

 見ると、女生徒がケラケラと笑っているのである。私は嘆息した。

 「やめてください、ミーシャさん」

 「ミーア。いつになったら覚えてくれるの?」

 「……失礼、ミーアさん」

 彼女は目頭に溜まった涙を拭っていた。そんなに面白かったか? 人の悪い奴。

 「お茶の約束してたでしょ。役所の前に新しい喫茶店が出来たって、知ってた? 今日放課後、一緒に行かない?」

 「あー……」

 私は一瞬返答に窮した。正直、面倒くさかった。しかし。

 「……大丈夫よ。ご一緒しましょう」

 「本当? じゃあ、放課後ね!」

 ミーアは手を振り、自分の席へと走っていった。

 色んな人に話して、色んな人の話を聞く。誘われた瞬間に、そんなアイレス先生の言葉を思い出してしまったのである。

 面倒くさい。けれども人生の先輩から頂いた言葉だ。たまには素直に従ってみるものだ。

 ……未だに、診断書を勝手に覗き見した事、退学だなんて嘘をついてしまった事の負い目もある。今度、正直に話してお詫びをしなくては。

 「フレアさん!」

 と、ぼんやり考え事をしていた時に、今度は前の方から声をかけられた。朝っぱらからなんだ。やけに名前を呼ばれる日だ。

 見ると、前の席の女生徒が扉の方にチラチラ視線やっている。その先を追うと……。

 「……」

 扉のところに、見知った女生徒が立っていた。彼女──リイネは私と目が合うと、ペコリと軽く会釈をしてみせた。



 ────



 ホームルームが始まりそうだったけれど、私はリイネと連れだって廊下へ出た。

 「もう身体は大丈夫なの?」

 「はい、もうすっかり」

 リイネはそう言って力なく笑った。言葉面は良かったけれど、昨日まで自宅で休んでいた筈である。術の後遺症などはないと聞いたが、心労だろう。元々細い身体だったが更にやつれたようにも見える。

 「無理はなさらないでね」

 「いえ、でも、その、早くちゃんと、ご挨拶をしておきたくて。私、フレアさんには色々と酷いことを……」

 「気にする事なんてありません。今回の件に関しての被害者は、貴女も一緒なんですから」

 「そうなんですが、その……違うんです」

 「何が?」

 「……怒らないで聞いて下さい……私、実は、幻術にかけられるより前に、ちょっとだけ、ヴァンフォートさんの事いいなぁ、って思ってて……」

 私は眉間にシワを寄せまくって彼女を見た。

 「……うっそ。あんな男を? 何故?」

 「いやだって貴族の方だし、格好いいし……」

 「うっそ」

 「でも、フレアさんていう婚約者様がいたから、諦めてたんです。この気持ちは、ずっと隠しておくつもりでした……」

 私は頭を抱えた。

 「……それじゃあ、かえって邪魔しちゃったかしら?」

 「いえ、幻術にかけられる前の話です。今は彼への想いなんて、微塵もありません。まさか、あんな卑劣な事をする方だったなんて……」

 私は内心で胸を撫で下ろした。

 「……そう。なら良かった。深く傷付く前に本性を知れたんだからマシですよ。私みたいに、別れるまでに何年もかかるよりは」

 「……だから、フレアさんにはちゃんとお詫びと、お礼がしたくて……」

 「お礼、っていってもね」

 「何でも言ってください! 私、何でもしますから!」

 と、深々頭を下げてくるのである。

 「……それじゃ、急だけど今日の放課後、付き合って頂けます?」

 リイネはきょとんとして私の事を見た。

 「今日、ですか?」

 「新しい喫茶店が出来たみたいなんです。私以外にもいるけど。お茶に付き合って頂けるなら、許してあげます」

 「わ……分かりました!」

 「おいお前ら! ホームルーム始まるぞう!」

 いつの間にかアイレス先生が教室に来ていて、軽く怒られた。

 まぁ、いいだろう。二人でお茶よりは気まずくない。

 だ。

 ……そういえば、私にそれを教えてくれた悪魔は、一体何処へ行ったのだろう。

 最近全く見なくなった。

 仕事も終えたし教会に帰ったのかな。

 一言くらい挨拶、あっても良さそうだったのに。

 そういえば彼にも結局、お礼は言えていなかった。
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